移住の第一歩は“つながりづくり”から みやまトライアル・ワーキングステイに密着!(前編)

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京都府のほぼ中央に位置する山あいのまち、南丹市美山町。豊かな自然と昔ながらの茅葺きの民家が 数多く残る里山の様子は、“日本の原風景”と称えられています。

かつては農業や林業がさかんな地域でしたが、近年は観光業が中心的な産業として発展。先人から受け継いだ豊かな自然環境や景観を地域資源として守りながら、その魅力を内外に発信し、まちの活性化につなげようとする動きが高まっています。
“観光立町”を目指すまちの取り組みのひとつに、2017年3月に初めて行われた「みやまトライアル・ワーキングステイ(以下、TWS)」があります。これは、一般的な観光ツアーとは異なるちょっとディープな企画。

参加者が滞在中、美山のエコツーリズムと関わりのある地元の企業などに赴き、そこで働きながら人や地域に触れてもらうことに重きを置いた、『観光以上、移住未満』の職場体験プログラムです。

実は京都移住計画も、2016年に発足した 「一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会』求人募集などでまちづくりのお手伝いに加わったご縁から、第1回TWSのサポートをさせていただきました。

昨年に続いて2回目のTWSが開催されるということで、もちろん今回も積極参加を表明!2018年2月9日(金)〜2月12日(月)に開催された3泊4日のTWSに同行し、まちの人と10名の参加者のみなさん、双方の思いにふれてきました。

発端は観光のまちが抱える人材不足

そもそもTWSはどのような経緯で始められたものなのでしょうか? 初回から企画・運営に携わってきた南丹市美山エコツーリズム推進協議会の事務局長・青田真樹さんにお話をうかがいました。

美山には観光業にかかわる事業者がたくさんありますが、人手不足で困っているところも実は多いんです。求職者が少ないのかというと決してそうではなくて、求人情報が十分に行き渡っていなかったり、そもそも働ける場所があるという認識自体がされていなかったりして、なかなか就職に結びつかないという実態がありました。

働いてほしい人と働きたい人がいるなら、両者を何らかの方法でつなぐことができないだろうか?と考え出したのがこの企画です。まず美山にどんな仕事があって、どんな人たちが暮らしているのかを肌で感じてもらい、そこで得た経験や人とのつながりを頼りにまた足を運んでもらう。
そうした積み重ねの先に、美山で働く・暮らすという展開があればいいなと思っています。

就職マッチングを目的として始まった企画ならば、すぐにでも就職や移住をしてほしいのがまち側の本音のはず。それにもかかわらず、就職・移住といった結果よりも、『つながりづくり』というプロセスを大事にしているのはどうしてなのでしょうか。

たまたま仕事を通じて美山との関係性が深まり、京都市内からこちらに拠点を移した私自身の経験から、何よりもまず、自分を必要としてくれる場所や人をつくることが先決だと思ったからです。

もし何のつながりも情報も持たずにこちらに来ていたら、さまざまなギャップに戸惑い、移住を後悔したかもしれません。まちとしてもそういう事態は避けたいので、この取り組みでは目先の移住人口を増やすことより、美山と何らかの接点を持って支えてくれる『関係人口』を増やすことを目指しています。

そんな目標を掲げて実験的に行った前回のTWSは、職場体験の受入先3カ所に対して参加者4名と少人数でしたが、今回は事前準備に力を入れたこともあり、受入先4カ所に対して参加者10名へと大幅に増加しています。20代から50代まで幅広い年代の男女が5名ずつ、京阪神だけでなく、はるばる関東からも参加してくれました。

そして、「田舎暮らしに興味がある」「自然に触れられる職場がいい」「サービス業に挑戦してみたい」といった個々の希望に基づいて青田さんらが受入先を選定し、2〜3名ずつ4カ所に分かれて職場体験に挑戦してもらいました。

そこで彼らを待ち受けていたものとは?各受入先の紹介と合わせて、主な活動内容をみていきましょう。

受入先①観光農園 江和ランド
究極の田舎暮らしが“日常”となる場所

<観光農園 江和ランド>は、清流美山川のほとりにある体験型宿泊施設。

貸し農園やぶどう園、自炊設備の整ったバーベキュー場、宿泊コテージなどを擁し、要望に応じて地元の食材を使った食事の提供も行っています。今回のTWSにあたっては、3名の職場体験に加えて、参加者およびスタッフ全員の宿泊および食事のお世話までしていただきました。

勤続17年のベテランスタッフ・鹿取悦子さんによると、こちらでは近年、お客さんの「やりたいこと」をベースにしたオーダーメイド型のプランが人気を呼んでいるのだとか。

羽釜でご飯を炊きたい、川で魚を取って食べたい、石釜ピザを焼きたいなどなど、具体的なご要望があった場合はそれらの体験を組み合わせてご提供する機会が多くなりました。それぞれご興味のある体験を通じて、自然や食の大切さに気づいてもらえたらいいなと思っています。

都会からやって来るお客さんにとって、江和ランドは非日常の田舎暮らしができる場所。けれど、鹿取さんをはじめとするスタッフのみなさんにとっては、田舎暮らしが日常そのものです。今回のTWS参加者が体験したお仕事内容からも、その様子がうかがえます。

初日は、原料のこんにゃく芋を使って一からこんにゃく作り。2日目は雪の下に埋もれた畑の大根や人参を収穫したあと、生きた鶏を1人1羽ずつ解体、さらに薪ストーブの燃料用の薪割りにも挑戦。3日目は狩猟免許を持つ鹿取さんと一緒に山へ赴き、捕獲された鹿の運搬をお手伝い。その肉を使って鹿肉ぎょうざを作るといった内容です。

このときに調達した食材は、すべて滞在中の食事でいただいたものばかり。つまり、自分たちが食べるものは、極力自分たちの力で手獲得する、人間本来の営みを実践するお仕事なのです。

生活に密着したお仕事であるがゆえ、「プライベートと切り離すのは難しいでしょうね」と鹿取さんは言います。その代わり、いつか田舎で自給自足の暮らしを実現したい、そのためのノウハウを学びたいと願っている人にとっては絶好の職場といえそうです。

ただ、「人手は欲しいものの、十分なお給料が払えない」という問題があるのも事実。そうした事情も踏まえ、鹿取さんは田舎暮らしを目指している人たちに向けて、次のようなアドバイスをしてくれました。

田舎暮らしがしたいからと、人脈も経験も何もないなかで、いきなりこちらに生活拠点を移したら、きっとどこかで行き詰まってしまうと思います。ですから、一年に何度か美山に通って自然環境の変化を確かめたり、知り合いを増やしたりすることから始めたほうがいい。そういう意味で、今回のTWSはよいきっかけになるのでは?今後も継続的に通うなら、うちの貸し農園や『みんなの田んぼ』という米づくりプロジェクトに参加するのがおすすめです。ついでに、こんな体験プログラムをしてみれば?といったアイディアをいただけると非常に助かります(笑)

入先② 美山里山舎
身近な資源を糧に“自立”した先駆者のもとで

次にご紹介する受入先<美山里山舎>は、日本古来の伝統的木造建築を手がける大工の小関康嗣さんが2005年に立ち上げた組織です。
小関さんはかつて東京でシステムエンジニアの仕事をしていましたが、「外部に依存するばかりの暮らしや仕事に疑問を感じた」ことから、27歳の時、大工への転身を決め、足掛け6年の修業を経て美山へ移住しています。

以来、小関さんが目指してきたのは『住まいとエネルギーの自給自足』。自分の山を手に入れ、そこから木を切り出し、本業の家づくりに活かしているほか、水力発電システムの開発や薪ストーブの販売などを通じて、電力や化石燃料がなくても困らない『自立した暮らし』の提案まで行なっています。

ここで2名の参加者のために用意されていたお仕事は、木材の搬出作業や薪割り作業といった山仕事がメイン。

それぞれ専用の機材はあるものの、丸太の向きを変えたり、薪を高いところに積み上げたりと、要所要所で力を使う重労働です。また、一瞬の判断ミスで大けがをする恐れもある危険な仕事でもあることから、小関さんは「未経験で始めるなら40歳まで」としています。

作業の合間を縫って、建築に関わる職人さんの工房や、人手を必要としている鉄工所の見学にも出かけています。それは「うちのほかにも、美山にはいろんな仕事があるということを知ってもらえたら」という小関さんの心遣いでした。

二人とも将来的に家族で移住したいと考えているようなので、そうなると仕事をどうするかが大きな課題になるはず。うちや今回案内したような職場に勤めるのも一つだし、自分がそれまでやってきた仕事を活かして何かを始めるのもいいと思う。もし起業するなら周囲との信頼関係を築くのに時間がかかるから、早めに動いたほうがいいよと伝えました。

ちなみに<美山里山舎>は、仕事探しの拠点として利用できるシェアハウスを近くに設けていたり、希望者には仕事や人の紹介を行っていたりと、美山移住のサポート活動にも熱心。

今回、参加者が取り組んだ山仕事をはじめ、里山の暮らしを体験できるイベントも随時行っています。以上2カ所の受入先で過ごした参加者は、どのような感想を持ったのでしょうか。

<江和ランド>の参加者からは、
「鶏の解体を初めて経験して、命をいただいて生きているんだと改めて実感した。食に関わる仕事をしているので、そのことを伝えていきたいと思った」「薪を割るのも火を点けるのもひと苦労で、本格的な田舎暮らしをしようと思ったら、それなりの知恵とパワーが必要になることがわかった」など、実感のこもった声が続々。

なかには「自分が理想とする暮らしに一歩近づけて嬉しく思う反面、短い期間で経験できることは限られているので、少し物足りなさも感じる」と、体験を経て芽生えた複雑な胸の内を語る人もいました。

一方、<美山里山舎>の参加者からは、「林業というと木を切ることしか頭になかったが、山に出入りするための林道づくりが第一歩だというお話を聞いてはっとさせられた」「木という身近な素材について体験的に学ぶことができてよかった」という作業にまつわる感想に加え、「移住や転職を経験されてきた小関さんの『動くなら早めに』というアドバイスは説得力があり、とても参考になった」と、今後を見据えたコメントもありました。

食や暮らしに密着したお仕事と、自然を相手にしたダイナミックなお仕事。どちらも美山のエコツーリズムに関係するという共通点はあれど、それぞれ違った特色を持っており、それが各自のコメントにもよく現れていました。

その他2カ所の受入先の体験内容や、最終日に行われた全体の振り返りの様子は後編で詳しくご紹介します。そちらもぜひお見逃しなく!

記事の作成に関わってくれたクリエイター

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