募集終了2022.11.25

新たなチャレンジをつづける織元で。西陣織の未来を担う機織り職人

西陣のまちを歩くと聞こえてくる、「カシャン、カシャン……」というリズミカルな機織りの音。このまちを訪れたことがなくても、西陣という地名を聞けば、まず西陣織を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

今回ご紹介するのは、日本を代表する伝統工芸の一つ・西陣織の織元として、120年の歴史を持つ「有限会社フクオカ機業」。伝統を継承するため、若い職人の育成に取り組んでおり、機織り職人として未経験からチャレンジする人を募集しています。

西陣織のことはよく知らないし、ちょっとハードルが高いかも……。そう感じた人も、少しでも興味があればぜひ読んでみてください。京都が好き、伝統文化が好き、ものづくりが好き、そんな気持ちを持つあなたにぴったりの仕事かもしれません。

創業120周年、西陣呼称555年の節目に

西陣織の起源は古墳時代とも言われ、京都北西部の一帯は古くから織物のまちとして栄えてきました。1467(応仁元)年に起こった応仁の乱を機に、「西軍の陣地跡=西陣」と呼ばれるようになり、西陣織という名称が定着したと言われています。

そんな西陣の地で、1902(明治35)年に創業したフクオカ機業。四代目社長・伝統工芸士の福岡裕典(ふくおか・ひろのり)さんは、「このエリアが西陣と呼ばれるようになって、今年で555年。その年に私どもの会社が120周年を迎えました」と感慨深そうに話します。

そもそも西陣織とはどんなものなのでしょうか。西陣織の定義や特徴について尋ねると、四代目女将の福岡斗紀子(ふくおか・ときこ)さんが詳しく説明してくれました。

「西陣織は、西陣織工業組合に所属する機屋さんが国内で製造した先染(さきぞめ)の紋織物。先染は名前の通り、布を織る前に糸や繊維を染色します。紋織物とは、組織を組み合わせたり色糸を使用したりして複雑な紋様を織り出す織物のこと。うちの場合は、地紋と上紋を別々の組織で織るので、二倍(ふたえ)織物と呼ばれています」(斗紀子さん)

「地紋はこの模様で、上紋はこの模様、地色はこの色で」といったオーダーメイドにも対応

西陣織にはおよそ20の工程があり、それぞれが分業制。フクオカ機業では、デザインから糸染め、織りまでの工程を手がけているため、完全オーダーメイドの注文にも対応できます。「西陣織と同じで、私たち夫婦も分業制。夫が作る人で、私が外向けに発信する人なんです」と斗紀子さんは笑顔で話します。

「伝統と革新」を掲げ、新素材にチャレンジ

フクオカ機業は、帯や着物といった絹織物だけでなく、新しい素材の織物にも積極的に挑戦しています。1998(平成10)年に代表取締役に就任した裕典さんは、新規事業としてカーボンファイバー事業を立ち上げ、炭素繊維とアラミド繊維を組み合わせた特殊織物を開発しました。

「私が入社した1989(平成元)年当時は、まだ作れば作るだけ帯が売れるような時代でした。しかし、バブル崩壊と共に売上は激減。それでも少ない人数で帯や装束を作りつづけてきましたが、やはり年々売れなくなっていくのを肌で感じていました。そこで、全く違った素材を使って独自の事業を始めることにしたんです」(裕典さん)

阪神・淡路大震災の際、建物の補修工事に炭素繊維が使われていることを知り、関心を持った裕典さん。しかし炭素繊維は、非常に丈夫で引っ張っても切れない強度を持つ一方で、折れや擦れに弱いという欠点がありました。

「経糸と緯糸が交差する織物では、織る時に繊維同士が擦れて毛羽立ってしまいます。この毛羽立ちを抑えるため、10年かけて織機を改良し、安定して生産できるようになりました」(裕典さん)

フクオカ機業が独自で開発し、商標登録した「西陣カーボン」は、カバンや財布といった服飾雑貨、車の内装・外装、釣竿、ゴルフクラブのシャフトなど、多岐にわたる分野で採用されています。

「漆黒のテキスタイル」と評される西陣カーボン。各分野のデザイナーから高く評価されています

「西陣カーボンは、あくまでも西陣織の技術がベースになっています。今までと全く違うことをしているわけではなくて、技術を生かしながら使う素材を変えたということですね」と斗紀子さん。炭素繊維の次には、再生ペットボトル繊維にも挑戦し、今年5月には再生ペットボトル繊維織物の新ブランド「Reperic(リペリック)」も発表したと話します。

「伝統と革新」をビジョンとして掲げ、新たなチャレンジに次々と取り組んでいるフクオカ機業。そのチャレンジを支えているのは、ものづくりに対する強い思いです。

「紋紙(もんがみ)」と呼ばれる、ジャガード織機で図柄を織るための型紙が、工房にずらりと並んでいます

「京都はものづくりの都市。北部には西陣織や京友禅、京焼・清水焼といった伝統産業がたくさんあります。一方、南部では、京セラや任天堂など世界に通じる先端産業が発展しています。私の目標は、伝統産業の技術を先端産業に生かせるようなものづくりをすること。ものづくりの都市で、若い人たちにものづくりの楽しさをもっと伝えていきたいんです」(裕典さん)

ものづくりを追求する、飽くなき探求心

ここからは、株式会社ツナグムのタナカユウヤさんにもお話に加わっていただきます。フクオカ機業との出会いは、2019年に京都市が策定した「西陣を中心とした地域活性化ビジョン」の委員として、裕典さんとタナカさんが参加したことがきっかけでした。

「先進的な取り組みをしている西陣織の織元の一つとして、フクオカ機業さんのことは以前から知っていました。地域活性化ビジョンでご一緒してからは、西陣織に関心のある人を連れて行って工房見学にお邪魔したり、新たな取り組みを始める時には互いに相談し合ったりするなど、ずっとお付き合いをさせていただいていますね。西陣織を軸としつつ、カーボン、さらには再生PETと、常に新しいものづくりに挑戦されているという印象があります」(タナカさん)

そんなタナカさんの言葉を聞いて、すかさず「飽くなき探求心やね」と斗紀子さん。「ご先祖さまからベンチャー気質があるんですよ。大正時代に、ドラム式整経機という機械を西陣で初めて導入したのもフクオカ機業。時代に応じて必要とされるものを、新しい技術を使って作っていくベンチャー的な社風があると思います」と語ります。

さらに裕典さんも、「新しく仲間になってくれる人も、『こんなことをやってみたらどうですか』と提案してくれたり、私たちと一緒に考えてくれたりする人がいいですね」とつづけます。フクオカ機業で働くには、集中力や手先の器用さといった職人としての適性はもちろん、ものづくりへの探求心や好奇心も必須と言えそうです。

しかし、創意工夫が必要なのはもちろん、職人としての日々の仕事は地道な作業の繰り返しであることもしっかり理解しておかなくてはいけません。

「やっぱり手間暇がかかるし、コツコツと取り組まないといけない仕事だから、根気がない人や飽きっぽい人にはできない。1日8時間やっても、数10cmしか進まないような織物もありますから」(斗紀子さん)

また、職人として一人前になるには、5年から10年はかかるという厳しい世界。「未経験からどうやって技術を習得していくんでしょうか」とタナカさんが問いかけると、2人はこう答えます。

経営者であり職人でもある裕典さん。高度な技術・技法を保持する「伝統工芸士」に認定されています

「今働いているメンバーは、ほとんど異業種からの転職組です。初めは朝から晩まで糸結びの作業。それから、糸をかけていない空っぽの織機でひたすら練習します。でも、早い人なら1週間ほどで、実際に織る練習をスタートしていますよ」(斗紀子さん)

「私が若い頃は『先輩の仕事を見て学べ』という時代もありましたが、今はベテランも若手も一緒になって、みんなで新人を育成していく体制ができています。後輩を指導することが、若手の職人の成長にもつながっていますね」(裕典さん)

自分の「好き」を大切に、ワクワクする仕事を

職人の皆さんは、どんな時に仕事の喜びややりがいを感じているのでしょうか。そう尋ねると、「こんなところに採用されたとか、褒めてもらったとか。そういうやりがいが大きいよね」と斗紀子さん。裕典さんも、「帯や着物を織るだけではなく、うちの製品はいろんな分野で採用されているし、表彰してもらうような機会もあるしね」と頷きます。

例えば、祇園祭の綾傘鉾の天蓋部分は、昨年新調された際にフクオカ機業でデザインや織りを担当したもの。ホテルのエントランスロビーの装飾として使われたこともあるそうです。

「何十年も先まで残るものを、『あれは私が作ったんやで』と言える。そんな仕事、なかなかないでしょう?普段から私は、『あなたが織ってくれた着物と帯やで』って、織った子に着て見せるようにしているんですよ」(斗紀子さん)

「自分が作ったものを『あの人が着てくれている』とか『あの人のために作ろう』という実感を持てるっていいですよね。フクオカ機業さんならではの魅力だなと思います」(タナカさん)

自社で糸染めも手がけているからこそ、よりオリジナリティのある商品が生まれます

これから職人を目指す人に向けて、裕典さんと斗紀子さんはこう語ります。

「『自分はこんなものづくりをしたい』と夢を持って仕事をしてほしい。最初の数年は大変かもしれないけど、織る技術が身に付いてきたら、ちょっと時間のある時に、自分で柄を作ったり糸を染めたりすることもできます。そうやって自分のオリジナリティを生かしたものづくりができるようになってくると、仕事はもっと楽しくなるんじゃないかな」(裕典さん)

「織り手さんでも、指示通りに織るだけじゃなくて『こういう配色にしたらもっとかわいいと思います』と提案してくれる子もいますし、『じゃあ次に織ってみようか』と新しいアイデアにも柔軟に対応しています。やっぱり一番大事なのは、この仕事が好きっていう気持ち。伝統文化やものづくりに興味を持って、ワクワクしながら仕事をしてもらえたらいいなと思っています」(斗紀子さん)

西陣織を後世に伝えていくために

120周年の節目の年に新しいメンバーを迎え入れることになり、「ここからがまた元年やね」とにっこり笑う斗紀子さん。「今後は外部とのコラボレーションももっと増やしていきたい」と話すと、タナカさんもこうつづけます。

「僕たちツナグムのメンバーや、産業廃棄物をアップサイクルしたアクセサリーを展開する『sampai』など、外との協働もたくさんされていますよね。今後、職人さんの人数も増えていけば、チャレンジの幅もさらに広がっていきそうですね」(タナカさん)

最後に、西陣織や西陣のまちについて、3人はこんなふうに語ってくれました。

「伝統的な絹織物も、カーボンなど新しい素材を使った織物も、どちらも西陣織。『どっちもいいよね、素敵やね』っていうものづくりをしていかないと。西陣織を後世までずっと残していくために、どんな文化の中にも入っていきたいですね」(斗紀子さん)

「新しいものづくりについてはうちに相談が来ることが多いので、いずれはうちに来た仕事を、西陣の他の会社さんとも協力し合って請け負えるようになっていけたらいいですね。そのためにも、これからもしっかりと信頼関係を築いていくことが大切だと思っています」(裕典さん)

「最近は業界内で若い世代も増えていますよね。フクオカ機業さんのこれからの動きが、業界や西陣全体を盛り上げていくだろうと期待しています。ぜひものづくりが好きな人に仲間に加わってもらって、若い職人さんたちがどんどん育っていくとうれしいですね」(タナカさん)

カシャン、カシャンと心地よい機織りの音を聞きながらのインタビュー。何十年、何百年先も、西陣のまちでこの音がつづいていくように、次の世代の職人さんが育っていくといいなと感じました。

機織り職人の仕事に少しでも興味を持った方は、ぜひ一度工房見学に訪れてみてください。フクオカ機業の皆さんのものづくりへの熱い思いがきっと感じられるはずです。

編集:北川由依
執筆:藤原朋
撮影:進士三紗

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