京都移住計画での募集は終了いたしました
日本の伝統文化の一つである「着物」。京都には、和装にまつわる仕事に携わり、この文化を次代に伝えていこうと尽力している人たちがたくさんいます。
今回ご紹介する株式会社大原商店は、1931(昭和6)年に創業した和装小物の製造卸問屋。帯締め・帯揚げ・半襟・草履・バッグ・髪飾りなど、着物に関わる幅広い小物商品を取り扱っています。
2021年に三代目社長に代替わりし、新たなスタートを切ったばかりの大原商店では、商品企画の担当者として、和装文化の振興を目指して一緒にチャレンジしていく仲間を募っています。
独自の世界観を構築するものづくり
代表取締役の大原康史(おおはら・やすふみ)さんは、家業を継ぐために6年ほど前に東京からUターンし、2021年9月に三代目社長に就任しました。会社の成り立ちについて、大原さんはこう説明します。
「大原商店は、戦前に私の祖父が淡路島から京都に出てきて創業しました。当時は帯締めを専門に、風呂敷に包んで売り歩いていたと聞いています。そこから商品が増えていき、和装小物全般を取り扱うようになりました。創業時は問屋業のみでしたが、二代目の父が着用シーンを想定したオリジナルのものづくりをスタートし、今は取り扱う商品の約9割が大原オリジナルです」
大原商店のものづくりの特徴は、着物の着用シーンを想定して、フォーマルからカジュアルまでそれぞれの世界観に基づいた商品企画をしていること。帯締めや帯揚げといった商品を単体で提案するのではなく、一つの世界観の中でトータルコーディネートを提案しています。
「例えば華やかなパーティーのシーンだったらこんな小物、伝統的な正装のシーンだったらこんな小物の組み合わせはどうですかと、アイテムだけでなくコーディネートや商品ディスプレイまで提案します。父がはじめたこのスタイルは、業界内でも類を見ないやり方だったので、取引先の呉服問屋や小売店の人たちから好評を得ていたと聞いています」
他にも、希望小売価格がないことが通例となっていた和装業界で、適正な希望小売価格を定めるなど、先代の画期的な取り組みによって成長してきた大原商店。しかし、和装市場が縮小し、製造に関わる職人たちも高齢化する中で、これまで通りのものづくりが難しい状況になりつつあるため、「時代に合わせて大原商店も変わらなくては」と大原さんは語ります。
「メーカーや職人さんがどんどん廃業している現実に向き合わなければいけません。儲からないから後継者がいない。なぜ儲からないかというと、大量生産ができた時代の工賃から変わっていないからです。適切な価格で仕入れて、適切な価格で売る。そんな持続可能な流通を作ることが、卸売業としての私たちの務めだと思っています」
適切な価格を実現するために、製造の現場をコンサルティングするような関わり方も必要だと大原さんはつづけます。
「製造工程を詳しく知れば、効率化できる部分があるかもしれないので、仕入先に一歩踏み込んで、一緒に改善策を考えていきたいです。そのためには、まず私たちが仕入先や業界について深く知り、最新の技術や他業界の知見も学ぶ必要があります。そして何より大切なのは、職人の方たちに敬意を持って、一緒にやっていこうという姿勢だと思っています」
さらに、後継者がいない仕入先を大原商店が引き継ぎ、自社で工場や職人を抱えるという選択肢もあり得ると話す大原さん。職人の高齢化や機械の老朽化でもうできないという話が年々増えています。「何事も消極的、受け身は嫌なんですよ。創造性のあること、前向きなことをしたいですよね」と笑います。
「新しく仲間に加わっていただく方にも、フットワーク軽く行動して、どんどん新しいチャレンジをしてもらいたいと思っています。周りの社員たちも刺激を受けて共に成長していけるような、好循環が生まれると良いですね」
小物問屋だからこそできる和装振興を
今後の展望について尋ねると、「まずは本業の立て直し」と大原さん。良いものづくりをして、しっかりと売る仕組みを作るために、ITを活用した業務効率化やECサイトの構築に取り組んでいます。また、中長期的なプランとして、二つのことを考えていると言います。
「一つは、シルクロードの再構築。かつて、世界中の文化や技術がシルクロードを通って日本に流れ込んできたように、海外の文化を私たちのものづくりに取り入れたいと思っています。例えば、アフリカの生地で帯揚げを作るとか、ヨーロッパの陶磁器を羽織紐に使うとか。実は、新婚旅行の時にクロアチアで買った陶器のビーズを、絶対何かに使おうと思って置いているんですよ」
海外の文化だけでなく、3Dプリンターなど最新の技術も取り入れたいと話す大原さんは、「古き良きものも大事にしつつ、新しいことにも挑戦したい。みんなが『着物は楽しい』と思うような商品を作らないと」と目を輝かせます。
「もう一つは、和装文化の振興です。着物に興味はあるけどどうしたら良いかわからない人の受け皿になれるような、コミュニティサロンや情報のプラットフォームを作りたいと考えています。『着方がわからない』『着て行く場所がない』『着た後のクリーニングの方法がわからない』といった相談が気軽にできて、情報提供できるような場を作っていきたいです」
こうした活動は、小物問屋だからこそできることだと、大原さんはつづけます。
「父は『小物問屋は鳥の目』とよく言っていました。私たちの仕事は、和装に関わるメーカーや職人すべてが仕入先であり、全国の呉服問屋と小売店がお客さまですから、業界を幅広く見渡せる鳥の目を持っているんですね。そんな小物問屋だからこそ実現できる和装振興があるはず。鳥の目をうまく生かして、多くの人たちが楽しく着物を着られるような環境を作っていきたいですね」
努力の積み重ねがひらめきを生む
つづいてお話を伺うのは、商品部 部長の中村和弘(なかむら・かずひろ)さんです。社歴は40年以上で、先々代の頃から大原商店で働いているという中村さん。長年携わっている商品部の仕事は、商品やブランドのコンセプト、シーンを想定したトータルコーディネートの策定、モチーフ・カラーなどの細部の立案、さらには売り場ディスプレイの提案まで、多岐にわたります。
「ものづくりのコンセプトや世界観を全員がしっかりと共有しているところが、大原商店の強みだと思います。一つの世界観をトータルコーディネートで提案できるので、呉服問屋や小売店の方たちから喜んでいただいています」
これまで多くの商品を手がけてきた中村さんが、最近特に力を入れているのは帯留め。さまざまなシーンを想定した個性豊かな帯留めを見せてくれました。
「例えば、パーティーに行く時はワイン、茶会に行くなら茶道具、雨の日は水面の波紋にカエルとかね。『フルシーズン使えます』『おしゃれ着物から訪問着まで合わせられます』といった謳い文句がありますけど、これは逆にピンポイントで、この時しか使えない。そこが楽しいですよね」
中村さんがものづくりにおいて大切にしていることは、「感性とひらめき」。トーマス・エジソンの名言「天才とは1%のひらめきと99%の努力である」を引用して、こんなふうに語ります。
「エジソンの言葉では、努力のほうが注目されがちですけど、いくら努力してもひらめきがなかったらあかんわけです。ひらめきがあってこそ、新しい発想が生まれる。そのひらめきを生み出すための、常日頃の努力なんです」
これから商品部のメンバーとして新しく加わる人にも、自分の感性を大切にしてほしいと中村さんは言います。
「『これが好き』『これがかわいい』という自分自身の感覚を、ちゃんと表現して主張できる人がいいですね。そして、『自分で企画した商品を販売してみたい』と熱意を注げる人。商品部の仕事には営業力も必要ですが、それは後から自然に身に付いてきます。お客さまと対話してものづくりにフィードバックしていけば、商品力が必ず備わってきますし、商品力が営業力につながっていきますから」
最後に、和装業界で長年働いてきた中村さんに、業界に対する思いを伺うと、こんな答えが返ってきました。
「大切なのは、どう継続していくか。そのためには仕入先との関係が欠かせません。メーカーや職人さんたちの束ね役として、安定的に仕事を出して、仕入先を育てていくという姿勢が必要です。実際に現場に足を運んで職人さんたちの仕事ぶりを見ているので、値切ろうだなんてとても思えませんよ。適切な価格で仕入れて、適切な価格で販売するためには、私たちがどれだけ付加価値を創造できるかがキーになると思っています」
大原さんや中村さんのお話から、作り手に対するリスペクトや、自分たちが業界を守っていかなければという使命感が伝わってきます。
ものづくりへの熱意が、やりがいにつながる
つづいて、商品部の亀田智子(かめだ・ともこ)さん、松本彩佳(まつもと・あやか)さんにもお話を伺います。亀田さんは高校卒業後すぐ、松本さんは洋服のデザインの仕事を経て大原商店に入社し、商品部の仕事に20年以上携わってきました。
「高校生の時に大原商店の求人を見て、和装小物に興味があったので応募しました。夏休みに会社見学をして、先代社長をはじめ社員の皆さんのアットホームな雰囲気に惹かれて、入社を決めました」(亀田さん)
「私は前職の経験を生かせる仕事をしたいと考えていた時に、私の母が知人を介して『大原商店で和装のものづくりができる人を探している』という話を聞き、中村部長を紹介していただいて、お話を聞いて面白そうだなと思って入社しました」(松本さん)
入社当初は先輩社員の補助的な仕事が多かったという2人。今では商品の企画や管理、営業、ディスプレイなど、商品部のあらゆる業務を担っています。
「ディスプレイは毎月変えているので、倉庫から商品を運ぶような力仕事もあって大変です(笑)。でも企画や営業などいろんなことをやらせてもらえるのは楽しいですね」(松本さん)
松本さんは、主に七五三と成人式の商品を担当しています。「『こんな色はどう?』とか『もっとバリエーションを増やしたい』とか、亀田さんに相談しながら一緒に作っています。ときどき『あかん』って言われるけど」と笑う松本さんに、「あんまり増やすと在庫オーバーになるから」とすかさず答える亀田さん。企画が好きな松本さんと、管理が得意な亀田さんの良いコンビネーションが見て取れます。
2人は仕事をする上で、どんな時にやりがいを感じているのでしょうか。
「自分が作った商品を、お客さまに『良いよね』『かわいいよね』と言っていただけると嬉しいですし、『これで良かった、間違ってなかったんだ』と自信につながります。百貨店に行くと、ウィンドウに自分の商品が飾られているのを見かけることがあって、そんな時もすごく嬉しくなりますね」(松本さん)
「私は自分で企画をするというより、中村部長や松本さんの企画をサポートする形が多いですが、自分が携わった商品ができあがった時やお客さまに買っていただけた時は、やっぱり喜びややりがいを感じます」(亀田さん)
松本さんも亀田さんも、中村部長が話していた「ものづくりへの熱意」をしっかりと持っているからこそ、楽しみながら長く働きつづけられるのでしょう。
これから新しく加わる仲間として、どんな人と一緒に働きたいかと尋ねると「やっぱりものづくりに興味がある人」と亀田さん。松本さんも大きくうなずきながら、こう付け加えてくれました。
「今は長年働いているメンバーばかりで、考え方が凝り固まってしまっている部分もあると思うので、新しい風を吹き込んでくれるような、やわらかい感性を持った人に来てもらえたらいいですね。職人さんに会いに行って新たな仕入先を開拓するなど、これからは私自身ももっといろんなことに挑戦していきたいですし、一緒に挑戦してくれる人に仲間に加わってもらえると嬉しいです」(松本さん)
時代の流れに合わせて、今まさに変革期を迎えている大原商店。大原社長と社員の皆さんのお話から、「変わろう」「チャレンジしよう」という大きなうねりを感じました。大原商店のものづくりに興味を持った方は、彼らの一員として、和装文化の未来を一緒に担っていきませんか?
執筆:藤原 朋
撮影:清水 泰人
編集:北川 由依
京都移住計画での募集は終了いたしました