さまざまな素材や絵をコラージュした、カラフルでポップなコインケース。その名も「小銭兄(コゼニー)」。
一度出会ったら忘れない、見た目もネーミングも「ひと癖」あるアイテムです。

こちらは、京都の雑貨ユニット「POP.POP.POP」が、一般社団法人暮らしランプとのコラボレーションによって生み出したプロダクトです。
2022年から商品によるコラボをスタートした暮らしランプとPOP.POP.POPは、制作活動やイベント出店、ギャラリー展示など、たくさんの取り組みを共に行ってきました。そして2025年12月、両者の協力のもと、京都三条会商店街の近くに生活介護事業所「ヒルネスタジオ90%」を開設しました。

京都移住計画ではこれまで、暮らしランプが運営する就労継続支援B型事業所「なかの邸」や生活介護事業所「atelier uuu(アトリエウー)」を訪れ、取材を重ねてきました。
今回は、暮らしランプとPOP.POP.POPの関係性にスポットを当て、協働プロジェクトの成り立ちや、協働だからこそ実現できていること、「ヒルネスタジオ90%」が生まれた経緯や今後の展望について、プロジェクトに関わる皆さんにお話を伺います。
縁がつながり始まったコラボレーション
今回、取材を行ったのは2025年10月上旬。「ヒルネスタジオ90%」は内装工事中のため、京都市北区の新大宮商店街にあるPOP.POP.POPのアトリエ兼ショップ「ヒルネスタジオ」を訪ねました。
この日は、アトリエウーの利用者さんがヒルネスタジオで創作活動を行う日。ときに黙々と、ときにおやつを食べてひとやすみしながら、それぞれのペースで。なんだかとても心地いい空気が流れています。


ヒルネスタジオでは週2回、アトリエウーのメンバーが訪れ、創作活動やお菓子づくりをしたり、みんなで近所におでかけしたりして、一緒に過ごしているそうです。
こうした協働は、いつどのようにして始まったのでしょうか。POP.POP.POPの本田北斗(ほんだ・ほくと)さんと小枝由佳(こえだ・ゆか)さんは、暮らしランプとの出会いについて、このように振り返ります。
本田さん
最初の出会いは、今から7~8年前。友達に誘われて、暮らしランプが向日市で運営していた「カフェ3(さん)」に行ったんです。かわいらしくて、めっちゃ好きなテイストで。「こんないい場所が京都郊外にあるんや」と、すごいインパクトでしたね。そのとき、森口さん(暮らしランプ代表・森口誠さん)と初めてお会いしました。僕は介護福祉士の仕事を15年以上やってきたんですが、森口さんは「今まで見た福祉の人っぽくないなぁ」という印象でしたね。
小枝さん
私たちはこれまで、大阪や奈良の福祉施設とコラボレーションしていたので、京都でも一緒に活動できるところはないかなと思っていて。それ以来、「いつか暮らしランプさんと何かできたらいいね」と2人でずっと話していました。

POP.POP.POPと暮らしランプの接点が生まれたのは、それから数年後のこと。「カフェ3」に一緒に行った友人が、「暮らしランプが京都市内でスタッフを募集しているよ」と教えてくれたそうです。
本田さん
京都市内やったら通えるやん!と思って応募しました。雪の降った日、自転車に乗って面接に行ったのを覚えています。そのとき、森口さんに「最近、新しくアトリエを借りることになったんです」と話すと、「じゃあ、そこで一緒に何かしましょう」と言ってくれたんです。

そこから、求人に応募した本田さんが商品のコラボレーターになるという展開に。最初のコラボレーションは、アトリエウーに所属する松本龍(まつもと・りゅう)さんの刺繍作品を、暮らしランプが素材として提供し、POP.POP.POPがプロダクトに落とし込むという形でスタートしました。
本田さん
アトリエウーに見学に行ったとき、「これで何か作ってほしい」と龍さんの刺繍を見せてもらいました。見た瞬間、「すごい!」とびっくりしましたね。糸を重ねていく独特の色彩が魅力的で、「これをプロダクトにしたい!」と興奮しました。

暮らしランプの理事であり、アトリエウーの施設長も務める佃知沙(つくだ・ちさ)さんは、松本さんの作品について、こう話します。
佃さん
龍さんは、制作が好きなのか、作業していると落ち着くのか、わからないんですけど、ずっと刺繍をしていたんです。作品はたくさん溜まっていて、すごくかわいいので、何かの形で商品にしたいなとは思っていました。でも私たち素人では、どうしていいのかわからなくて。POP.POP.POPさんがTシャツやカバンなど素敵なプロダクトにしてくれて、うれしかったですね。

こうして始まった、両者のコラボレーション。2024年6月からは、現在のように週2回、アトリエウーのメンバーがヒルネスタジオを訪れて、POP.POP.POPの2人と一緒に制作を行うスタイルに。日々、多くの作品やプロダクトが生み出されています。
協働から広がる、社会との接点
アトリエウーのサービス管理責任者であり、利用者さんたちと共にヒルネスタジオを訪れている吉田志野美(よしだ・しのみ)さんは、暮らしランプとPOP.POP.POPの協働についてどのように感じているのでしょうか。

吉田さん
アトリエウーではこれまでも、創作活動や園芸療法活動、コーヒーの販売などを通して、地域や社会とのつながりを育んできました。POP.POP.POPさんとの協働によって、さまざまなプロダクトが生まれ、展示や出店もより広がりが生まれていると感じます。
例えば、2025年9月6日~27日には、東京都墨田区の「gallery TOWED(ギャラリー トウド)で、京都出身の画家・はまぐちさくらこさんと、POP.POP.POP、アトリエウーによる共同展を開催。初日から2日間は、同じ墨田区にある喫茶店「HOLLYday(ホリデイ)」でのポップアップショップも同時に行いました。

2025年10月21日~11月5日には、京都市役所の近くにある「D_MALL京都店」での展示販売会も開催。昨年も同時期に行われ、京都三大祭の一つである「時代祭」の時期と重なることもあって、海外の人たちも多く訪れたそうです。
ちなみに、今年の「D_MALL京都店」での展示販売会のタイトルは「ばんさん会」。ここにもPOP.POP.POPらしい遊び心が光ります。
本田さん
今年は、アトリエウーのメンバーの伴(ばん)さんをフィーチャーしているんですよ。だから「ばんさん会」(笑)。伴さんの作品は、めちゃくちゃ面白いんです。初めて見たとき、ほんまに仰天してしまって。この面白さをみんなに知ってもらいたくて、伴さんを主人公にした展示をしようと思いました。

本田さん
まずは伴さんに会いに行って、「伴さんの絵を洋服にするから、この布に好きなものを描いて」とお願いしました。そしたら、すごく集中して仕上げてくれましたね。
佃さん
伴さんは、アトリエウーの立ち上げの頃からのメンバーなんです。作風はずっと変わっていなくて、かわいいし面白いんですけど、どう生かしたらいいのか、私たちには長年わからなくて。POP.POP.POPさんが発掘してプロダクトにしてくださって、本当にうれしいです。伴さんは、普段はマイペースで活動していますが、今回は「洋服になる」という明確なイメージがあったからか、とても集中して描き続けていましたね。
伴さんは、東京での展示もご家族と一緒に見に来てくれたのだとか。「作品がプロダクトになったり、実際に売れたりすることは、利用者さんたちの喜びやモチベーションにつながっているはず」と佃さんは話します。
佃さん
伴さん一人ではなく、POP.POP.POPさんと出会ったからこそ、これまでにない作品やプロダクトが生まれている。やっぱり「誰とやるか」がすごく大切だなと感じています。

新たな拠点を、ものづくりと発信の場に
協働だからこそできることを積み重ねてきた暮らしランプとPOP.POP.POP。2025年11月1日には、生活介護事業所「ヒルネスタジオ90%」を新たに開設しました。
佃さん
これまではヒルネスタジオで週2回、創作活動を行っていましたが、この場所は条件面が合わず事業所登録ができなかったので、週5日しっかりと活動していくために、新たな場所を探していたんです。今回、POP.POP.POPさんが物件を見つけてくれて、事業所開設が実現しました。
本田さん
生活介護事業所には色々な設置基準があり、条件を満たす物件を探すのが本当に難しくて。京都三条会商店街の近くで、いい場所がやっと見つかりました。新しい事業所も、利用者さんたちとの過ごし方は基本的にヒルネスタジオと一緒。協働をコンセプトに、ここでしかできない一点もののプロダクトを一緒につくっていきたいと思っています。

取材時は、開設に向けた内装工事などの真っ最中。壁のクロスを剥がしてペンキを塗る作業は、これから自分たちで行う予定だと聞いて、「準備で特に大変なことは?」と尋ねると、POP.POP.POPの2人は「大変というより、楽しみのほうが大きいです」とにっこり笑います。
本田さん
ヒルネスタジオ90%に通ってくれる人たちだけでなく、暮らしランプの各施設のメンバーからも、面白い作品をどんどんピックアップして、プロダクトにして、その場で販売もしていきたいですね。どんどん外に発信できる場にしたいです。
小枝さん
「こんなプロダクトをつくりたい」「こういう場所にしたい」と、あまりかっちり決めずに、そのときに出てきたものを否定せず、流れに乗っかっていきたいですね。みんなと一緒に面白いものを作っていけたらなと思っています。

小枝さんの言葉に大きく頷きながら、吉田さんも言葉を継ぎます。
吉田さん
「つくっていく」より、自然に「できていく」というイメージ。ものや場ができていく過程も含め、みんなで楽しめたらいいかなと思います。ヒルネスタジオ90%も商店街の近くにあり、地域の人たちとも交流しやすいので、自然に挨拶をし合ったり、集まったりできる場になっていくといいですね。
わかり合い、認め合える関係性
共に事業所を開設し、協働をさらに次のステップへと進めている暮らしランプとPOP.POP.POP。お互いの存在をどう捉えているのか、改めて伺ってみました。
本田さん
長年、福祉の仕事をしてきて、この業界は保守的だな、話がなかなか通じないな、と感じる場面もたくさんあったんです。だから、暮らしランプの皆さんに出会って、「これがいい」「これが面白い」という感覚を共有してわかり合えることが、ほんまに幸せやなと思っています。
小枝さん
私たちが自由な発想でつくったものを認めてもらえて、ありがたいですね。すごく良い出会いだったなと思います。暮らしランプの皆さんとの交流を通して、私たちのものづくりの幅もより広がったと感じています。

暮らしランプの2人も、POP.POP.POPのものづくりに共感していると話します。
佃さん
大前提として、私たちはPOP.POP.POPさんがつくるものが好きなんです。お2人のものづくりを信頼しているから、安心してお任せできる。暮らしランプだけではできなかったことが実現できているので、POP.POP.POPさんがいてくれて良かったなといつも思っています。
吉田さん
POP.POP.POPさんと私たちが同じ方向を向いているなと感じられるし、私自身も本当に楽しくご一緒させてもらっています。利用者さんの作品を自然な形で生かしながら、素敵なプロダクトにしてくださるので、その過程を利用者さんと一緒に見たり、売れるところに立ち会ったりできるのもうれしいですね。

ヒルネスタジオでは、アトリエウーのメンバーがイラストを描いたTシャツを、インクを乾かすために窓辺に干していると、たまたま通りがかったフランスのアーティストが「これを売ってほしい」と言ってその場で購入してくれたことがあったそうです。
「今描いたものが、すぐ売れるんや!とびっくりした。あれは良かったなぁ」と本田さん。吉田さんも「すごく驚いたけどうれしかったですね。そんな瞬間をこれからもみんなで一緒に経験できたらいいですね」と微笑みます。

楽しみながら、協働の輪をさらに大きく
両者の協働は、これからどんな形で広がっていくのでしょうか。今後について尋ねると、POP.POP.POPの2人は「色々と画策中です」と目を輝かせます。
本田さん
パタンナーやデザイナー、漫画家など、周りの作り手の人たちに声を掛けていて。外部の作家さんを巻き込んで、もっととんがった面白いものをつくっていきたいと思っているんです。ヒルネスタジオ90%が、面白い人が集まる場になっていくといいですね。
小枝さん
作家さんたちも、みんな興味津々で。「自分も関わりたい」「何かできることがあれば声を掛けてほしい」と言ってくれているので、すごく楽しみですね。
直近では12月に、就労継続支援B型事業所「こきゅう+」に併設するカフェ「NAKANOTEICOFFEE天王山」で、シンガー・ソングライターの寺尾紗穂さんのライブを開催予定。同店のエプロンのデザインも、知人のデザイナーに依頼してリニューアルしようと計画中です。さらに、リソグラフ印刷によるZINE制作など、新たな分野へのチャレンジも考えているそうです。

POP.POP.POPの2人が話す計画の数々を、にこにこと楽しそうに聞いていた吉田さんと佃さんも、今後についてこのように話してくれました。
吉田さん
協働を通してどんどん広がりが生まれているので、今後も楽しみですね。利用者さんとPOP.POP.POPさんが「やってみたい」と思う活動を形にできるように、アトリエウーとしても法人全体としても、しっかりとサポートしていきたいです。
佃さん
暮らしランプとしては、みんなが安心して楽しく過ごせる場所を、これからも変わらず提供していけたらと思います。拠点が増えると、それぞれの場所での活動になってしまいがちですが、POP.POP.POPさんが部署の壁を超えて、活動や発信をしてくださっているので、そうやって自然に混ざり合いながら、利用者さんも職員も一緒に楽しんでいけるといいですね。

今回の取材を通じて、暮らしランプが持つ余白やオープンな姿勢が、社会との関わりしろを広げていることが改めて伝わってきました。そして、暮らしランプとPOP.POP.POPがお互いを信頼し、尊重し合っているからこそ、いい協働が実現しているのだと感じました。ヒルネスタジオ90%という新たな場から、どんな未来が生み出されていくのか、楽しみでなりません。




執筆:藤原 朋
撮影:小黒 恵太朗
編集:北川 由依



