2024.05.09

伝統を守りながら、時代と共に“ひらかれた”お酢屋へ

京都移住計画での募集は終了いたしました

突然ですが、みなさん、お酢がどうやって造られているか知っていますか?

現在、多くの米酢は、米麹からつくった甘酒に酒造り工程を省くための醸造アルコールを加え、その後、培養機械を使うことで2週間ほどでできあがります。

しかし「安心で安全なお酢を造りたい」という想いから、伝統的な製法を守り、原料選びから徹底したこだわりを持ってお酢を造り続けている会社が、京都府宮津市にあります。株式会社飯尾醸造です。

飯尾醸造では自社で精米した米を蒸して麹をつくり、できあがった麹から今度は酒を造り、さらに、その酒に種となる酢を入れて発酵させてじっくり寝かせて、熟成させたのちにようやく出来上がります。その期間はおよそ2年。今ではこのような手間ひまをかけた造り方をしているお酢屋はほとんどありません。

1893年(明治26年)の創業から、約130年に渡りお酢を造りつづけ、3代目からは農薬不使用米を使ったお酢づくりをスタート。4代目は契約農家の生活を守るため、地元産の新米のみを使用するなど、地域の発展に貢献できるものづくりを進めてきました。そして現在、5代目の飯尾彰浩さんは“ひらかれた”お酢屋を目指し、飯尾醸造の改革を進めています。

今回募集するのは、蔵人と販売部門のスタッフ。職種は違えど、どちらも飯尾醸造の唯一無二のお酢づくりを支える大切な仕事です。

泊まり込みは当たり前?蔵人の働き方改革に挑む

現在、飯尾さんが進める改革の一つが、蔵人(くらびと)の働き方です。これまでの酢づくりを踏襲しながらも、一部の工程をDX化するなど、古来からのものづくりとデジタルを融合させることで、飯尾醸造として大切にしていることをぶらさずに、効率的に働ける環境づくりを進めることで、これから蔵人を目指す人にもひらかれた職場を目指しています。

5代目・飯尾彰浩さん

飯尾さん

香りを嗅ぎ、自分の舌で判断すること、その日の気温や湿度を加味して発酵を操作することなど、蔵人の技と五感を頼りにものづくりをすることは変わりません。その一方で、運搬作業やアルコール度数などの数値測定などはテクノロジーに任せて、効率化を進めています。

また、業界では“当たり前”とされてきた働き方の改善にも着手しました。

飯尾さん

業界的には、夜間も酒の様子を見るために蔵に泊まり込みで酒造りに励むのが常です。飯尾醸造でも同様に酒造りをしてきましたが、これまで培った経験とテクノロジーの活用によって泊まり仕事でなくとも、酒造りができるようになりました。

試行錯誤を重ね、来期からは品質に妥協することなく週休2日が可能な体制を整えました。これは業界としてもかなり革新的なことです。その背景には、若い人がもっとものづくりに挑戦できる土壌をつくっていきたいとの思いがあります。

飯尾さん

蔵人に大切なのは、食への関心が高いこと、そして向上心があること。うちには日本酒が大好きな蔵人がいるんですが、出張の度に各地の日本酒を買ってきて試飲会を開いたり、利き酒の資格をとったりしているんです。もちろん勉強のための費用は、会社でバックアップしています。学ぶ環境は十分にありますから、自ら進んで学びたいと思える人が蔵人に向いていると思います。

飯尾醸造では、米作り、酒造り、酢造り、製品化と専任の蔵人がおり、それぞれの持ち場を担当しています。蔵人とは、一体どのような仕事なのでしょうか。2人の蔵人からお話を伺います。

マニュアルがないから面白い、麹造りの魅力

まずお話を伺ったのは、酒造り・酢造りを担当する蔵人の三﨑晃太郎さん。なんと三﨑さんが飯尾醸造と出会ったのは3歳のとき。子どもには安全なものを食べさせたいという母の意向で、飯尾醸造のお酢が食卓に並び、蔵にも見学や買い物に足を運んでいたのだそうです。

蔵人の三﨑晃太郎さん

三﨑さん

飯尾醸造の蔵見学に来たこともあって、入社時まで僕のことを覚えてくれていた社員さんもいました。小さな頃からリンゴ酢が大好きで、よく飲んでいましたね。

中学3年からは地元神戸を出て、食の成り立ちを学ぼうと養豚から加工までを体験できる東京の中高一貫校へ編入。授業外でも、コンセプトづくりからメニュー開発、宣伝など、すべてを学生が担う期間限定カフェの運営や、余った学食のフードロスに取り組むなど、食にまつわる多くの経験を積みました。

三﨑さん

自分がつくったものが喜ばれる体験を得て、自然とものづくりの仕事に興味を持つようになりました。高校2年のときには、研究のテーマにお酢を選び、飯尾醸造に取材を申し込みました。先代にインタビューさせていただき、古くから変わらぬ製法であること、米作りから自分たちで手掛けていることなどを知りました。普段から口にしているお酢が、こんなにも手間ひまをかけて造られているんだと驚きましたね。

その時の感動が忘れられず、大学に進学してからはインターンシップ生として飯尾醸造に関わり、2023年4月に晴れて正社員として入社します。

三﨑さん

お酢づくりを経験してみて、やはりものづくりはやりがいのある仕事だと確信しました。何よりも飯尾醸造で働く方たちが明るくてやさしくて、ここだったら楽しく働けそうだと思えたんです。

入社一年目は、4月から10月にかけてお酢造り、11月から3月までは酒造りの経験を積み、飯尾醸造のものづくりをひと通り学びました。

三﨑さん

まずは先輩にマンツーマンでついていただき、酢の仕込みを覚えました。酢酸菌を保つために必要な酸度や温度、酸度などの測り方を覚えたり、田植えが忙しい時期は農作業を手伝うこともありました。

発酵させた後、さらに300日じっくりと熟成させて作られるお酢(酢作り)

三﨑さん

11月からは酒蔵で酒造りを学びました。お酢は80日〜120日をかけてゆっくり発酵しますが、酒は約40日と発酵時間が短く、お酢造りとはまた違った面白さがあります。

発酵の具合を確かめ櫂を入れる(酒造り)

この4月からは、酒蔵で麹(こうじ)づくりの仕事を任されています。精米したお米を大きな釜で蒸して冷ました後、米粒に麹菌をまんべんなくまぶし、繁殖させるため麹室(こうじむろ)へ移します。この麹室では、固まった米粒に何度も手を入れてほぐし、丸2日かけて酒造りに適した麹を作ります。

固まった米粒に何度も手を入れてほぐしながら、強い麹を作る

三﨑さん

麹づくりの難しいところは、マニュアルがないところです。自分で見て、香りや手触りで麹がどんな状態かを判断しないとなりません。僕はまだ判断できないので、先輩方に一緒に確認していただき、蔵人としての勘を育てています。麹を口に入れたとき、すぐに味がするものもあれば、10回噛んで少しづつ甘みが出てくるものもある。麹の小さな変化を見逃さないように観察し、自分の五感を研ぎ澄ませて良し悪しを判断できるようになるのが、この仕事の難しさでもあり、面白さでもあると思っています。

「お客さまに届ける」意識を持って携わる製品化の仕事

米作り、酒造り、酢造りと工程を経て、最終的に商品にするのが製品化部門です。蔵人の市川治彦(はるひこ)さんは、宮津のお隣、与謝野町出身。「自然と関わる仕事がしたい」とおよそ11年植木屋に勤めますが、業界の衰退とともに仕事が激減。転職先を探す中で、飯尾醸造と出会いました。

蔵人の市川治彦さん

市川さん

最初に求人を見たときには、気になったけど応募しなかったんですよ。でもしばらく経ってからまた見かけて、ご縁があるのかもしれないと思ってホームページを見たんです。そしたら、農薬不使用米を使ってお酢を造っていること、自分たちで米づくりをしていることが書かれていて興味津々になりました。誰かに喜んでもらえるものづくりに携われるって、素敵だなって。

前の職場では職人気質の人が多く苦労した、と振り返る市川さん。蔵人の世界にも覚悟を決めて入社しました。しかし、飯尾醸造ではやさしく教えてくれる人ばかりでほっとしたのだそう。

当初は酒蔵担当として酢や酒造りをしていきたいと考えていましたが、「一人でこつこつと仕事に励む酒蔵の仕事より、人と関わりながら一緒に何かを成し遂げることの方が向いているかもしれない」と、最終的に製品化を担う仕事を希望しました。

製品化部門では、出来たお酢の瓶詰めや品質チェック、シール貼りなど、商品として販売できる状態にします。その中で、市川さんは責任者として、瓶詰めラインの運用の他に業務フローの見直し、職場環境の改善などを担い、お客様のもとへお酢を届けられるように務めています。

市川さん

自分が製品化部門に入った頃は、お金のために働いているという意識のパートスタッフさんが多かったと思います。もちろんそれも生きていくうえでは大事なことですが、もっと自分たちの仕事に誇りをもってほしいと思い、”何のためにやっているか” を伝えてきました。

一枚一枚、丁寧にラベルを貼りつける

お客さまの口に入るものを扱っていること、歴史あるものづくりの一端を担っていることなど、“何のために”を伝えることで、少しずつ働く人の意識が変わっていったと振り返ります。

市川さん

スムーズに作業を行えるよう道具の位置を変えるなど、より良い環境になるように日々工夫も重ねています。困りごとに耳を傾けたり、良いアイデアを採用したり。こまめにスタッフとコミュニケーションを取り、みんなが自分らしく働ける環境をつくっています。

今後チャレンジしたいことをお聞きすると、「これまでお酢を精査してきた経験を活かし、社員考案のお酢をつくりたい」とのこと。チャレンジする人の背中を押してくれる土壌がある飯尾醸造。市川さんのアイデア、いつか形になるかもしれません!

伝統的なものづくりをデジタルで支える

商品として完成したお酢は、その後、オンラインショップや提携店舗で販売されます。販売店とのやりとりや商品配送などのバックオフィスを担うのが、販売部門です。

今年から番頭として飯尾醸造に入社し、販売部門の業務改善などに取り組んでいるのが河端良高(よしたか)さんです。河端さんと5代目の出会いは20年以上前。飯尾さんが家業を継ぐ前に働いていた大手飲料メーカーでした。

番頭の河端良高さん

河端さん

五代目は5年ほどで家業を継ぐために会社を辞めたんですが、それ以後も友人として付き合いがありました。ゆずポン酢を頂いたんですが、あまりにも美味しくて!衝撃を受けましたね。五代目を通して妻と知り合った縁もあり、うちの食卓には富士酢を使ったメニューがたくさん出てくるんですよ。

大手食品メーカーの営業企画として、全社の事業計画や営業戦略の策定などを中心に忙しい日々を過ごしてきた河端さん。これまでのキャリアを見直そうと会社を退職し、しばらくは大好きな旅をしながらゆっくり過ごそうと考えていた矢先、「飯尾醸造に来てくれませんか」と思わぬオファーを受けたそう。

河端さん

先代から引き継いだ飯尾醸造を改革しようとしていること、デジタル化に向けて全ての業務プロセスを抜本的に見直していることなどを聞き、それなら僕の持っている知見が役に立ちそうだからお手伝いしますと答えたんです。僕も妻も飯尾醸造の大ファンですから。

本社では商品を直接購入することもできる

河端さんがまず着手したのは、受注から出荷までのオペレーションを確認して問題点を洗い出し、改善するプロセスをつくること。例えば、顧客マスタ管理の見直しに着手したり、売上データを集計して帳票としてアウトプットする仕組みを構築したりするなど、外部で働いてきた河端さんだからこそ見える視点と知見を用いて、業務改善に取り組んでいます。

こうした改善に取り組むことで、人手不足を解決するだけでなく、「顧客と関わる時間を増やしていきたい」と河端さんは話します。それはいちユーザーである頃から、「人」が飯尾醸造の魅力のひとつだと感じていたから。

河端さん

質問をするとすぐにレスポンスが返ってくるし、毎回購入する商品や数を覚えてくれていて、『いつもと注文内容が違いますが、大丈夫ですか?』とわざわざ確認してくれることもありました。商品の良さももちろんですが、こうした気配りができるスタッフの存在も飯尾醸造を支えている大切な柱だと思います。ですからスタッフが評価される仕組みも確立して、より一層自分たちの仕事に誇りを持ってもらいたいですね。

いちユーザーとして感じていた飯尾醸造の素晴らしさを、入社してからも変わらず感じていると河端さんは言います。

河端さん

お酢づくりに真摯に向き合い、お客様に対しても誠実に丁寧に対応する。地域や社会に対しても積極的に貢献していこうとする姿勢。こんなに筋の通った会社は日本中探しても殆どないだろうと、事業や経営方針に心酔しています。加えて、働いている従業員の人柄がとても素晴らしいんです。これは外からは見えない会社の重要な無形資産なんですよね。だから会社の雰囲気を壊すような事は絶対したくないなと思っていて。変えていくべきことはありますが、皆さんの様子を見ながら少しずつ一歩一歩、良い形を見つけて進めていこうと思っています。

今回募集する販売部の担当者は、河端さん、飯尾さんとともに飯尾醸造のファンを増やしていく役割を担います。これまで数々の経験を積んできた河端さんからは、確かな助言をもらえるはず。

飯尾醸造における販売部門の役割はどのようなものなのでしょうか。改めて、飯尾さんに伺います。

働き方改革に、ファンづくり。“ひらかれた”お酢屋を目指して

飯尾醸造は、2021年秋よりデジタル化に向けた取り組みを開始しました。勤怠管理に始まり、経理や生産在庫管理など、業務によってはクラウド上でも仕事ができる体制が整いつつあります。それに伴い、仕事の一部を在宅で行うこともできるようになりました。

また、年内に自社サイトのリニューアルを予定。LINE公式アカウントを開設するなど、オンライン上でもお客様との接点を増やすため、造り手の思いや商品の特徴をしっかりと伝えられるようにアップデートしていきます。
今回募集する販売部の担当者には、適性を見ながら法人(問屋、小売店などの流通)部門と個人(一般ユーザー、個人経営の飲食店)部門のいずれかを担当いただきます。

法人部門では、既存の取引先からの受注対応の他に、見積書に始まる書類の作成や、製造部と連携して需要と供給のバランスを取るなど、PULL型の業務を担っていただきます。一方、個人部門では、 “人のぬくもり” を大切にしたECサイトの運営をお任せします。

飯尾さん

都度、進捗を共有できるチームワークを大切にした組織を目指しています。一般的な企業と違い、飯尾醸造には営業マンもいませんし、有料の広告宣伝もしていません。新規の取引もほとんどありません。その分、既存のお取引先様、ユーザー様と丁寧に向き合うことを大事にしています。個人部門では、ECサイトの数字を見て、定期的に販売の実績を分析し、季節によってどんな商品が売れているのか、どんな人が購入しているのかなどを明確にしてもらい、その結果をもっとお客さまが喜ぶために活かしてほしいです。

たとえば、母の日に「お母さんに感謝を伝えるためのセット」を考案したり、長年愛用していただいているお客さまが意見を書き込める掲示板をつくったり。顧客とのコミュニケーションを密にとるためのツールとして、ECサイトを活用していきたいと考えています。

飯尾醸造のECサイト

飯尾さん

一般的な通販サイトだと、新規契約者に割引したり特典をつけたり、広告で興味をひいて顧客を獲得すると思いますが、飯尾醸造は長く使ってくれているお客さんこそ大事にしたい。うちのECサイトを運営する方は、ただたくさん売ればいいという考えでは難しいと思います。お客さんの喜ぶことを想像できる人、何より飯尾醸造のものづくりに共感できることが重要です。

オンラインを入り口にしてファンになっていただいたお客さまに向けて、今後はリアルな交流会やイベントのご案内も増やしていきたいと考えています。

飯尾さん

これまでも参加型の田植えや稲刈りのイベントを開催してきました。農作業の後には、うちのレストランでスタッフも一緒にご飯を食べて楽しんでいます。とても人気で、毎回100名ほどの方にご参加いただいています。

飯尾醸造のスタッフとお客さまが顔を見て交流することで、嘘がつけない関係性になると飯尾さんは言います。

飯尾さん

造り手はもっと良いものを届けようと背筋が伸びますし、お客さんは『あの人たちが造っているんだ』とより愛おしく感じてくれると思うんですよね。

造り手が心地よく働ける環境を整えることで、品質を落とさずに長く商品を造り続けることができる。つまりそれは、飯尾醸造を愛するお客さまの期待に応え続けるという証でもあります。

飯尾さん

うちには、富士酢じゃないと!と猛烈に愛してくださる方がいるんです。唯一無二のものづくりをしているからこそ愛してくださっているし、愛してくださってるからこそ僕らは造り続けられる。私の代ではこういしたご縁をつないでいくために、これまで以上にお客さまと交流の機会を増やしていきたいですね。

上世屋の棚田にお客様をご招待して実施した田植えイベントの様子
イベント後には、宮津市内で飯尾醸造が運営するイタリアンレストラン「aceto(アチェート)」にて、スタッフも含めて交流会を実施。お互いに顔の見える関係を築いている

“ひらかれたお酢屋”を目指し、改革を進める飯尾醸造。その歩みを加速させるためにも、自らのアイデアを積極的に発信できる人、他の分野で活躍した経験がある人など、多角的な視点を持つスタッフが入ってくれることを望んでいます。

飯尾さん

飯尾醸造イズムを持ってくれてくれるこれまでの社員の意見も大事にしながら、他の業種や職種で働いた経験があるなど新しい方の意見も積極的に取り入れたいと思っています。今回の募集は、飯尾醸造が次のステージに行くために必要なこと。我こそはと思う方にはぜひ、ご応募いただきたいですね。

世界最古の調味料ともいわれるお酢。飯尾醸造は、その奥深い世界に対峙し、真摯に向き合ってきました。この機会にぜひあなたも、唯一無二のものづくりの世界へ飛び込んでみませんか。

執筆:ミカミ ユカリ
撮影:清水 泰人
編集:北川 由依

京都移住計画での募集は終了いたしました

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