募集終了2024.02.13

移り住む人にも地域にも寄り添う。人とまちをつなぐ京都移住コンシェルジュ

いつかは移住して、もっと自分らしい生き方や暮らしをかなえたい。そんな想像をするとき、ワクワクする気持ちもある一方で、「地方で仕事は見つかるだろうか」「新しい環境やコミュニティに馴染めるのか」と不安になる人も多いでしょう。

今回ご紹介する「京都移住コンシェルジュ」は、京都への移住を考えている人の不安や疑問に耳を傾け、一人ひとりに寄り添いながら、地域とつなぐ役割を担います。窓口での相談対応や情報提供、現地案内のほか、イベントの企画・運営、WebサイトやSNSでの情報発信など、仕事内容は多岐にわたります。

地域に深く関わって仕事をしたい人や、ゆくゆくは地域のコーディネーターやプレイヤーとしてのキャリアを歩みたい人にぴったりの仕事です。

まだ知られていない京都ローカルの魅力を発信

「京都」という言葉から、どんな風景をイメージしますか?寺社仏閣や町家など、多くの人が市内中心部のまち並みを思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、南北おおよそ120kmある京都府には、異なる魅力を持つ26もの市町村があります。

海も山もある京都ローカルの魅力を伝え、移住検討者の理想の暮らしをかなえるために伴走するのが、京都移住コンシェルジュです。京都府は、一般社団法人京都府農業会議(以下、農業会議)と株式会社ツナグム(京都移住計画)と共に、2014年から京都移住コンシェルジュ事業を推進してきました。

2020年4月から、京都移住コンシェルジュは農業会議の所属となっています

コンシェルジュは、京都・大阪・東京にある窓口での「移住相談」、地域の人との交流の機会をつくる「現地案内のコーディネート」を通して、移住希望者をサポートしています。先輩移住者の暮らしや働き方、移住関連イベントなどの「情報提供」を行うのも、コンシェルジュの役割。さらに、京都府公式移住定住サイト「今日と明日」に掲載する記事の制作やSNS運用、イベントの企画・運営など、さまざまな方法での情報発信も行います。

京都移住コンシェルジュの公式SNSとして、Instagram・Facebook・Xをメインに運営しています
首都圏在住で京都府に関心がある方同士の交流を深めるイベント「京都ファンミーティング」は、東京で年に数回開催しています(写真提供:農業会議)

移住希望者が知りたいことを丁寧に伝える

青森から京都に移住した矢田諭子(やだ・さとこ)さんは、2022年6月にコンシェルジュとして着任しました。移住相談や現地案内といった基本業務を行いながら、WebメディアやSNSでの情報発信も担当しています。

矢田さん

大学時代はラジオサークルに所属し、学内や地域で面白い取り組みをしている人に取材をして、ラジオで紹介していたんです。取材活動がすごく面白くてやりがいがあったので、いつか地域の魅力を自分の言葉で伝えられるような仕事に就きたいという思いがありました。

卒業後は地元の金融機関に就職したものの、県主催のショートフィルムプロジェクトへの参加がきっかけで、地域への思いが再燃。そんなときに出会ったのが、コンシェルジュの求人でした。「自分は青森しか知らないので、他の地域のことも勉強してみたい」と思った矢田さんは、京都に移住してコンシェルジュとして働こうと決めました。

移住希望者の方に亀岡エリアを案内する矢田さん(写真提供:農業会議)

現在は、京都へ移住した人や、地域で活動している団体などを取材し、インタビュー記事を制作している矢田さん。ラジオの経験があったとはいえ、初めての仕事に苦労もあったのでは?

矢田さん

ラジオでは取材したり喋ったりしていましたが、原稿を書くのは初めてだったので、最初は難しかったですね。でも、人に伝えるという意味では、ラジオもWeb記事も一緒だなと気づいてからは、気負わず書けるようになりました。

「人の話を聞くのが好きなんです」と楽しそうに笑う矢田さんは、仕事のやりがいについてこう語ります。

矢田さん

人に話を聞くと、いろんな発見があります。気づいたことや感じたことを自分の言葉で発信して、SNSでコメントをいただいたり、取材した人から「書いてくれてありがとうございました」と連絡があったりすると、やっぱりうれしいですね。

Instagramでは、イベントや記事の告知のほか、「京都移住のTIPS」として移住に役立つ情報も発信しています

矢田さんは、Web記事やSNSで情報発信する上で、「コンシェルジュの目線」を大切にしています。

矢田さん

取材した方が「ぜひこれを書いてほしい」とおっしゃることとは違う部分が、実はすごく面白かったりするんですよね。だから、コンシェルジュとしての目線で、移住希望者の方が知りたいことや役に立ちそうなことにできるだけフォーカスした記事を作るように心がけています。

当事者としての経験を生かして伴走する

つづいてお話を伺うのは、2023年8月にコンシェルジュとして着任した三野玄太(さんの・げんた)さんです。京都市出身の三野さんは、5年ほど前に静岡に移住し、スポーツ施設の管理やまちづくり関連の仕事に従事。その後、藤枝市で地域おこし協力隊として、サッカーを核としたまちづくりに関わったのちに、京都に戻ってきました。

三野さん

協力隊として活動するうちに、商店街や農業などサッカー以外の分野にも興味が広がって。その頃から、京都移住計画のオンラインイベントに参加するようになり、地域のプレイヤーの人たちと交流する中で、京都ローカルへの関心も深まっていきました。

「京都が好き」という思いは持ちながらも、いつかは戻るのか、関係人口的に関わりを持つのか、決めかねていた三野さん。協力隊の任期を終える頃に、コンシェルジュの求人に出会い、Uターンを決意しました。

三野さん

初めは先輩が担当する移住相談に同席して、少しずつ仕事を覚えていき、今は一人でも窓口対応をしています。移住する前の人の気持ちは僕自身もよくわかっているつもりですし、協力隊についてもお話できるので、これまでの自分の経験を生かして、相談者の方の不安を少しでも解消できればと思っています。

三野さんは、東京で行うイベント「京都ファンミーティング」の企画・運営にも携わっています。

三野さん

京都ファンミーティングは、関係人口として継続的に京都府に関わってくれる方を増やすための取り組みで、これまでに4回開催しています。最近はリピーターも増え、「裏方として手伝いたい」と言ってくれる人も。今後は主催者と参加者の境目をあえて曖昧にしていくことで、よりみんなで作り上げるイベントにしていけるといいですね。

京都ファンミーティングでは、オープンチャットで参加者同士のつながりを作る機会も設けています

コンシェルジュの活動をきっかけに、まだ知らなかった京都の魅力にふれてもらえることにやりがいを感じると、三野さんと矢田さんは口を揃えます。

三野さん

京都ファンミーティングでは、市内だけでなく京都市郊外の魅力も発信しているので、「次に京都に行ったときには、足をのばしてみよう」と思ってもらえたらうれしいですね。首都圏でイベントを開催するだけじゃなくて、「今度は実際に来てみませんか」といった展開にもつなげていけたらと考えています。

矢田さん

実は、首都圏から京都への移住を検討している方の約8割が、市内のことしか知らないんですよ。「京都は海も山もあって、自然豊かなんですよ」と紹介すると、「思っていた京都と違った」「今度行ってみようかな」といった反応が返ってくることが多くて。印象が少しでも変わったらすごくうれしいなと思いますね。

東京で開催した移住フェアで、移住相談に対応する三野さん(写真提供:農業会議)

移住前も移住後も、関係性はつづいていく

ここからは、コンシェルジュとの関わりを経て移住を決めた方にもお話を伺います。茨城県出身の井上健吾(いのうえ・けんご)さんは、京都の大学を卒業し、IT企業に就職して東京・大阪・福岡に勤務。2017年に京都府北部の京丹後に移住しました。

オンラインで取材に答えてくれた井上さん。画面の背景は、今季一番の寒波が到来した取材当日の雪景色

井上さん

就職してしばらく経ち、結婚を意識するようになりましたが、僕も妻もIT業界でかなり忙しく働いていたので、家庭を持つイメージがなかなかできず、他業界への転職を考えはじめたんです。都会で子育てをするのは大変そうだなという思いもあり、大学時代を過ごした京都への移住も選択肢の一つとして考えました。

大阪で会社員生活をしながら、コンシェルジュの窓口相談に行き、移住関連のイベントやセミナーに参加して、京都府内の情報収集を始めた井上さん。なぜ移住先として京丹後を選んだのでしょうか。

井上さん

当時コンシェルジュだった、ぶっちさん(川渕一清さん)に京丹後を勧められて、最初は「遠いやん」って思ったんですよ(笑)。京丹波や南丹、福知山あたりで検討していて、実際に現地にも足を運びましたが、なかなかしっくりこなくて。そんなとき、大阪で行われた京丹後のイベントにたまたま参加したんです。

イベントで知り合った京丹後の人たちから後日飲み会に誘われた井上さんは、現地を訪れてみて、同世代の移住者がたくさんいることを知りました。

京丹後にIターンした小林朝子さんの結婚パーティーの様子。京丹後で暮らす仲間たちがみんなで作り上げました(写真提供:井上さん)

井上さん

ちょうど京丹後に移住者が増えつつある時期で、自分が所属するコミュニティが見えたので、安心感が生まれたんですよね。同世代で事業をやっている人も何人かいたので、京丹後って面白いな、自分もここだったら何か新しいことができそうだな、と思いました。

コミュニティの存在が後押しとなり、京丹後への移住を決めた井上さん。梅本農場(現・ビオ・ラビッツ株式会社)のスタッフとして農業を始め、法人化の際にはカフェや加工場の立ち上げにも携わりました。そして、移住から5年ほど経ち、第一子が産まれた頃、今後について少し立ち止まって考えたそうです。

井上さんはビオ・ラビッツの農場責任者も務めていました(写真提供:井上さん)

井上さん

当時はかなり忙しかったので、家庭との両立が難しくて。これからの働き方を考え直したいと思ったとき、頭に浮かんだのは元コンシェルジュのぶっちさんでした。移住のときにいろいろ相談したのを思い出して、働き方についても一度相談してみようと思ったんです。

農業以外の分野でも地域に関わっていきたいという思いも持っていた井上さんは、このときに相談を持ち掛けたのがきっかけで、川渕さんが立ち上げた「まちの人事企画室」に入社することに。

さらに、同じく元コンシェルジュの坂田真慶さんが、京丹後でコミュニティスペース「まちまち案内所」の準備をしていたタイミングでもあったため、立ち上げや運営にも関わるようになり、井上さんの仕事や働き方は大きく変化していきます。

まちまち案内所で打合せをする井上さん(左)と坂田さん(右) (写真提供:井上さん)

井上さん

今は柔軟な働き方ができていて、子どもが急に熱を出した日や、今日のような大雪の日には、自分で仕事を調整しながら対応しています。京都府や京丹後市といった行政のプロジェクトにも多く携わり、農業だけではわからなかった地域全体の動きや課題感も見えてきました。ローカルだからこそ、ミニマムな人間関係の中で、働き方や暮らしを自分で作っていける感覚があります。

井上さんのキャリアの転機に大きく関わった、元コンシェルジュの川渕さんと坂田さん。改めて、井上さんにとってコンシェルジュとはどんな存在なのでしょうか。

井上さん

移住だけに限らず、自分が今もやもやしていることや変えたいと考えていることを、話を聞いて肯定してくれて、一緒に形にしてくれる。そんな心強い存在ですね。ただの相談員というより、僕らの世代の新しいライフスタイルを作っていく人というイメージかもしれません。

地域の魅力を引き出し、内外に伝える役割

移住する前も、移住した後も。井上さんのお話から、コンシェルジュは人生の転機に大きく関わる可能性のある存在であることがよくわかります。矢田さんと三野さんは、コンシェルジュにはどのような力が求められると考えているのでしょうか。

三野さん

僕たちはコンシェルジュの仕事を伴走支援と呼んでいます。その人の悩みや背景を理解し、より良い暮らしを一緒に想像しながら、サポートしていく力が必要だと思います。

矢田さん

三野さんが言う通り、寄り添う力が一番のベースになるのかなと思います。移住希望者の方にも、受け入れ先の地域にも、寄り添って伴走していく仕事ですから。

さらに矢田さんは、「いかに地域を面白がれるか」も大切だとつづけます。

矢田さん

「うちの地域には何もないよ」って言う人が多いんですけど、傍から見るとすごく魅力的な暮らしや関係性があるんですよね。地元の人にとっては当たり前すぎて埋もれている魅力を、私たちが気づいて引き出して、発信していく。移住希望者の方たちに伝えるのはもちろん、私たちの活動を通して地域の人たちが魅力を再発見してくれたらいいなと思っています。

「当たり前だと思っていたけど、これって魅力だったんだ」。そんなふうに地域の人たち自身に気づいてもらうための発信も、コンシェルジュの重要な役割なのでしょう。

最後に、いつかコンシェルジュを卒業した先の未来についても尋ねてみると、二人はこんなふうに答えてくれました。

矢田さん

いずれはコンシェルジュとして得た経験を地元に持ち帰って、地域貢献できるような仕事をしたいと思っています。でも京都は居心地がいいので、いつになるのかはまだわかりません(笑)。

三野さん

自分が京都ローカルの魅力にだんだんと気づきはじめたように、若い世代の人たちにも魅力を伝えていく役割を果たせたらいいですね。いつかは自分も地域のプレイヤーとして、場づくりをしていきたいという思いがあります。

自ら地域に飛び込み、関係性を育みながら、移住者との橋渡しをしていく。そんなコンシェルジュの仕事は、これから移住する人や、移住して日が浅い人が、地域に関わる最初の一歩として挑戦しやすいのではないでしょうか。将来、地域コーディネーターやプレイヤーとして歩んでいきたい人にとっては、次のステップにつながる貴重な経験となるはずです。興味のある方はぜひチャレンジしてみてください。

編集:北川 由依
執筆:藤原 朋
撮影:橋野 貴洋

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