京都市の西南部に位置する西京区。阪急桂駅から車を10分ほど走らせると、ランプのイラストが描かれた看板が見えてきます。

建物の中に入ると、色鮮やかなアート作品があちこちに。作業に没頭する人、おしゃべりする人、うとうとする人、歌う人……。自由に思い思いの時間を過ごす人たちがいます。



ここは「一般社団法人暮らしランプ」が運営する事業所。暮らしランプはこの拠点のほかに、長岡京市や大山崎町も含めた西山エリアで、就労継続支援B型事業や生活介護事業、放課後等デイサービス事業などを展開しています。また、利用者が安心・安全に過ごせるクローズドな施設だけでなく、コーヒーの焙煎所やカフェ、レストランといった地域に開かれた場も運営しています。
京都移住計画では、2022年に暮らしランプの皆さんを取材し、法人設立の経緯や働く人たちの思いを伺いました。今回は、生活介護事業所「atelier uuu(アトリエウー)」のスタッフ募集のため、約3年ぶりに訪れました。
弱さや欠点は、人と関わる「余白」になる
暮らしランプの始まりは2017年。代表の森口誠(もりぐち・まこと)さんが、高校の園芸ビジネス科を卒業後、園芸会社や社会福祉法人での勤務を経て、仲間と共に法人を設立しました。
森口さん
僕たちは「暮らしの少し先が明るいとほっとする」という理念のもとに立ち上げた団体です。暮らしをほんの少し明るく灯すランプのように、ほっとするものや時間や出来事を、障がいのあるなしを問わず、スタッフみんなで地域の中に生み出し、積み重ねていくことを目指して活動しています。

暮らしランプは、今年オープン予定の施設も含めると17ヶ所の拠点を構え、多岐にわたる事業を展開しています。しかし、あくまで「障がいのある人たちとの出会いの中で、その人がやりたいことをどうやって実現するかを考えてきた結果」だと森口さんは言います。
森口さん
今回スタッフを募集するアトリエウーも、自然発生的にできた場所なんです。就労継続支援B型(以下、就B)事業と放課後等デイサービス(以下、放デイ)事業を行うなかで、この地域にはアート系の事業所があまりなかったため、絵を描く人たちがたくさん集まってきて。工賃を生まない活動も増えてきたので、機能を分化しようということで、生活介護事業所を立ち上げることになりました。

2020年にオープンしたアトリエウーでは、身体・知的・精神障がいのある人たちが、創作活動や園芸療法活動、コーヒーの仕事(ハンドピックや封入など)を行っています。現在、利用者は1日20名、登録者数は32名。17名のスタッフが運営しています。今回の募集の背景について尋ねると、森口さんはこう話します。
森口さん
これまでは、国の制度変更などによって影響を受けるリスクを考えて、法人としての規模を拡張していく路線を取っていました。でも、これからは拡張ではなく深めていく時期だと思っていて。そのためには、暮らしランプで働く価値や楽しさを再定義して伝えていかないといけない。そして、その思いをしっかりと共有できる人たちと一緒に働きたいと思っているんです。

今改めて伝えたい価値とはどのようなものでしょうか。森口さんは、約20年にわたって障がいのある人たちと関わってきたなかで、たどりついた一つの結論があると言います。
森口さん
僕たちは「交換」を文化にしていきたい。例えば、弱さや欠点を「交換」することは、その人に関わる余白になる。障がいのある人を「支援している」のではなくて、人と人との関係性の余白と捉えると、物事の見え方が変わると思うんです。
これは障がいのあるなしにかかわらず、誰もが関係する話だと森口さんは続けます。
森口さん
僕自身もそうなんですよ。連絡が全然つかなくて、周りの人たちを困らせていたけど、秘書が付いてくれるようになって改善された。自分の欠点も人と関わる余白だと気づいたら、気持ちがすごく楽になりました。この文化を地域の中で実践していきたいと思っています。

そんな話をしていると、アトリエウーのスタッフと利用者の方が、取材チームのためにコーヒーを持って来てくれました。「ありがとう!」と満面の笑みで受け取った森口さんは、彼らを見送りながら「今のが、まさしく暮らしランプですよ」とうれしそうに話します。
森口さん
職員が1人で持ってくるんじゃなくて、利用者さんと一緒にやることが当たり前のように根付いている。障がいのある人を「支援している」「仕事を与えている」ではなくて、一緒に地域に関わっていくんだっていうアクションを起こしているのが、暮らしランプだなと思います。
対人援助において、相手と息を合わせ、「交換」ができたと感じられたときに得られる感覚があると、森口さんは目を輝かせます。
森口さん
物を買う、人から褒められる、といったことでは絶対に埋まらない穴が満たされる瞬間や、心がほっとする瞬間があって。そういうことを面白がれる人と一緒に働きたいですね。もちろん光の部分だけじゃなくて、不完全で混沌とした闇の部分もあるし、乗り越えないといけない山もたくさんある。でも根気強く情熱を持って、一緒に乗り越えていける人と出会いたいと思っています。

良好な人間関係を築くことを大切に
設立から約8年が経ち、拡張するフェーズから統合して深めていくフェーズへと移行している暮らしランプ。組織の変化の一つとして、人事考課制度やキャリアパス制度を設け、マネジメント体制も整いつつあります。人材育成やマネジメントを主に担っているのは、法人設立時から理事を務めている佃知沙(つくだ・ちさ)さんです。
佃さん
私は大学卒業後に障がい者支援施設に就職し、その後、社会福祉士と園芸療法士の資格を取って、障がい者を雇用する特例子会社で働いていました。森口さんと知り合ったのは、第1子の育休中。園芸つながりで知人に紹介されて、「法人を立ち上げるから一緒にやらないか」と声をかけてもらったんです。初めは就Bがメインで、第2子の育休後はアトリエウーに主に関わるようになりました。

今年4月には他の事業所も含めた全福祉事業の統括事業長に就任した佃さん。設立時から暮らしランプにずっと携わってきたなかで、どんなことを大切にして働いているのでしょうか。
佃さん
良好な人間関係は、人が幸せに暮らす上でとても大切。例えばアトリエウーの創作活動では、利用者さんと誰が関わるかによって作品が大きく変化するんですよ。絵に使う色もどんどん変わっていって、「次はどうなるんだろうね」とみんながワクワクしているのがすごく面白くて。利用者さんと関わるのは、人生に触れるということなので、もちろん責任が生じます。でもそれを一緒に楽しんでやれるかどうかだと思っています。
職員と利用者との人間関係だけでなく、職員同士の関係も同じように大切だと、佃さんは続けます。
佃さん
もしお互いが対等ではなく、どちらかが上から見ていると、バランスが崩れてうまくいかない。バランスよく良好な関係を築くためには、目の前にいる人をどこまで思えるか。相手を気遣うとか、相手の立場になって考えるとか、本当にちょっとしたことの積み重ねなのかなと思います。そういう意識を持てる人と一緒に働けるとうれしいですね。

今回の募集では、福祉の仕事の経験は問いません。実際これまでも、暮らしランプに入職する人は6~7割が未経験者だそうです。
佃さん
私自身も福祉系の大学を出たわけではなく、未経験からのスタートでした。現場で働きながら、知識と経験をリンクさせて積み上げていくのは良い方法じゃないかなと思います。先入観なく利用者さんと接することができるのも未経験者の良いところかもしれませんね。
長年この仕事に携わってきた佃さんに、ずっと続けてこられた理由を尋ねてみると、「私も森口さんも一緒だと思う。利用者さんと一緒に過ごすのが好きなんです」とにっこり笑います。
佃さん
ベースにある気持ちはずっと変わらないです。予想していないことが毎日いっぱい起こるけれど、それが面白いし、ほっとできる瞬間でもある。この仕事を辞められない理由の一つなのかなと思います。今後も、私自身が「こうしたい」というのはあまりないですが、職員や利用者さんのやりたいことが形になっていくのがすごく楽しみだし、そのためのサポートをしていきたいなと思っています。

できる/できないではなく、アクションしてみる
ここからは、アトリエウーで働く職員の方たちにもお話を伺います。1人目は、2022年6月に入職した亀田光仁(かめだ・みつのり)さん。高校の福祉コースを卒業後、日中は保育士として働きながら、夜間の写真専門学校へ。その後、東京でカメラマンの仕事をしていたという経歴の持ち主です。
亀田さん
東京で働いていた頃に結婚し、妻の希望もあって出身地である関西に戻ってきました。そのタイミングで、高校で勉強していた福祉の仕事を1度やってみたいと思い、働きはじめたのが暮らしランプの放デイ「あくあ」でした。

当初は、派遣スタッフとして放デイで働きながら、フリーのカメラマンとしても活動していた亀田さん。その後、暮らしランプに入職し、現在はアトリエウーで生活支援員の仕事をしています。また、暮らしランプのWebサイトやチラシ、SNSなどの写真撮影も担当しています。
亀田さん
暮らしランプは自由度が高い事業所だと感じていたので、カメラの経験も生かせるかもしれないと思いました。面接で森口さんと話したときも、カメラマンの経歴を肯定的に捉えてくださったのがうれしかったですね。
高校で福祉を学んでいたものの、現場で仕事をするのは初めて。実際に働いてみて感じるギャップはなかったのでしょうか。
亀田さん
福祉=支援する側/される側という一方通行ではなく、相互に学びがあると知ったのは、良い意味でのギャップでした。創作活動やコーヒーの仕事をサポートするなかで、利用者さんの個性や表現の豊かさにふれて、自分自身が新しい価値観を発見できると感じましたね。

利用者の方のポジティブな変化を感じられたとき、大きな喜びややりがいを感じると亀田さんは話します。
亀田さん
放デイからアトリエウーに通うようになった子が、初めは環境の変化に慣れずに叫んだり暴れたりしたことがありました。でも、絵を描く、折り紙をするなど、彼女のやりたいことが少しずつできてきて。最近1番驚いたのが、彼女が描いた絵をコーヒーのラベルのデザインに落とし込んだら、ラベル貼りの作業ができるようになったんですよ。最初は「そんな仕事したくない」と言っていたのに。そういった変化を一緒に喜べる仕事ですね。

ただし、決まった正解はなく、一人ひとりに合わせた関わり方を模索しつづける日々だと亀田さんは笑顔で付け加えます。
亀田さん
やってみてダメだったことのほうが多いんですよ。でも、ハプニングが起きたとしても、その現象自体を面白がったり、模索する時間を楽しんだり。できる/できないではなく、まずアクションしてみる。そして、事業所の中だけに留まらず、社会との接点につなげていく。それが暮らしランプらしさなのかなと思います。
日々の変化を共に喜び、楽しむ仕事
次にお話を伺うのは、2023年4月に新卒で入職した平岩佐和子(ひらいわ・さわこ)さん。2022年に掲載した京都移住計画の記事がきっかけで、暮らしランプを知ったそうです。
平岩さん
事業所に見学に行ったとき、飾られていた絵がとても素敵だったんです。どんな人が描いているのか知りたいなと思って、職場体験にも行かせていただいて。そのときに、利用者さんたちのまっすぐなところ、自分をしっかりと持っているところに惹かれて、この人たちのことをもっと知りたい、一緒に活動してみたいと思って入職を決めました。

入職以来、アトリエウーの生活支援員として、利用者の送迎、創作活動やコーヒーの仕事のサポート、イベント出店など、さまざまな業務を担当している平岩さん。文学部出身で、福祉の知識や経験はなかったそうですが、どのように仕事を覚えていったのでしょうか。
平岩さん
わからないことや困ったことがあれば先輩に相談しながら、一つずつ覚えていきました。利用者さんとの接し方は、特に決まったマニュアルなどはなく、週1回のミーティングで情報共有しながら進めています。現場で学ぶ以外にも、外部講師を招いた社内研修が年に数回あるほか、京都市が行う研修にも参加できるので、勉強の機会はたくさんありますね。

亀田さんも話してくれたように、平岩さんも利用者の方たちの日々の変化にやりがいを感じていると言います。
平岩さん
利用者さんがやりたいことやできることを一緒に見つけていくために、どんな声かけをして、どんな方法を提案するか、試行錯誤しています。利用者さんが自ら進んで取り組んでくれるようになると、すごくうれしいですね。心がけているのは、少し様子を見ただけで「できない」と決めつけないこと。例えばコーヒー豆のピッキング作業でも、うまくいかなかったら量を減らして、まずは5粒から始めてみるなど、いろいろな方法を試すようにしています。
とはいえ、「うまくいく方法が見つかるまでが大変なんですけど」と平岩さんは笑います。
平岩さん
「どうしたらいいんだろう」と悩むこともありますが、日々のコミュニケーションを積み重ねていくことが大事だなと思います。困ったときはミーティングの場で先輩たちにアドバイスをもらうことも多いです。相談しやすい環境なのはありがたいですね。

これからどんな人に仲間に加わってもらいたいですか?と尋ねると、平岩さんはこんなふうに話してくれました。
平岩さん
アトリエウーは30代以上の職員が多いので、同世代の人が来てくれたらうれしいです。私も未経験でしたが、利用者さんのことをもっと知りたい、話してみたい、という気持ちがある人なら、きっと楽しく働けると思います。
職員の皆さんのお話を聞いて、一人ひとりのバックグラウンドやキャリアは違っても、利用者の人たちと一緒に過ごす時間を心から楽しんでいることは共通しているように感じました。そして、「暮らしの少し先」がポジティブに変化する可能性を感じてこの場所に集まってきているのは、スタッフも利用者の人たちも同じなのかもしれません。
「交換」の文化を社会に伝播していく
新しい仲間を迎え、これからの暮らしランプはどんな未来を描いていくのでしょうか。最後に、森口さんに伺いました。
森口さん
弱さや欠点はその人と関わり合う余白だということを、もっと社会に伝えていけるような実践を積んでいきたいです。利用者の人たちと過ごす時間を日々面白がりながら、この考え方を伝播していくと、20年後の社会がちょっと面白く、寛容になっているかもしれない。そんな未来につながる気づきやイグニッション(点火)の役目ができるといいですね。今後も変わらず等身大で続けていく法人でありたいし、これから出会う人たちと作っていく未来を楽しみたいなと思っています。

“私たちは福祉が人と人との間にあると心地よいものだと信じています。また福祉は与えるものでも、与えられるものでもなく、ただ大切な人の幸せを願う気持ちが交換され続けてきた大きな循環だと知っています。”
取材後に受け取った暮らしランプのパンフレットには、こんな言葉が書かれていました。この思いが背景にあるからこそ、初めて訪れた自分も温かく心地よい時間を過ごせたのかもしれないなと感じました。彼らの思いに共感し、一緒に未来を作っていきたいと感じた人は、まずは施設見学に足を運んでみませんか?




執筆:藤原 朋
撮影:水本 光
編集:北川 由依
求人募集要項
企業名・団体名 | 一般社団法人暮らしランプ |
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募集職種 | 生活介護・生活支援員 |
雇用形態 | 契約社員 (試用期間入社後3ヶ月) ・試用期間前後での勤務条件に変更なし ・年1回、正職員登用試験あり |
仕事内容 | 障がいのある方の通所事業での生活介護や生活支援のお仕事です。 【主な仕事内容】 アトリエ活動(創作活動、余暇支援等)の補助 作品展示企画、グッズ制作 食事やトイレの見守り、介助 送迎 など |
給与 | 基本給190,000円 以上 ・残業時間に応じて別途支給 ・通勤手当あり(上限20,000円) |
福利厚生 | ・有給休暇(6カ月以上勤務)あり ・各種保険(雇用、労災、健康、厚生)加入 |
勤務地 | ・京都府京都市西京区大枝沓掛町9-7 ・京都府京都市西京区大原野西境谷町 |
勤務時間 | 8:45~17:45(休憩1時間) |
休日・休暇 | 年間休日数:126日(令和6年度実績) 週5日勤務(月曜日〜土曜日シフト制) 日曜日、祝日休み ※職員研修のため年に数回の土曜日出勤あり(シフト調整します) 有給休暇、産前産後、育児・介護休暇 慶弔休暇、GW・夏季・正月連休あり |
応募資格 | 歓迎する方 ・アート活動に興味のある方 ・デザインするのが好きな方 ・人と関わることが好きな方 必須要件 ・車の運転ができる方 必要な資格|普通運転免許 |
選考プロセス | 京都移住計画の応募フォームから応募 ↓ 職場見学 ↓ 面接・適性検査 ↓ 内定 ※職場見学のみも可能ですので、お気軽にご連絡下さい。 |
面談場所 | 京都府 京都市 西京区 大枝沓掛町9-7 ※オンライン面談も可能です。 |
参考リンク | ホームページ:公式サイト Instagram:暮らしランプ、atelier uuu |