募集終了2016.09.17

学び手に寄り添って60余年。英語教育の未来をつくる出版社

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高校時代、授業では十分に理解できなかった内容が、学習参考書のおかげで理解できたという経験はありませんか?

もしそれが英語だったとしたら、今回ご紹介する株式会社山口書店が手がけた参考書かもしれません。山口書店は、『メイントップ総合英語』『長文と文・作・語法の20章』など、数々のロングセラーを世に送り出してきた、京都の学術系出版社です。

“生活者視点”で紡がれた歴史

創業は、60年以上前にさかのぼる昭和24年。創業者は現社長の実父である山口繁太郎氏です。当時は、物資が極端に不足していた戦後の混乱期。多くの人がその日に食べるものを欲していたような頃に、出版事業を始めた理由とは何だったのでしょうか。2015年春より副社長に就任し、事業を推進している山口惠子さんにお話をうかがいました。

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「創業者の繁太郎は、生活や文化の向上を提唱できる場を求めて、故郷の青森から京都にやってきたそうです。そして、終戦前から京都大学の先生方や同郷の棟方志功など文化人らと交流をもち、彼らの著作出版物を手がけるようになりました。そうしたなかで、確かな知識や教養を提供することが生活者の支えになると確信し、出版事業を本格化させていきました」

そんな山口書店の名を英語業界に知らしめたのが、昭和33年に刊行した『三位一体 総合英語問題の徹底的研究』という問題集です。それまで別々に行われてきた文法・作文・解釈の学習を一体的に取り扱うという、当時としては画期的な学習方法を提案したことから大きな話題となり、会社の発展の契機となりました。

英語の学習教材を主軸とした経緯については今では定かではありませんが、惠子さんによれば、「繁太郎が大切にしてきた“生活者視点”という信条のもと、英語というジャンルに目が留まり、より良い英語学習のあり方を追求していくことになったのでは」とのこと。

繁太郎氏が常に生活者を意識していたことは、『三位一体』と同年に創刊した『京都日出新聞』の紙面づくりからも推察されます。時事問題にとどまらず、生活や教養といった文化面を充実させるなど、読み物的な価値を生み出し、好評を博したといいます。

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山口書店は、その後も英語の学習教材において名作を続々と生み出していきます。たとえば、昭和39年に発刊されたポケットサイズの英語文例集『英作文の栞』は、半世紀を経た今もなお活用されているロングセラー中のロングセラー。また冒頭に挙げた『長文と文・作・語法の20章』なども適宜リニューアルをしながら20年以上も愛用されています。時代とともに英語の教育環境が大きく変化するなか、流行に左右されない普遍的な価値をもつ本づくりが行われてきた証といえるでしょう。

こうして“英語の山口”と呼ばれるほどの圧倒的なブランド価値を誇った山口書店ではありますが、ここ最近、大きな転機が訪れているのだと惠子さんは言います。

復活をめざして

「少子化によるマーケットサイズの縮小などに加え、これまでのような『作れば売れる』といったメーカー主導の時代が終焉したにもかかわらず、十分な対策を打てておらず、新しい価値創造のための取組が後手に回ってしまいました。そうしたなか、社長である夫が体調を崩してしまい、これから会社をどうやっていくのかという深刻な局面が去年(2015年)の冬に訪れまして……『私が経営をやる』と後先も考えずに手を挙げてしまったんです(笑)」

ちなみに惠子さんは、それまで“社長の奥様”として経理事務業務の一部を担っていたとはいえ、経営にはノータッチの立場でした。編集や営業の業務内容についてもほとんど知りません。それでも、「できるか、できないか」という判断軸を超えて「創業家の一員として自分がやるしかない」と肚(はら)をくくって挑戦した惠子さん。その決断には、ある人物との出会いが関係しているようです。

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「会社をどうするか迷っていた時期に、知人の紹介で、とある経営者とお会いする機会がありました。その方とやりとりをするなかで『やるしかない。不足している点はたくさんあるけれど、周りにいる方々に力を貸してもらいながらでも、とにかくやってみよう』と思えたんです」

対話から見えてきた再生の糸口

そして、惠子さんが最初に取り組んだのは、本社はもちろん、東京・岐阜・福岡にある営業所に足を運び、営業7名、編集2名、事務2名の計11名から成る全社員と顔を合わせて、一人ひとりの思いを聴くということでした。そのなかで惠子さんは、それぞれの業務と事業全体の理解を深め、経営不振の背景や課題を探っていきました。

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「あの時、社員の一人ひとりと顔を合わせて話を聴けて、本当に良かったと思います。他部署・他営業所と建設的な意見のやりとりができないとか、連携がとれていないとか、社員それぞれが問題意識をもちながらも、改善する手立てを見出せずにいる現状の苦しさやつらさが伝わってきました。そんな状況でも、社員はそれぞれに思いをもって仕事に取り組んでいたんです。私はそれを受けて、『まずは全員で一度集まろう』と、夏に2泊3日で京都本社の大掃除合宿を企画しました。あの大掃除を境に、バラバラだったみんなの気持ちが一つにまとまり始めたような気がします」

また、惠子さんは社員との対話を重ねる一方で、山口書店の出版物に長年かかわってきた執筆者や監修者・デザイナーなど社外の関係者とも顔を合わせ、関係の再構築に取り組みました。その過程で惠子さんは思いも寄らなかった関係者たちの声に驚き、そして勇気づけられたのでした。

「これから組織改革を進めていくという考えをお伝えしたところ、『ぜひお手伝いさせて欲しい』『一緒にやりましょう』と、温かいお声をたくさん頂戴しました。大学の先生など各専門分野でご活躍されている立派な方々に、『山口書店さんにはお世話になりましたから…』と言っていただいて、こんなにも当社のことを思ってくださっていたのかと感激しました。それまでは私も“外部の先生方”という認識でいたのですが、“かけがえのないパートナー”だという事実に改めて気づかせていただきました」

社内外へメッセージを発信

こうして社内外の声に耳を傾けていくなか、惠子さんは会社としてめざす方向性を共有する必要性を感じ、パートナーの協力のもとで会社案内のパンフレット作成に取りかかります。

従来通りであれば「売りたい商品」を前面に押し出すところを、今回は、山口書店がどんな社会観・人間観をもって事業に取り組んできたのか、取り組んでいるのか、取り組もうとしているのかにフォーカスを当てることに。その結果、「知が未来をつくる」という生活・文化の向上を志した創業者の思いに根ざしたタイトルを掲げ、執筆者をはじめとしたパートナーとともに、山口書店の思いを届ける内容のパンフレットが完成しました。

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その冒頭には、冠弥社長と惠子副社長の連名で、こんな一文が添えられています。

「これからも不易流行の精神を大切に、学び手に真摯に寄り添い、学ぶ楽しさを伝え続けていきたい。そして、そう願っている皆さまとともに相互研鑽し合える良きパートナーであり続けたい」

未来を見据えた組織・事業の再構築に奔走し、半年余りが過ぎた現在。「改革はまだ始まったばかり」と惠子さんは言いますが、社内では早くも変化の兆しが現れているようです。

「たとえば、社員一人ひとりが会議で積極的に発言するようになったり、部署内や部署を超えたコミュニケーションが活発になってきたり。各営業所からの報告も以前に比べると、さまざまな面でレベルアップしているように感じます。そういう変化を見るにつけ、みんな会社が変わるきっかけをずっと待っていたのかなと思うんですよね。私も経営者として日々成長していきたいと思っていますし、社員とともに成長していければと願っています」

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先生・生徒の「お役に立つこと」を励みに

では、当の社員のみなさんは、今回の改革をどのように受け止めているのでしょうか。それぞれのお仕事内容と併せて、思いをうかがいました。

はじめにお話をうかがったのは、担当する東海エリアの高等学校約500校に営業活動を展開している中部営業所(岐阜県)の植田浩之さん。毎日平均して6、7校を訪問し、英語科の先生と対面してお話をするそうです。しかし、話をするといっても、与えられる時間は、一人の先生につき、わずか10分程度なのだとか。

植田さんは、そのわずかな時間のなかで、学校や先生、生徒さんのお役に立てることは何かという情報を少しでも得られるように心がけていると言います。

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「すでに当社の参考書などをお使いいただいている場合は、良かった点・改善点などをうかがい、それを本社の編集サイドにフィードバックし、次回以降の教材づくりに活かせるようにしています。良くも悪くもお客様の反応がダイレクトに返ってくるのが、一般書籍の営業と大きく違うところですね。当社の参考書や問題集を使うようになって大学入試の合格率が上がったとか、英語嫌いが改善されたとか、そんなお話をうかがうと、おすすめしてよかったと心から思いますし、やりがいも感じます」

薄れつつある、かつての閉塞感

限られた時間のなかで先生との関係づくりを誠実に行っていくという基本的な営業スタイルは変わらないものの、惠子さんが副社長になってから社内が着実に変わりつつあると言います。詳しく聞いてみました。

「以前は私たち営業メンバーが個別に日報を書いて上司に提出しておしまいという感じだったのですが、去年から日報を週報に改め、営業メンバーのみならず全社で共有するようになりました。全営業所の営業メンバーのレポートが毎週あがってきますので、これまで接点の少なかった営業所のメンバーの考えや課題などがわかるようになり、たとえば東京営業所で抱えている課題解決のために、私たち中部営業所に蓄積されたノウハウ・経験を提供することなどができるようになってきています。今後は営業現場で感じている課題意識を背景に、経営改善・業務改善につながる提案をしていければと考えています」

さらに植田さんは、業務のあり方だけでなく、会社全体に以前と異なったポジティブな雰囲気が芽生えていることを実感しているそうです。

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「以前と比べて、自由闊達に意見を言える雰囲気になったといいますか、少なくともお互いに耳を傾け合う土壌ができあがりつつあると思います。じつは、惠子さんが副社長に就任して間もない頃、中部営業所までわざわざ面談に来られた時点でそんな予感がしていたんです。確かに、副社長に経営の経験はありませんが、ご本人の意欲が伝わってきましたし、信頼できる周りの方々によるサポート体制も固まりつつあったので、不安は少しずつ薄れていきました。

そして私は、パートナーのみなさんに頼るばかりでなく、いずれは社内にいる自分たち社員の力で“英語の山口”を復活させなくては、という使命感をもつようになりました。山口書店の思いを基軸とした商品・サービスづくり、学校の先生方をはじめとした関係者との関係づくりをいかに行っていけるか、今が踏ん張りどころだと思います。経営陣、社員、外部パートナーも含めた関係者みんなで心を合わせて、山口らしさを活かした“新たな名作”をつくっていきたいですね」

今こそ、事業の基本に立ち返る

このように植田さんは、会社の変化を前向きに受け止めながらも、これまでの山口書店を見つめ直し、改革せざるを得なくなった会社としての根本課題を見出すようになったと言います。

それは「社員、取引先、顧客、株主をはじめとした関係者を大切にする」という企業として当たり前のことが「できていなかったとは言わないまでも、希薄だった」という事実。大学卒業後、新卒として入社して以来初めて経営トップとの面談や、率直な意見を言い合える環境を得たことで、ようやくそのことに気づけたのだそうです。

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「一つひとつの業務の改革・改善については、今後ももちろん継続的に進めていかなければならないと思っていますが、『当たり前のことを当たり前にできる会社』をつくるんだという意志をもって日々の仕事に臨むことが大切だと思っています。お客様、お取引先、社員、パートナーの方々など、当社のあらゆる関係者を幸せにできるような会社をつくっていきたい。顧客である学校の先生方や生徒さんのことをもっとよく知って、お役に立てるような商品・サービスを提供していきたいのです。2015年は、私たち社員一人ひとりの意識を変えるところからの再スタートの1年だったと思っています」

新しいメンバーに伝えたいこと

植田さんのお話には、山口書店の最前線に立つ責任感や誇り、そして、惠子副社長の登場を契機に、自分たちが山口書店の未来を変えていくのだという気概が満ちあふれていました。今回、新たな営業メンバーを募集するにあたり、彼らが思う理想の人物像、または適性についてもうかがいました。

「営業の業務改革に携わってくださっている方ともお話していたのですが、便宜上“営業職”に属するけれども、今必要としているのは山口書店の第三創業期を支えてくれるバイタリティのある人。教材を買っていただければ良しとするのではなく、その先にある英語教育の未来、生徒さんたちの未来を切り拓くつもりで、仕事に取り組める人を待っています。たとえば、当社ではこの春にも本社1階にコミュニティスペースを開設し、全国各地の先生方に集まっていただいて英語教育をテーマとしたイベントを随時行っていきたいと考えているのですが、現場の先生方のお声をもとに独自の企画を提案、具体化するなど、営業の枠にとらわれずに活躍して欲しいと思います」(植田さん)

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変化を恐れず、前に進む

最後に、京都本社で30年来、山口書店の本づくりに携わってきた編集部の責任者、金子恵さんにお話をうかがいました。金子さんもまた、時代の変化に対応しきれず後手に回っていた山口書店の状況に「このままではいけない」と、変化の必要性を感じていたお一人です。

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「変えていかなくてはという気持ちは、営業も編集も同じように持っていました。でも、どう変えていくべきかという点で意見の相違もあり、明確な方針が出せないまま動ききれずにいました。

惠子副社長の就任で大きく変わったことは、編集主導で行われていた企画会議に、副社長や営業など他部署のメンバーも参加するようになったことです。従来であれば『そのネタはないよね』と自分たちで切り捨てていたアイデアがどんどん出てきて、非常に刺激的な会議に生まれ変わってきました。たとえば、高校生の息子さんをもつ副社長の『うちの子がこんなことを言っていたよ』といった意見も、教材のユーザーである生徒さんのお役に立つものをつくるという、わが社の原点に立ち返るきっかけとなっています。

また、編集部は3階、他部署は2階と別フロアで業務を行っていたのですが、副社長の提案があり、編集も営業も総務も2階のワンフロアで一緒に業務を進めるようになったことも大きな変化の一つです。それまでは3階で電話もほとんど鳴らないような静かな環境に慣れていただけに、最初は抵抗もありましたが、周りとの意思疎通が非常にスムーズになり、かえって業務がはかどることもあるんです。一事が万事この調子で、思い切ってやってみたら意外と良かったと思うことが多々あります。根拠のないこだわりは捨てて、変化を楽しむくらいでないといけませんね」

「知」の交流スペースを再び

金子さんはベテラン中のベテランでありながら、非常に柔軟性に富んだ考えの持ち主であることがわかります。金子さんは現在、編集業務のかたわら、文化事業を活発に行っていた山口書店の歴史を知る数少ない一人として、1階コミュニティスペースの開設にも尽力されています。

「かつての山口書店は、留学生や外国人のほかに、近所の飲み屋のおばさんや子どもたちも出入りするような地域に開かれた場でした。もう一度、そういう場をつくることによって、英語をコミュニケーションツールとした他者との関係づくりが、暮らしの延長線上で広がっていくのではと考えています。英語に精通した外部のパートナーや営業部員の力も借りながら、楽しいイベントをつくっていきたいですね。きっと新たな本づくりにつながる発見もたくさんあると思うので、それらを集めて、どう組み立てていくかが私たち編集メンバーの腕の見せどころだと思っています」

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知恵を出し合い、21世紀の“名作”を

最後に金子さんにも、新たなメンバーに期待することをうかがいました。

「先生方のなかには、大手出版社と同じものを当社に求めてこられる方もいらっしゃるかと思いますが、山口書店としては安易に他社の後追いはしないというスタンスです。お一人おひとりのご意見を大切にしながらも、山口書店ならではの思想と視点で、現場のニーズをとらえられる方が望ましいですね。ともに知恵を出し合って、良いものづくりをめざしていきたいです」

京都の老舗出版社“英語の山口”が今大きく変わろうとしていること、そのなかで社員のみなさんが自社のアイデンティティーを再確認し、同じ方向に向かって歩もうとしていることはおわかりいただけたでしょうか。その転機をもたらした惠子副社長と同様に、今回新たに迎え入れる人が新しい風を巻き起こしてくれることを、社員のみなさんは心から期待しています。我こそは山口書店の第三創業期を支えるキーパーソンになってみせる! そんな気概のある人は、ぜひとも山口書店を訪ねてみてください。

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