株式会社京都製作所は、京都市南区にある久世工業団地の一角で金属加工業を営むモノづくり企業。中国アジア圏の製造業が安価な労働力を武器に台頭するなか、持ち前の高度な技術力で国内大手メーカーとの取引を継続させてきました。同社では今回、ベテラン社員から中堅・若手社員へ引き継がれた技術やノウハウをさらに拡充させるため、複数の部署で新たな人材の募集を行っています。
現在、京都製作所を率いているのは、機械製造業では珍しい女性社長、鶴田亜依子さん(以下、鶴田社長)。明治35年に窯業用機械メーカーを立ち上げた初代の曾孫にあたり、父である前社長の急逝にともない、2009年に社長職を引き継ぎました。先代の娘というだけでなく、約10年にわたり経理担当者として同社を支えてきた実務経験を買われての抜擢でした。
「自分に社長が務まるのか不安でしたが、ご先祖が長い間かけて築き上げてきたことを簡単にやめるわけにはいかない、やるしかないという思いでした」と当時の心境を振り返ります。
そんな鶴田社長をそばで支えてきた人が、夫で取締役営業次長の鶴田裕彦さん(鶴田次長)です。2008年の結婚を機に大手機械メーカーから同社へ転職し、現在は勤続40年のベテラン営業社員とともに取引先や協力企業との関係強化に尽力しています。
「彼はいい意味でドライというか、物事を客観的に見ることができる人。私や古参社員からは出てこないような意見が聞けてすごく助かっています」と、鶴田社長も信頼を寄せています。
一方、鶴田次長は鶴田社長を次のように評価。
「先代と同じく、基本的に現場は社員に委ねて、のびのびと働けるように意識しているようです。かと言って現場に任せっきりというわけでもなく、日頃からコミュニケーションを取りながら、一人ひとりの様子などを気にかけていますね」。
現在、従業員数は20名。下は30代から上は70代まで幅広く、そのほとんどが京都製作所のモノづくりを支える金属加工のプロフェッショナルです。
ひとくちに金属加工といっても、切削(フライス)加工、放電加工、研削加工などさまざまな手法があり、それらの組み合わせによって一つの部品または製品が作り上げられます。
同社ではマシニングセンタと呼ばれる高性能加工機と職人の熟練技能の合わせ技により、1000分の1mmレベルの高精度な注文や、金属を鏡のように磨き上げる鏡面仕上げなどの特殊加工の注文に対応。
しかも、単品の製作のみならず、100点近くの部品を組み立ててユニット化する一貫生産システムまで整えています。技術者たちは各種加工、組立、検査などの工程に分かれ、連携を取りながらそれぞれの作業に打ち込んでいます。
また、受注内容や納期などの状況に応じて、工程の一部を任せられる外部の協力企業が100社近くもあるそう。
大半は数名規模の小さな事業所であるものの、特殊加工に抜きん出ていたり、対応がすこぶる早かったりと、各社とも何らかの得意技を持つ、京都製作所のモノづくりを支える縁の下の力持ちです。
こうした内外の優れた技術の結集によって、京都製作所は揺るぎない信頼と実績を積み上げてきました。おもな取引先である東レ株式会社と系列会社との関係は30年以上におよび、実用化された製品のみならず、開発段階の試作品の製造を任されることもあるそうです。
「東レさんほどの大企業がうちのような規模の工場に直接依頼するというのは、近年とても珍しいことなんです。もっと規模の大きな企業が間に入って孫請けになることが多いなか、長年お取引ができるのは、やはりわが社を信頼していただいている証ではないかと自負しています」(鶴田社長)
大企業との強固な関係性を保つには、職人の技術力に加えて、直接交渉を行う営業社員の力も不可欠です。
先方から受け取った設計図に基づき、技術レベルや納期などあらゆる条件を鑑みて受注額を決めるためには、さまざまな技術の値打ちを理解していなければならないし、提示した金額でまとまらない場合に別の手立てを考え出す知識や提案力もなくてはなりません。
これらの仕事を現在は、長年営業として会社を支えてきたベテランの幹部と鶴田次長と営業社員の3人で切り盛りしていますが、ベテランの方はいよいよ退職間近。つまり、一刻も早く次の担い手を探さなければならない時期に差し掛かっているのです。
さらに、工場のほうでも新たな人材が必要とされています。
「ここ数年で何名かの社員が加わり、ベテランから若手への技術承継は完了しつつあるのですが、受注数の増加もあって人手不足が深刻化しています」と、鶴田社長は現状を説明。
特に不足しているのは、加工部門のフライス工およびマシニングセンタのオペレーター、部品の仕上げや穴あけなどを行う仕上げ工、そして部品の精度確認や洗浄・梱包など担う検査員の3職種とのことです。
営業職と合わせると、募集職種は全部で4職種。それぞれに求める要件を鶴田社長、鶴田次長ならびに各職種に関係する社員の方々にたずねました。まずは営業職から。
「営業は営業でも技術営業という特殊な分野になりますので、一般的な営業職の経験はあまり活かせないかもしれません。むしろ、営業以外でも何らかのかたちで機械製造に携わった経験があり、技術的な知識が多少なりともある方のほうが始めやすい仕事かもしれませんね」(鶴田社長)
そして、営業職の指導係となる鶴田次長は、「機械部品等のバイヤー経験があれば何よりですが、そういう仕事に興味を持っている方にぜひチャレンジしてもらいたいです」と希望。加えて、「いずれ大企業との交渉窓口になるポジションなので、物怖じせずに誰とでも話ができるコミュニケーション力もあるといいですね」と、対話力や積極性も重視しています。
工場の募集職種の一つ、フライス工・マシニングセンタオペレーターについては、生産課課長の野口光司さんにコメントをいただきました。
「フライスもマシニングも、機械部品を加工する仕事に変わりないのですが、加工方法に大きな違いがあります。フライスは人間が工作機械を動かして削り具合などを見ながら加工していくアナログな手法。かたやマシニングは、事前にプログラミングをすることで機械が自動的に加工してくれるハイテクな手法です。
両方こなせる経験者はもちろん歓迎ですが、未経験はダメというわけでは決してありません。かくいう私も最初は設計図がわかる程度で、実際に加工した経験はありませんでしたから。まずはフライスの経験を積んでから、マシニングのほうも習得してもらうのがいいかと思います」
同じく募集中の仕上げ工は、文字通り、加工した機械部品の仕上げをメインに、ボール盤などを用いた穴あけ作業なども手がけます。仕上げは品質を高める重要な工程であるため、「細かい作業、地道な作業が苦にならない人」であることが必須条件になるそうです。
では、そのあとに控える検査員に求められるものとは? まさに現在、検査員として働いている谷村敏行さんにうかがいました。
「出来上がった部品の寸法確認など、細部まで厳しくチェックする仕事なので、几帳面な人に向いている仕事です。ただ、丁寧さと同時に効率も求められるので、部品の性質やその時の状況などに応じて臨機応変に対応できる柔軟性も大切になってくると思います。それから、重さ数十キロの製品もざらにありますから、体力があるに越したことはないですね」
ちなみに検査員に関しては、他の職種に比べて「定着率が低い」ことが課題になっているそう。鶴田社長はその原因について「実際にモノを作る職種よりも達成感を得るのが難しいのかもしれませんね……」と推測していますが、実際のところはどうなのか。谷村さんに検査業務の「やりがい」をたずねました。
「確かに自ら何かを作って喜びを感じる仕事ではありませんが、みんなで作ったものを最後にきっちりと検査して、よいものをお客様にお渡しする、橋渡し役としてのやりがいはあります。また、経験を積むにしたがって、加工途中のものを測ってほしいと言って来てくれるようになり、みんなに頼られる存在になれたことにも喜びを感じています」
このように、職種ごとにさまざまな見解が述べられましたが、みなさんが口を揃えて発したのは「やる気と向上心のある人」「挨拶や受け答えがきちんとできる人」を求める声でした。工場全体を指揮する工場長の徳地亮さんも「その2点が備わっていれば、経験がなくてもやっていけるでしょう!」と太鼓判を押します。
「向上心があるかどうかで、成長の度合いは全然違ってきます。たとえば、メモをとったりしてあとで復習する人は、同じ失敗を繰り返さないし、仕事を覚えるのも早い気がしますね。うちは結構コミュニケーションが活発なほうなので、常識的な言葉遣いと態度で話ができる人なら、いろいろと教えてあげられると思います」
そんな徳地さんの発言に深く頷いていたのは、2016年末に総務人事担当として入社した森下さん。印刷会社の営業職を離れ、未経験のモノづくり業界へ飛び込んだ若手社員の一人です。入社当初は「厳しい職人の世界」をイメージしていたため、「そう簡単には受け入れてもらえないだろうけれど、なんとか辛抱しなければ!」と強い覚悟を胸に秘めていたそうですが……。
「身構えていたこともあって、みなさんの親切さに驚きました(笑)。機材の購入なども任されているんですけど、たとえば工作機械の刃物を買い換えるにしても多種多様にあって、素人の私はどれを選べばいいのかさっぱりわからななくて。そこで工場の人に、そもそも何に使う刃物ですか?どうやって加工するんですか?と初歩的な質問をたくさんしたのですが、一つひとつわかりやすく教えてもらえて本当に助かりました。
モノづくりは非常に奥が深くて、最初は苦労も多いと思いますが、積極的に学び取ろうとする意欲があれば、周りの人が必ず手を差し伸べてくれるはずです。こんなに面倒見のいい会社って、この業界では珍しいんじゃないかなと思います」
森下さんのように「意外と優しい」会社の実態に驚く人もいれば、工場勤務を始めて「モノづくりの自由度の高さ」に驚く人も少なくないそう。それは一体、どういうことなのでしょうか。
「同業他社に比べて、生産管理体制が緩やかなようですね。たとえば、時間内にこれだけの量をやりなさい、勝手に持ち場を離れてはいけないと、厳しく管理する工場が多いなかで、うちはそこまで縛らず、加工者がアイデアを出しながら従来より効率の良い加工方法を考案することもありますし、工具や設備の導入に際しては加工者の意見を重視します。
きっちりと管理された工場で働いてきた人は、返ってやりにくいと感じるかもしれませんが、自分の裁量であれこれ考えながらモノづくりができることをプラスに捉えてもらえるとありがたいですね」(鶴田社長)
現場に委ねる体制を維持できているのは、社長が社員を信頼し、社員がその信頼に応えつづけてきた証と言えるでしょう。そうした創意工夫を促すモノづくりの伝統を守る一方で、最新のマシニングセンタを導入するなど、品質向上、生産性向上に向けた設備投資にも力を入れ、着実に業績を伸ばしています。会社としての今後の展望を、鶴田社長は次のように語ります。
「現在、わが社で手がけている部品や金型の多くは、医療機器や電気自動車といった成長産業で活用されており、今後も需要の拡大が予想されます。将来を見据えて優秀な人材を育て、また新型の工作機械も随時投入しながら、難易度の高いオーダーにも応じられるようにレベルアップを図っていきたいと考えています」
最後に、勤務体制や通勤スタイルなど暮らしまわりの状況についてもうかがいました。鶴田社長によると、社員の大半は会社の所在地である南区をはじめ、伏見区、向日市、長岡京市など近隣区域に居住。通勤手段は車やバイク、自転車を利用する割合が多いそうです。
勤務時間は8時〜17時が定時で、遅くとも19時頃に退勤する人がほとんど。有給休暇の取得率も高く、ワークライフバランスを重視する人にとっては打ってつけの環境です。鶴田社長自身が子育て中の身なので、家庭を大切にしたいという社員の思いを汲み取ってくれます。
京都製作所のみなさんは今、さまざまなサポート体制を整えて、新たな仲間がやってくる日を待ちわびています。面接の際には、どんな仕事がしたいのか、どんなことを得意としているのか、入社にかける熱い気持ちを存分に伝えてください。