2023.03.16

移り住む先の暮らしをつくろう。京都移住計画の「これから」

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京都移住計画のWebリニューアルにあたり、「これまで」と「これから」を語る企画。前編では、任意団体だった移住計画が「居」「職」「住」の機能を持ち、どのように組織になっていったのか。後編では行政や企業との取り組みと、今後について紹介します。2本の記事を読めば、移住計画の道のりと、これから向かう先がわかるはず。

「まずは自分たちが楽しむことを原動力に」。前編では、そんな想いからメンバーの興味関心を軸に移住者と共に進めてきた企画や、そこに携わる創成期のメンバーの想いをご紹介しました。

後編では京都移住計画・代表の田村篤史、 移住コンシェルジュとして移住支援に取り組む並河杏奈、そして2021年に京都にUターンし、移住計画にジョインした坂井晃人の3人の鼎談をお届けします。

京都府の移住コンシェルジュ事業を受託したことを皮切りに、行政や企業と連携し「京都に移住したい」と想いを持つ人の移住支援を本格的にスタート。時代の移り変わりとともに、変化していく移住のかたちにそったサポートを続けてきました。京都移住計画がこれから担う役割とは。

左から坂井晃人、田村篤志、並河杏奈

移住コンシェルジュの始まりと役割

ーー前編で「2014年から京都府の移住コンシェルジュ事業を受託したのは、大きな変化だった」とお話していただきました。どのように行政や企業との連携が始まったのでしょうか。

田村

2014年から京都府農業会議から、過疎地域への移住促進の事業を受託することになりました。当時は個人事業主。一人でやるのは難しいので、千葉ちゃん(小谷明日香さん、旧姓:千葉)とぶっち(川渕一清さん)にジョインしてもらって、スタートしました。

事業を受けることに決めたのは、ぶっちとの出会いが大きかったかな。彼は京丹後の出身なんですが、地元が衰退してしまうことへの危機感が誰よりも強くあって、Uターンした人。何とかしたいっていう想いにすごく共感したんだよね。そのタイミングで、京都府さんから声がかかったので「じゃあ、一緒にやろう」と。

田村

千葉ちゃんは彼女自身が東京からUターンするにあたっての相談に乗ってたんです。彼女自身が「田舎で子育てをしたい」というライフプランを持っていたので、地方でどう暮らしていくかを考えて伝えて、現地の人と繋げていく移住コンシェルジュの仕事って、まさにぴったりだなと思って声をかけました。

次第に関わる人が増え、大きな予算がつく行政事業を一個人で請け負うことは難しい状況になっていって。同じ頃、タナカと一緒に会社をつくろうという話が持ち上がったこともあって、株式会社ツナグムを設立して移住コンシェルジュ事業を請け負うことにしました。

ーー移住コンシェルジュ事業では、どのようなことに取り組まれていたんですか。

田村

基本は「丹後・中丹・南丹・山城」といった広域エリアごとに、地域の方や自治体職員さんと一緒に移住促進の施策を進めます。主な取り組みは、府が設置した移住相談窓口での相談や、セミナーやイベントを企画・実施すること。時には、実際に現地をまわるツアーを開催したり、空き家を案内したりと、ワンストップで伴走できることを強みに取り組んでいました。

ただ、現地の人たちからすると「急に来て、お前らなんや」ですよね。僕らはてっきり、田舎暮らしに関心のある若い人たちを集めたら、地域の人にも喜んでもらえると思ってしまってた。でも大事なのは、まずは受け皿となる地域に僕らが信頼してもらうことや、地域の事情をちゃんと理解しておくことだったんですよね。

そこから千葉ちゃんとぶっちが、現地の方の話に耳を傾け、その想いを理解しながら、地域での活動や魅力を多くの人に伝えてくれました。あとは各エリアの移住担当の窓口の人たちとの連携も、こと細かく対応してくれた。その地道な積み重ねがあったからこそ、「この人たちなら任せられる」と地域の人に信頼してもらえるようになったんですよね。ただ、きめ細やかな対応をするには、2人では到底無理なので、各エリアごとに担当をおこうと決めて、ふじもん(藤本和志さん)や、あんなちゃんなど、新たなメンバーにジョインしてもらいました。

京都府内を案内する藤本さん(上段左端)と並河さん(下段左から2番目)

ーー並河さんは、いつから移住計画に関わっていますか?

並河

私は、2018年から移住コンシェルジュ事業の担当として関わらせていただいています。前職で中丹地域のキャリア教育や移住促進に関するイベント運営、地元・亀岡の商店街の活性化に関わっていたこともあったので、お声がけいただいて、南丹エリアを担当する移住コンシェルジュになりました。

業務としては、大阪・京都・東京にある窓口や京都府のPRイベントブースでの相談対応。他にもイベントの企画・運営、プロモーションも全部です(笑)。それぞれのエリア担当が、地域の人と一緒にイベントや現地ツアーの企画をしていく流れでした。私が担当になった南丹エリアは、行政の方たちも積極的に動かれているので、活発にイベントが開催されていました。

「ツナグム」としての移住の取り組み方

ー2015年には「みんなの移住計画」がスタートし、全国にも移住計画の輪が広がっていきましたよね。

田村

全国各地に「〇〇移住計画」という生きたい場所で生きたい人にとっての旗印になるような集まりがあればいいなと思い始まった取り組みです。そもそも京都移住計画をつくったときも、「京都以外にも素晴らしい地域は沢山あるし、それぞれの地域が盛り上がり、地域同士で一緒に何かできたら面白いんじゃないかと。点が線になって面になっていくようなことをイメージしてたかな。

2017年と2019年には各地の移住計画が集まり、都市部の移住希望者と各地をつなげる「みんなの移住計画祭」を開催。 

ーー一方で、京都に軸足を置き続けることで、京都移住計画の立ち上げ当時に学生だった人が、京都にUIターンしてくることも増えたそうですね。坂井さんもその一人で、学生時代から移住計画と繋がりがあったとか。

坂井

僕は大学時代にシェアハウスに住んでいたんですが、そこに田村さんやふじもんさんがよく来ていたんですよね。自然な距離感で巡り合って、気づいたらいろんな人たちが集まってるみたいな。それが京都らしい面白さなのかなと思って。

当時から移住計画の取り組みに関心があったわけではなかったのですが、学生時代に面白い人たちと出会っていたからこそ、京都にUターンしたいと思ったんだろうな。京都に戻ってきたらこの人たちと面白いことができそうだなと、期待を感じていたんだと思います。

田村

地方創生とか移住という言葉が出始めた2014年頃は、都会に出ていった人に対して「戻っておいでよ」っていうPRばかりが全国的に繰り広げられていたんですよ。でもその前に、そもそも戻りたくなるような地域としての関わりがあったかどうかの方が大事なんですよね。

だから僕らも関わりたいと思ってもらえる人であることは意識していました。地域で楽しそうにしてる大人と学生時代に出会えたり、京都を離れても近況を聞いたりと地道な関わりがあると、戻りたいと思った時に顔を思い浮かべてもらえると思うんですよね。ちいくんが京都に戻ってくると聞いた時は嬉しかったです。

「風」から「水」へ移り変わる役割

ーー過去10数年で、移住や地方に対する世間の関心も大きく変わりました。その中で、移住計画の役割の移り変わりについてどのように考えていますか。

田村

基本的に僕らがやっていることは、移住促進というよりも「自分が生きたい場所で暮らす人のお手伝い」なんですが、お手伝いの意味合いが変わってきてる気がしてて。移り住む人を「種」に例えると、僕らは初め「まだ京都にいない人が、京都に移り住むためのお手伝い」をする「風」の役割だったんですが、今はちいくんのように、移り住んだ人たちが「京都でやりたいことを実現するためのお手伝い」をする「水」の役割も担っていきたいんですよね。

この10年で、地元の地域活性化に取り組む若い人がいっぱい増えてるんです。例えば、クラフトビールで与謝野のまちづくりに取り組む株式会社ローカルフラッグの濱田祐太くんとか、京丹波町市にUターンして実家のラディッシュ農家を継いだ野村幸司くんとか。野村くんは、東京で移住相談に来てくれて、そこからの付き合いなんだよね。そういったプレイヤーと一緒にできることがあると嬉しいし、移住計画の仲間が増えていくことで、僕らの幅も広がっていく。

つまり、京都の中で面白く暮らす人たちを増やしていけば、結果的にそれが引力になって新しい人を呼び込めると思うんです。以前は移住したいと思ってる人に対して伴走し、移住までの応援をすることだったけれど、次の10年は移住した人たちと面白いことをしていく、まちの暮らしをつくっていくことをやっていきたいですね。

2021年秋には、野村さんが育てた旨味たっぷりの黒枝豆をローカルフラッグが開発・販売するクラフトビール「ASOBI」片手に味わう食事イベントを開催した(提供:DAIDOKORO)

ーーローカルエリアから求められる役割も変わってきているのでしょうか。

並河

田村さんが今おっしゃったみたいに、それぞれの自治体が移住希望者に伴走できるような仕組みができ、すでにUIターンした方がそれぞれの地域を盛り上げているなかで、私たち京都移住計画に求められる役割も変わってきたように思います。

まだまだ、地方では仕事を見つけることにハードルがあると感じています。移住者からすると自身のスキルや経験が活かせる仕事があるのかわかりづらいし、地元の企業はどのように新たな人材を見つければいいかわからない。だったら出会いのきっかけをつくろう!とはじまったのが「京都ローカルワークステイ」です。2〜3日間ほどの滞在中に、地域の仕事・企業の魅力に触れることで、自分の興味やキャリアが広がる仕事の選択肢があることに気づいてもらう。そういう機会をもっと増やしていきたいですね。

京都ローカルワークステイで企業を訪問

並河

移住者を増やすことが京都府の移住施策における目的ではありますが、移住はそんなにとんとん拍子で進むものでもありません。例えば、移住施策のなかで地元の方が企画するお祭りや、「しめ縄を作ろう」「郷土料理を食べよう」というイベントは楽しいし、土地の文化を知ることができます。けれど、移住後の仕事探しにはなかなかつながりづらいですよね。でも、そうした地域や人の魅力に「観光」という目的だったら新たな人を連れてくることができるかもしれない。持続的にサポートするためにも、移住だけに縛られない取り組みをしたいですね。

ーー坂井さんは2021年に京都へUターンしましたよね。移住者の視点から見て、どのような機能があれば嬉しいですか?

坂井

僕の場合はフルリモートで東京の会社に勤めていたので、転職をせずに京都に移住してきたんです。だからすぐ仕事に困ることはなかったけど、いざ実際に移住してみたら、学生のときの友達はほとんど京都からいなくなっちゃってたんですね。コロナ禍を挟んでからは、僕のように仕事がある状態で移住する人も増えてきていると思うし、周囲には移住してから仕事を決めるという人もいます。そう思うと、移住者と京都のコミュニティとの接点をどうつくるかが大切なんじゃないかと。

そのきっかけになればと、コロナで3年ほど止まっていた「京都移住茶論」を再始動していきたいと考えています。実際に移住者が集まって交流を持つ機会を設けることで、移住がゴールじゃなくて、その先を一緒につくっていくところが実現できると思うんです。それと毎回、僕たちが主催するのではなく、京都各地で活躍している人にも移住茶論を活用していただき、京都市内だけでなく、各地域の面白い人たちとも交流できるような場にしていきたいです。

2018年開催した京都移住茶論「さらえるキッチン」の様子。IターンやUターンといったかたちで、京都に移住してきた人同士や京都在住の方との交流の場になっている。

ーー移住者の意識も大きく変わっているんですね。これから、移住計画として目指すところを教えてください。

田村

これまでの移住計画は、移住がゴールになってたような気がするんですね。例えば求人にエントリーして転職・就職が決まった方とか、紹介した物件に住んでくれた方とかが居ても、移り住んだ後のコミュニケーションが十分に取れていないんですよね。

その人たちがどんな人なのかっていうものをもう少し知っていくことで、「あなたの興味があることは、ここにありますよ」「こういうコミュニティがあります」って丁寧にコミュニケーションができるんじゃないかなって。そういうことが今回リニューアルするWebサイトで表現できたらいいなと思って「コミュニティメディア」と名付けてるんです。

田村

それと、暮らしのその先にあるものを、みんなで一緒につくっていきたいんですよね。例えば、農家さんの収穫を手伝ったり、八百屋さんから季節の野菜について学んだり、味噌や漬物をみんなで作ったりするとか。

食の分野に限らず、僕らのつながりの線の上にいる人たちと、暮らしのことだけではなく、仕事も含めてお願いしたり、されたりする。それが小さな生協のような、暮らしを助け合える仲間であり、経済圏のようなものにしていきたいんです。

そういう関係性が京都移住計画という環の中で作られていくと、自分らしく生きやすくなる。そんな未来を次の世代とも一緒につくっていくことができたらええなと思ってます。

移り住む人を地域への新しい可能性をうむ「種」と捉えて、「風」のように軽やかに背中を押しながら自分たちも共に楽しむことから始まった「これまで」。「種」を育む「水」のような存在として移り住む先の暮らしをつくっていく「これから」。

言葉にすると大きな変化に見えますが、いつも芯の部分にあるのは「生きたい場所でいきる人が増えたらいいな」という想い。鴨川の流れのようにゆるやかに、でもとどまることなく流れる京都移住計画の歩み。

心地よく、たゆたうその流れに一緒に乗り、ともに進んでいきましょう。これまでもこれからも。

田村篤史
京都生まれ。3.11を契機に東京からUターン。京都移住計画を立ち上げる。2015年にツナグムを創業。採用支援、企業や大学など拠点運営、地方への関係人口づくり等を通じて、人の働く・生きる選択肢を広げる。2020年、京都信用金庫の共創空間QUESTIONの運営に参画。新会社Q’sを設立し「京都のまちにもう一つの台所を」をコンセプトにしたコミュニティキッチン事業を開始。

並河 杏奈
京都府亀岡市出身。大学卒業後、地元の商店街活性化事業や、田舎暮らしに興味がある学生・若者向けのイベント企画、WEBメディアを中心に取材・執筆などを行う。2018年4月より京都移住コンシェルジュとして、移住促進事業に従事。2020年に一般社団法人Foginを立ち上げ、現在はコミュニティ・ツーリズム「Harvest Journey Kameoka」や各種企画において現地コーディネーターとして携わっている。

坂井 晃人
1992年生まれ、東京育ち。高校の修学旅行で初めて訪れた京都に心惹かれ、京都大学に進学。大学院を中退したのち、東京でまちづくり会社に就職。誰もが挑戦できる社会づくりをテーマに、全国で住民対話の場づくりや官民連携などに取り組む。
妻の妊娠を機に、2021年に心のふるさと京都へ移住。翌年、ツナグムに参画し、京都を帰って来れるまちにしたいと京都移住計画に関わる。

編集:北川由依
執筆:ミカミユカリ
撮影:進士三紗

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