募集終了2017.10.11

社会の課題を「不動産」で解決する。1000年を紡ぐ企業

京都移住計画では2度目の紹介である株式会社フラットエージェンシーは、第2回「これからの1000年を紡ぐ企業認定」を受賞した、いま京都で注目の企業です。

受賞の際の審査会でのポイントは、単なる不動産会社に止まらず、自社を「まちづくり業」と再定義し、地域のコミュニティづくりを通じたクリエイティブな住空間づくりに取り組んでいるところです。

8つの事業所で90名のスタッフが、まちづくりに貢献できる企業を目指し、京都のまちの課題を留学生の受け入れや就業支援、地域コミュニティや商店街の活性化、学生が孤立しないシェアハウスづくり、廃校などを利用したシェアオフィスやシェアアトリエなどによる若手の起業家支援などに励んでいます。さまざまな京都のまちの課題を「不動産」というツールで課題解決を図っている点が評価されました。

では不動産会社がなぜ「まちづくり業」と再定義したのか、その原点を吉田社長にお伺いします。

今回お話を聞かせていただいた場所「the SITE」は叡山電鉄元田中駅から徒歩5分程度の閑静な住宅街にあります。

「もともと美術学校だった場所で、建物自体を京都精華大学さんから借りています。大学の常務理事からこの場所の使い道を相談されたのですが、黒板や工具などが残っていて、雰囲気も良く、『使える!』と思ってリノベーションしました」

フラットエージェンシーが内装を整えて、店舗や事務所づかいに利用したい人を募るとすべての物件が埋まり、昨年9月にオープンされたと言います。

お話を聞かせていただいたカフェ「珈琲焙煎所 旅の音」は近くの住民の方が気軽に休憩できる憩いの場所となっていました。芸術家やショップ経営などを通じて表現したい人のコミュニティをつくり、その場を開放することで少しずつ地縁のコミュニティが生まれているようです。入居者たちが声をかけあい、協働でイベントするなど、一体となって人を呼び込んでいるようです。

そもそもまちづくり業と定義したのはハウスメーカーのミサワホームの社長の言葉がきっかけだったと話してくれました。

「私自身、フラットエージェンシーに入社する前はミサワホームで働いていました。先代の私の父も三澤千代治社長と親しくさせていただいているのですが、『不動産はまちづくり産業になるよ』と話してくださったことがきっかけで、強く共感し、そこを目指して取り組んでいます」

吉田創一さんが会社を引き継ぐ前の専務時代には、少しずつトップダウンからボトムアップに社内を改革されていきました。

それまではやはり創業者である父の存在感が強く、社内がなかなかついてきていないという印象がありました。それで私が中心となって業務改善チームをつくり、日々の業務の中でどうしたら改善できるかを、自分たちで考える努力を積み重ねてきました」

吉田社長はもともと能力がある社員が多かったと強調します。現在も後でもご紹介する中川専務が中心になって業務改善は引き継いでくれているそうです。

また、経営理念を記載した名刺サイズの3つ折りパンフを昨年6月につくり、社員の主体性を磨く努力をされています。

「私たちが事業を通じて実現したいことはたくさんあります。例えば(1)空き家となった町家やビルを再生できる仕組みを整えること。街の景観保存と地域社会のにぎわいづくりにつなげていきます。また、(2)地域にお住まいの高齢者、子育て世帯(3)留学生・外国人居住者(4)学生との連携をさらに深めて、地域活動への積極的参加を促し、安心して過ごせるまちづくりを提供していきたいです。」

では(1)から(4)の活動についてさらに深くお伺いします。

(1)空き家の再生

「数日前も路地奥の町家を宿泊できる施設に検討していました。北区の町家の相談会に私も呼ばれているのですが、相談を受けて確認したところ、今にも崩れてきそうな建物でした。半年ぐらいかけてどうしていくか、自治体もオーナーも一体で考えていくようなプロジェクトです。町家に興味のある社員をつけて、このプロジェクトを継続していきたいです」

また、町家を改装して民泊できる「京宿」に取り組み、短い期間、物件を賃貸できる宿泊事業としての活用にチャレンジをしています。傷んでゆく京町家の保全という観点でも取り組んでいるそうです。

また、3年前はシャッター商店街になりつつあった大宮商店街でも、1軒1軒まわって去年12軒の成約をいただいたそうです。

「昭和20年代は人通りが激しい商店街だったそうです。今では近くにショッピングセンターができたこともあり、人通りが少なくなってしまっている。若い人に入ってもらって、歩いていて楽しい商店街にしたくて、本来であれば月10万の家賃を8万に押さえてもらい、安めに設定して若い人たちが入りやすいようにしたことで、少しずつ動きが出てきました。最近では新しく商店街に入ってきた若い人たちと古くからいらっしゃる方との交流会をTAMARIBAで行いました」

そのTAMARIBAとは地域に開かれたコミュニティスペースであり、カフェ、多目的スペース、ヘアーサロン、住まい相談が揃った新しいスタイルのお店です。

「TAMARIBAの1年目はあまり大きな結果は出せなかったのですが、3年目を迎えた今は、お昼は子連れのママさんたちや高齢者の方が来てくれています」

(2)地域の高齢者、子育て世帯の連携

どの地域でも課題になっていますが、TAMARIBAを中心に少しずつ継続していくことで芽が出ているようです。

「3年前までは商店街や地域の方にぜんぜん相手にしていただけなくて、地域の中に入っていくのは難しいなと感じていました。フラットさんが勝手にやっているだけでしょ、というふうに見られていたと思います。でも、ちょっとずつ取り組んでいったことで認知していただけるようになってきました」

TAMARIBAの奥には多目的スペースがあり、近くの幼稚園が絵画展を開催したり、高齢者の方が歌声喫茶を行ったり、さまざまなイベントが年間130回も開催されているようで、地域の公民館的な役割に変わってきているようです。

吉田社長にはコミュニティを運営していく中で、大事にしている思いがあります。

儲けよりも地域の活気をつけることに力を入れています。儲けに走ってしまうとうまくいかないと思っています」

(3)留学生・外国人居住者

フラットエージェンシーは同業他社に先駆けて、はやい段階から海外の方の受け入れに着手してきました。

「7年前に外国人の社員を採用し、入居のサポートを行ってきました。大家さんや留学生にきちっと説明すればうまくいきます。日本の物件の場合、保証人の問題がありますが、何かあれば当社が保証します、という体制を整えています」

(4)学生との連携

学生との連携の一つとしては、フラットカップというサッカー大会も開催しています。こちらも若手社員が中心となって運営・開催されているのだとか。

実際にこれからの活動が実を結び、会社の売り上げが伸びてきています。

「京都の課題に立ち向かうことで、さまざまな地域からご相談をいただけるようになりました。私ひとりではできることは限られているので、やはり社員の働きによるものです。また、さまざまな活動を通じて、私たちがどんな会社にしていきたいか、というところが共有できればもっと良い結果が出せると思います」

どのプロジェクトに関しても営業担当者と建築担当者がチームになり、経験を積んで1年ごとにレベルアップしてきていると語ります。お話を聞いていくと、どのプロジェクトも最初は吉田社長がプロジェクトに入って社員とともに着手し、社員同士が意見を出し合う状況をつくってチームメンバーにプロジェクトを任せ、社長自身はまた新しいプロジェクトに着手するような、主体性が生まれる良い循環をつくっておられるようです。

海外から部屋探しをする人への人気の窓口

ではフラットエージェンシーの取り組みの(3)でお話いただいた、留学生の窓口として働く仇(きゅう)暁敏子さんにもお話を伺いします。

中国生まれの仇さんは、長野の某メーカーに勤務し、退職後、京都の龍谷大学に編入。卒業後、フラットエージェンシーに入社した理由を話してくれました。

「当時、当社は英語を話せるスタッフを募集していました。メインの業務は不動産ですが、まちづくりや留学生の支援制度など、さまざまなことにチャレンジしている姿勢に魅力を感じて入社を決めました」

仇さんは入社後4年間はフラットエージェンシーの根幹である賃貸営業を行い、基礎を身につけていきました。

現在は主に、京都大学や同志社大学などの研究室へ学びに来る、海外から来日する先生や留学生のために、部屋を探すお手伝いや日本で不動産投資がしたいお客様への対応を行っています。

世界的にみて京都は2年連続で外国人が訪れる都市のトップ3に入っています。町家や京都の古い歴史に興味をもっている方が訪れるので、日々京都の勉強をし続けています。京都の不動産業界の中では言語を多用できる会社がまだまだ少なく、当社は取り組むのが早かったのもあり、京都大学や同志社大学、立命館大学、佛教大学などさまざまな大学の研究室と提携しています。各研究室の秘書の方とも顔なじみになってきました」



取材に訪れた8月後半は特に繁忙期なのだとか。というのも日本の大学とは違い、海外からの留学生は秋入学が一般的。現在はフランス、スペイン、アメリカ、イギリス、インドなど、さまざまな国からの来日希望者とメールやSkypeなどでやりとりしているそうです。取材に訪れた前日は、40通ほどのメールを送ったのだとか。

海外からのお客様は一軒一軒、物件にお連れするのではなく、インターネット上で部屋の間取りや動画を見てもらって決定し、来日した当日から暮らせるように手配するスタイルだと言います。仇さんはいかに相手が楽に、ストレスなく部屋探しができるかを心がけているそうです。

物件のオーナーさんや海外の方とのやりとりはどういうケースが多いのでしょうか。

「オーナーさまには海外の方への理解を深めてもらう努力をしています。一番のご心配ごとはトラブル対応です。例えばゴミ出しについてなど、不安はあります。そのため、入居前に海外の方へ日本の文化を含めて説明するように心がけてます。双方の間に入って、困ったことがないかお聞きしたり、アドバイスするようにしています」

留学生誘致を京都市も力を入れているようで、ゴミ出しの場所には五ヶ国語でルールが表記されているそうです。

「私たちの部署は部屋の紹介だけでなくて、京都や日本の文化を紹介をしていることにやりがいを感じています。大学卒業後も日本で就職したい人に向けて、2年前から就活セミナーのお手伝いもしています」

何よりもアットホームな雰囲気に魅力を感じた

最後にお話いただく金大貴さんは入社3年目の25歳です。フラットエージェンシーに採用後の3年間は、金さんのように店舗の窓口で賃貸営業をすることからはじまります。

「大学では京都産業大学のサッカー部に所属していました。当時の専務で現在は社長の吉田さんがOBだということもあって、サッカー部の監督から面白い不動産屋があるよ、と教えてもらいました。面接で話しやすい空気だったことと、地元に密着している企業であること、そして何よりアットホームな会社の雰囲気に惹かれて入社を決めました」

正直に言うと最初から不動産に興味をもっていたわけではなく、就職活動する中で良い話をいただくところに不動産業界が多く、自分でも向いているのではと感じたそうです。

入社後は本店に入り、OJTで先輩について、お客様の案内の仕方や物件に足を運んで仕事を覚えていきました。

「月並みですが、お客さまの新生活や人生のターニングポイントに立ち会うことができて、やりがいが感じています。お客様はさまざまな不動産会社に足を運んでいると思いますが、『金さんにお願いしてよかった、ありがとうございます』と言ってくださる方がいるとうれしいですね」

金さんには物件を案内する中で心がけていることがあります。

「例えば大学入学前の学生を案内する際に、最終的な権限をもっているのは親御さんであることが多いのですが、住む本人との意見のギャップが大きいことがあります。そういうときは間に入って、お互いが納得しあえる範囲、それは金額だったり、ほかの条件だったりしますが、双方に耳を傾けるようにしています」

また、物件の管理会社でもあるため、物件のオーナー様と部屋を選ぶお客様の双方がプラスになるようにも心がけているそうです。

「値段をむやみに下げてしまうとオーナー様のためにもならないですし、双方を考え、今後につながるようにしたいです」

金さんは「人に上手に伝えることが自分の中での課題だ」と恥ずかしそうに語ってくれました。

「上手に伝えられなかったことで続けてトラブルがあったときは、朝起きるのもつらい日がありました。いま思えばそれは良い経験で、後輩ができたら対処方法を教えたいと思います」

一度同じオーナーの物件で、お客様の対応が遅く、オーナーを困らせてしまうことが続いたときがあったそうです。

「お客様に対してできることはできる、できないことはできないとしっかり伝える必要がありましたが、結果的にグレーゾーンをつくってしまったのが一番の原因でした」

うまくいかなかったときに乗り越えられたのは、先輩たちのおかげだと言います。

「当社の社風だと思いますが、上司や先輩たちと話しやすい環境があります。例えば窓口で互いに別のお客様の対応をしながらも、横で自分とお客様との応対を聞いてくれていて、あとで『さっきの場面はこういう言い方をしたほうがいいよ』と教えてくれたりします。ありがたいです」

入社前はご自身がそうだったように、不動産に関する知識はまったくなくても大丈夫だと言います。

「今後の目標は宅建に再チャレンジして、今年必ずとりたいと思っています。その上でさまざまな不動産に関われたらと思います」

ノルマについては、フラットエージェンシーにはひとつ特徴があります。

「当社はひとりに課せられるノルマはありません。店舗単位で今年は何件と目標を立てて、みんなでこれを達成しようというスタイルです。自分たちで目標を決めることで、それぞれに責任感が生まれます。自分勝手にならないところがいいと思います。
私のようにサッカーや団体スポーツをやってきた人にはこの考えはしっくりくるのではないでしょうか」

サッカーといえば金さんは最初に社長からお話しいただいた、(4)の部分であるフラットカップの運営に関わっているそうです。

「6時の閉店後に運営メンバーの6人で集まって定期的に打合せをしています。今日もこのあと商品を提供してくださる企業さんと打合せがあります。学生さん同士が交流できる場がつくれたらと思ってやっているのですが、どんどん規模が大きくなっていまして、以前はMKボウルのフットサル場で開催していたところ、現在は島津アリーナ京都という広い場所を借りてやっています。京都府からも後援をいただいており、賞の景品がどんどんゴージャスになっています」

単なる不動産業に留まらない現場の声が聞けたところで、採用業務の担当をしている中川専務にどんな人物を求めているのか、入社してからのキャリアパスなどのお話を聞きました。

「大卒の場合、入社するとまず賃貸営業部に配属されて、物件を紹介するスキルや家主さまとの関係性を大切にしてもらいます。キャリアアップしていくと家主さまから物件を子どもや孫に残したいといった資産の相談を受けたり、空き家の活用についての相談を受けることもあります。そういった中で少しずつ商店街のシャッター店舗など、まちの価値をどう高めていくか、といったステージに立ってもらうことになります。不動産の業務の幅が広いので、『建築のことだけしたい』という方よりも、『幅広く学んでいきたい』という方にきてもらえたらと考えています」

「まちづくり」の仕事をするということも、結局は日々の地道な営業活動を通じて、大家さんや利用者の方との信頼関係の積み重ねがないことには、実現できないこと。まずはそういった基本的なところをおろそかにせず、大切にできる人が向いているのかもしれません。

だからこそ、「まちづくり産業と言えど、まだまだ目標だけで…」という吉田社長の言葉にも、そういった会社としての謙虚さや地道さが現れているようでしたが、着実に一歩ずつまちづくりの裾野は広がっています。

TAMARIBAは、最初は利用者が少なかったものの、3年目の今では利用される方がさまざまなイベントを行い、高齢者や主婦の方が集まる場となっています。これはテーマ型のコミュニティが横に広がっていったことで、地縁のコミュニティに認知されて、自然と人が集まっているので、まちづくりの根っこが育っていると言えます。

また、仇さんは海外の人と日本のオーナーをつないでいる時点で異文化交流のコミュニティをつくっています。金さんは学生のコミュニティを通じて、さまざまな企業の方に協力していただくことで、京都の地元企業とのコミュニティに深く関わっていると言えます。

きっとこれらの活動が少しずつ大きくなり、さまざまな人の目に触れることで、地域の連携につながるのではないでしょうか。縁をつないでいくことで物件周辺の価値も高めていくことが、フラットエージェンシーの大事な仕事であるようです。そんな今までの不動産業と一線を画す、まちづくり産業への道のりを共にしてみたい方からのご連絡をお待ちしています。

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