京都に移住した人は、どんな暮らしを送っているのでしょうか。連載「移住者が語る京都生活のリアル」では、移住者がポジティブとネガティブの両面から素直な意見を語ります。
第1回目のテーマは「京都で働くリアル」。移住に伴い、京都の企業に転職した3人の話から、京都の働き方の特徴を探っていきます。
【この記事でわかること】
・京都の仕事先を一度も訪れずに移住を決めた人が行ったリスクヘッジ
・大企業から中小企業への転職で年収150万円ダウンでも「総じてプラス」な理由
・「いけず文化」「言ってなんぼ」の関西気質は本当?
京都で働き始めたきっかけは?
——今日はお集まりいただきありがとうございます。まずは自己紹介をかねて、現在のお仕事について教えてください。
田中
滋賀県出身の田中翼です。亡くなった方の遺骨を手元に残したい方に向けた手元供養品と樹木葬を事業とするカン綜合計画・博國屋で、顧客対応やWeb周りの業務を担当しています。
古谷
古谷奈津美です。2025年春に北海道から京都に移住して、神宮丸太町のゲストハウス『HOSTEL NINIROOM』でマネージャーとして働いています。
大塚
大塚珠未です。2025年秋に埼玉から京都へ移ってきました。神社仏閣やお仏壇に使われる錺(かざり)金具を手掛ける錺金具竹内で主に自社ブランド商品の開発やデザインなどに携わっています。
——皆さんが京都で働き始めたきっかけは何でしたか?
田中
26歳で京丹波出身の妻と、婿養子として結婚したことがきっかけです。妻の実家の横に家を建てたのですが、当時は大阪の自動車メーカーにいたので通勤に2時間半かかってしまって。負担を減らすために烏丸のWeb制作会社に転職し、3年半フルリモートを経験したものの、人と会わないと病むことがわかり、約3年前に現在の会社に転職しました。

田中
京丹波ではやりたいことが見つからず、京都市役所前駅が最寄りの会社までは通勤に1時間半かかりますが、元々2時間半かけて通っていたので余裕です(笑)。僕以外にも、同じ村から市内に通っている人は数人いますね。
——都市部で仕事をして、田舎で生活をする。通勤に時間がかかる一方で、オン・オフの切り替えがしやすいメリットがありそうですね。
田中
オンとオフは通勤中に自然と切り替わりますね。電車は1時間に1本ですが、職場の人たちも「そろそろ会社を出な、遅れるぞ!」と気を遣ってくれますし、電車内では座れるのでそれほど苦労はありません。むしろフルリモートの方が、僕にとってはメリハリがなくてしんどかったです。
古谷
私はずっと北海道で暮らしていたんですけど、離婚をきっかけに違う場所へ行ってみようと思った時、パッと頭に浮かんだのが京都でした。京都には何度も一人旅で来ていて、その度にいろいろなゲストハウスに泊まっていたんです。

古谷
京都で仕事を探す際は、京都移住計画の「ゆるキャリ」(※)にお世話になり、今の職場と出会いました。札幌でもゲストハウスで働いていましたし、「仕事も見つかったし行っちゃおう」みたいな感じで、2025年4月に京都へ来ましたね。
ちなみに、通勤時間は自転車で5分ぐらいです(笑)
※「ゆるキャリ」はキャリアと暮らしを考える相談室。不定期開催中です
——めっちゃ近い(笑)。大塚さんはどうでしょう?
大塚
私は今の会社とご縁があり、京都へ越してきました。
子どもが2人いるんですけど、子育てが終わったら伝統工芸やものづくりの道に進みたいとずっと思っていて。ただ、子どもは巣立ったものの、錺金具の業界は毎年どんどん廃業していっている状況なので、なかなか求人には出会えず……。
加えて、前職は一流企業グループの会社で安定した環境だったこともあり、辞めて別の仕事を始めるきっかけもなかなかつかめずにいました。

大塚
そんな折に異動があり、通勤時間が片道2時間になってしまったことで体調を崩し、「これを機にもう一度やりたいことに向き合ってみよう」と思っていた矢先、今の職場の求人を見つけたんです。この業界で求人が出ることは奇跡に近いので、これは!と思って応募しました。
ありがたいことにご縁をいただき、2025年5月からマンスリーマンションを借りて試用期間の3カ月間を過ごし、9月に本格的に移住してきました。
京都で働く不安を解消するための工夫
——京都で仕事を始めるにあたって、不安はありましたか?
古谷
一度も現地に行かないまま働くことを決めたので、その不安はありました。宿泊施設は地域はもちろん、オーナーによってカラーやお客さん、従業員の雰囲気も違いますから。
私の場合はブログやSNSで発信されている『NINIROOM』の日常を元に、なんとなくの想像で「とりあえず行ってみよう」と飛び込んだので、怖さ80%という感じでした。
——怖さ80%って、だいぶ不安なのでは……?
古谷
賭けではありましたけど、リスクヘッジとしていつでも撤退できるように、住む場所はシェアハウスを選びました。京都はシェアハウスが多いですし、紹介の窓口もたくさんあるので、思ったよりハードルは低かったなと思います。

古谷
札幌の家具や家電は『ジモティー』で処分して、キャリーケース一つで移住したので、引っ越し代も自転車の送料1万5000円と航空券だけで済みました。移住前後で貯金が減ることを心配していたので、うれしい誤算でしたね。
あとは、アルバイトの試用期間を設けてもらえたのも安心材料になりました。
——合わなかった場合に備えて、できるだけ身軽に動ける状態をつくって移住したんですね。
大塚
私は体力面が心配でした。試用期間中に1日中電動ドリルの前に立ち、金具に穴を開ける作業があったりしたので。金属は重いし、機械が並んでる場所には空調設備がないんですよ。夏は立っているだけで全身から汗が出るし、冬は室内なのに息が白くて、触るものが金属だから全部冷たくて。
——その不安はどうやって解消したんですか?
大塚
入社後は自社ブランド商品のデザインや商品開発を主に担当することになったので、エアコンがある部屋で仕事ができることが増え、体力面はだいぶ楽になりました。
希望していた彫金のポジションとは違うけれど、錺金具の業界は厳しい状況にあるので、広く知ってもらうための役割として貢献するのもいいかなと思っています。孫が大きくなる頃には、錺金具の世界がまた元気を取り戻していてほしいので。
田中
僕は大企業から中小企業への転職だったので、ブラックやったらどうしようっていう不安がありました。SNSを見たり、会社の近くをうろうろして社員の顔つきを観察したりしましたね。
結果的には前職も今の職場もみんな優しくて、なんなら大企業時代の方が働き方はハードでした(笑)

大塚
私も職場環境は大きく変わりました。今の会社は8時〜16時50分の勤務で、残業はないですし、夜が長いのは気に入っているのですが、やはり前職の方が福利厚生はしっかりしていましたね。リモートワークやフレキシブル勤務もできたので、働きやすさという点では、前職の方がよかったのかなと思います。
会社の規模も、前職はワンフロアに50人くらいいましたが、今は10名弱。しかも半分以上が社長の家族です。
——「従業員の半数以上が家族」という環境に一人で入っていくのは、しんどくないですか……?
大塚
みんな良い人たちなのでしんどさは感じたことはありません。ただ、人間関係というより、仕事の振られ方などで戸惑うことはありますね。そういうときは他の仕事仲間に話を聞いてもらって、あまり深くは考えず、「こういう感じなんだな」と受け入れるようにしています。
【不安解消の工夫】
・最小限の荷物で、シェアハウスに滞在することで、即撤退できる状態をつくる
・リアルな職場環境を知るために、SNSや会社を出入りする社員の表情をチェック
・家族経営の会社での戸惑いは「こういう感じなんだな」と受け入れる
京都で仕事をする大変さ
——京都で働く中で、大変だと感じることはありますか?
古谷
公共交通機関を覚えるのがめちゃめちゃ大変でした。北海道の電車はシンプルですが、京都には京阪や阪急があり、バスもたくさんあるじゃないですか。ある程度把握しないとお客さんにご案内できないので、自分の足であちこち行って覚えるようにしています。
田中
僕は仕事で車を運転するんですけど、道は混みますね。細い道や一方通行も多いので、運転の難易度は少し高めです。
特に、通行止めになるレベルの祭りが年に数回あるのは京都ならではかなと思います。お客さんと車で移動中に渋滞してて、事故かと思ったら一瞬馬が見えて、「今日は葵祭か、それは知らん俺が悪いわ」と反省したり(笑)
あとは、やっぱり暑いですね。沖縄出身の従業員が「断然京都の方が暑い」と言ってましたが、外回りは結構しんどいです。

大塚
古谷さんは北海道から京都に来て、暑さは大丈夫でしたか?
古谷
私は寒さより暑さの方が得意で、逆に雪がダメなので、京都の方が合っている感じがします。去年は京都で快適な冬を過ごせました。
あと、私は関西の人たちの会話のテンポの早さに北海道との違いを感じます。会議中もみんながわーっと意見を言うので、発言の隙間を見つけるのにちょっと苦戦していて。みんな主張がはっきりしていて、「言ってなんぼ」っていう雰囲気があるなと思います。
札幌で働いていた時は控えめな人が多かったんですけど、その感覚のままだと発言しない人になってしまうので、意見ややりたいことはどんどん言った方がいいんだなと思うようになりました。
田中
僕は大阪と京都で働きましたけど、そんなに意見が飛び交うことはないですね。
古谷
あ、じゃあ私の職場の特徴なのかも……?
——職場の風土か、関西の特色か、引き続き調査が必要ですね(笑)
田中
僕は仕事で京都のお客さんとお話をする機会が多いんですけど、いけず文化を感じたことがなくて。皆さんはどうですか?
古谷
私は一度もないです。たぶん気づいてないんでしょうね。
大塚
私の職場はほとんどが京都で生まれ育った人たちですけど、私も感じたことはないです。気づいていないだけかなと思って、「私にいけず言ったことありますか?」って聞いたけど、「ないよ」って。
——「あるよ」とは言えない気が……。
大塚
そっか(笑)
でも、家から駅までの道で朝、顔を合わせるご近所さんも「いってらっしゃい」と声をかけてくれますし、京都の人に対して意地悪な印象は全くありません。

収入と生活コストのバランスはどう変わった??
——移住して仕事も変わって、収入と生活コストのバランスはどう変化しましたか?
田中
僕は大企業から中小企業への異業種転職だったので、年収は約150万円下がりました。その代わり、生活のコストも大幅に下がりましたね。畑があり、米も自分たちで作っているので、生活に困ることはありませんでした。
なので、収入的にはマイナスだけど、精神的な満足度を加味したら総じてプラスです。義理のお父さんが築いてきた信頼のおかげで地域のみんなも歓迎してくれて、とても良い環境で生活できています。横が義実家なので、子育ての面でも助かっていますね。
大塚
私の場合、前職は会社規模に対して給与水準が高くなかったこともあり、転職後も収入自体は大きく変わらないのですが、京都駅の近くに住んでいることもあって、部屋の広さに対して家賃が高いと感じています。埼玉の自宅は3LDKだったので、一人暮らしの部屋とのギャップが大きいですね。
物価についても、埼玉より京都の方がやや高い感覚です。絞り立てのオレンジジュースの自販機が地元では350円なんですけど、京都の自宅の近所は600円で。びっくりして地元の友だちに写真を送りました(笑)
古谷
私は収入面ではややプラスで、生活コストは北海道とほぼ変わらないので、少しゆとりが生まれた感じです。今もシェアハウスに住んでいて、月5万円の家賃に光熱費や消耗品費も含まれるので、普段の支出は食費くらいですね。
田中
生活コストでいうと、京丹波には遊ぶ場所がないんですよ。移住前は毎週末飲みに行っていましたけど、今は草刈りをして、自分たちで漬けた梅酒を飲んでいます。そういう意味で、お金を使う機会は減りましたね。

——最後に、京都移住は、どんな人に向いていると思いますか?
古谷
自分も含め、周りを見ていると、「京都にいつか暮らしたい」「旅行で来て心地良さを感じた」など、京都が好きっていう気持ちがある人はだいたい楽しく暮らしているなと思います。
反対に、仕事の都合で意図せず移住するなど、自分の中に目的がないまま京都に来た人は「なんか違う」となりがちな印象ですね。
大塚
目的ややりたいことがあるのは大事だと思います。私は「京都に住みたい」が先にあったわけではなく、やりたい仕事があって、その仕事をするために京都に来ましたから。
特に京都は伝統文化がたくさんあるので、そういう分野に関心がある人には向いていると思います。伝統工芸やものづくりに携わる人たちとの距離も近いですしね。
田中
僕は結婚をきっかけに京都に移住しましたが、同じ日本人が住んでる場所なので、あまり気構えなくていいんじゃないかなと思います。移住者も多いですし。
古谷
北海道だと出会う人はほとんど北海道出身者ですが、京都の場合は「こういうことがしたい」「こういう自分でありたい」という意思がある、個性的な人が府外から集まっている印象があります。
だから、自分の好きなことを前面に出していけば、多少マニアックでも同じものが好きな人と出会えるだろうなって。知り合いがいなくても、そうやってつながりをつくっていけるんじゃない?と、移住前の自分に伝えたいなって思います。

企画・執筆:天野 夏海
編集:北川 由依
撮影:小栗 あかね



