まちを歩いていると、あちこちで声がかかり、立ち止まるたびに会話が生まれる。そんな日常が残るエリア、西陣。歴史ある織物の産地として知られ、古い京町家や細い路地が残る街並みには、近年ユニークなカフェやギャラリーも増え、伝統と現代がゆるやかに交差しています。
この地に息づく歴史や文化、そして人の力を活かした活性化を目指し、京都市は2019年1月に「西陣を中心とした地域活性化ビジョン」を策定しました。その一環として、西陣に新たな活性化の担い手を呼び込むことを目的に、試験的なプログラムを昨年度から実施しています。
今年度は、参加者の興味関心に合わせた2つのテーマを設定。『「京都・西陣で「やりたいこと」をカタチにする二日間〜まちづくり・商店街編&伝統工芸・ものづくり編〜』を開催しました。
京都市内外から集まった参加者たちは、西陣のまちを実際に歩き、地域で活動する人々や企業の現場を訪ねながら、この場所に流れる時間や、そこで生きる人の思いに触れていきました。


外から訪れる人と、この地で営みを続ける人が交わるとき、西陣にはどのような可能性が立ち上がるのでしょうか。参加者を迎えた「朝ごはん ふく」店主の平元俊一さんと加地金襴株式会社の代表取締役であり織手の坂田雄介さん、プログラムを主宰した京都移住計画のタナカユウヤの対話から、その手がかりを辿っていきます。

「道を歩けば人に会う」が商店街の日常
タナカ
2025年度の「活性化の担い手づくり事業」では、「まちづくり・商店街編」と「伝統工芸・ものづくり編」の2回に分けて、それぞれ2日間のプログラムを行いました。2025年12月15日に東京で行ったプレイベント「京都・西陣に関わることで感じる面白さや可能性」には約40人が、「まちづくり・商店街編」「伝統工芸・ものづくり編」にはそれぞれ約10人が参加してくれて、ありがたいことにいずれも好評の声をいただきました。

タナカ
「まちづくり・商店街編」では、1日目にインプットとまちあるきをし、2日目に事業者を訪問しました。平元さんにも、新大宮商店街をご案内いただきましたね。


平元
この地で暮らす自分たちは、つい厳しい目で地域を見てしまいがちです。でも参加者の皆さんは「素敵なまち」「ポテンシャルが高い」といった反応で、ギャップを感じました。特に、歴史を含めてまちのことを伝えると、より興味を持っていただけるなと思います。西陣は歴史の深いエリアですから。数百年の歴史を持つ今宮神社の御旅所で背景を話しながら、そんなことを感じました。

タナカ
実際に「もっと知りたい」「聞き足りない」という反応もありましたね。
平元
まちの伝道師の役割は重要だと実感しました。そういう人を増やすことも、まちを豊かにする一つのポイントだと思います。
タナカ
「まちで会う人がほぼ平元さんの知り合いだった」という感想もありました。これって人口の多い東京ではなかなかないことだし、車移動がメインの地方都市でも起こりづらいことじゃないですか。まちがコンパクトで徒歩や自転車移動が中心だから起きることです。
平元
新大宮商店街は南北に約1キロなので、ゆっくり歩いて紹介したら30分ぐらいだと思ったんですけど、何かと声をかけられるから結局1時間ぐらいかかりました(笑)
タナカ
参加者の中には京都に住んで長い人もいましたけど、その方の教え子と遭遇したりもしましたね。道を歩けば人に会うっていう。
平元
自転車で移動中にパッと出会って、勝手に会話が生まれる。それが商店街や地域の良さだと思っています。
タナカ
平元さんは10年前に東京から京都に帰ってきたんですよね。今は商店街で「朝ごはん ふく」をやっていますが、商店街でお店をやることは決めていたんですか?
平元
偶然なんですよ。私は西陣で生まれ育ちましたが、町家の織屋さんがどんどんなくなっていくのが寂しくて。「西陣に貢献したい」「まち並みの雰囲気を壊さない物件にお店を出したい」と思っていた中で見つけたのが、今のお店だったんです。

タナカ
今は土日月の週3日間の営業でしたっけ? お店がない日もいろいろなことをしていて、会うたびに肩書きが増えている気がします(笑)
平元
飲料メーカーで経理をしていたこともあって、いくつかの会社の経理を担当したり、まちづくりをする会社とNPO法人を運営したりもしています。他にも京都精華大学で非常勤講師をしたり、今宮神社の総代を務めたり、なんかもういろいろですね(笑)
タナカ
週3だけお店をやるとか、副業で関わるとか、京都でも働き方が多様になってきていると思っていて。そういう面も、平元さんを通じて参加者に伝わったんじゃないかなと思います。
実は、この取材の撮影をしてくれている髙橋広野くんは、まちづくり・商店街編の参加者でもあって。何か印象に残っていることはありますか?
髙橋
僕は建築学科出身なので、新大宮商店街へ行く前に立ち寄った「船岡山オープンパーク」が印象的でした。設計者側はつい作り込みすぎちゃうけど、船岡山オープンパークでは来た人が自由な発想で使って、みんなで一緒に育てていく空気感があるのがすごいなと。

タナカ
関わり方に余白がありますよね。新大宮商店街に新しくできた本屋さん「彩文堂」の内装を手掛けたのも「船岡山オープンパーク」を運営しているスタジオモナカさんですが、完成しきっていない感じが共通しているなと思います。「彩文堂」は1階の本屋はできているけど、2階のカフェはまだ未完成で準備しながら1階の営業をされていて。「京都っぽい」場のひらき方かもしれないですね。
工房を外に向けてひらく理由
タナカ
「伝統工芸・ものづくり編」でも、1日目にインプットとまちあるきをし、2日目に事業者を訪問しました。2日目には坂田さんに工房をご案内をしていただきました。


坂田
平元さんもおっしゃっていましたけど、うちにとって当たり前のことにお褒めの言葉をいただいて、「外の人から見ると素晴らしいことをやっているんだ」という自信になりました。10人近い人たちが来てくださったのはコロナ以降初めてで、職人さんたちもうれしそうでしたね。普段は寡黙な職人さんがお客さんに話しかけてくれたり、2024年に未経験で入社した若手の職人さんが自分たちの仕事に改めて誇りを持つきっかけになったりして、よかったなと率直に思います。

タナカ
坂田さんが「外部の人を積極的に受け入れたい」と話していたのが印象的でした。新しく加地金襴で働く人、コラボレーション先など、「外の人と一緒にやっていきたい」とおっしゃっていましたね。
坂田
根本には「つなげていきたい」という想いがあります。私は縁あって12年前に家族を連れて京都へ移住し、加地金襴に転職しましたが、外から来ているからこそ、敷居を取っ払って、もっといろいろな人に来てほしいと思っているんです。だから、参加者の方から「残してほしい」という声をいただいて、織機の音を「良い音」だと喜んでもらえたのがありがたかったですね。
タナカ
玄関までしか入れない工房も多い中、加地金襴さんは「何を撮ってもらってもいいですよ」みたいな感じで、全員びっくりしていました(笑)

坂田
お寺様向けの金襴を製造してきましたが、それだけでは厳しくなり、新たな市場に挑戦してきました。それはいろいろなつながりから、「こんなことやりませんか」と新たなお話をいただいたおかげです。イスラム教の方がお祈りをする時に使う礼拝マットを西陣織で作ったのも、「欲しい」という声がきっかけでした。昔2,000軒以上あった織屋さんは150軒まで減ってしまっていますが、外の世界に開いて、若い人の就職先の選択肢となるだけの給料を払えるようにして、今後につなげていきたいです。

タナカ
だからこそ外の人たちとの対話が重要なわけですね。参加者の中には「海外展開をする時は声をかけてください」と言ってくれた人もいましたが、そういう人がプロジェクトチームに週3日間入って一緒に仕事をする、みたいな可能性も感じました。
坂田
中には商品展開のアドバイスをしてくれた大手企業の方もいましたね。僕らが考える商品と皆さんが欲しい商品は違うことも多いので、とても助かりました。
西陣の活性化に必要な人材とは?
タナカ
活性化の担い手として、地元の人だけでなく、地域外の人が伝え手やつなぎ手になることも重要だと思っています。お二人は、どういう人が必要だと思いますか?
平元
プロジェクトを回せる人でしょうか。例えばプロジェクトチームで動くときに、プロジェクトを牽引できるような、脂の乗り切った30〜40代の中間層のイメージです。
京都は学生が多いですけど、経験がないからアプローチの仕方がわからないんですよね。私も京都精華大学の非常勤講師として学生と社会をつなぎたいと思っていますが、教員はあくまで学生と社会の間の立場です。事業として真剣に取り組んだ経験を持った人が少ないのを感じていて。
坂田
めちゃくちゃ共感します。1年単位の単発で終わってしまう企画も多いですし、やり切れる人は貴重ですよね。
タナカ
「西陣おこし協力隊」みたいな仕組みがつくれるといいかもしれないですね。関係人口を増やすところから一歩進んで、例えば西陣に3年間住んでもらって、がっつり地域に関わってもらうような動きも必要だと思います。あるいは1週間住み込みでプチ修行をしたり、半年間一緒にお祭りを企画したり、「大人の西陣留学」みたいな中期的なプログラムがあっても面白そうです。

タナカ
一方で、各会社の皆さんも、西陣にもっと興味を持つことが必要だと思っていて。社長や広報担当者だけではなく、働いている現場の人たちが西陣を語ったり、もっと表に出てきたりするといいですよね。会社同士はつながっているけど、会社を超えた社員同士のつながりは少ないじゃないですか。
平元
その際、現場の基礎スキルの底上げも重要だと思います。ファイナンスなどのスキルは、今後ビジネスの範囲を広げようとする中でぶち当たる壁なんじゃないでしょうか。そういう人材育成をまちぐるみでやっていけば、京都の大学生がスキルアップのために京都から出ていくことも防げるかもしれません。「京都で力をつけたらどこでも行けるぞ」みたいな状態になれたらいいですよね。
坂田
現状は、求人情報を仕入れる窓口がないんですよね。この間、「将来働きたい」「バイトはありませんか?」と大学2年生の子が工房まで来てくれたんですよ。その時に「どうやったら現場で働けるのか、方法がわからない」と言われて。
タナカ
西陣エリアの「地域の人事部」を担う組織があってもよさそうですね。
西陣で暮らす二人が思い描く未来
タナカ
最後に、お二人が今後やりたいと思っていることを聞かせてください。
平元
新たな産業を起こしたいと思っています。今考えているのは、リユース瓶を使った飲料メーカーを作ること。ペットボトルが悪だと言われる中、京都という小さいエリアでリユース瓶を流通させることができたら、消費者のマインドも変わるのではと思っておりまして。銭湯で瓶の牛乳を飲むスタイルを復活させたり、お客さんへのお茶を瓶で出したり、可能性は大きいなと思っています。やりたい人がいれば、任せるかたちでもいいなと。

タナカ
また肩書きが増えますね(笑)。「西陣といえば西陣織」を大事にしながらも、他の事業をやる人が増えていくといいなと思います。坂田さんはいかがですか?
坂田
うちはもっと開いていきたいと思っています。例えば、ガレージセール。端切れの生地を求めている人が意外といるらしいんですよね。今はBtoBがメインですけど、今後はBtoCに向けたものづくりもしていきたいので、その商品も販売するイメージです。
タナカ
BtoCは、どんな商品を想定しているんですか?
坂田
まずは小物からだと思いますが、個人的には洋服のブランドを作りたいです。お寺さんはシルクを好むのですが、この間綿100%の西陣織を作ったので、その経験を生かして洋服を作れたらと思っています。あと、会社の隣の物件を購入したので、ワークショップ会場にするなど、開かれた場所にできたらいいなと考えています。

タナカ
「西陣織ってどこにあるんですか?」と聞かれることも多いんですよ。こうやって開かれた工房があるのはすごくいいなと思います。
坂田
たまに海外の人が「音が聞こえたから」ってフラッと来るんですよ。この辺りは海外旅行者向けのゲストハウスも多いですし、海外の人向けの何かをやるのも面白そうだなと思います。
タナカ
久しぶりに会うと新たなネタがいっぱい出てきますね。直接会って話す場が大事だと改めて感じましたし、人と人をつなぐ人がもっと増えるといいなと思いました。そうやって応援し合える関係性が西陣でもっと増えればいいなと。そのきっかけとして、今回のようなプログラムをこれからも続けていきたいと思います。

3人の対話を通して見えてきたのは、この地で営みを続ける人と、外から関わる人が交わることで立ち上がる、新しい関係のかたちでした。今回の取材の撮影をプログラム参加者が担ってくれたように、2日間の体験をきっかけに、その後も西陣に足を運び続けたり、仕事として関わりを深めたり、中には移住へと踏み出した人もいます。
外からのまなざしと、西陣に暮らす人たちの営みが重なり合うことで、まちの可能性は少しずつひらかれていきます。道を歩けば人に会い、関わりが自然と生まれていくこのまちでは、担い手もまた最初から決まった役割として存在するのではなく、出会いを重ねる中で少しずつ形づくられていくのかもしれません。
執筆:天野 夏海
撮影:髙橋 広野
編集:北川 由依


