2024.02.14

自慢の京会席でお客様に“真心”を伝える。日本一を目指して躍進する老舗旅館の料理人。

ご当地の食材や食文化に触れられる宿の食事は、旅先での大きな楽しみの一つ。そこが世界的な和食文化の聖地・京都の老舗旅館なら、期待せずにはいられませんよね。

京都市の中心部に位置する「綿善旅館(わたぜんりょかん)」は、熟練の料理人が丹精込めて作る会席料理で、訪れる人々の期待に応え続けている老舗旅館です。春は筍、夏は鱧など、四季折々の旬の食材がもつ味わいに季節の風情を重ねた、繊細優美な品々を提供しています。大手旅行予約サイトでの評価も高く、食事を目当てに訪れるリピート客も少なくありません。

そんな綿善旅館の味を守り、また一段と磨きをかけていくために、長いスパンで活躍してくれる調理スタッフを、経験者・未経験者を問わず、新たに募集することになりました。

前回の募集時と同様に、旅館の顔であるおかみさんと募集職種の綿メン(綿善メンバー)からお話を伺い、綿善旅館の料理人として働く意義を探っていきます。

泊まりたい、働きたい、理想の旅館を目指して

“京都のへそ”と呼ばれる市内中心部に構える綿善旅館は、地上4階建ての館内に24の客室と大浴場、大広間などを擁する旅館です。以前は立地の良さとキャパシティを活かし、団体客を積極的に受け入れていましたが、客足が途絶えたコロナ禍を機にその方針を転換。現在は、修学旅行などの教育旅行を継続的に受け入れつつ、ファミリーや三世代旅行などの利用に力を入れています。

「単純に利益だけを求めるなら、団体のお客様に注力すべきなのはわかっているんです。でも、そこに戻りたくはないですね。お客様と満足にお話もできないぐらい慌ただしくて、綿メンのみんなが疲弊するだけの毎日でしたから……」

そう振り返るのは、今年でおかみ就任3年目を迎える小野雅世(おの・まさよ)さん。綿メンこと綿善メンバーからは、おかみさんではなく「雅世さん」と呼ばれています。

前回、2022年の初めにお会いした時は、先述の方針転換にともなう綿メンの教育や働きやすい環境づくり、地域と連携したイベントづくりなどに奔走中だった雅世さんに「その後」をたずねました。

小野さん

この2年余り、お客様の数をできる限り抑えて、おもてなしの質の向上に取り組んできました。付加価値を高めて、それを価格にどう反映させるかを模索し、結果的に顧客単価のアップにつながっています。
原価高騰もあるとはいえ、中身のない値上げだったらお客様にそっぽを向かれてしまいます。ですから、例えばお茶菓子のクオリティを上げるなど、目に見えるもので表すだけでなく、スタッフ一人一人がゆっくりと目の前のお客様と向き合うという、宿の本質的な価値を高める努力をしました。お陰様で新規のお客様も、お得意様もも来てくださって、本当にありがたい限りです。

雅世さんが笑顔を見せる理由はもう一つ、「綿メンの成長」です。一昨年、アフターコロナを見据えて増員した外国人の客室係が一通りの仕事をマスターし、最近では得意の英語を生かして京都の文化や会席料理の説明ができるほどになっているそう。雅世さんは「適材適所の人材が育ってきて、私たちが目標とする旅館に少しずつ近づいている気がします」とうれしそうに話してくれました。

雅世さんたちが目標とする旅館とは、「お客様が幸せになれる日本一の旅館」。すなわち、室礼、雰囲気、接客、料理など、触れるものすべてに真心が行き届いた、大切な人と訪れたくなる旅館です。

小野さん

私はいわば旗振り役で、実際に動いているのは綿メンのみんな。それぞれの持ち場で、どうすれば実現できる?こうすればいいんじゃない?と自発的に考える人が増えてきた中で、スタッフがやりがいを持って働き続けられる環境を作ることが私の務めだとも思っています。

お給料が上がった、有給が取りやすくなった、子育て中も安心して働けるーー。そんな実感がもてるように、業務上の細かな無駄をなくしたり、人員配置を工夫したりと、あの手この手で改革を行なってきました。

ロビーにあるアメニティバイキング

一方で、雅世さんは学生や企業向けの講演活動を精力的に行なっています。その数、年間約20本。「観光、文化、キャリア形成など、自分が話せそうなテーマだったら“できます”ってつい言っちゃうんです(笑)」。講演会を聞いた学生が綿善旅館に興味をもち、インターンシップで働きに来るなどの「広報効果」もあるそうです。

大きな目標に向かって持続可能な経営に取り組み、その経験やノウハウを惜しみなく発信する姿勢は、地元でも高く評価されています。これまでに「京都らしい宿泊施設表彰」を複数回、つい最近も「京都市輝く地域企業表彰」を受けており、今や“地域企業のお手本”と呼べる存在です。

小野さん

賞をいただけて、私自身すごく励みになりますし、綿メンたちも仕事に誇りをもてるといいなと思うんですよね。ここで働いているんだよって胸を張って言える場所になってきたのかなと感じています。

写真提供:綿善旅館

勤続40年の大ベテランが紡ぎ出す綿善の味

綿善旅館が最も大切にしている“真心”を伝える方法の一つが、和食一筋の料理人が手がける料理です。中でも、旬の魚介と鮮度のよい地物食材をふんだんに取り入れ、見た目にも美しく盛られた京会席は、日本人はもちろん、外国人の心をもつかんでいます。

写真提供:綿善旅館

小野さん

京会席を提供するところはごまんとありますし、私もあちこちで食べてきましたが、結局いつも、うちのほうが好きやなぁと思ってしまうんですよね。贔屓目なのかなぁ(笑)。

雅世さんいわく、綿善の京会席は「とにかくコストパフォーマンスが高い」のだとか。他館の京会席がおおむね1万円〜であるのに対し、綿善は8,000円〜と2割ほど安いにもかかわらず、他館に引けを取らないほど豪勢かつおいしいのが自慢なのだそうです。

楽天トラベルの予約サイトでも綿善の料理に対する評価は高く、「品数豊富で大満足」「ぜひまた食べに行きたい」といった感想を添えて、満点の5つ星をつける人が後を絶ちません。

そんな綿善旅館の料理をつくり出しているのが、約40年間、綿善の調理場に立ち続けている料理長の寺井春彦(てらい・はるひこ)さん。おかみさんにとっては物心ついた頃からいつもやさしく接してくれた親戚のおじさんのような存在で、その温かな人柄と料理の味に癒されてきました。

寺井さんは料理の腕前もさることながら、旬の食材の目利きにも長けていると評判。下積み時代に活魚料理店で働いた経験や長年培った人脈を活かし、鮮度のよい旬のものを取り入れるのがお得意です。

寺井さん

仕入れは錦市場や中央卸売市場のなじみの店との信頼関係があってこそです。事細かく言わなくても、僕が納得のいく食材をちゃんと用意してくれるので、安心して料理に打ち込むことができます。

料理に対するこだわりを聞くと、「召し上がるお客様のことを思って作ることです」と寺井さん。例えば、高齢の方が食べやすいように具材を細かく刻んで出したり、試合を控えたアスリート向けに揚げ物の量を控えるなど、お客様に合わせて献立にアレンジを加えているそうです。

そうしたお客様の情報は、フロントまたは客室係から寺井さんの元に届けられ、食事を出す際には寺井さんが客室係に料理の説明をするのが毎日のルーティン。料理をつくる人、届ける人がひとつになって、綿善旅館の料理は完成しているのです。

経験を問わず、実践の機会を提供

品数豊富で彩り豊かな綿善旅館の会席料理。調理場で何人もの料理人が手分けをして作っているイメージが浮かんでくるかもしれませんが、実際は寺井さんを含めわずか2名の少数精鋭部隊。職人仕事は段取り八分といわれるように、事前の準備・段取りをきちんとすることで現場はスムーズに動いています。

とはいえ、何らか理由で一人でも欠ければ混乱は避けられません。人的なバックアップ体制を強化するとともに、綿善で培われた食の伝統を次世代へつなぐため、今回の調理スタッフの募集に至りました。

「調理経験は不問」とのことで、経験度に応じて仕事を割り振っていく予定。では、調理場ではどのような仕事が待ち受けているのでしょうか。寺井さんに聞きました。

寺井さん

私が担当している仕入れや献立づくりのほかに、仕込み、調理、盛り付け、在庫の確認、道具の手入れなどたくさんあります。ご覧のとおり、うちは限られた人数でやっているので、全部が自分の仕事みたいなもの。新人だからといって掃除や皮剥きばかりってことはなくて、早いうちから調理に携わってもらいます。

そんな寺井さんの言葉に深くうなずいていたのが、もう1人の料理人・中村健児(なかむら・けんじ)さん。大阪の調理師専門学校を卒業後、和食店を経て2015年に入社。現在、調理ではおもに切り付け、盛り付け、揚げ物などを担当し、そのほかの仕事も幅広くこなしています。

料理人を目指した理由は、「両親が共働きで、小学生の頃から自分でお昼ご飯を作ったりしていたので自然と……」。数あるジャンルの中から「日本人なのだからやっぱり和食だろう」と進路を選択した時から、京都で働こうと心に決めていたそうです。

中村さん

和食をやる以上は、本場の京都で腕を磨きたいなと思って。それから実を言うと、昔から新選組が大好きで、ゆかりの地がたくさんある京都は憧れの場所でもありました。

少しはにかみながら入社までの歩みを教えてくれた中村さんは、今や寺井さんの右腕としてなくてはならない存在。おかみさんも「健ちゃんは本当にまじめ。寺井さんがお休みの日も安心して調理場を任せられます」と、その仕事ぶりを高く評価しています。

そんな中村さんの1日のスケジュールは次のとおりです。

5:30始業
朝食の調理・仕上げ、夕食の準備、翌日以降の仕込み
(昼の予約がある場合は昼食の調理・仕上げ)
11:00 – 15:00食事、休憩
15:00 – 18:00夕食の調理・仕上げ、食事出し
19:00後片付け、翌朝の準備
20:00終業

その日の予約状況などによって始業・終業時間は前後することも。中村さんの場合、1日のサイクルが前職と違っていたため、入社当初は長めの休憩時間の過ごし方に戸惑ったそうです。「変に動き回ると夕方以降のピーク時に疲れが出てしまうので、今はしっかり体を休めるようにしています」と、多忙な1日を乗り切るコツを伝授してくれました。

いざ料理と向き合う時は、「気持ちを込めて、細部まで丁寧に」を心がけている中村さん。「速さももちろん大事ですが、会席料理はやはり美しくなければ」と、薬味のネギの刻み方ひとつにも手を抜かず、真剣に取り組んでいます。

そんな中でやりがいを感じる瞬間は、「仲居さんなどを通じてお客様からお褒めの言葉をいただいた時」。特に印象深い出来事として”抹茶テリーヌ”のエピソードを明かしてくれました。

中村さん

自身が考案した新作の抹茶テリーヌをお食事でお出ししたところ、召し上がったお客様から、『おいしかったからお土産に買って帰りたい、どこで買えますか』とたずねられまして。うちで作っているので、お持ち帰り用のご用意はないんですとお断りするかたちになってしまったんですけど、そこまで気に入ってもらえたことが素直にうれしかったですね。

寺井さんも言っていました。「おいしいのひと言が何よりの褒め言葉です」と。その声を調理場まで届けてくれる仲間がいることも、彼らのモチベーションにつながっています。

調理場の新メンバーに先輩たちが期待すること

新メンバーへの指導方法については「優しく丁寧に」を寺井さんと共有。「上から指図するのではなく、順序立ててわかりやすく伝えていこうと思っています」と、サポートを惜しまない考えです。

料理人の育成といえば、「背中を見て覚えろ」といった厳しいものが連想されますが、少なくとも綿善旅館では令和式にアップデートされています。そもそも寺井さんと中村さんは、綿メンの中で一二を争うくらいまじめで温厚なお人柄。頭ごなしに叱ったりせず、宣言どおり、優しく丁寧に指導してくれるはずです。

そのうえで、どんな人がこの仕事に向いているか、理想とする人物像をお二人にたずねたところ、「言われたことをきちんとできるまじめな人」「タバコを吸わない人」「数字が極端に苦手でない人」という納得の答え。

加えて、「仕事中に無駄なおしゃべりをしない人、黙々と働くのが苦でない人がいいかもしれませんね」と、物静かなお二人ならではの意見もありました。

寺井さん

僕ら二人は何の違和感もないんですけど、客室係など会話する機会が多い人からすると調理場は静か過ぎるみたいなので、おしゃべり好きの人は耐えられないんじゃないかと(笑)。静かなほうが集中できるタイプの人に向いているのではないかなと思います。

お二人が仕事に集中していると、困った時に質問しづらいのではないか?職場に溶け込むまでに時間がかかるのではないか?という不安を抱く人もいることでしょう。その点について中村さんに聞きました。

中村さん

仕事に関することは何でも遠慮なく聞いてください。話しかけられたからといって、僕も寺井さんも怒ったりしませんから(笑)。職場に溶け込めるかどうかは、僕も最初不安だったんですけど、おかみさんはじめ、皆さんがフレンドリーに接してくれたおかげで、気がついたら溶け込んでいました。口下手な僕でさえ溶け込めたのできっと大丈夫ですよ。

仕事に集中して取り組める環境と、誰でも溶け込みやすい雰囲気を兼ね備えた綿善旅館は、料理人として成長を目指す人が安心して働ける職場と言えるのではないでしょうか。

特技を活かした新たな挑戦を後押し

料理好きの人なら得意料理の一つや二つあるものですが、プロの料理人にももちろん得意料理があります。寺井さんは鮮魚、中村さんはデザートと、それぞれの得意分野でスペシャルなメニューを開発。知る人ぞ知る綿善旅館の名物となっています。

寺井さんが「コロナ禍中に何か自分にできることはないかと思って」作り始めた節分の恵方巻きは、海鮮たっぷり、はち切れんばかりのボリューム感に圧倒されるプレミアムな逸品。大々的な告知はしていないものの、口コミで人気が高まり、毎年完売が続いているそうです。

写真提供:綿善旅館

一方、中村さんが手がけるのは、超絶技巧が光るスペシャルメニュー、その名も「健ちゃんのフルーツ盛り」。ナイフ1本で果物に繊細な彫刻を施すフルーツカービングの技を駆使したオーダーメイドの一皿で、お客様の前に出すと必ず「わぁ!きゃー!」といった歓声が上がるというのも納得の出来栄えです。

写真提供:綿善旅館

きっかけはおよそ6年前、雅世さんの「何か習い事してみたら?」という言葉に背中を押され、フルーツカービングの教室に通い始めたこと。板前さんだけあってみるみるうちに上達し、2020年にはメニュー化が実現しました。

中村さん

興味本位で始めたものが、まさかメニューになるとは思いませんでした。お客様に喜んでもらえるように、これからも練習を重ねてレベルアップしていきたいですね。

大ベテランであろうと、若手であろうと、その気があれば新しいことに挑戦できるのが綿善旅館という会社。努力が実を結んだ時には、「よかったね」「すごいね」とたたえ合う温かな関係性が根づいています。

和食の真髄を伝える京都で料理の腕を磨きたい、真心のこもった料理で旅する人に幸せを届けたいーー。そんな”これから”を実現するために、綿善旅館で新たな一歩を踏み出してみませんか。

編集:北川 由依
執筆:岡田 香絵
撮影:中田 絢子

求人募集要項

企業名・団体名株式会社綿善
募集職種板前、和食料理人
雇用形態正社員
仕事内容■板前、調理スタッフ(正社員)
・朝食・昼食・夕食の調理を行っていただきます
・京会席、お鍋料理、修学旅行向け料理など多岐にわたります
・食材の持ち味や料理の技法を学び、京料理を身に付けていきたい方に最適の環境です
※経験が浅い方には、盛付けや、切り出しなど、基本からしっかりとお教えします。
・入社してすぐにお任せしたい仕事:調理基礎、京料理仕込み、盛付等(入社時のスキルによる)
・将来的にお任せしていきたい仕事:会席料理、新メニュー開発、京料理による地域活性プロジェクト等
給与・月給 基本給150,000円 ~ 250,000円
試用期間3ヶ月(前後で勤務条件変更はなし)
・残業代:残業時間に応じて支給
・交通費支給(2万円上限)
・社会保険各種加入
福利厚生・調理師免許取得補助
・外部研修補助
・社会保険各種加入
・寮あり(2025年3月までの最長1年間)
寮費:3万円 給料より天引き
・家賃補助(2年目:1万円、4年目以降2.5万)
勤務地〒604-8113 京都市中京区柳馬場通六角下ル井筒屋町413
勤務時間・休憩時間勤務例
お客様のご予約状況によりシフト制
①5:30~20:00(内休憩5時間前後)
②9:00~18:00(内休憩1時間)
③9:00~19:00(内休憩2時間)
休日・休暇年間休日105日(年間変形労働時間制)
有給休暇、慶弔休暇、産前・産後休暇など。
産育休:2022年女性1名、男性1名/2023年女性2名、男性1名
連続休暇取得例:7連休×2/年
応募資格料理や人に対して真面目に向き合うことが出来る方。
選考プロセス京都移住計画の応募フォームより応募

(ご希望の方は会社見学、仕事体験)
↓   
書類選考(履歴書・職務経歴書)

面接・筆記試験(5分程度の簡単な算数のテストを行います)

採用
面談場所綿善旅館
参考リンクhttps://www.watazen.com/
https://dentou-chousen.jp/interview/株式会社綿善/

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