募集終了2017.03.19

変化を求め続ける京友禅体験工房。伝統工芸の未来を世界に伝え広げる挑戦

近年の情報テクノロジーの発達によって、人々の生活は大きく変わり、外国人観光客が増え続ける昨今、次世代の伝統工芸の在り方が問われています。

そんな時代の変化に合わせ、事業継承を視野に入れた新たな挑戦を仕掛けようとしている会社が、今回求人を紹介する「丸益西村屋」です。

丸益西村屋は、およそ110年間ほど前に京友禅の工程の1つ「引き染め」を担う工房から始まり、工芸染色の道を一筋に携わってこられました。しかし、時代の流れと共に日常的に和服を着る生活ではなくなり、京友禅は身近なモノから伝統工芸に変化を遂げました。そこで、まずは現代の人々に友禅の魅力を知ってもらう必要があると考えた丸益西村屋は、約17年前に「京友禅体験工房」として生まれ変わりました。

丸益西村屋を訪れると、まず目に飛び込んでくるのは、「ウナギの寝床」と表現される京町屋独特の奥へ、奥へと続く石畳の玄関。築80年以上の歴史的建造物だそうです。のれんを潜り、店内に入ると、想像していた伝統工芸の友禅のイメージとはかけ離れた、モダンで可愛らしいデザインのポーチやスマホケースといった和雑貨が並べられていました。

京友禅への熱い思いをかけた挑戦

出迎えてくださったのは、西村屋3代目当主の西村良雄さん。自身が伝統工芸士でもある西村さんは、その人生の殆どを友禅と共に歩んでこられました。長年、変化し続ける時代のエッセンスを友禅に取り入れ続けてきた西村さんに、今回の求人にかける思いをお聞きしました。

「親から受け継いだ染工場ですが、私が40歳前半の頃、まさに過渡期を迎えたと感じていました。時代と共に変わらなければ、このまま友禅で食べていくのは難しくなる。この状況をどうにか打破したい!という思いから、公益財団法人の京都産業21が主催していた異業種交流会に顔を出していました。その交流会に参加していた人たちから影響を受け、友禅の体験工房をしようと思ったんです」

西村さんが体験工房を立ち上げた当時は、伝統工芸を体験として提供する概念は少なかったといいます。今では、そう珍しくない京町屋の再生も、「立て替えた方が簡単なのに」という声が多かったそうです。しかし、京都という地域の良さや町屋の価値をどうにか残したいと考えた西村さんは、多くの協力のもと1.5億ほどの大金を集め、京町屋の再生・保存に取り組まれました。時代の流れを的確に捉えた西村さんの京町屋は、多くのメディアやロケ地として取り上げられました。

「新しいことに挑戦することは、とても大変でした。それでも、世界でオンリーワンの体験工房を目指すんだ!という思いだけで続けてきたのですが、世間に受け入れてもらえるまでに時間がかかりましたね。最初の2〜3年は厳しい状況でしたが、4〜5年経った時に旅行業と連携することで、修学旅行生が沢山来てくれるようになりました。しかし、今の体験工房を立ち上げてから、17年の時が経ちました。もう一度、伝統工芸をイノベーションしないといけない時代になったと感じています」

世界でオンリーワンの体験工房を目指して

体験工房を見学させてもらったところ、若いスタッフの方が台湾のお客さんに英語で友禅について説明している姿を見ることができました。工房にはハンカチ・ブックカバー・Tシャツなど日常で使用する様々な布製品が、所狭しと並んでいます。何を作るのかを決めたら、数千ある型紙から好きなデザインを選び、無地の布を染料で色鮮やかに染め上げていきます。

型紙をめくった時に、浮かび上がる紋様を見た時の感動は、この工房でしか体験できないもので、既製品を見ただけでは知りえない京友禅の価値を感じられます。京町屋という古きを日常に溶け込ませた環境で、言葉がわからなくても、自分の目や手で京都の伝統に触れられる貴重な空間が、ここにはありました。

2020年の東京オリンピックの影響もあり、外国人観光客が年々増加している世界的な観光都市である京都で、数百名規模で友禅が体験できる民間企業は、丸益西村屋くらいなのだそうです。経済産業省にも地域資源として認定を受けている丸益西村屋では、外国人観光客にも楽しんでもらえるように英語や中国語などの多言語に対応して、おもてなしの工夫を重ねてこられました。

「私は友禅に対して、出来上がった時の色のバランス・デザインなどの仕上がりに喜びや魅力を感じています。そんな友禅の魅力をいろんな国籍の方に伝えていきたいという思いだけで一生懸命やってきましたが、私と同じ喜びをもってくれるかどうかは、いつも不安です。これから先、どんな風にオンリーワンを目指していけばいいのか、実は私にも分かっていないのです。ただ、こんな時代だからこそ、Face to Faceのサービスが求められているのかもしれないなぁ、と感じています」

今も現役として、日々現場で仕事をされている西村さんだからこそ、リアルに体感しているありのままの悩みを語ってくださいました。

友禅への思いとイノベーション

こちらが質問するたびに、「どうしたらいいかなぁ」と反対に質問を投げ返す西村さんは、常に時代を追いかけるヒントを探している様子でした。丸益西村屋のお店には、友禅のエッセンスを取り入れた技法で、現代的なデザインの製品が多く販売されています。そんな風に若いスタッフの感性や意見を積極的に取り入れてきた空気を感じることができました。しかし、同じ業界からの逆風もあったと西村さんは言います。

「こんなものは友禅じゃない、と厳しい批評をうけることも、たくさんありました。でも、どうやって友禅を伝えて残していけばいいのかなんて、本当は誰も次の答えを見つけていないんですよ。だからこそ、新しい発想を持った人に来てほしいと思います。友禅に対する思いや意欲さえ、根底にあれば大丈夫。最初から友禅のスキルや知識のある人は求めていません。言語・WEB・デザイン・広報・経営・プロデュース…なんでもいいんです。一芸に秀でた人こそが革命を起こせると考えています」

伝統工芸が廃れようとしている厳しい状況の中で、西村さんが体験工房を続けてこられた理由についてお話を伺ったところ、「立ち上げるときに多額のお金をかけてしまったから、後には引けないという部分もあるけども、お金じゃないんです。理念さえあれば、お金の不安はなくなりました。ただただ、必死だったんです」と仰っていたのが印象的でした。

京都は、時代の先を行くような企業もあれば、古い伝統工芸のお店も息づいていて、それがビジネスとしてうまく成り立っているエキサイティングな街。この土地で、古いものと新しいものがうまく合わさった時、今までに無かった発想が生まれるのかもしれません。

小さい組織だからこそ実現できること

次に、実際に体験工房で働いておられる、江守さんと川勝さんにお話を聞いてみました。

左:江守さん 右:勝川さん

営業・企画に携わっておられる江守タカヒロさんは、元々は土木系のコンサルタントというキャリアを歩んでこられたそうですが、ものづくりが好きで、伝統産業に興味を持ち、10年前に入社されました。丸益西村屋との出会いは、どのようなものだったのでしょうか?お話を聞いてみました。

「昔、西村屋の中に竹工房があったんです。そこでものづくりをしていた知人に会うため、遊びに来ていたことがきっかけでした。友禅そのものに興味があったという訳ではないんですが、日本的なデザインが好きだったので、やってみようと思いました。最初は、自分に自信がなかったんですが、修学旅行や観光など、全国からお客さんが来られる場所なので、人と話すことに関して度胸がついたように思います」

江守さんは、コンサルタントで経験していたスキルを活かして、体験工房の接客だけでなく、徐々に外との関わりが増えていき、現在はスタッフをマネジメントする立場になったといいます。

江守:従業員は17人程度の小さい会社なので、基本はマルチタスク。これさえやっておけばいい、ということはありません。うちは比較的女性スタッフが多いので、マルチタスクが得意な人が多いのだと思いますが、一つのことだけをずっとやっていたい職人タイプの人には向いていないかもしれません。伝統工芸を継承するのは時間もかかる為、なかなか難しいけれど、体験工房の仕事は、職人がやっていることを分かりやすくして、通訳して伝えることだと私は考えています。

基本的に業務はシフト制なので、全員が揃うことは少ないそうですが、「ものづくりが好き」という共通項で結ばれているのだと江守さんは語ります。

丸益西村屋で働く方々の年齢層は、20代後半〜30代前半という比較的若いスタッフで構成されています。友禅というイメージからすると意外に感じるかもしれません。だからこそ、ある意味格式化された伝統工芸産業において、やりたいと思ったら実現しやすい環境があるというのは貴重なチャンスではないでしょうか?

江守:観光シーズンなどは落ち着く暇がないのですが、オフシーズンには、自分の作りたいものを作れる時間が生まれるので、そういう時に自分がやりたいことを提案してみたり、製品を作ることができます。私は、ものづくりの時間を増やす為に、作業を効率化するルール作りや経理的な業務もこなすようになってきました。

では、どのように自分のやりたいことを実現されてきたのか、江守さんと同じく、営業・企画を担当されている川勝さんにお話を伺いました。

川勝さんは、大学でテキスタイルを専攻していて、前職では一日中機織りの前に座って仕事だったそうです。そこは完全分業スタイルで、自分が作った製品が最終的にどうなるのか知れず、フラストレーションが溜まっていたと語ります。

川勝:前職で悩んでいた時に、丸益西村屋で働いていた先輩に紹介して頂いて、4年前に入社を決めました。ここでは、自分で染めたものを縫って、販売することができました。お客様の顔をみながら自分の商品を作ることに喜びを感じることができたんです。だからこそ、もっといろんなお客様と喋りたいと思い、好きだった英語を活かすために英会話スクールに通いました。

好きなことを仕事にするということは、とても素晴らしいものです。しかし、仕事としてやっていくには大変な部分も必ずある、ということを川勝さんは語ってくださいました。

川勝:体験工房の仕事は、人と人が接する場所ではあるものの、ものづくりの行程はルーティンワーク。たった1日で1000人の相手をしないといけないこともあり、ヘトヘトになります。でも、それを乗り越えれば、必ず自分の時間を維持できるようになります。これが作りたい!という思いさえあれば、いろんな人が協力してくれて、たくさん意見が出る環境なので、最終的には必ず実現できると思います。

一針一針を丁寧に仕上げ、平面の布を立体的な商品にする瞬間が楽しくて仕方がないと語る川勝さんもまた、ものづくりが好きという思いが根底にあったからこそ、大変なことを乗り越えてこられたのでしょう。

お二人にとって、丸益西村屋はどんな会社なのでしょうか?

会社に対して、期待していること・課題に思っていることについて聞いてみました。

江守:西村が高齢ということもありますが、後継がいないことが、まず一番大きな心配ごとですね。現状も知った上で、それでも挑戦したいと思ってくれる視野の広い人に来てほしいと思いますし、そういう人をサポートできる環境をつくりたいと思っています。

川勝:今は、長年働いているスタッフが多く在籍しているので、新しいことにチャレンジできる余裕があると思います。起爆剤さえあれば、もっと変われると感じています。うちは3代続く老舗なので、京都人特有の言わなくても察する能力が必要な時もありますが、スタッフの中に、生粋の京都人はほとんどおらず、大学が京都だったからという人が多いので、安心して来てください(笑)。

普段の生活では、「友禅」をはじめとする伝統工芸に触れるチャンスはなかなかありません。しかし、京都という土地には、何百年と築きあげ洗練された美と技が「伝統産業」として息づいています。そこに光を当て、新しい価値を見出したいと思っている若い人が活躍できる環境が整った場所は、日本中探しても、そうそう見当たらないのではないでしょうか。

時代の変化に対応しながら、伝統工芸で食べていくということは、決して簡単な道のりではないと思います。富を豊かさと捉える人には、満たされない環境かもしれません。しかし、何よりも人と人の繋がりを大事にする意味や、自身の信念を大事にしたいと思っている人には、生きがいの感じられる仕事だと思います。

伝統を革新し続けてきたまち、京都。

丸益西村屋と共に、京友禅とあなた自身の新たな生きる道を切り拓いてみませんか?

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