2023.11.30

京都に移住して実際どうなの?〜三者三様の京都暮らしや働き方〜イベントレポート

2023年11月11日の「西陣の日」に、河原町御池にある「QUESTION」で行われた「西陣Fes」。その一企画として、京都移住計画では、京都に移住し、西陣で暮らしたり、働いたり、関わりを持っている方々をゲストに迎え、トークイベント「京都に移住して実際どうなの?〜三者三様の京都暮らしや働き方〜」を開催しました!

登壇者それぞれの移住した理由、京都での暮らしや楽しみ方、その面白さや魅力、人とのつながり方などを深堀りした2時間。暮らす、働く、つながる「ちょうどよさ」が詰まった西陣の魅力をお届けします。

流れ着いて西陣へ。「たまたま」が生む場所との縁

古くから伝わる伝統工芸・西陣織で知られる、西陣エリア。明確な区分はないものの、京都市上京区から北区一帯のエリアを指します。観光地からはほど遠く、伝統産業や製造業などの地域に根付いた企業が多く残る一方で、近年は洗練されたカフェやゲストハウスも増え、盛り上がりを見せるエリアです。

そんな京都や西陣で暮らしたり、事業をしたりしている方々をゲストに迎え、西陣にまつわるトークを繰り広げました。最初のテーマは、京都・西陣という場所に出会ったきっかけ。流れ着いた先で出会った西陣に移り住んだからこそ生まれた、人とのつながりとはどのようなものだったのでしょうか?

まずは、2022年に西陣に移住し、Ochill株式会社を創業した磯川さん。

磯川

西陣との出会いは、たまたまです。「京都に住みたい」という気持ちが特別あったわけではなくて。共同創業者から誘われたことで「京都で吸うお茶屋をしよう」と決め、物件を探していたところ西陣に流れ着きました。

磯川 大地氏

Ochill株式会社 取締役
1988年北海道北見市生まれ。2005年商人を志し、高校中退。東京・江戸川区の書店「読書のすすめ」にて丁稚奉公。実業家・清水克衞の薫陶を受ける。奉公中、清水の薦めにより茶人・吉田宗看に師事。2008年に帰郷。商売の方向性を模索するなかでシーシャと出会い、2012年「シーシャカフェいわしくらぶ」を創業。北見市を含むオホーツク圏を盛り上げるための拠点として運営する。2017年、東京・水道橋に「いわしくらぶ東京支店」を出店。以来、首都圏を中心にシーシャカフェ事業を展開しながら、ふたたび吉田宗看に師事。シーシャと茶の湯の接点を模索する。2022年、京都に移住。Ochill株式会社を創業し、西陣に拠点を移して現在に至る。

磯川

知り合いに「西陣に住む」と伝えると、「西陣は難しいよ」と言われることが多くて(笑)以前は正月の挨拶やしきたりが色濃く残っていたと聞いて、京都に住み始めてしばらくはビクビクしながら過ごしていましたね。でも、今のところ怖い思いをしたことはないです。

タナカ

京都といえば一見さんお断りの怖いイメージがありますが、実際はそんなことないですよね。

モデレーター・タナカ ユウヤ氏

株式会社ツナグム
1984年生まれ。滋賀出身。2015年3月、株式会社ツナグムを創業。「人と人、人と場のつながりを紡ぐ」をミッションとし、自治体や企業、金融機関、大学など多様な事業者との協働によるコミュニティづくりや事業への伴走支援、商店街や地域の活性化などを展開している。京都への移住とその先の暮らしをつくる「京都移住計画」は、全国各地への広がりや各地との行き来を生んでいる。

タナカ

住み始めると、ご近所さんとの挨拶から話が広がったり、飲みに行って隣の人と話すようになったりしてネットワークができて人を紹介されることがあったりする。一見怖そうに見える京都での暮らしですが、自然とつながりができ、その一つ一つを楽しむことができればどんどん面白くなると思います。

西陣でゲストハウス・カフェ「KéFU stay&lounge」を営む横山さんも、西陣との出会いは「たまたまだった」と話します。

横山

転職をきっかけに京都で事業を始めることになり、東京から京都に移り住んできました。もともと「京都に移住したい」という憧れはありませんでした。なので、移住する前にもいい意味でイメージはなくて、極端にいえばどこでもよかったんです。

横山 恵氏

KéFU stay&lounge プロジェクトマネージャー/オサノート 編集長
1989年、兵庫県尼崎市出身。 東京で勤務している際に、当施設の設計事務所より誘われ株式会社アセェスに入社し2019年に京都へ移住。 同社グループの京都事業を統括するプロジェクトマネージャーとして活動。 地域の店舗や関係者とのネットワークを築きながら、2020年4月にKéFU stay&loungeを開業。 2023年、東山にKéFU STANDをオープン。現在は、西陣と東山を行き来しながら交流を広げている。

横山

2020年にオープンした「KéFU stay&lounge」は、西陣の住宅街のど真ん中にあります。観光の中心地ではない住宅街で場づくりをするのは大変でしたが、逆にそれがよかったと思うことも。たとえば、コロナ禍で近所のおじいちゃんおばあちゃんが通う老人ホームのカフェが閉まってたとき、代わりに立ち寄ってくれたり。そうやって少しずつ認知が広がっていきました。

タナカ

西陣エリアは住宅地だからこそ、口コミで広がっていきます。お店や人を目指して訪れる場所ですね。京都は祇園祭や桜、紅葉、就職や大学進学のタイミングなど、さまざまなキーワードで人が来るきっかけがあります。都会感のあるエリアと、西陣のように住宅街で人が住むエリアと棲み分けがされているのも、バランスが整っていて居心地いいですよね。

2020年に京都に移住し、写真撮影や取材の仕事を行う小黒さんは「小学生の頃から京都に憧れていた」といいます。

小黒

実は、京都への憧れを持ったのは小学校の頃でした。大河ドラマの『新選組!』が好きで、ロケ地に行ってみたいと思ったのが最初のきっかけ。中学時代の修学旅行で訪れたときにさまざまなスポットを巡って京都への想いがぶちあがりました(笑)

小黒 恵太朗氏

ひとへや 代表
1992年生まれ。新潟県長岡市出身。立命館大学経営学部卒。リクルートにて、ゼクシィの法人営業を担当した後、東京の制作会社に転職。職人の手仕事を中心に、中央省庁や一部上場企業、全国誌など、各方面・媒体で取材・撮影を担当する。2020年3月、京都に移住。
https://kyoto-iju.com/member/oguro

小黒

高校時代の友人のほとんどは、進学先に東京を選ぶか地元を選ぶかの、ほぼ二択でした。将来、新潟に戻ったり東京で働いたりするのはいつでもできるかもしれないけど、京都に住むという経験はなかなかできないと思って。進学先を思い切って京都に決めました。住んでみるとやっぱり京都での生活は心地よくて。いつかまた戻ってきたいと思っていましたね。実はタナカさんとは、大学生の時に出会っていて、京都で一緒に仕事するのが実現できてうれしいです。

イベントに参加した方々もほとんどが京都移住者。東京、神奈川、島根、埼玉、岐阜など、あらゆる場所から京都へと集まってきています。「たまたま」「戻ってきたい」さまざまな想いから行きついた京都・西陣での暮らし。ゆるやかにまちと人がつながっていくのが、居心地のよさなのかもしれません。

住んでみて分かる「ちょうどよさ」。文化や人との繋がりが根付いた京都での暮らし

つづいて、実際に京都・西陣に移住してからのイメージをお聞きしました。それぞれが考える住んでみてから分かる「ちょうどいい暮らし」とは?

小黒

京都は、まち全体の規模感や人とのかかわりが「ちょうどいい」という印象です。人との関わりの距離感が心地よくて。あとは、移動手段。新潟は車、東京は電車が交通手段である一方で、京都は自転車でどこでも行けるので、暮らしているエリアとさまざまなエリアにシームレスにつながっているのがいいですね。

横山

私も人との距離感が心地いいなと思います。接客業あるあるで休みの日は人と関わりたくないというときがあるんですが、京都では仕事関係の人とプライベートでも関わりたいと思えるんです。東京は距離が遠すぎてなかなかうまくつながれなかったので。

人やまちとの距離感が心地いいのが京都での暮らしのポイントであるとお2人が語る一方で、京都ならではの「文化の深さ」にも魅力を感じると磯川さんは話します。

磯川

京都の街は、文化と歴史に深みがあると感じます。お金がなくても楽しめるコンテンツがたくさんあって。いまは週に3回坐禅会に参加しているんですが、お布施で参加できることが多いです。

あとは知り合いで集まって家でご飯会をすることもありますね。東京では「いまから六本木来れる?」というコミュニケーションが多かったんですが(笑)

磯川

京都は無料のコンテンツがたくさんあって、かつ深い。これが本当の都会なのかもしれません。生まれ育った北海道は無料のコンテンツといえば自然がメインですが、京都は文化的な資源をおすそわけされているという感覚があって。北海道にも東京にもない、そのコントラストを楽しんでいます。

タナカ

たしかに文化に根付いているのは感じます。隣にいた人がたまたま有名な職人の方だったり、知り合いの家に行くとそこから工房に案内されたり、歩いていると色んな石碑や歴史的建造物と出逢えたり。日常の中で学ぶことが多くて、まちを歩くのがさらに楽しいのが京都というまちですね。

仕事でもプライベートでも。グラデーションのように人とつながる

つづいては、京都での暮らしの延長でお店や事業を行うお三方に、それぞれの人や地域との関わり方や、地域とのつながりができたきっかけについて話していただきます。

横山

「KéFU stay&lounge」のカフェでは、西陣のさまざまなお店の食材を使ったプレートを提供しています。お米、醤油、味噌などすべて地域のものを使っていて。西陣での滞在中にすべてのお店を回るのは難しいと思うので、一つのプレートで「西陣の魅力を味わっている」と感じてほしいですね。気に入ったものがあれば、お店にお土産買いにいってもらえたらいいなと。

タナカ

ゲストハウスの壁には大きな地図があって、お店の情報が分かるようになっているんですよね。

横山

ゲストハウスがオープンした時には、お客さんや関係者の方だけでなく、産地の皆さんも来てくださったのが嬉しかったです。私自身「地域の素敵なものを紹介できるようなお店をやりたい」という想いがずっとあって。立ち上げ時のときから地域に関わろうと、町内会の行事に参加したり餅つきや縁日などの地域の人に向けたイベントを行ったりしています。

タナカ

プレートを通して西陣や京都各地の生産者の顔が見えるのは、取り組みとして面白いですね。磯川さんはどうやって事業者や地域とつながったんですか?

磯川

まずは同じ西陣エリアにある「芳村石材店」の美術作家・山田愛さんとつながって、僕のお店に作品を置いてもらいました。以降「お店で出すお菓子はどうしているの?」という会話から、さらに近所の和菓子屋「京菓子司 金谷正廣」さんを紹介してもらって。こうやって人づてに知り合いが広がっていくことが多いですね。

タナカ

1回つながるとそこからのつながりがどんどん広がっていく感覚、分かります。

磯川

いろんな人にアプローチしたいと思いつつも、一度つながると広がりすぎることもあって(笑)今後は吸うお茶の文化を深める過程で、自然とつながっていけたらと思います。

小黒

僕は京都に移住して独立をしましたが、以降99%繋がりから仕事が生まれています。一つの仕事が、さらに別の仕事を呼んでいく。プライベートで会った方が仕事のパートナーになったり、仕事を一緒にした人が飲み友達になったり。

東京にいた頃は、プライベートと仕事をすぱっと切り分けるタイプだったんです。京都に来てからある意味、性格が変わったかもしれないです(笑)自分から関わろうとする変化があって、その変化を楽しめている感じがしますね。

タナカ

京都で暮らしていると、仕事とプライベートの垣根がなくなる感覚はありますね。そうなった方が京都は楽しめるんじゃないかと思います。

磯川

たとえば、東京で挨拶をするときは会社名や所属ありきで名前を伝えることが多いですが、京都では仕事とプライベートの垣根を越えて「人と人」で付き合っている感覚。自分の名前のドメインで生きている人が多い印象があって、自然体でいられると思いますね。

仕事と暮らしの垣根があいまいにつながっていく。グラデーションを楽しめるのが西陣での暮らしの魅力のひとつなのかもしれません。

人を介して繋がることをゲームのように楽しんで

西陣は、京都市の取り組みとして「西陣を中心とした地域活性化ビジョン」が進んでいるエリア。地域住民も移住者も巻き込んで住みよいまちづくりを進めているエリアです。実際に西陣に住んだり、関わったり、事業を行う上で感じる課題や今後の可能性についてお話しいただきました。

タナカ

個人的には「西陣をもっと変えていきたい」という尖りや強さがほしいと思っているんですが、みなさんは西陣と関わるうえでどんなことを考えていますか?

横山

町内会に入っていて思うのが、ファミリーや高齢者の方々との関わりしかないな、ということ。学生や若い人が町に関わるきっかけをもっとつくれたらいいと思いますね。

タナカ

確かに若い人や学生とのきっかけづくりは大事ですね。たとえば、修学旅行でも、観光スポットを見ることが多いけど、京都の人に会う機会があればいいなって。京都との接点が「修学旅行」という人も多いから、人との出会いも創出できたらいいと思います。

そう考えると、まだまだ巻き込めていない人がいて、もっと可能性がある。移住してからだけでなく、移住する前に関わるきっかけがあるといいかもしれないですよね。

小黒

僕も最初の接点づくりが課題だと思います。移住者の立場から、伝統工芸である西陣織や地域で産業を営む方との接点を作るのが難しい。接点を持ちさえすれば、そこからつながりが広がっていき楽しめるので、出会い、つながる楽しさをほかの人にも感じてほしいという気持ちがすごくありますね。

「もっと人を巻き込む」可能性がある一方で、住みよいエリアだからこそ「変わっていくことのもどかしさ」も感じるといいます。

磯川

正直、観光客が少ない西陣エリアは住みよいと感じていて、極端な話、今のままでもいいんじゃないかなとも思うんです。地域の方々は、もっと人が来て盛り上がってほしいと思ってるのか、これ以上移住者が増えないでほしいのか、どっちなんだろう?と思うときがあります。

タナカ

たしかに、西陣織の衰退や空き家の増加など危機感がある一方で、いまの状況が住みよいというのもある。人をやみくもに増やすのではなくて、「どうしたら良いか?変える必要があるのか?変えるならどうすれば…」を考え、考え続ける必要があるかもしれません。

磯川

住み始めてから、最初は「まちや人とどう接点をもったらいいかわからない」と思ったんですが、人を介してつながることで行ける範囲が広がっていくのを徐々に感じて。その過程をドラゴンクエストみたいに楽しんでいます(笑)

磯川

最初はよく分からないけど、踏み出したら一気につながりが増えていく感覚で。盛り上げるための分かりやすい活動もいいけど、「分かりにくさも楽しんでいく」のがいいのかもしれません。

タナカ

ゲーム感覚で人とつながっていくのを楽しめる人が増えるといいですね!「まだまだ知らない」というのが京都の楽しさでもあるので、ぜひいろんなエリアの街歩きや人とのつながりの楽しさみたいなのを感じてほしいです。

歩いて、つながって。自分なりの「京都」を探す

西陣で暮らすこと、働くことで芽生える気持ちの変化や可能性を語り、イベントは終盤へ。屈指の人気を誇る観光地がたくさんある京都。最後に、京都で暮らすからこそのおすすめを話していただきました。

タナカ

秋の京都や西陣で「ここがおすすめ!」という場所はありますか?

横山

船岡山公園は秋になると金木犀が咲いてとてもきれいです。毎月第三日曜日には「オープンパーク」という飲食や体験ブースが登場するイベントも開催されているので、地域の人たちとの触れ合いを楽しむのにもいいかもしれません。

小黒

僕が考える楽しみ方は、スポットそのものよりも、時間を楽しむのがいいのかなと。西陣にはたくさんの寺社仏閣やローカルなお店があり、1時間歩いただけでも新しい発見があります。一人ひとりの時間を楽しめるのが良さだと思います。

磯川

京都に住む友人は、みんな小さなことを季節ごとに楽しむのが得意だなと思っていて。先日も「そろそろ鍋開きしましょうか」と友人に言われて。ささいなことも楽しめるのがいいですね。お寺を観光するのはもちろん、それ以外にも朝の掃除や坐禅などの関わり方も面白いと思います。

タナカ

100人いたら100通りのお気に入りがありそうですね。それを移住を検討している人に体験してもらったら楽しそう。京都には多くの観光スポットがあるけど、歩いているだけできれいな景色に出会うので、自分なりの「京都」をそれぞれに探してもらえたら嬉しいですね。

移住者だからこその目線で、西陣での暮らしや仕事について伺えた今回のイベント。大切なのは、地域や人とどう繋がっていくかということ。まるでゲームのように、人との縁に乗っかってみるのも、新たなまちの魅力に気づく一歩かもしれませんね。

執筆:髙橋 美咲
編集:北川 由依
撮影:北川 由依、西陣Fes実行委員会

CHECK OUT

京都だからこそのゆるい人との繋がりやまち歩きの楽しみ方がある。ちょうどいいまちや人との距離感が、移住者を惹きつけるポイントなのかもしれません。ぜひあなただけの京都・西陣の魅力を探しに、まちを歩いてみてはいかがでしょうか?

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