2019.06.10

目に見えないものをつくる。誇りを胸にチームで世界に羽ばたく

京都移住計画での募集は終了いたしました

”モノづくり”と聞くと、例えばパソコンや家電、車、あるいは手芸や木工などの手仕事などを連想する方が多いかもしれません。しかし、今回ご紹介するモノづくり企業は、少し変わっています。

「当社は目に見えないモノづくりをしています。だから想像力が大切なんです」と話すのは、株式会社大東技研 代表取締役社長の岡本珠希(おかもと・たまき)さん。目に見えないモノづくりとは、どういうことでしょうか?

訪れたのは、京都市北区。金閣寺のある衣笠エリアからさらに小山を登ったところにある原谷に、大東技研(DAITO)はありました。

大東技研は、1975年創業。半導体部品を製造する機械の心臓部にあたる精密部品の製作をしています。

創業者は、現代表である珠希さんのお父様にあたる工学博士 岡本政史(おかもと・まさじ)さん。放電加工の研究では第一人者のひとりであったことから、業界に先駆け電極低消耗技術をもとに放電加工機メーカーとしてスタート、その後事業転換を経て、技術を駆使した精密機器の高精度金属部品製作に特化してきました。

製品はすべてオーダーメイド。お客さんから届く相談をもとに、必要な部品の企画および完成まで短納期で内製。テレビやクーラー、冷蔵庫など私たちの生活に欠かせない電子機器をつくる機械のほぼすべてに関わり、影から日本のモノづくりを支えています。

母からの決死の言葉に心打たれ、フランスからUターン

珠希さんが2代目として社長に就任したのは、2016年のこと。以前は、フランスで映画の製作・配給会社を経営していました。子どものころから映画が大好きだった珠希さんは、好きなことを仕事にできている状態。会社経営もようやく軌道にのり、これからという時期だったそうです。そんな中、どうして家業を継ぐことにしたのでしょうか。

「それまで元気に働いていた父が、急に体調を崩しました。それでも父は、私に頼むつもりはなかったそうなんです。ですが、母は『任せられるのは珠希しかいない』と、父が入院中に、無理を承知で私に決死のメールを送ってきたのです。

予想外のことで正直戸惑いましたが、一言一言から母の思いが痛いほど伝わり、心がものすごく揺さぶられました」

自身の会社経営もあるため、「継ぎます」とは即答できなかった珠希さんでしたが、葛藤の末、フランスから京都に戻ることを決意します。

「できるかできないかは正直わかりませんでした。でも、求められるなら引き受けた方がいいなって。きっと若い頃はみんなそうなんでしょうけど、私はずっと、自分のやりたいことを自分のためにやって生きてきました。でも、歳を重ねて、自分がしたいことよりも誰かに求められてすることの方が、もっと大きな喜びを生み出すのではと感じはじめたタイミングだったのです」

しかし、継ぐことは決めたものの、「しばらくは悶々とした日々を過ごした」と振り返ります。

「急にフランスの仕事を辞めることはできないため、継ぐことを決めてから就任までの1年ほどは、会社の仕事を教えてもらいながら、フランスと日本を行き来する生活を送りました。加えて、私は父の会社が何をしているのかきちんとわかっておらず、当時は精密部品をつくっている会社、くらいの理解度。やりがいを見出し、ビジョンを持ってしっかりと組織を引っ張っていけるのか不安もありました」

目に見えないモノづくりのおもしろさは、どこにある?

社員とのコミュニケーションや技術の理解などやるべきことはたくさんありましたが、なかでも事業の魅力を自分の言葉で話せるようになるまでに、相当苦労したそうです。

「会社を継ぐまで、精密部品はもとより、金属に関心がありませんでした。ですから、どこから興味をもてばよいのかもわかりませんでしたね。何がおもしろいのか、どこに楽しさや凄さがあるのかを探ることが、最初の仕事でした」

精密金属部品を製造するおもしろさとは?
社員はどこにやりがいを見出してこの仕事をしているのか?

現場を見て、社員や取引先と会話をする中で、珠希さんは自分なりの答えを見つけていきます。

「映画もそうですが、それまで私が知っているモノづくりは目に見えるモノづくりでした。手にとって完成品を見せることができるモノばかり。でも、弊社がやっていることは、目に見えないモノづくりだと気づいたんです。”モノづくり”と一括りにしても、実は何層もあって、当社のモノづくりは深海に位置していると(笑)」

「はじめは、鉄を削って製品をつくる表面的なところしか見えていませんでした。しかし、私たちが製作した部品を使った機械でさまざまな製品が生まれている様をみると、全部つながっているのだと気づいて。

目の前の仕事がどのように社会に役立っているのかイメージできたとき、自分の中で腑に落ちました。それからは、この仕事すごくおもしろい!って思うようになって。目に見えないモノづくりだからこそ、製品をつくった先にある社会や未来を描く想像力が必要だったのです」

iPhoneの中に入っている電子部品は約1000個といわれている。こうした細かな半導体をつくる機械の心臓部を担うのが、大東技研。

2016年春の社長就任から丸3年。目に見えないモノづくりのおもしろさに気づいた珠希さんの目に、会社の未来はどのように映っているのでしょうか。

「モノは人と共に歩み、進化していくもの。10年後、どういうモノが世の中に生まれているだろうと想像するとワクワクします。当社はきっと10年後も変わらず、モノをつくる機械の部品をつくっているでしょう。おそらく現時点では想定できないような、高精度のモノを求められているはず。プレッシャーを感じながらも、たしかな技術と誇りを胸に、さらなる高みをめざしてワクワクしながらチャレンジし続けていたいですね」

平均年齢29歳。チーム力で職人レベルの仕事をする

超高精度な製品で取引先から信頼を得ている大東技研。さぞ熟練した職人が多いのかと思いきや、工場には若い社員がたくさんいました。なんとエンジニアの平均年齢は29歳(2019年4月時点)なんだそうです。

若い力を底上げし、職人レベルの超高精度製品をつくるチームづくりをしているのが、次にご紹介するお二人。営業部の今村永和(いまむら・ながかず)さんと、工場長の堀口一也(ほりぐち・かずや)さんです。

今村さんは、入社43年のベテラン。入社後は、総務、エンジニア、営業と複数の部署を渡り歩きながら、長年会社を支えてきました。

今村さん

今村:高校は商業科出身ですから、エンジニアとしての知識も技術もありませんでした。はじめは伝票整理をしていましたが、現場を見ていたら自分でもやりたくなって、気づけばエンジニアに転向していました。先輩エンジニアを自他共に抜かしたら辞めようと思っていたのですが、モノづくりが大好きになって。完成した時の達成感は、格別ですよね。

若いエンジニアが増えてきたこともあり、今村さんは現在、営業部に所属。培ってきた技術と知識を武器に、取引先のニーズに合わせた製品を提案しながら、若手エンジニアに技術指導をしています。指導のとき、大切にしていることは何でしょうか。

今村:性格や得意、不得意に合わせて、ステップを変えています。厳しいと思われるかもしれませんが、超高精度を求められるうちの製品をつくるためには、10年やっても一人前とは言えません。作業自体はできても、求める品質に届く人は一握り。たとえ一度うまくできたとしても、偶然かもしれない。求められるクオリティの製品を早く、安定して製造できるようになるよう、「目標時間を5分短くしてつくろう」、「次は違うやり方でやってみよう」と声かけしています。

今村さんの言葉に耳を傾けながら、工場長の堀口さんは「仕事に対して、真剣に向き合ってきた今村さんらしい言葉ですね」と話します。

堀口さん

堀口さんは、入社23年目。工場長として現場全体を管理しています。仕事の醍醐味を聞いてみると、なんとこんな答えが。

堀口:23年経っても、一人前じゃないところです。技術は奥深く、完璧な製品をつくれるようになる道のりは長いなと感じています。

工場長の堀口さんでも一人前ではない……?この一言からだけでも、大東技研に求められる技術力の高さが伺い知れます。ではどうやって、若手中心のチームで高い技術力を保っているのでしょうか。

今村:当社には切削・研削・放電の3部門あり、それぞれの部門ごとに技術を磨いています。一人で3部門全てをできるようになるには10年では足りませんが、1つの部門を短い期間で極めることは可能です。一人ひとりの力を結集させて、超高精度な製品をつくっています。

堀口:とはいっても、大手企業のように分業制ではありません。各部門それぞれで経験を積み、製品づくりの1から10まで身につけられるところが、DAITOの魅力です。

10年、20年経験を積んでも一人前ではない。これからその道に進もうとしている人からすると、果てしなく長い道のりに思えてきます。そんな心配を投げかけたところ、「大丈夫ですよ」と、お二人は答えてくれました。

今村:きっと5年、10年、モノづくりをしたら考えが変わると思います。これは10年では一人前になれないぞ、と。なぜなら、技術も日々進歩するからです。同じやり方をつづけるだけなら、10年もかからず一人前になれるでしょう。しかし、テレビが薄型になり、携帯電話がスマートフォンに置き換わるように、私たちは時代と共に進化する技術に追いつき、追い越さなければなりません。そこにおもしろさを感じるようになると思いますよ。

堀口:入社時に専門知識もスキルもいりません。未経験や文系出身であったりしても、エンジニアとして活躍している社員はたくさんいます。根底にモノづくりが本当に好きな気持ちや、モノづくりを本当にやりたい覚悟があれば大丈夫。完成したときの達成感や楽しみは何にも変えがたいものです。向上心をもって、スキルをアップデートしつづけてほしいですね。

仕事する上で、誰かに褒められたり認められたりすることはやりがいにつながります。しかし、今村さんと堀口さんの言葉からは、他者からの承認ではなく、モノづくりに向き合い、技術を磨きつづけてきたからこそ生まれる、たしかな自信と誇りを感じました。

待望の女性新入社員が入社!

左:鳴戸さん、右:谷口さん

最後にお話をお伺いしたのは、2019年春に入社した、QC(品質管理)の谷口美穂(たにぐち・みほ)さんと総務の鳴戸みゆき(なると・みゆき)さん。

今まで珠希さん以外、会社に男性社員しかいなかった環境に、女性社員が加わり、会社の雰囲気は少しずつ変わりはじめているようです。

鳴戸さんは、京都市出身。島根大学で学んだ後、「自然やまちのバランスがちょうどいい京都市に住みたい」とUターンしました。もともと食品関係の仕事を希望していましたが、希望にあうところが見つからなかったそう。偶然ハローワークで見つけたのが、大東技研でした。

鳴戸:ずっと京都市で暮らしたいから、転勤がない仕事を探して。なんとなく事務が向いているかもと探して見つけました。

谷口:その事務の求人は私も見ました。でも向いていないなと思いました(笑)

そう答える谷口さんは、現在QC(品質管理)の仕事をしています。入社した理由は?

谷口:とにかく細かい作業がしたかったからです。芸術系の大学を出ていてパソコン作業が得意なこともあり、はじめはデザイン系やSE(システムエンジニア)の仕事に就こうかと考えていたんです。就職活動の支援会社に聞いてみたら、SEはないけど「工場で細かい作業ができる仕事があるよ」と紹介されたのが、ここでした。

時代は移り変わり女性が働くことも当たり前となった現在においても、製造業で活躍するのはまだまだ男性中心です。その点に、心配はなかったのでしょうか?

鳴戸:全然。大学では理系の研究室にいたので、男性ばかりの環境に慣れているんです。

谷口:私も女性ばかりの職場よりは、男性中心の職場の方が馴染めるかなと思いました。

鳴戸:私たちよりも、男性社員の方が女性に慣れていないですよ。用事があって話しかけると、びっくりされます。そろそろ慣れてほしいです(笑)

大東技研には、新入社員が会社に馴染めるよう、先輩社員がメンターとして関わる「ビッグ・ブラザー&シスター制度」があるそう。

鳴戸:女性社員は私たちだけですから、私たちのメンターは社長なんです。はじめは驚きましたが、食事をしながら気軽に話せる雰囲気で安心しました。そこで部署が違う、谷口さんのことも知れたし、社長の考えを知って仕事にいかすこともできる。だから女性が少ないことで困っていることは今のところありません。

谷口さんと鳴戸さんは、得意なこともキャラクターも異なります。そんな2人がお互いをいかしあいながら楽しく働いている姿を見ると、大東技研が強みや適正をいかす採用をしていることが伝わってきました。

先ほど話に出ましたが、大東技研には「ビッグ・ブラザー&シスター制度」のほか、一年を通して計画的に大掃除をする「CLEANプロジェクト」、社長と社員全員が月1回集まりさまざまなテーマをオープンに話し合う「みんなごと会議」などがあります。そうした制度を導入したのは、珠希さんの「いつまでも会社としての鮮度を保ちたい」との思いからです。

「仕事内容も社風も時代とともに、しなやかに進化していきたいです。なんだか”仕事”をネガティブに捉える人が多いなと感じているのですが、1日の半分以上を仕事に使うわけですから、絶対楽しんだ方が得。ただ、一人ひとり違いますから、みんなが楽しめるようにしていくには、コミュニケーションと思いやりが欠かせません。そういった社風の中、仕事もプライベートもめいっぱい楽しむぞっていう、欲張りな社員ばかりの会社にしたいです」

「自身への戒めとしても、何もしなければどんどん頭が硬くなって、考えが凝り固まってしまい、目の前しか見えなくなるから。頭を柔らかくしておかないと、未来どころか、現在さえ見えてないかもしれないですよね。いつの時代でも元気であり続ける会社にしたいから、何か思い立ったら、まずはすぐやってみる。意識的に全社でいろいろと取り組み、私と社員の頭を揉みほぐしているんです(笑)」

さまざまな機械の心臓部に使われている大東技研の製品。今後は、世界に羽ばたけるよう準備しています。

「めざすは、人を感激させることができる技術力をもつメーカーです。当社のような小さな縁の下のモノづくりの会社は、今どんどん減っています。大量生産が得意な工場は増えていますが、精密機器部品のようなハイレベルな品質を求められるモノづくりができる会社も減ってきているのです。技術力を磨き続け、『不可能を可能にしてくれるのは、大東技研しかいない』と日本でも、海外でも求められるようになりたいです」

”目に見えないモノづくり”とはじめに聞いたとき、「どういうことだろう?」と不思議に思うと同時に、今まで見えていなかった新しい世界が広がるんじゃないかとの期待に胸が高鳴りました。

お話を聞くなかで、その言葉には珠希さんが汗をかいて見つけた答えと、世界に羽ばたかんとする会社の未来がつまっていることを少しでも感じ取っていただけたなら嬉しいです。

大東技研では、ともに世界をめざせる仲間を募集しています。まずはお気軽にご連絡ください。

執筆:北川.由依
撮影:もろこし

京都移住計画での募集は終了いたしました

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