碁盤の目状に交差する大路小路に、人々の暮らしやなりわいを支える新旧さまざまな建物がひしめき合う京都のまち。四季折々の自然や歴史ある社寺などと調和した町並みに、“京都らしさ”を感じる人も多いのではないでしょうか。
そんな京都の町並みづくりを建築の技で支えているのが、創業115年の老舗工務店「株式会社中藏(なかくら)」です。京町家のリノベーションを得意とし、町家の良さを取り入れた新築住宅も支持を集めています。

前回記事から約4年が経過した今、家づくりの技と心を次の世代へつなぐため、新たなメンバーを募っています。JR二条駅から徒歩約5分の好立地に構える御池事務所を訪ね、近年の取り組み内容や募集職種(現場管理、設計)に関するお話を伺いました。
すべての人を幸せにする会社へ、アップデート中
最初にお話を伺ったのは、代表取締役社長の古川亮太郎(ふるかわ・りょうたろう)さん。京都市内で生まれ育ち、約20年前に入社。その後、常務取締役を経て、2022年7月に現職に就きました。

古川さんがまず着手したのは、企業理念のアップデート。家づくりを通じて、家族の絆や地域のコミュニティ、町並みとそこに息づく文化、そして伝統的な知恵や技能を、大切に守り継いでいくことを誓った「ひと・まち・わざをつなぐ」という従来のコンセプトに、「すべての人を幸せにする会社」という文言を新たに付け加えました。
古川さん
お客さん、地域のみなさん、関係企業のみなさん、それから中藏も含めて、みんなの幸せを追求するという意味です。なかでも、作り手である職人さんや業者さんに対する思いが強いですね。建築業界では人手不足が深刻化しており、作り手のみなさんが今後ますます貴重な存在になってきます。彼らにちゃんと利益を還元する仕組みを整えていかなければならないと考えています。

そうして職人さんや業者さんの待遇改善に乗り出す一方、将来のリスクに備えて、作り手の代表格である大工職人を社内で育てる計画を進めています。
古川さん
大工の減り方は本当に凄まじくて、2020年時点で全国に60万人いる大工が20年後の2040年には30万人に半減すると予想されています。大工がいなかったら家を建てたくても建てられないので、僕らにとっては死活問題です。こうなったら自前の大工集団を作ろうと、技能部という専門部署を立ち上げました。今後は大工志望者を社員として迎え、社外のベテラン大工の協力も得ながら技の伝承を行なっていくつもりです。
社員大工として働くメリットは、安定した収入や福利厚生を受けながら、着実にスキルアップができること。町家をはじめとする伝統的な木造建築から、マンションや公共施設などの中大規模建築まで幅広く手掛けている中藏なら、経験を積むことによってどんな現場でも頼りにされる大工に成長できるでしょう。
地域とつながるイベントを経て
また近年、「地域の人とつながることにも注力している」と古川さん。コロナ禍で縮小した交流の機会を取り戻そうと、2023年秋から年1、2回ペースで「二条祭」と銘打ったお祭りイベントを開催しています。

古川さん
近隣のカフェやショップの方にもご協力いただいて、中藏の敷地内でマルシェやワークショップなどを催す小さなお祭りです。誰でも気軽に立ち寄れる雰囲気なので、これまで接点のなかった方も来てくれますし、世間話をしながら「このまちがもっとこうなればいいのに……」みたいな、生活者目線の話も聞けるんです。
地域に開かれたイベントの継続は、長年まちの発展のために尽くしてきた“先輩たち”の心も動かしました。ある時、京都二条城下町振興会の方から声がかかり、「一緒にこのまちを盛り上げていってほしい」と頼まれたそうです。

古川さん
もちろん、喜んでお引き受けしました。さっそく地域で集まって、これから何をしようかと作戦を練っているところです。例えば、この通りを歩行者天国にして人を呼び込むとか、何か面白いことを仕掛けていきたいですね。
サステナブルな町家の残し方
こうしてコミュニティー活動に参画する傍ら、本業でも地域貢献につながる事業を多数手掛けています。
近年、地元小学校の敷地内に新設された学童保育所もその一つ。運営事業者はもちろん、保護者や住民らの声にも耳を傾け、同じ建物内に自治会と消防分団の会所を併設するプランを導き出し、子どもと大人のふれあいを育む地域コミュニティーの拠点を作り上げました。

また、京都らしい景観を形作っている町家の存続に向けて、所有者に対してさまざまな働きかけも行っています。
古川さん
修復を諦めて建て替えたいとおっしゃる方、土地ごと手放したいとおっしゃる方、それぞれの事情を踏まえて「こんな方法で残すこともできますよ」と提案しています。
そう言って見せてくれたのは、中藏が所有する一棟貸しの町家旅館「藏や南聖町」。空き家状態だった築80年の町家を買い取り、大規模改修を施した一軒です。

古川さん
この町家はリノベーションモデルであると同時に、不動産の運用モデルでもあるんです。古い町家を持っていてもお金がかかるだけで、いずれ子や孫の負担になる。そう考えて手放す人が増えている現状を鑑み、リノベーションした町家を旅館として一定期間運用し、その間、所有者に家賃が入る仕組みを作りました。
住まいと似た造りの旅館であれば、将来的にご自身や家族が住んだり、誰かに貸したりすることもできます。こうやって町家の資産価値を高めて次の世代へつなぐことも、僕たちの大事な役割だと思っています。
近頃は、町家を買い取った外国人オーナーからリノベーションの相談を受ける機会も増えているそう。古川さんは当初、「町並みや住文化が損なわれるのではないか」と懸念していたそうですが……。
古川さん
一緒にやってみて、イメージが変わりましたね。特に中国の方って、木造技術のルーツを持つ自国の誇りとともに、その技術を守り続けてきた日本の古いものに対するリスペクトもあって、町並みを守る意識が高いんですよ。それでいて、日本人にはない独自の視点を持っているところにすごく刺激をもらっています。
大正時代に外国のテイストを取り入れた町家が造られ、それを現代の僕らが見て「馴染んでいる」と感じているように、新しい価値観の新しい町家がこれから生まれてくるんじゃないかとワクワクしています。

海外進出も視野に、多様性のある会社へ
地域の人々や外国人オーナーとの交流を経て、古川さんは「まちづくりの方向性が見えてきた」と目を輝かせます。一体、どんなまちを思い描いているのでしょうか。
古川さん
昔ながらの町並みもあれば、現代的な複合施設もあり、小さな屋台なんかもある、老若男女あらゆる人を受け入れる「多様性のあるまち」ですね。京都はもともと新しい文化と既存の文化をミックスさせるのが得意なまちなので、そうなるポテンシャルは十分にあると思います。
理想のまちづくりに向けて、「中藏も多様性のある会社にしていきたい」と古川さん。今回の募集では、現場管理・設計・大工のいずれの職種も経験不問とし、他府県からの移住者はもちろん、外国籍の人も受け入れる方針です。その上で、古川さんが採用したい人物のイメージをたずねました。
古川さん
うちは建築をベースにいろんなことをやり始めているので、何事にも前向きに取り組めるチャレンジ精神旺盛な人に入ってもらいたいですね。例えば、今まで建築内装の仕事をやっていたけれど、現場監督に興味があって応募しましたと言われたら、この人、チャレンジ精神あるなと思いますよ、きっと(笑)。
あとは、人と話すのが好きな人。特に、現場管理や設計の仕事はコミュニケーションが不可欠なので、ある程度、会話力に自信のある人を採用したいです。

そして、「メンバーが充実したら、チャレンジしたいことがあるんです」と、今後のビジョンも明かしてくれました。
古川さん
僕らがつないできた人と技を携えて、海外に出ていきたいと思っています。今、台湾出身の女性設計士が一人いるんですけど、彼女の力も借りながら台湾の古い家を改修するとか、何かしらの縁がある場所で、その地域のためになる仕事を積み重ねていく。京都でも海外でも、地域のみなさんに必要とされる存在になることが最大の目標です。
古川さん率いる中藏は、大工集団の礎づくりや町家存続の仕組みづくりなど、さまざまな取り組みを実施しながら、「ひと・まち・わざをつなぐ/すべての人を幸せにする会社」を目指して今日も走り続けています。そこに参加するイメージを持てるよう、募集職種の先輩2名にお話を伺いました。
一部始終を見届ける、責任と喜び
1人目は、工務部で現場管理の業務を担当している木南宏介(きみなみ・こうすけ)さん。以前は長野県内の工務店に勤めていましたが、「町家に関わる仕事をしてみたい」と思い立ち、家族とともに京都へ移住。建築士の資格取得のために通った専門学校の紹介を受け、2021年に入社しました。

前職で現場管理を経験していた木南さんは、入社後まもなく木造住宅の現場管理を任されるように。難なくこなせるかと思いきや、「過去の経験はあまり役に立たず、一からの勉強に近かった」そうです。
木南さん
長野と京都では気候が違うので、一般的な在来工法でも細かい部分や使用する資材がかなり違っていました。わからないことや不確かなことがあれば、先輩や職人さんにその都度聞いて、一つひとつ手探りで学んでいった感じです。
そうして木造住宅を中心に現場経験を積み、入社4年目に突入した木南さんに、日々のお仕事の流れを伺いました。
木南さん
朝一番に建設現場に行って、職人さんたちとその日の作業に関する打ち合わせをします。その後、一旦会社に戻って事務作業をすることもありますが、今は大型案件を担当しているので日中はほとんど現場に張り付いて、予定通り作業が進んでいるか、施工ミスがないか、安全上の問題がないかをチェックしながら補助的な作業をしています。
夕方、会社に戻ってからは、工事の日報を書いたり、見積書を作ったり、図面を描いたりのデスクワークですね。最後に翌日の準備をして、19時頃に帰宅という感じです。

忙しい日々を送るなか、やりがいを感じる瞬間は「2Dが3Dになった時」。最初に設計士から渡された図面や、自ら作成した詳細図面の通りに組み上がり、立体的な建物が姿を現した瞬間、「なんとも言えない安心感と達成感」に包まれるそう。
「平面が立体になるまでの一部始終を見届けられるのが、この仕事の良さだと思います。何年やっても、その気持ちは変わらないですね」と、笑顔で話してくれました。
話して縮める、職人さんとの距離感
達成感を味わう瞬間が訪れるまでには、さまざまな苦労もあるはず。どのような苦労があり、それをどうやって乗り越えているのでしょうか。
木南さん
最近手掛けた案件は、僕にとっては結構難易度が高くて大変でした。神社の社務所の新築工事ということで、外部造作がちょっと複雑で、限られた期間内にどう組めばうまく納まるか、悩みに悩みましたね。この時は自分で考えた納まりを元に、経験豊富な大工さんと打ち合わせをし、無事に納まりました。

ピンチの時に助けてもらうためには、「職人さんとの関係づくりが肝心」と木南さん。自分から積極的に話しかけ、少しずつ距離を縮めていったそうです。
木南さん
まだ勉強中の身なので、相談しやすい職人さんがいてくれると安心ですし、そのほうが現場もスムーズに回ります。すべての職人さんと普通に話せる間柄になっておくことが、仕事を進める上で大事になってくると思います。
現場監督に必要な資質は、コミュニケーション力。これは古川さんと一致していますが、木南さんはもう一つ付け加えました。
木南さん
打たれ強さですね。何かミスをした時に現場の職人さんから叱られることも、正直言ってあります。反省はしないといけないんですけど、くよくよしても仕方がない、切り替えようって思えるほうがいいです。切り替えがうまくいかない時は、気分転換に何かするといいですよ。僕の場合は、家に帰ってひたすら子どもと遊びます(笑)。

最後に「この会社に入ってよかったことは?」とたずねると、こんな答えが返ってきました。
木南さん
社員がみんないい人で、人間関係に恵まれていることですね。現場管理の先輩社員は4人いるんですけど、それぞれ尊敬できるところがあって、いいところを学べる環境です。新しく入る人も、わかることなら何でも答えるので、遠慮なく聞いてほしいです。
現代の町家づくりに挑む姿勢に共感
次にお話を伺った張晶盈(チョウ・ショウエイ)さんは、古川さんのお話に登場した台湾出身の設計士。京都大学大学院で伝統建築の研究に取り組んでいた頃、「京都の古い建物の美しさ」に魅了され、2021年、町家に強いと評判の中藏に就職しました。

張さん
町家の構造的な美しさを保ちながら、現代のライフスタイルに応じた機能性や快適性を取り入れた、新しい町家づくりを追求している点に共感しました。社長も中国語を話せる人材がほしいと思っていたみたいで、採用が決まった時はすごく嬉しかったです。
張さんははじめから設計士志望でしたが、「現場のことを知らないと設計できない」と考え、自ら志願して現場管理の部署へ。1年半ほど経った昨年(2024年)、設計部へ異動しています。まず、現在のお仕事内容について伺いました。
張さん
私はおもに住宅と店舗の設計を担当しています。はじめにお客さんの要望をお聞きして図面を作成し、見てもらうんですけど、そこからが本番と言えるかもしれません。イメージと違っていたり、気が変わったりすることが多々あるので、OKが出るまで確認と修正を繰り返します。工事が始まったあとも、実施図面の通りに収まらないといった問題が出た場合は、現場担当者の意見を聞いて図面を書き直すこともあります。
内容だけを聞くと、なんだか大変そう……。でも、張さんは笑顔でこう言います。「お客さんと話す時間も、お客さんの未来を想像しながら設計を考える時間も、全部楽しいです」。
先輩に見守られ、成長できる会社
張さんのモットーは、「コミュニケーションを尽くして、お客さんのライフスタイルを知ること」。要望を聞くだけでなく、自分からたくさん質問を投げかけて設計のヒントを得ているそうです。
張さん
最近、質屋さんの店舗設計をしました。私自身、質屋さんについてよく知らなかったので、いろいろ聞くうちにセキュリティー面が大事なんだとわかってきました。そこでまた質問です。カウンターの高さはどうしましょう?窓はどこに取り付けましょう?って。すると、お客さんは「確かにそういうことも大事だね」と一緒に考えてくれるんです。設計士と施主というより、同じ夢を追いかける“戦友”みたいな関係性になりますね。

一般的に竣工後の引き渡しまでが設計士の業務範囲ですが、中藏では、1年点検などのアフターサービスに設計士が同行することがあります。張さんにとってはそれが「貴重な勉強の機会」になっているようです。
張さん
実際に住んだ人にしかわからない、良かった点、悪かった点などが聞けて、次の仕事に活かせるからです。例えば、「この壁クロスは汚れにくくて良かった」と聞いたら、ほかのお客さんにも勧めようって思いますよね。特にコメントがなかったとしても、経年変化を自分の目で確かめて、選定時の判断材料にしています。
設計士となって1年余りの間に、店舗、住宅、旅館などを複数手掛け、着々と実績を重ねている張さん。自身の成長のために心がけていることをたずねました。
張さん
何かわからないことがあったら、誰かに聞く前に自分でよく調べるようにしています。教えてもらって当たり前という姿勢は良くないなと思って。

明るく前向きな張さんは、先輩たちから可愛がられているのでしょう。張さんがミスをして落ち込んでいると、「大丈夫だよ、頑張れよ」といつも励ましてくれるそうです。周囲のバックアップを受けて、張さんは次の目標に向かって突き進んでいます。
張さん
引き続き設計の勉強を頑張りつつ、人と話すのが好きなところを活かして、営業的なお仕事にもチャレンジしたいです。これから入社する人も目標を持って頑張れるように、仕事の楽しさを伝えていけたらなと思っています。
2人の先輩社員のお話から、人との関係づくりの大切さ、仕事に対する前向きな考え方、そして社内の雰囲気の良さが伝わってきました。町家が好き、建築に携わりたい、地域に貢献したい……。理由は何でも構いません。先輩たちのようにいきいきと働く未来の自分に会いに行ってみませんか?

執筆:岡田 香絵
撮影:清水 泰人
編集:北川 由依




求人募集要項
企業名・団体名 | 株式会社中藏 |
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募集職種 | ①設計 ②現場管理 |
雇用形態 | 正社員 試用期間:6か月(試用期間前後の勤務条件の変更の有無:無) |
仕事内容 | 京都で100年以上続く工務店で町家改修、注文住宅、リノベーション、店舗、教育施設等の設計施工を行ってもらいます。 ①設計 お客様へのヒアリング、プラン作成・提案、基本設計・実施設計の作製、建築確認等の各種申請業 他 ②現場管理 積算・発注業務、工程・品質・原価・安全・環境管理、お客様対応 他 |
給与 | 月額22万円~50万円 ○月額22万円の場合の内訳 基本給184,100円 固定残業代35,900円(27時間相当分) ※27時間を超える残業代は追加で支給 加えて各種社内規定により手当を支給する ・通勤手当(上限1.5万円/月) ・住宅手当(上限2万円/月) ・資格手当(例:1級建築士1.5万円/月) ・奨学金返済支援手当 賞与年2回(7月、12月) |
福利厚生 | ・各種社会保険完備 ・退職金制度あり(正社員勤続3年以上対象) ・企業型確定拠出年金制度あり ・定期健康診断受診制度あり ・福利厚生サービス「KPC」加入 ・永年勤続表彰あり |
勤務地 | 京都府京都市中京区西ノ京職司町67-19 ・自転車/バイク通勤可能(無料駐輪場あり) ・転勤なし ・出張なし |
勤務時間 | 変形労働時間制(1年単位) 8:00~17:30(休憩90分) |
休日・休暇 | 日曜、祝日、会社指定日(カレンダーによる) ・年間有給休暇10日~20日 ・夏季休暇 ・年末年始休暇 ・慶弔休暇 ・特別休暇 ・介護、産育休制度 等 |
応募資格 | 【設計】 設計の実務経験1年以上 【現場管理】 普通自動車第一種運転免許(AT限定可)所有 建築業界での実務経験(施工管理に準ずる業務)1年以上 |
選考プロセス | 京都移住計画の応募フォームから応募 ↓ 書類選考 ↓ 1次選考 ↓ 最終選考 ↓ 内定 ※職場見学は随時可能ですのでお気軽にお問い合わせください。 |
面談場所 | 株式会社中藏 御池事務所 京都府京都市中京区西ノ京職司町67-19 ※オンライン面談可能 |
参考リンク | ・Webサイト |