募集終了2020.10.14

京丹後の魅力を子どもたちへ。高校生と地域の架け橋になるコーディネーター

突然ですが、あなたは高校生の頃、地域の企業や働く人と出会う機会はありましたか?

こんな質問をすると、「学校と家の往復で、自分の暮らすまちに目を向ける機会はあまりなかった」と答える人が多いように思います。

でも、もし高校生の頃に魅力的な企業や大人との出会いあったら、その後の人生はもしかしたら、違うものになっていたかもしれません。


京都府最北端のまち「京丹後市」。ここでは、地域の魅力を若いうちから子どもたちに伝え、地域の良さを知ってもらうことで地域の良さを知ってもらおうと、さまざまな取り組みが行われています。

例えば、小中学校では「丹後学」という授業が行われていて、丹後の歴史や文化、そして丹後ならではの産業や企業について学び、地元愛を育む取り組みをしています。2018年度からは高校でも「総合的な学習の時間」を使って京丹後の魅力に触れるための授業がはじまり、地域で活躍する大人の人から話を聞く機会をつくっています。

また、2020年度からは「高校生と地域の架け橋となるコーディネーター」制度が導入され、高校生と地域をつなぐ新しい取り組みもはじまりました。

この取り組みで高校生に地域の魅力を知ってもらう重要な役割を果たすのが、今回の募集でもある「高校生と地域の架け橋となるコーディネーター(以下、地域コーディネーター)」です。

地域の人との出会いを創出

前回の記事で第一期の募集があった際に応募し、記念すべき1人目の地域コーディネーターとして採用された能勢ゆき(のせ・ゆき)さん。3月から市内の峰山高校に配属され活動しています。

能勢:峰山高校には「探究学習」というカリキュラムがあって、この授業の中で地域との関わりづくりが行われています。私はこの「探究学習」の授業設計とその運営サポートを中心に担当しています。

生徒たちが地域のいろいろな方たちと出会う機会を提供することが、大きな役割かなと思っています。実は地域にこういう人がいたんだとか、こういう生き方もあるんだということを知れること、そしてその新しい生き方に出合うことで、進路を選択する際にひとつのきっかけになってくれるんではないかと期待しています。 

峰山高校の「探究学習」で、地域のことについて話す能勢さん。

もともとは京都市内の書店に勤務されていた能勢さん。仕事にやりがいは感じつつも、忙しさであっという間に毎日が過ぎていきました。少しゆっくりと自分に向き合う時間がほしいと考えていたときに、京丹後に住む友人から地域コーディネーターという制度が新しくはじまると聞いたそうです。学生時代には教員を目指していたので、「教育」にも関心がありました。

友人から「教育関係に興味あったよね?」と聞かれて「あるある!」と即答、「じゃあこのタイミングで移住すれば?」と言われて「うん移住する!」と、トントン拍子で移住が決定したそうです。

そんな今回の地域コーディネーター制度の導入にあたり、京丹後市の担当者である川口誠彦(かわぐち・まさひこ)さんは当時をこう振り返ります。


川口:地域の人口減少を考えた時、京丹後で生まれ育った子どもたちが、いかに地域の魅力を感じて、このまちで暮らしていこうと思ってくれるかが大きな課題のひとつだなと感じていました。普通の生活だと高校生は家から出て学校へ行って、勉強して部活動してまた家に帰るということで地域と触れ合うことが少ないんですね。

この地で働いている魅力的な人たちもたくさんいるので、そういう人たちとの触れ合いが大切だなと。京丹後の魅力を発見してもらい、それを心に留めて外に出ていくのと知らないで出ていくのでは大きな差がありますからね。

そういう意味で、高校生と地域とをつなぐコーディネーター役として、地域おこし協力隊として来ていただいたうえで高校に配置をしていくことにしたんです。

「探究学習」のゲストとしてお話しいただいた方の活動に、高校生が参加することもあります。この写真は、地域おこし協力隊が活動する地域で、田植えをした時のもの。

今回の地域コーディネーターの企画にも携わり、自身も3年前に京丹後へIターン移住してきた「丹後暮らし探求舎」の坂田真慶(さかた・まさよし)さん。能勢さんの採用の際には京都市内まで能勢さんに会いに行き、事業の説明や本人の思いを聞いたりもしました。

坂田:いま文部科学省では『探究活動』を推奨しています。京丹後では『総合的な探究の時間』を中心に探究活動』に当てていて、生徒たちが地域の魅力を発見できるような授業を行っています。峰山高校では3人の先生が『探究企画部』として活動していて、能勢さんもここに加わって担当の先生と一緒に授業を考えてくれています。

コロナ禍でも一歩ずつ前進

こうした流れで地域コーディネーターとしての採用が決まった能勢さんでしたが、勤務がスタートする3月はコロナ禍の真っ只中。学校も臨時休業になってしまい本事業のスタートも危ぶまれました。

能勢:正直コロナで最初はすごく苦労しました。生徒と対面で何かをすることもできないし、そもそも地域の人を呼ぶこともできなかったので。そこで先生方とも相談してオンラインを導入することにしたんです。そのために勉強会や研修会を開いたりして、ようやく5月後半から学校がはじまったので、なんとかオンラインで授業をスタートできました。

学校が臨時休業の間にも、能勢さんはコツコツと地域との関係づくりを進めていきました。坂田さんに地域の方を紹介してもらい、紹介してもらった人からさらに人を紹介してもらう。そうこうしているうちに人の輪が広がり、1学期のうちになんと12人もの地域の方がオンライン授業に参加して話をしてくれたそうです。坂田さんも授業に参加して話をされた1人です。

オンラインで実施した探究学習の授業。新しいことを柔軟に取り入れられたのも、コーディネーターの存在があったから。

川口:峰山高校の校長先生が、坂田さんのような大人の人たちが高校にきて話をすると、高校生の目の色が変わると言っていました。先生が話している時とはまったく違う表情を見せると。だからこそ、もっともっとその目を輝かせる高校生が地域との関係性の中で増えてくるといいですよね。

坂田:高校生はひとりひとり自分が一番幸せになる方法をどんどん探していってくれたらいいなと思います。いろんな大人が地域の教育や学びをサポートしてくれる体制があって、うまくその生徒のやりたいことや思いとつながり、ひとつでも面白いことができたりすると、その生徒にとっても人生のひとつの糧になっていくと思うし、今後やってみたいこととか挑戦したいことが見つかるのかなと思います。


能勢さんが峰山高校に来てから約6ヶ月。いま、少しずつではあるけれど、地域との関わりから何かをやってみたいと思い始めている生徒たちが出てきました。

能勢:とにかくまずは一度やってみる。そのプロセス自体が一番の学びになると思うので、結果がどうであろうと、ひとつのことを一緒にやってみて、何が生まれるのかというのを見てみたいです。最初から全員を変えるというのは難しいので、ちょっとでも目の色が変わったなという生徒をどこまで引っ張れるかというのが、すごく重要なところかなと思います。


京丹後市には能勢さんが勤務する峰山高校のほかに、「
丹後緑風高校」と「清新高校」の2つの高校があります。どちらもこの4月に学校再編で誕生した、まったく新しい高校です。今回の募集では、各高校に1名ずつ、計2名の新しい地域コーディネーターが配属される予定です。

川口:峰山高校は進学を目指す子が多いのですが、丹後緑風高校は進学を目指しつつ地域に根ざしたカリキュラムもあるなど、より一層地域で仕事に就く生徒が多いと考えられます。こうした学校の特色や特徴に合わせて、地域コーディネーターの役割も少しずつ変わってくるのかなと思います。

坂田:地域コーディネーターの名称に『高校生と地域の架け橋〜』という形で“高校生”を最初に挙げているように、あくまでも主役は高校生です。生徒ひとりひとりがやりたいことや、生徒自身の中から出てくることをサポートして、そういうつながりを企画コーディネートするのが大きな役割かなと思います。

農作物の生産から加工・販売までをトータルでサポート

つづいては「丹後緑風高校」で企画経営科を担当する斎藤進吾(さいとう・しんご)さんと、農業系の専門学科のアグリサイエンス科を担当する大道錬一(おおみち・れんいち)さんにお話をお伺いしました。

斎藤:丹後緑風高校は「網野高校」と「久美浜高校」の2校の再編によって誕生しました。現在は学舎制をとり「網野学舎」と「久美浜学舎」の2つの学舎で1つの高校を編成しています。『網野学舎』では普通科のほかに、丹後通学圏で唯一の商業系学科の企画経営科を設置し、簿記やマーケティングのほか、ビジネスコミュニケーションや地域活性化を考える実践的なカリキュラムを行っています。

大道:一方で、『久美浜学舎』は農業系のアグリサイエンス科と、探究を主軸にしたみらいクリエイト科があります。私はアグリサイエンス科で農業を担当しており、農場部長をしています。

左:斎藤さん、右:大道さん

丹後緑風高校では久美浜学舎のすぐ近くに、廃校になった小学校の給食室を利活用した「海部Kitchen」を開設しました。ここを拠点に食品加工や製造、新しいメニューの開発なども授業を通して行っていく計画です。

大道:この海部Kitchenを使って丹後緑風高校オリジナルの商品を作ろうとか、オリジナルスイーツを開発しようというテーマでまずは取り組んでいこうと思っています。時間がたりなければ放課後も活用しながら、どんどん試行錯誤の幅を広げていくというような感じですね。

斎藤:久美浜学舎で作られた農作物を加工して、今度は企画経営科の生徒と一緒に販売実習をするということも最終的にはできたらいいなと思っています。地域課題や地域活性化といったところから見出した地域の農産物を久美浜学舎の生徒と一緒に商品開発していくことも考えています。

丹後緑風高校に配属になる地域コーディネーターは、2つの学舎にまたがって普通科、企画経営科、アグリサイエンス科、みらいクリエイト科の4つの科の生徒を広く担当することになります。

農作物を種から育て作物として収穫するところから、それらの農作物を使って商品開発をしたり、さらには商品を販売・流通させたりして、地域の魅力を作物と製品という両面から発信していくような、そんな広い分野での活躍が期待されます。

斎藤:企画経営科では”地産地ショウ”の”ショウ”を商業の商に変えて、地元で生まれたものを『商い』という形で、地域に残る人だけでなく、たとえ外に出ていく場合でも、府外で地域の商品を売ったり、京丹後市の魅力を発信したりできるような、そんな人材を1人でも生み出していきたいと思っています

網野学舎も久美浜学舎もこれまでにそれぞれが地域との関わりを持っていて、地元の企業や商店など、すでに20社ほどとつながりがあるといいます。地域コーディネーターには地域とのパイプ役になり、これまでのつながりも十分に生かしながら、色々な新しい企画を立てていってほしいと期待を膨らませています。

大道:京丹後のなかでも特に久美浜や網野あたりは田舎です。自然豊かで、食べ物がおいしいなど良い点も多くありますが、一方で刺激の少ない場所なので、他府県や都会から我々が持っていない経験をここに持ってきていただいて、いろんな意味で刺激を我々もいただけたら嬉しいです。小さなことでもいいので一緒に企画ができる人とか、自分で考えて動くことができる人に来ていただけたらありがたいですね。

生徒と一緒に学んでいく中で生徒との距離は自然と近づいていきます。生徒と話をするなかで生徒の思いを引き出したり、ときには先生のような立場で教えたり、ときには先輩という立場で相談にも乗れる、そんな関係が持てるのも地域コーディネーターの魅力といえるかもしれません。

自由でおおらかな学校を目指して

最後にお話をお伺いしたのは昼間定時制高校でもある「清新高校」の校長先生・岡田泰行(おかだ・やすゆき)さん。

「清新高校」は宮津高校伊根分校、峰山高校弥栄分校、網野高校間人(たいざ)分校の3つの分校が再編されて誕生しました。各学校の優れた教育実践を引き継ぐ形で、普通科の学び、農業・園芸の学び、食やファッションの学びの3つのコースが設置される総合学科です。


岡田:まだまだ新しい学校なので、生徒にとっても先生にとっても楽しい学校にしようと常に意識しています。そのためには多少失敗してもいいんではないかと、ダメならやり直したらいいし、途中で止めてもいいし、それくらいの自由でおおらかな学校にしていこうと考えています。

特徴的なのは、学校の校則を生徒自身がディスカッションして見直そうとしているところ。できるだけ生徒の要望を大切にしながら、生徒が自分たちで決めたことを自分たちで守る環境をつくり、社会につながる自立心や主体性を養っていく、そんな学びを大事にしています。

岡田:本校の場合は地元で就職する人の割合の方が進学よりも多いんですね。そういう意味ではこの地域に残る可能性が高い生徒たちなんです。また京丹後には、世界で活躍している中小企業がたくさんあります。こうした企業と連携を取りながら、自分たちももしかしたら世界に通用することができるんではないかということに気づいて、この地域で活躍してくれるようなそんな教育をしていきたいです。


岡田:丹後に住んでいるとなかなか地元の良さに気づかないという実体験が私にもありました。私は昨年の4月にこの校舎へ来たんですが、そのときにこの校舎から見る夕日の美しさにものすごく感動をしたんです。あまりにも夕日がきれいなので何枚も写真を撮ってその感動を伝えるんですけど、ここにいると当たり前のようで反応が鈍いんですね。外から来るからこそ気付ける丹後の魅力を新鮮な眼差しで見られる人、普段気づかないところに気づける人にぜひ来ていただきたいです。

京丹後の未来をともにつくる

今回ご紹介した以外にも、京丹後には、自由な発想でまちを盛り上げようとしている面白い大人たちがたくさんいます。そんな魅力的な人たちと一緒に高校生と地域をつなぎ、これからの京丹後を担う高校生の未来づくりをしてみませんか?
5年後10年後に輝く京丹後を目指して、生徒たちとともに楽しく活動してくれる、そんなあなたのご参加をお待ちしています。

執筆:持田 博行
撮影:稲本真也



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