木造建築と聞いて、どんな建物を思い浮かべるでしょうか。京都では、神社仏閣や町家をまずイメージする人が多いかもしれません。あるいは、木造といえば住宅など低層階の建物で、高層ビルは鉄筋やコンクリートで造られると思っている人がほとんどではないでしょうか。
しかし近年は欧米を中心に、木造の高層ビルが次々と建てられています。新しい木造建築材「CLT(Cross Laminated Timber)」の普及によって、高層化が可能になっているのです。
京都市南区にある株式会社日本サルベージサービスは、2020年からCLT建築の施工に取り組んでいます。CLTとはどんな素材なのか、CLT建築に携わる仕事にはどのようなやりがいや喜びがあるのか、詳しくお話を伺いました。
偶然の出会いから始まった新規事業
日本サルベージサービスの創業は1958(昭和33)年。進駐軍の施設で働いていた創業者の大﨑鉃平(おおさき・てつへい)さんが、施設の閉鎖に伴い、仕事を失った人たちと共に事業を立ち上げたのが始まりでした。父の跡を継ぎ、二代目として代表取締役を務める大﨑康弘(おおさき・やすひろ)さんは、社名の由来についてこう話します。

大﨑さん
クレーン車やトレーラーを使って働いていた人たちを雇用するためにできたのがこの会社。事故車両の救援作業から仕事が始まったので、「救助する」という意味を持つ「サルベージ」が社名になったようです。昭和30~40年代は、道路や建物が次々とつくられていった時代。やがて建築や土木工事の現場にも携わるようになり、仕事の領域が広がっていきました。
現在はクレーン事業、通関事業、輸送事業を中心に展開している日本サルベージサービス。台湾のビール「バックスキン」の販売代理店業も行うなど、大﨑さんの幅広いネットワークを生かして手がける事業は実に多岐にわたります。
CLT事業を立ち上げた経緯について尋ねると、大﨑さんは「CLTを製造するメーカーの社長とたまたま知り合ったから」と笑います。
大﨑さん
岡山県真庭市にある銘建工業の中島社長と出会って、CLTという素材を知りました。面白そうだなと思って、後日には社員を連れて工場見学にも行かせてもらって。でも、どうやってCLTに関わればいいのかなと思っていたら、ある日、お付き合いのある設計事務所の社長が、うちの社内にあったCLTの材料を見て「ぜひ使ってみたい」と興味を持たれたんです。
偶然の連鎖から、その設計事務所が設計を、日本サルベージサービスが施工を担当して、メーカーである銘建工業と共に、三社でCLT建築に取り組む体制ができあがりました。
木造建築が変わる「節目の時代」に立ち会う喜び
CLTとは、ひき板を並べて繊維が直交するように積層接着した木質系材料。大きいものでは、幅3m×長さ12m×厚さ30cmほどのサイズになるそうです。「バス1台分くらいの大きさ」と聞くと、取り扱いが難しそうに思えますが、「僕たちは鉄やコンクリートで大きいものを扱うことに慣れていましたから」とさらりと話す大﨑さん。長年にわたってクレーンを扱ってきた日本サルベージサービスの強みがCLT事業でも生かされていることがよくわかります。

CLTには「工期が短い」「軽い」「環境負荷が少ない」といった特徴があり、耐震・防火・耐久性にも優れています。日本では、2016年4月にCLT関連の建築基準法告示が公布・施行され、一般利用がスタート。日本サルベージサービスは、2020年からCLT建築に取り組みはじめ、福祉施設などを中心に施工実績を積み重ねてきました。そして2024年には、大阪・関西万博のパビリオン「日本館」の施工も手がけました。

大﨑さん
CLTは炭素貯蔵効果やサステナビリティに優れた素材として、大阪・関西万博でも注目されています。1900年のパリ万博で鉄骨とガラスを使ったパビリオンが作られ、そこから鉄骨建築の技術が発展していったように、木が素材として見直され、使い方が変わっていく「節目の時代」に立ち会っているのかなと感じますね。木でビルを建てることが、いつか当たり前になるかもしれません。
京都の会社がこれからの木造建築に携わっていくことにも、大きな意味を感じていると大﨑さんはつづけます。
大﨑さん
CLTはオーストリアを中心に発展し、ヨーロッパ諸国に広がってきました。日本には昔から、木と紙の文化があります。特に京都には、伝統的な文化を紡いできた歴史があるわけですから、CLTという新しい木造建築に携わることで、僕たちもその歴史の延長線上にいられたらと思うんです。

木造建築が変わっていく、節目の時代に立ち会うこと。これからの木造建築を、京都の地で担っていくこと。その面白さを共有できる人たちと一緒に仕事をしたいと、大﨑さんは目を輝かせます。
大﨑さん
何でもできあがる過程が一番面白い。試行錯誤がいっぱいありますから。物事が成長する段階って、自分も一緒に成長できるんですよ。
木ならではの魅力と機能性を兼ね備えるCLT
ここからは、CLT建築の現場を担っている人たちにもお話を伺います。1人目は、建設事業部長を務める取締役の合原勝(あいはら・まさる)さん。滋賀支店長も兼任し、京都と滋賀を行き来しながら、CLT建築のプロジェクトに関わっています。
クレーンのオペレーターを経て、営業を長年担当していた合原さんがCLTに携わることになったのは、日本サルベージサービスがCLT事業を立ち上げた時期。この新規事業について、最初はどのような印象を持ったのでしょうか。

合原さん
もともと木造が好きだったし、数年前から建築の勉強もしていたので、自分の興味につなげられる仕事だなと思いました。実は大﨑社長に勧められて、40歳から大学に通って建築を学んだんです。通信制とはいえ月に数回のスクーリングもあって、働きながら通うのは大変でしたが、5年かけて無事卒業できました。建築士の資格取得を目指して、今も引き続き勉強中です。
合原さんは、日本サルベージサービスが初めてCLT建築を手がけた福祉施設の現場を担当。当時感じたことをこう振り返ります。
合原さん
柱や梁を用いる在来工法と違って、厚みのある大きな板のパネルを使って建てていくので、現場に入って見たときに、まず重厚さや堅牢さを感じました。現場には木の良い香りが漂っていて、耐震・防火といった機能性はありながらも、木の魅力もしっかりと感じられる素材だなと思いましたね。

合原さんは現在、メーカーと設計事務所の間でさまざまな調整を行いながら、施工計画書や見積書の作成などを担当しています。設計事務所が作成する「意匠図」とメーカーが作成する「構造図」のすり合わせにはいつも苦労するそうですが、これから入社して施工管理を担当する人には「最初からそこまでは求めない」と笑います。
合原さん
まずは現場の管理ができるようになってから、次のステップとして今の私が担当しているような業務も覚えていってもらえたらと考えています。4年前、この会社がCLT事業を始めたときは、私も含め全員が素人。でも試行錯誤しながら何とかやってこられたので、技術や技能を持っていない若い人でも挑戦しやすい仕事ではないかと思います。建築の知識がある人に来てもらえたらもちろん助かりますが、そうでなくても前向きに楽しんで取り組んでくれる人と一緒に働けたらうれしいですね。
責任が大きいからこそ、達成感もひとしお
つづいて、CLT建築の施工管理を担当している建設事業部係長の西村拓也(にしむら・たくや)さんにもお話を伺います。大学卒業後、建築の専門学校で2年間学び、「地元である京都に貢献したい」と2018年に日本サルベージサービスに入社した西村さん。業務部や物流事業部を経て、2023年から建設事業部に所属し、CLT建築に携わっています。

西村さん
今の部署に来るまではずっと事務仕事をしていて、現場を全く知らなかったので、まずは奈良県の福祉施設を建てる現場を1ヶ月ほど見学させてもらいました。その後、銘建工業に出向し、大阪事務所のスタッフの一員として仕事をしながらCLTについて学んでいます。
CLTの製造を手がけるメーカーとして業界を牽引する銘建工業で働くことで、得られる学びは大きいと西村さんは言います。
西村さん
銘建工業は業界の第一人者なので、事務所で飛び交っている会話を聞くだけでも「こういう工法もあるのか」「こんな建物を建てるプロジェクトがあるんだな」とすごく勉強になります。CLTはまだまだ発展していくだろうなと感じますね。

施工管理の仕事には、工程管理・原価管理・品質管理・安全管理があります。日本サルベージサービスが現場で主に担うのは、材料の搬入や職人の手配などの調整を行う工程管理と、図面と現場のすり合わせやチェックを行う品質管理。これまでにいくつかの現場で工程管理や品質管理を行ってきた西村さんですが、特に印象に残っているのは初めて担当した兵庫県宝塚市の現場だそうです。
西村さん
現場で一番年下だけど、何かあったら自分が判断して解決しないといけないんですよ。「どうします?」って聞かれたら「こうしてください」と答えられないといけないので、毎日プレッシャーを感じてしんどかったですね。
少しでも貫禄が出ればと「この部署に来てからヒゲを伸ばしました」と笑う西村さん。プレッシャーのある仕事だからこそ、やりがいも大きいとつづけます。
西村さん
現場では1日経つだけでも光景が一気に変わるので、それが気持ちよくて。終わったときには、バラバラだったパズルができあがったような達成感がありますし、頑張って良かったなと思います。

西村さんは今も銘建工業への出向期間中ですが、大阪・関西万博「日本館」の施工の時期には、いったん日本サルベージサービスに戻り、現場の施工管理を担当したそうです。
西村さん
万博は、これまで担当してきた物件の4~5倍の規模。円形の建物を3分割して、3つの現場が同時進行で動いていました。毎日、数百人の人たちが作業しているので、調整ごとが多くて本当に大変でしたね。
大規模な現場を経験し、また一つ成長した西村さん。合原さんが話していた「現場の管理の次のステップ」である、メーカーと設計者の間で調整を行う仕事にも携わりつつあるそうです。「合原が思い描く次のステップに、近いところにいるのが僕なのかなと思うので、先頭に立って走れたら」と力強く話してくれました。これから入社して施工管理を担当する人にとっては、先輩として一歩前を走っている西村さんが心強い存在になることでしょう。
働きやすい環境だから、安心してチャレンジできる
最後に、総務部長の松本和已恵(まつもと・わきえ)さんに、社内の研修やサポート体制について伺います。これから入社する人は、どのようなステップでキャリアを積んでいくのでしょうか。
松本さん
まず初めに新入社員導入教育があり、各部署に配属されてからは基本的にOJTになります。今回募集する施工管理の仕事の場合は「建築施工管理技士」の資格が必要ですので、入社される方が資格をお持ちでなければ、会社が授業料や試験料を補助して、資格を取っていただきます。どの部署でも、仕事内容に応じて資格取得のためのサポートをしていますので、経験のない若い方でもチャレンジしやすい環境ではないかと思いますね。

松本さんは勤続20年以上、合原さんは30年以上。他にも長年勤めている人が多いそうですが、仕事を長く続けられる理由はどこにあるのでしょうか。
松本さん
私は以前、体調を崩してしまったことがあるのですが、大﨑社長が「しっかり治療して戻って来てください」と後押ししてくださったおかげで復職することができました。産休を取ったのも私が第一号でしたね。一人ひとりの事情を汲みとって、その人に合った働き方を支援してくれる会社だからこそ、長く働いている人が多いのかなと感じます。
ちなみに、取材に訪れたのは11月下旬。社内の壁には、クリスマスケーキの予約表が貼られていました。小学生以下の子どもがいる社員には、会社からケーキをプレゼントしているそうです。これは先代の頃から続く習慣で、「仕事帰りにケーキを買おうとして、慌てて作業するようなことがないように」との計らいだとか。さりげなく貼られた予約表から、社員を思いやる先代とその思いを受け継ぐ大﨑社長の気持ちが社内のアットホームな雰囲気へと繋がっているように感じました。
大﨑社長と社員の皆さんの取材を通して、これからますます発展していくCLT建築に携わる仕事の魅力、そして温かな社風を感じることができました。ここで自分も一緒にチャレンジしてみたいと思った人は、ぜひ仲間に加わって、未来の木造建築を担ってみませんか?

執筆:藤原 朋
撮影:清水 泰人
編集:北川 由依




求人募集要項
企業名・団体名 | 株式会社日本サルベージサービス |
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募集職種 | CLT工事の施工管理 |
雇用形態 | 正社員(試用期間入社後3ヶ月) ・試用期間前後での勤務条件に変更なし ・試用期間後、有給休暇10日付与 |
仕事内容 | CLT木材(集成材)を使った建築物の組立に始まり、最終的には現場の施工管理を行っていただきます。 |
給与 | ・基本給(月給)180,000円~280,000円 ・残業代は残業時間に応じて別途支給・その他手当(配偶者手当:10,000円、子供手当:1,000円/人、役職手当:0~120,000、技能手当:0~70,000円 ・宿泊を伴う出張の場合一泊につき3,000円を支給し、また宿泊施設にて食事の供与を受けることができない場合は夕食費と朝食費として2,000円を支給する。これとは別に遠方の地域(一部地域を除く)に出張の場合は出張手当として国内の場合は作業日1日につき2,000円を海外の場合は6,000円を支給する。 ・モデル年収 20代:約350万 30代:約410万 40代:約580万 50代:600万 |
福利厚生 | 各種保険(雇用、労災、健康、厚生)加入、財形貯蓄、退職金制度(勤続3年以上)有。制服支給、通勤費別途支給(10万円まで) 資格取得支援制度有(クレーン操縦者の資格取得、建築士の資格取得など社内でも活用されている支援制度です) |
勤務地 | 本社事業所(京都府京都市南区吉祥院観音堂南町1−1) |
勤務時間 | ①8時~17時、②8時30分~17時30分(休憩1時間) ※現場作業が発生する場合は①、それ以外は②の勤務となります。 |
休日・休暇 | 週休2日(土、日、祝日)年末年始休暇、特別休暇※会社カレンダーによる。年間休日105日 |
応募資格 | 新たな建築資材(CLT集成材)を使った建築に興味のある方 多能工という聞きなれない職種に興味のある方 幅広い業務に関わることを面白がれる方 環境保全に興味がある方 まちづくりや建築に思いを持っている方 |
選考プロセス | 京都移住計画の応募フォームから応募 ↓ 書類選考 ↓ 1次選考 ↓ 最終選考 ↓ 内定 ※職場見学やカジュアル面談実施が可能な場合は記入ください。 |
面談場所 | オンラインでの面談可能です |
参考リンク | 公式サイト |