京都府南丹市美山町の芦生(あしう)地域は、滋賀県と福井県との境に位置する山あいの集落です。由良川の源流が流れ、四季折々の表情を見せるこの地には、都市部からほど近い低山地としては珍しい手つかずの天然林が残されています。この広大な天然林は京都大学芦生研究林として管理されており、「植物学を学ぶものは一度は芦生演習林を見るべし」と言われるほど、多様な植物・生物が生息しています。

今回ご紹介するのは、そんな芦生の自然とともに暮らし働く人々がいる、有限会社芦生の里です。宿泊施設「芦生山の家」や、山菜や佃煮の加工・販売を行う工場で活躍するスタッフたちの姿から見えてきたのは、暮らしと仕事が地続きになった豊かで確かな生き方でした。自然が好きな方、自分らしい働き方を見つけたい方にこそ届けたい、芦生での日々をご紹介します。
田舎暮らしに憧れ、川と森に囲まれた生活を選んだ

芦生の里で自然とともに暮らす人々。その1人が、芦生山の家の館長を務める岡佑平(おか・ゆうへい)さんです。以前は大阪府箕面市で暮らしていた岡さんは、田舎暮らしへの憧れから18年前に美山町へ移住しました。NPO法人芦生自然学校での活動を経て、現在は有限会社芦生の里の中心メンバーとして、施設運営や自然体験ツアーの企画・実施を担っています。

芦生の里は、もともと「芦生なめこ生産組合」として山菜やきのこの加工・販売を行っていました。その成り立ちは1963年にまでさかのぼります。かつての芦生の住民たちは林業や炭焼きを生業としていましたが、エネルギー革命などの影響で薪や炭の需要が減少し、「山では食べていけない」と危機感を覚えます。
そこで集落をあげて設立されたのが、芦生なめこ生産組合でした。地域住民を主体とした組合では、山に自生する山菜やきのこ、狩猟した鹿や猪などの加工・販売を行い、年商は最大約2億円にまで上りました。こうした動きは、住民が主体となって地域の課題をビジネスで解決するコミュニティビジネスの先駆けとして、全国的にも注目を集めたのだそうです。
岡さん
この芦生山の家は、京都府が最初に建てた青少年山の家なんです。今は南丹市の指定管理施設として、私たち芦生の里が運営を任されています。ここでの仕事は大きく2つに分かれていて、山の家での宿泊事業や自然体験ツアーの運営と、工場での商品製造・販売を行っています。ほかにも芦生特別区の川や漁場の管理、釣り券の販売なども私たちが担当しています。


移住者の視点を活かした始まった新たな取組み
芦生の人々が芦生で暮らし続けるために始めた事業が、会社の原点です。それが少しずつ変化して、今では地元の人だけでなく美山町外から来た人が集まり、また新たな芦生の里がつくられつつあります。
岡さん自身も美山町外から移住して、子どもたちに向けた自然体験プログラム「芦生森と川の冒険学校」やヤマメの養殖、川の保全事業などを始めて、芦生の里に新しい風を吹き込んだ1人です。
岡さん
今、芦生の里にいるスタッフでもともと芦生にいたのは2人くらいで、あとは美山町外から来た人ばかりです。これからの芦生の里には「このエリアを盛り上げるために、いろんなところから人が集まってくる」という形が必要なのだと思います。外から新しい視点を持った人が入ってくることで、芦生の里にも変化が生まれます。だからこそ、今後入社される方にもその人なりの視点で「これ面白いんじゃない?」「こういうのはどう?」とアイデアを出してもらえたら嬉しいですね。

現在、施設には正職員3名、アルバイト4名に加え、トレッキングガイド12名、子ども向け体験のスタッフ15名が関わっています。岡さんの自宅は職場から徒歩圏内。芦生の里のスタッフも同じエリアに住む人が多く、地域に根ざした暮らしを送っています。
今回、新たに2名のスタッフを募集するにあたり、住居も用意しているのだとか。
岡さん
募集するうちの1人は山の家の厨房で、季節の食材や郷土料理を活かした料理を主に担当していただきます。自然が好きな方が泊まりに来る場所ですから、その魅力を料理を通じて伝えたいという方に来てもらえたら嬉しいですね。
「これまで、料理にはまだそこまで注力できていなかったんです」と岡さん。今後入社される方には、新たな魅力を発掘してもらいたいと話します。


岡さん
もう1人は加工食品工場での募集です。鹿の食害や農家さんの高齢化などにより原材料が手に入りづらくなっていて、ピンチな状態でもあるんです。ただ、ピンチはチャンス。長年受け継がれてきたレシピを継承しながら、今まで目を付けていなかったところに目を付けて、新しいアイデアを形にしてくれたら何よりです。
では、芦生の暮らしに向いている人とはどのような人なのでしょうか。すっかり芦生に馴染んだ岡さんに尋ねてみると、こんな答えが返ってきました。
岡さん
やっぱり、何よりも自然が好きな人ですね。すぐそこにきれいな川があり、夏は川に飛び込んで涼を取れます。春は山菜、秋は紅葉ときのこ、冬は白銀の世界。季節を味わい、自然とともに暮らすのが好きな人には最高の環境だと思います。
先人たちに守られてきた自然を、次の世代に受け渡していく
芦生地域を含む美山町は「日本一の田舎を目指す」という理念のもと、景観保護に力を入れてきました。かやぶき屋根の家々が立ち並ぶ集落では電柱が地中化され、都市部にあるような大型のお店はありません。その“何もない豊かさ”が、都市からの移住者や観光客を惹き付けています。京都市から車で約1時間半とアクセスが良く、送迎バスの利用も可能。都市部から日帰りで本格的な自然体験ができる点も魅力です。

しかし、観光と生活は違います。芦生で暮らすとなると、生活する上で不便を感じることは無いのでしょうか。
岡さん
確かに、病院や学校は遠いです。でもネット通販で何か買ったら翌日にちゃんと届くんですよ。そもそも京都市内まで行くのも1時間半くらいですし、私は不便だとは感じていないですね。不便さを補って余りある自然の豊かさがあるので、私は芦生の暮らしが好きです。
岡さんが田舎暮らしに憧れを持つようになったのは、幼少期にアトピーを患い、食事療法によって改善した経験からだと言います。
岡さん
自分が親になるときには子どもに安全なものを食べさせたいと思うようになり、それが次第に「自給自足的な暮らしができる環境に身を置きたい」という考えになっていきました。ほかにも移住先の候補はありましたが、川が美しかったことと、「仕事があるからおいでよ」と迎え入れてもらったことから、美山町への移住を決意したんです。
岡さんが移住して実感したのは、季節の移ろいや山菜を採って食べる日々の中にある「生きている実感」でした。「大阪でも登山はしていたけれど、まさか自分が自然体験ツアーのガイドをするなんて思ってもみなかった」と笑います。

岡さんが立ち上げた「芦生森と川の冒険学校」は、芦生の自然を子どもたちに体感してもらう体験プログラムです。川遊びやトレッキングなどを通して、自然の豊かさや命のつながりを感じてもらうことを目的としています。「自然が好きな子が増えれば、将来的に自然を守る大人も増えていくと思うんです」と岡さん。



岡さん
芦生には、過去にダム建設計画が持ち上がったこともありました。今もきれいな川と森が残っているのは、住民たちの反対運動があったからです。そうやって先人たちに守られてきた自然だからこそ、次の世代にも受け渡したい。僕たちの世代で潰してしまうような使い方は絶対にできません。何もない場所だからこそ、何かが生まれるチャンスがある。ここから新しいアイデアや生き方が発信できたら、日本中の山村のモデルになるはずです。
仕事と暮らしが地続きにある、心地良い毎日
続いてお話を伺ったのは、芦生山の家で主に厨房を担当している胡桃澤愛(くるみざわ・あい)さんです。埼玉県出身の胡桃澤さんは、和紙職人を志して京都へ移住し、その後さまざまな仕事を経験した後、自然とともにある暮らしを求めて芦生にたどり着きました。

胡桃澤さん
初めて芦生を訪れたのは、館長の岡が所属していたNPO法人芦生自然学校のボランティアに参加したときです。それまで芦生だけでなく美山町のことも知らなかったのですが、来てみたら気持ち良くて。ボランティアスタッフの方々も面白くて、すごく居心地が良かったんです。芦生の奥地にあるキャンプ場で子どもたちに火おこしや薪割りなどの体験を提供するプログラムがあって、ボランティアではそのサポートをしていました。
山が好きで、京都に移住してからは山岳会やクライミングなどアウトドアを楽しんでいたという胡桃澤さん。「自分の楽しみだけでなく、誰かのためになる活動がしたい」とボランティアに応募したのだとか。その経験をきっかけに、岡さんからの誘いで芦生の里に仲間入りし、前館長夫妻のもとで厨房業務を学び始めました。
胡桃澤さん
埼玉にいたときに韓国料理屋で働いていて、料理のスキルはある程度身に付けていました。でも美山に来てからは、使ったことのない、食べ方もわからない食材にたくさん出会って驚きの連続でした。地域のお母さんたちに教わりながら、新しい食材との出会いを楽しんでいます。
「好きな山菜は?」と聞くと、「ワラビです!」と即答。春になると山の家の外に生えてくるものをひとつかみ採っては冷凍し、楽しんでいるのだそう。「アク抜きしてちょっと湯通しして、お出汁で炊くかポン酢をかけるだけでおいしいんです」。その話を聞いていると、独特の粘り気があるワラビの食感がなんだか恋しくなってきます。

現在は、宿泊客の食事やツアー参加者用のお弁当作りを中心に、山の家の清掃や川魚の養殖、冒険学校のサポートなど幅広い業務に関わっているのだそう。多いときには60食以上のお弁当を準備することもあり、厨房に立つ時間は早朝5時から始まることも。「大変なときもありますが、岡や工場の方にも手伝ってもらいながら、お客様の食事時間に間に合うように仕事をしています」と笑います。

胡桃澤さん
お弁当ファンの方もいらっしゃるんですよ。「今日もおいしかったよ」とか「掃除が行き届いていて気持ちいいわ」と声をかけてくださるお客様もいて、そういった何気ない一言が大きな励みになります。中には「ただいま!」と言いながら来てくださるリピーターの方もいて、芦生の里全体が大きな家みたいな感覚なんです。
芦生に移住して4年。ここでの暮らしについて、胡桃澤さんは「不便だと感じたことはほとんどない」と言います。
胡桃澤さん
買い物は車で行けますし、気分転換にもなります。朝、カーテンを開ければ山が広がっていて、地元の方がくれる野菜が本当においしい。そういう毎日の喜びのほうが私にとっては大きいんです。

お話を伺っていると、胡桃澤さんにとって芦生山の家での仕事は、生活の延長線上にあるようです。
胡桃澤さん
都会で働いていたとき、疲れを癒すために休日があるような生活が嫌だったんです。仕事と暮らしが分断されている感じがして。だから今、生活の延長線上に仕事がある環境がとても心地良いんですよね。山の家の仕事は大変なこともありますが、毎日の暮らしとつながっているのが私には合っているんだと思います。
だからこそ、胡桃澤さんは「今後入社される方にもここでの生活を楽しんでほしい」と言います。山の家での仕事を楽しむのと同時に、芦生の自然に囲まれた暮らしも楽しむ。日々の生活の中から生まれる発想が、この場所での仕事をさらに面白くしていくのかもしれません。
山の恵みを活かす佃煮と漬物の手仕事
芦生の里では、佃煮や漬物などの加工食品も製造・販売しています。その中心を担うのが、工場長の清水勝(しみず・まさる)さん。高校卒業後に芦生の里へ入社し、50年近く現場を支えてきた大ベテランです。

清水さん
芦生の里の最初の商品は、地元でよく採れたフキを使ったしぐれ煮でした。たくさん採れたフキを塩漬けにしておいて、山の仕事がない時期に小さなプレハブで炊いていたと聞いています。ほかにも山菜やなめこを使った商品が作られ、軌道に乗るまでは10年ほどかかったそうです。そうして今の工場が建てられた頃に、私も先輩から誘われて入社しました。
「ベテランと言っても、ただ勤め続けて年が経っただけ」と謙遜する清水さんは、若い頃は営業として、地元の商店に商品を届けて回っていたのだとか。その後製造現場に移り、現在は工場長として商品開発から製造までを手がけています。
佃煮と漬物づくりは、原料の選別から塩漬けや乾燥保存、調理まで手作業中心。清水さんは「何よりもまず、おいしいものを作ろうという気持ちが大切。一つひとつ丁寧に仕上げるのが芦生の里らしさ」と語ります。
清水さんが特に思い入れを持っているのが、工場の原点とも言える「美山しぐれ」です。フキ、干しシイタケ、実山椒を炊き合わせた佃煮で、砂糖を使わず醤油の風味を活かした濃い味付けが特徴です。現在はギフト用のセットで限定販売されており、その香りの良さやご飯にもお酒のお供にもピッタリな味付けから、「美山しぐれ」ファンのお客様もいるのだとか。

現在、芦生の里の商品に使用している野菜や山菜は、地元・美山町のものを中心に、町外から仕入れたものも使用しているのだそう。もともとは地元で採れた素材を使っていたそうですが、高齢化に伴い廃業したり生産量を減らしたりする農家さんも多く、仕入れが難しくなってきているのだとか。
清水さん
地元のものを使えたら一番いいのですが、芦生の里の商品の良さはそこだけではないと思うんです。由良川の源流にあたる芦生の水を使って、この場所で作っているということが何よりも大切です。これからも受け継がれてきた味を守りつつ、また新たなアイデアを生み出して、次の世代につないでいく必要があります。
新商品の開発も清水さんの仕事のひとつ。アイデアの種は、生産者の方やお客様からの「こんなの作れない?」という一言から生まれると言います。そうして生まれた商品は今や10種類以上。清水さんは「これから入社される方にも、ぜひ新たな視点を持って商品開発にチャレンジしてほしい。私たちはアイデアがすっかり凝り固まってしまっているから」と笑います。

一方で、製造現場にはさまざまな苦労も。震災やコロナ禍による販路の縮小、原材料費や資材価格の高騰、台風による停電など、営業の難しさも製造の苦労もたくさん味わってきたと言います。
清水さん
それでもやっぱり、長く続いてきた仕事ですから、まだまだ続けていってほしいと思います。芦生の里は、美山で暮らしていた父世代の人々がここで暮らし続けるために始めた事業でした。でも今は、地域を盛り上げるために人が集まってきて、それが仕事になっていく、そんな形に変わってきているのだと思います。
清水さんは「私はもう70歳ですから、そろそろ引退」と笑いながらも、芦生の里の未来に想いを馳せます。
清水さん
せっかくこれだけの施設と商品があって、豊かな自然があり、素敵な人たちもいるんです。あまり取り扱われてこなかった食材を使ってみたり、パッケージを一新してリブランディングしたり、できることはたくさんあるはず。芦生の里を盛り上げていくアイデアの種は、きっと芦生のあちこちに埋まっています。これからもっともっと賑わっていってほしいですね。

受け継いでいくもの、生み出していくもの
岡さん、胡桃澤さん、清水さんの言葉の節々からは、芦生の豊かな自然とともにある日々の豊かさが伝わってきます。季節の山菜や美しい風景に心を躍らせ、手づくりで仕上げる商品に誇りを持ち、訪れる人の一言に励まされながら暮らす3人の姿は、活き活きとした充実感に溢れていました。
今回募集する芦生の里でのお仕事は、宿泊施設の厨房業務と、加工食品工場での製造・販売業務です。しかし、それは入り口に過ぎません。自然に囲まれながら、自分の手で何かを生み出す日々は、きっと心に豊かさをもたらしてくれるはずです。そしてその仕事は、里山の文化や風景を未来へつないでいくことにもつながっていきます。
ここでの暮らしや働き方が地域に新しい風を吹き込み、まちを少しずつ元気にしていく。芦生は、そんな実感が得られる場所でもあります。人のあたたかさと挑戦の面白さが息づく美山の最奥から、新たな暮らしに一歩踏み出してみませんか。

執筆:鶴留 彩花
撮影:小黒 恵太朗
編集:北川 由依




求人募集要項
| 企業名・団体名 | 有限会社 芦生の里 |
|---|---|
| 募集職種 | ①佃煮漬物の製造 ②宿泊施設の食事調理 |
| 雇用形態 | 正規雇用者を希望していますが、職場環境・住環境などご不明・ご不安があるかと思いますので、体験的に短期の就労や試用期間を設けたりして、納得の上での正規雇用へとつなげていきたい思っています。正規雇用でも、月給・日給・時給のいずれの形態でも相談可能です。(試用期間は1ヶ月を予定しており、前後の勤務条件変更はありません) |
| 仕事内容 | ①佃煮漬物の製造・・・原材料の選別下処理、製造補助、原材料・調味料の管理 ②宿泊施設の食事調理・・・朝夕食の調理提供、昼弁当の調理 |
| 給与 | ・基本給について(支払い方法はご希望に応じて相談可能です) 時給の場合:1,058円〜 日給の場合:7,406円〜 月給の場合:170,338円〜 ・残業代について 超過の時間に応じて支給 |
| 福利厚生 | 社会保険完備 住宅補助(美山にある住居の貸し出しが可能です) |
| 勤務地 | ①芦生の里 工場 南丹市美山町芦生須後15 ②芦生山の家 南丹市美山町芦生須後13 |
| 勤務時間 | ①8:00-17:00・・・7時間(昼1時間休憩と午前・午後に30分) ②5:00-8:00・16:00-20:00などシフト制(お客様の予約状況により変動します) |
| 休日・休暇 | ・4週6休(月に6日ほどの休暇、シフトに応じて相談) ・年末年始休暇 |
| 応募資格 | ・自然の中で暮らしながら、仕事をしたい方 ・調理経験は不問。山村の食材(山菜やきのこ、川魚、獣肉など)を扱ったメニューに関心がある方 ・自然が好きな方 |
| 選考プロセス | 京都移住計画の応募フォームから応募 ↓ 書類選考 ↓ 1次選考 ↓ 最終選考 ↓ 内定 職場見学やカジュアル面談の実施も可能です。 |
| 面談場所 | 芦生山の家(オンライン不可) |
| 参考リンク | ホームページ |


