募集終了2024.01.16

地域課題を“学びのしくみ”で解決する。高校生とまちの関わりをつくるコーディネーター

いつか地元に帰りたい。生まれ育ったまちが好き。そんな気持ちを高校生が抱き、行動に移すために大人は何ができるのでしょうか。

京都中心部から車で2時間、日本海に面する京丹後市では2020年から、地域おこし協力隊の制度を利用して高校生と地域の架け橋となるコーディネーターを採用し、地域課題を”学びのしくみ”で解決する取り組みが始まっています。

スタートから4年が経ち、市内3つの高校に配属されていたコーディネーターの卒業が決定。2024年春から着任する人を、新たに募集することになりました。

高校生と地域の架け橋となるコーディネーターとはどんな仕事なのか?生徒や学校、そして地域とどのような関わりを紡いでいるのか?現役コーディネーターにお伺いしました。

京丹後を愛する高校生を育てるために

京丹後市は京都府の最北部に位置する、人口約5万人のまち。丹後ちりめん発祥の地であり、日本一の生産量を誇る絹織物やズワイガニの高級品である間人(たいざ)ガニ、絶景を望める夕日ヶ浦温泉などで知られています。

自然や食などの地域資源に恵まれた京丹後市。しかし、若者の人口流出が進み、将来のまちの担い手不足が課題になっています。

そこで京丹後市では、持続可能な地域づくりに向けた取り組みを加速するため、2018年から京丹後市移住支援センター「丹後暮らし探求舎」を、2020年には京丹後市未来チャレンジ交流センター「roots(ルーツ)」をオープンし、UIターンへのアプローチを進めてきました。

そうした動きの中の一つに、今回募集する「高校生と地域の架け橋となるコーディネーター」があります。

2022年度グッドデザイン賞を受賞したrootsで、お話を伺った

京丹後市には大学がありません。そのため高校卒業後、進学する若者は必然的にまちを離れてしまう現状があります。

京丹後市の未来を考えた時、この地で生まれ育った子どもたちが、地域の魅力を感じ、ここで暮らし続けたいと思えるまちにしたいーー。そこで、「高校生と地域の架け橋となるコーディネーター」の取り組みが始まり、その後、高校生のチャレンジや地域との交流をサポートする場であるrootsが開設されました。

2020年春からは京都府立峰山高等学校に、2021年春からは京都府立丹後緑風高等学校と京都府立清新高等学校に各1名ずつコーディネーターが着任。探究学習の授業等で、先生や生徒の伴走支援をしています。

先生ではない立ち位置で、学校に関わる

現任コーディネーターの3名は、全員移住者です。どのように今の仕事と出会い、京丹後へやって来たのでしょうか。

能勢

母が教員なこともあり、もともと教育業界に興味がありました。いつか教壇に立ちたいと思い教職課程も取りましたが、母を見ているとやりがいがある一方で、大変な仕事だなって(笑)。私自身も社会経験を積んだ上で生徒の前に立ちたいと思い、3年ほど本屋のベンチャーで働きました。

能勢さん

能勢

次のキャリアを考えたタイミングで、京丹後の親友からコーディネーターの仕事を紹介してもらいました。大学時代から京丹後へ遊びに来ていて、親友が働く農家さんで、みんなでご飯を持ち寄って食べたこともあり、素敵な地域だなって記憶があって。タイミングや出会いが重なって、これがご縁だなってストンと落ちたんです。

能勢ゆき/京都府立峰山高等学校

兵庫県西宮市出身。大学卒業後3年間京都市内の書店で勤務を経て、京丹後市へ移住。
学生時代から京丹後市に定期的に通ってオーガニック野菜栽培の農作業を体験し、豊かな自然に魅力を感じた。また、地方都市でありながら、最先端技術を導入した教育プログラムに力を入れていると感じたため地域おこし協力隊に応募。2020年3月着任。
趣味は喫茶店巡り、読書、 語学学習。副業で「roots(京丹後市未来チャレンジ交流センター)」相談員も務めている。

能勢

先生ではない立場で、学校に携われるのも面白いですよね。大人相手ではありますが、前職の本屋で、大人の学校のようなものを企画していたので、経験も活かせそうと思いました。

岡部

私は大学で教育学部に通っていました。教育実習はとても楽しかったのですが、自分が「先生」として生徒の前に立ち指導することに対して違和感を覚えて。その経験をきっかけに、自分がどのような立場でどのように子どもたちと関わりたいのかを考えるようになりました。

岡部さん

岡部

学生時代、岩手や島根のNPOでインターンをして、高校生に近い目線で何ができるかを一緒に考えて、コミュニケーションを進めていくことを楽しいと思っていました。地方×教育に関心はありましたが、東京でそうした仕事の機会はあまりないので、放課後児童クラブの運営会社に内定をいただいたんです。そんな時、たまたま京都で働く先輩から、京都移住計画の記事が送られてきて。面白そうだなと説明会に参加したら、ますます楽しそうに思えて、京都に海があることも知らなかったけど面接を受けてみたらまさかの合格。ご縁ですよね。

岡部 萌香/京都府立清新高等学校

東京都西多摩郡檜原村出身。学生時代には島根県益田市や岩手県陸前高田市で学生インターンとしてNPO法人等の活動に関わり、子どもの教育支援や探究活動支援を経験し、大学卒業後、2021年3月に京丹後市へ移住。
高校生・教師・地域をつなぐ「コーディネーター」という業務に魅力を感じ、働き方や暮らしに対するサポートも手厚いと感じたため地域おこし協力隊に応募。

私は大学時代、農村経済学を学ぶゼミに所属していて、農村観光や移住に関心がありました。同じゼミの人が地域おこし協力隊の研究をしていて、面白い制度だなって思って。将来は地方創生の仕事に携わりたいと考えていた時、福知山公立大学で働く先輩から、コーディネーター募集のことを教えてもらいました。

李さん

京丹後市の募集は「高校生と地域の架け橋となる」というミッションが明確だったので、着任後のイメージも湧きやすかったですね。学生時代、京都府の「京都府名誉友好大使」もしていましたし、綾部市の小中学校へ国際交流として訪問もしていました。その中で、地方の子どもたちが自分の故郷を魅力的に感じていないことが気になっていました。私のような外の人が魅力を伝えることで興味が湧いて、故郷への愛着を持つことが移住・定住に繋がるのではないかと考えていたんです。

李 瓊瑞(けいずい)/京都府立丹後緑風高等学校

中華人民共和国青海省西州烏蘭県出身。2014年に留学生として来日し、大学院で農村地域の持続可能な開発について研究。里山ネット綾部でインターンを行い、都市農村交流等に関わるイベントの企画や主催の経験を持つ。
外からの視点で京丹後市の魅力や課題を伝えたい、高校生たちに生まれ育った地域に愛着を持ってもらいたいと思い、地域おこし協力隊に応募。2021年3月着任。

京丹後には、大学の授業で訪れたことがあり、海や森で研究活動をしていて、楽しい想い出がありました。まるで異世界のように綺麗で、惹かれていましたね。

求められる役割は、三校三様

さまざまなご縁が巡って、コーディネーターとして着任した3名。現在、能勢さんが峰山高等学校、岡部さんが清新高等学校、李さんが丹後緑風高等学校に勤務しています。学科や校風も異なる三校で、各々どのような仕事をしているのでしょうか。

初のコーディネーターとして高校に配属になった能勢さんは、年々求められる役割が変わってきたと振り返ります。

能勢さんが働く、峰山高等学校。京丹後市役所もある市の中心地である峰山にある

能勢

一年目はコーディネーターの導入初年度だったので、先生も進むべき先が見えない状態。探究学習をどのように進めていくのかを考えるところからのスタートでした。先生の思いや課題、生徒をどのように成長させていきたいかをヒアリングして、カリキュラムに落とし込んでいきました。

峰山高等学校は普通科と機械創造科からなり、全校生徒は約559名(R5年4月現在)

能勢

コロナ禍で学校活動が思うように進められない期間は、地域に出向いていました。私も移住者だから、初めは京丹後のことを知りません。地域おこし協力隊の先輩に案内してもらい、地域のキーパーソンにご挨拶をしていきました。

コロナも落ち着き、三年目でようやく学校としても探究学習を本格的に動かせるようになったと振り返る、能勢さん。週1コマ、普通科の2年生11名を受け持つことになったそうです。

能勢

最初の2年は、高校生の相談に都度対応をする形だったので、その先を見ることはできませんでした。担当制になったことで、一年を通して伴走できるようになり、生徒の変化や成長を見守ることができるようになったのは嬉しかったですね。同時にrootsに相談員として在籍するようになり、高校生への声の掛け方や伴走の仕方を学んでいきました。四年目となる今年度は、初めて授業を持たせてもらえるようになり、教壇に立っています。

授業では能勢さん自身の体験を話したり、先輩の事例を紹介したりしながら、外に出る大切さや面白さを伝えている

清新高等学校で働く岡部さんも、着任当時はカリキュラム作りからのスタートだったと振り返ります。

岡部

私は主に、2年生の「総合的な探究の時間」に関わっています。清新は2020年に設立されたばかりの高校。一年目は、第一期生が2年生に上がるタイミングだったので、先生にとっても初めてのカリキュラムづくりです。とりあえずやってみようの精神で、手探りで進めていきました。

「総合的な探究の時間」は、各クラス週2時間。先生と相談して授業内容やスライドを作成。授業ではサポートの役割を担い、グループワークやワークシート記入の際に、教室を回りながらアドバイスをしています。

岡部

農業やファッション、調理など特色のある授業もあります。例えば、農業と理科の先生が合同で担当する「地域文化」では、年度初めに、地域へのフィールドワークを取り入れたいと相談がありました。炭焼き職人さんや提灯職人さんをご紹介して、地域との接点づくりをお手伝いしました。他にも、京丹後に住んでいる外国の方にインタビューをしたいなど、探究以外の授業でも地域の人を繋いでほしいという声を、先生から頂くことが年々増えています。

主に2年生55名の探究学習に関わり、学びのサポートをしている
清新高等学校には農業の授業があり、敷地内にあるハウスで野菜やフルーツ、花などを育てている。地域のイベントやマルシェで販売することもある

李さんが働く丹後緑風高等学校には、網野学舎と久美浜学舎があります。李さんは主に網野学舎にある企画経営科で10年以上続く「課題研究」の授業に、コーディネーターとして関わってきました。

着任当時は人手不足やコロナが重なり、学校と地域の関わりが薄れていました。課題研究は、1・2年生での学びを社会で実践する3年生向けの授業。地域や企業の課題からプロジェクトを実行するために、地域との関わりは欠かすことができません。だけど、移住者で外国人の私は、京丹後に繋がりはありませんでした。誰も知り合いのいない状態から、地道に関係性を築いていきましたね。

コーディネーターは市内でも注目されている事業のため、ケーブルテレビやまちの広報誌の取材を受ける機会も多かったそう。「プライバシーはなくなりますが……」と笑いながらも、プライベートでお店に行っても、「コーディネーターの子だね」と声をかけてくれるので、話が早かったと振り返ります。

「うちの高校生とコラボしませんか」と行きつけの飲み屋に相談することもあります。生徒の関心ごとや地域・企業の困りごとをお伺いしながら、生徒をグループ分けしてプロジェクトを立ち上げているのですが、接客や商品開発、経理、ビジネスマナーなど、実践的なことを学ぶ機会になっていますね。

主に3年生25名程度の探究学習「課題研究」を、週3コマ担当している
1年生から3年生まで、ステップを踏みながら探究学習の手法や考え方を身につけられるカリキュラム

高校生の学びを仕組み化し、地域全体で成長を見守る

こうした関わりの中から、高校生や地域にも変化が見え始めています。峰山高等学校で働く能勢さんは、生徒が地域の人と関わることで、価値観や解釈が変わる瞬間を目の当たりにしたと話します。

能勢

人口減少している京丹後にどうしたら外から人を呼び込めるか、をテーマにした2年生のグループがありました。その時、さまざまな視点を得られるように、「rootsのイベントに一度参加したらどう?」って声をかけたんです。すると、大学生や社会人と話す中で、まちに対する印象がガラッと変わったみたいで。最初は何も魅力がない、面白くないと言っていたけど、むしろ何もないところに魅力があるし、京丹後を誇りに思う人たちがたくさんいることに気づいたって話してくれました。

「そもそも中にいる人が、自分のまちに愛着を持っていないと、外から関わってほしいと言ったところでうまくいかない。自分たちがまちの課題をポジティブに解釈できるかの方が大事」と気づいた高校生たち。その後は、中の人の幸福度を上げるために何ができるかの視点から、地域の人にインタビューを重ね、ますます京丹後の面白さを知っていったそうです。

能勢

初めは内申点が悪くならないようにそこそこ点数を取っておこうと考えているくらいだったんです。でも、探究学習を楽しいと思い、自分たちから動くようになってくれたのは嬉しかったですね。彼らは3年生になっても、探究の授業を選択してくれました。

rootsには相談員をする能勢さんのプロフィールが貼られている。他にも、デザイナー、薬剤師など多様な人が相談員を務める

清新高等学校の岡部さんは、授業以外にも、例えばrootsのイベントにみんなで行く企画を立ち上げ、地域に繋げてきました。rootsがあることによって、地域全体で高校生が学び、育っていく仕組みができ始めていると話します。

岡部

学校に友達はいるけど、深い話はできないとか、彼氏の惚気話を友達にできないとか、悩んでいることを話しづらい子が、rootsを居場所として利用する傾向があります。他校の子や社会人と話をする中で、rootsのプロジェクトに参加するようになり地域に関わっていく子も多いですね。卒業後も、帰省のたびにrootsに顔を出して、それを相談員さんが私にも報告してくれることも。rootsとコーディネーターと学校が繋がって、みんなで成長を見守っています。

職員室にコーディネーターの席もあるので、先生とのコミュニケーションもスムーズ。授業の相談や確認もしやすい

丹後緑風高等学校では、探究学習を通して、高校での学びを社会に接続させるためさまざまなプロジェクトを形にしてきました。

例えば、プレシャスプラスチックの取り組みをする地域おこし協力隊の先輩に協力してもらい、海ゴミからピアスやキーホルダー、ブックエンドを開発。今年度は、高校生が企画・運営するSDGsの祭典「丹後万博2023」にも出店し、売上の一部を寄付するなどしています。

生徒たち発案のプロジェクトに加え、最近では地域の方からも高校生とコラボしたいといった声をいただくことが増えました。地域のみなさんにも生徒の成長を一緒に見守っていただいていますね。

丹後万博への出店の様子

京丹後に新しい風を吹かせてほしい

さまざまな高校生のプロジェクトの立ち上がりや変化を見守ってきた3名は、まもなく任期終了を迎え、2024年春からはそれぞれが新たな道に進むことが決まっています。

最後に、どんな人に次のコーディネーターを担ってほしいのかをお伺いしました。

能勢

高校生、学校、地域などさまざまな人と関わる仕事なので、日々何が起こるかわかりません。だから、それを楽しめる人ですね(笑)。細かいことを気にせず、目の前の生徒に全力投球するのが大切になるんじゃないかな。高校生と一緒に悩んで、一緒に歩んで、嬉しいことがあったら一緒に喜んで。高校生の隣で、いろんな感情を共有することを面白がってほしいです。

岡部

3年間高校に居て、アイデアがあっても「時間的に難しいな」という思考になってしまうこともありますが、清新は新しい高校で先生方も「やりたいことがあったら言って」とすごく協力的です。だから、高校の現状を把握した上で、やりたいことを声に出したり、地域の人と新しいプロジェクトを立ち上げたり、学校に新しい視点を取り入れながら挑戦してみたいって人は、働きやすいんじゃないでしょうか。

生徒と先生、地域の人との信頼関係を大切にしていける人、一人ひとりの生徒の意思を尊重しながら、寄り添ったサポートができる温かい人に来てもらいたいです。その上で、大切になるのが傾聴力や好奇心、フットワークの軽さでしょうか。さまざまな分野に興味関心のある生徒がいるので、自分が知らない分野でも一緒に学ぼうというスタンスで関わってもらえたら。

と、コーディネーターに向いている人物像について語った上で、李さんは「でも、どんな方が来ても必ず新しい風が生まれるので、細かいことは気にせずまずは京丹後に来てほしい」と続けます。

私たちと違うスタイルの方ももちろん歓迎です。新たに着任するコーディネーターのみなさんで、次のストーリーを作り上げてくれたら嬉しいです。

2024年から5年目を迎える、高校生と地域の架け橋となるコーディネーターの制度。京丹後では、少しずつですが、着実に地域全体で高校生を見守り、育んでいく仕組みがつくられています。

先生とは違う、コーディネーターの立場だからこそできることややりがいは、今回3名が語ってくれたこと以外にも、まだまだありそうです。

その可能性を広げていくのは、次に着任するコーディネーターのみなさんです。地域課題を”学びのしくみ”で解決する取り組みの一員に、あなたもなりませんか?

執筆:北川 由依
編集:藤原 朋
撮影:清水 泰人

募集終了

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