2019.05.29

補完し合う関係が次なる一歩を生む。福岡移住計画と訪ねる、京都の仕事と住まい

2012年に立ち上がった京都移住計画。現在は、札幌から沖縄まで全国20ヶ所に広がり、『◯◯移住計画』として活動しています。この取り組みに初期の頃から賛同し、共に歩んできたのが、福岡移住計画です。

福岡移住計画は、2013年設立。福岡へIターンした須賀大介さんが、自らの移住体験をもとに福岡移住者をサポートする活動をするため、立ち上げました。

福岡移住計画のサイト

今回は福岡移住計画の不動産担当、鎌苅竜也さんが来京。鎌苅さんは現在転職中ではありませんが、京都移住計画と近い仕事をしているからこその学びがあるのではないか、と1泊2日で京都の仕事や住まいを巡りました。

しごと旅行とは?

京都で暮らしたい人の想いを形にする京都移住計画。これまで「居・職・住」という移り住む人にとって必要な情報やイベントを開催してきました。なかでも、京都にある魅力的な求人なども独自で発信していましたが、せっかく京都の企業との繋がりもあるわけだし、「もっと、京都移住計画らしい仕事の見つけ方を提示できるのでは……?」と思い至った昨今。

そこではじまったのが「しごと旅行」です。移住をふまえた転職活動中の人に、興味のある分野や就きたい仕事などをヒアリングして、マッチしたいくつかの会社を旅するように巡る企画。

今回のしごと旅行に参加した人

鎌苅竜也さん

大阪府堺市出身。学生時代を大分で過ごしたあと、東京にある不動産ディベロッパーに就職し、住宅やシェアオフィスの開発・運営に携わる。不動デベロッパーとしてのキャリアを積む一方で、不動産を通した社会課題の解決への関心の高まりや、自身の暮らしを充実させたい思いから、2016年に福岡へ移住。不動産を自己表現や新しい暮らしや働き方の手段として、気軽に活用できる社会をつくっている。趣味は、キャンプと料理。

福岡と京都、それぞれの強みをいかしあおう

福岡移住計画を運営するのは、福岡と東京で事業を展開する株式会社スマートデザインアソシエーション。WEBサイトの制作・運用や遊休不動産の活用などを展開しています。

オーシャンビューの超絶景シェアオフィス『SALT(ソルト)』や、福岡の仕事情報を発信するメディア『飛梅』、各地のコミュニティと繋がりながら働くことができるワークスペースコミュニティ『+Wander(プラスワンダー)』などさまざまなプロジェクトがありますが、どれも福岡で生きることをより豊かにすることを大切にしています。

WEB制作や映像制作、デザイナーなどが入居。福岡移住計画と連携した仕事も生まれている。

一方、私たち京都移住計画は、京都の人や企業、行政など多様なつながりから、関係性をつむぎ、新たな事業や価値を生んでいくことが得意。本サイトでも、京都の仕事や住まいのご紹介や京都移住茶論を開催し、京都で暮らしたい人を応援してきました。

全国各地にある移住計画は、『みんなの移住計画』としてゆるやかに関わりをもちながら活動しています。しかし年に何度か一緒にイベントを開催するものの、お互いのまちを行き来し交流することはあまりありませんでした。

そのような状況の中、今回のしごと旅行のきっかけとなったのが、京都移住計画の藤本和志が、福岡訪問でした。

藤本:京都に次ぐ、第二の拠点を持ちたいと考えた時、福岡を思い浮かべました。そこで、1週間ほど福岡に滞在し、福岡移住計画のみなさんのカバン持ちをしてさまざまな人を紹介してもらったんですね。同じ移住計画でもそれぞれ強みが異なるからこそ、人的交流が進めばおもしろいんじゃないかと思いました。

そうした背景から、冒頭でお伝えしたように、福岡移住計画の鎌苅さんが来京するに至りました。

西陣エリアをまち歩き!京都の不動産を巡る

京都移住計画の拠点である町家スタジオからスタート!言い出しっぺの藤本は、持病のヘルニアが悪化して欠席となりました。

1日目の案内人を務めたのは、京都移住計画不動産担当の岸本千佳。早速向かったのは、岸本が「今イチオシ!」と話す「つれづれnishijin」です。

京福電気鉄道北野線「北野白梅町駅」駅徒歩13分、市バス「千本中立売」停徒歩5分の立地。

『つれづれnishijin』があるのは、町家スタジオから徒歩15分ほどの北野商店街。空き店舗になった7軒の木造賃貸をリノベーション。あたらしい職住一体群『つれづれnishijin』と名付け、入居者を募集しています。

岸本:昔からあったこのエリアで受け継がれてきた職住一体の暮らしを体現し、工房兼住居を中心に工房や店舗を組み合わせ、つくり手の暮らしで、”ちょっとテンションの上がる日常”をつくれたらと考えています。

7軒のうちすでに入居が決まっている『Comfy design』。イギリスやフランス、北欧のアンティークプリントやヴィンテージプリント、古書(洋書)を取り扱っています。

商店街に面した物件を見学したあと、「こっちです〜」と岸本に案内されるまま路地に入りさらに細い路地に入ってみると、そこには広々としたグリーンの芝生が広がっていました。

芝生で楽器を演奏したり、ガーデニングしたりするのも楽しそう!みんなの中庭から新しいコラボレーションが生まれそうです。

ここが工房兼住居の3軒。京都市内はもちろん東京など遠方からも問い合わせがきているのだとか。陶芸や木工など、ものを作りながら住みたい人を募集しています。賑やかな長屋になりそうです。

寄り道しながら堀川商店街へ

京都の物件巡りをしたあとは、堀川商店街へ。ぷらぷら歩いていると、「お〜い!」と声をかけられる場面もあり、京都のコンパクトさを実感します。
以前、京都移住計画でもご紹介した、1855年(安政2年)築の建物を改築した宿泊施設『京旅籠むげん』にもふらりと立ち寄り、女将に挨拶。用がなくても気兼ねなく訪ね、話ができる関係性に京都移住計画らしさを感じました。

女将の永留愛零(ながとめ・あふる)さん

西陣をぐるっと周り、1日目の最後は堀川商店街へ。ここは1951年、全国で最初の公営店舗付住宅として建設されました。1階の店舗部分には、八百屋や生活雑貨屋、ラーメン店などが1軒を連ねます。

近年では、空き店舗が目立つようになった商店街の再活性化も進んでいます。

2014年には空き店舗をリノベーションした、障がいのある人が一流ショコラティエとして働く『New Standard Chocolate kyoto by久遠』がオープン。大垣書店が運営するギャラリー&イベントスペースの『堀川 AC Lab』も生まれるなど、地元の人に若い人の行き来も増えつつあります。

なかでも京都移住計画メンバーが仕事終わりによく行くのが、立ち飲み屋「鳥岩」。すでに日も暮れつつあるので、1日目はここで乾杯です!

昼は鶏肉店として、夜は立ち飲み屋として営業する「鳥岩」。新鮮な鶏肉を使って、大将が焼き上げる焼き鳥は絶品!もも、せせり、はらみ、ずり、レバーなどの串は1本100円。ほかにもポテサラや肝のしぐれ煮、からあげなど鶏肉店ならではのメニューがずらりと並び、どれを食べようか目移りするほど。香ばしいタレの匂いが店内に充満し、食欲をそそります。

まち歩き後のビール、おいしい……!

京都の夜はまだまだ終わりません。焼き鳥とビールで1次会をしたあとは、夜のまちを歩いて四条大宮エリアへ!

集まったのは、京都移住計画メンバーやいつもお世話になっているみなさん。

京都移住計画メンバーであり、創業90年の八百屋『西喜商店』の近藤貴馬や『FM87.0 RADIO MIX KYOTO』放送局長を務める木村博美。そこに、山科に密着した子育て支援を行う『NPO法人山科醍醐こどものひろば』や大阪で就労就業支援をする『NPO法人HELLOlife』、自産自消のできる社会づくりに取り組む『株式会社マイファーム』などさまざまな領域で働くみなさんが集まり、賑やかな夜になりました!

地域プロジェクトも手がける、クリエイティブ企業「ロフトワーク」

2日目は京都移住計画仕事担当の田村篤史が、京都の企業をご案内。まず会いに行ったのは、クリエイティブディレクションとプロジェクトマネジメントを得意とする株式会社ロフトワークの田根佐和子さんです。

ロフトワークが河原町五条で運営する「FabCafe Kyoto」にて。

ロフトワークは、クリエイターとのオープンコラボレーションや、グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」を運営しています。また、地域の自治体や企業を支援するプロジェクトにも多数関わっていて、例えば、京都・与謝野町の伝統織物の可能性を広げるYOSANO OPEN TEXTILE PROJECT」や飛騨の森に新しい価値を生み出す「飛騨の森でクマは踊る」などクリエイティブな視点から地域課題の解決に取り組んでいます。

鎌苅さんから、月3万円の定額で各地のコミュニティと繋がりながら、仕事ができる『+Wander(プラスワンダー)』の紹介されたことをきっかけに、話題は関係人口とまちへの貢献の話に。

田根:ノマドワーカーが各地を移動しながら仕事する姿を見かけることも増え、『+Wander(プラスワンダー)』のようなサービスが増えましたね。ただ、働き方・生き方の選択肢が広がるすばらしさを実感する一方で、まちのおいしいところだけをつまみ食いしているようにも思えてしまって。

田村:なぜそう思うのでしょうか?

田根:私は北海道のニセコが大好きなのですが、外国人がバンガローを別荘として買い、冬しか利用しないために、夏の草刈りや水路の清掃などを残された地元住民が大変な思いをしていると耳にします。
そのようなことを考えるうちに、私も本質的にはノマドワーカーや外国人観光客と同じじゃないかと思うようになって。今、京都市内の賃貸マンションに住んでいますが、地域の活動に参加しているわけではありません。もちろん住民税などは支払っていますが、私は京都のまちに対して何一つ貢献していないのではないかと、罪悪感を抱くようになりました。

鎌苅:その点はあまり気にしなくてもいいのではないでしょうか。田根さん自身が、直接京都に貢献することも大切ですが、仕事を通じて他のまちに貢献して、京都には他のまちに住んでいる人が貢献してくれる。そんな補完関係が成り立っていればいいのではと思います。

田村:近年、家をもたないアドレスホッパーが注目されていますが、今後訪れたまちに貢献しようとする層と、田根さんが気にするようにまちの良いところだけを享受する層に分かれていくんじゃないかなと見ています。『+Wander(プラスワンダー)』でも、そうした人たちをうまく巻き込んでいけるといいですね。

田根:訪れた人がカジュアルに足跡を残したり、宿泊やサービスなど受け取った分をお金以外の形でまちに返せる仕組みがあったら、おもしろそうです。

鎌苅:そうですね。検討してみます!

私は、私の住むまちにどれだけ貢献できているだろうーー?田根さんの視点は、普段「移住」や「関係人口」について話をする際にはなかなか出てこない視点で、大いに話が盛り上がりました。
また、こうした話題が、何気ない会話にもにじみ出るところに、クライアントとの課題に向き合い、その事柄の本質を問いつづけるロフトワークらしさを感じました。

「八清」が次にめざすのは、泊まる・遊ぶ・働くが一体となった不動産!?

クリエイティビティを刺激されたあと訪問したのは、『FabCafe Kyoto』から徒歩5分ほどの株式会社八清。京町家の賃貸・売買をはじめ、シェアハウスやコワーキングスペースの運営、1週間単位で京町家を利用できる『京町家タイムシェア』など、時代に応じて新しいサービスを仕掛けつづける不動産会社です。

対応いただいたのは、専務取締役の西村直己さん。鎌苅さんも不動産が本業ということで、これから不動産会社に求められるサービスについて話が盛り上がりました。

鎌苅:京都は観光客が多いですね。あちこちにホテルがあり、かつ建設中のホテルも多く、東京オリンピック後どうなっていくのだろうと考えてしまいました。

西村:そうですね。僕たちも、ホテル建設に次ぐ不動産の活かし方を考えています。その一つに、不動産の軸が、住むから働くへ変わっていくのではないかというものがあります。今、実験的に 『UNKNOWN KYOTO 五條楽園』 プロジェクトを進めています。これは”泊まって、食べて、働く”暮らしが1つになったコリビング施設です。

田村:宿泊と体験がセットになったようなサービスでしょうか?

西村:はい。既存の宿泊サービスでは、京都に来て何ができるのか観光客に伝わりづらいなと考えていて。これからはただ場があるだけではなく、そこで何ができるのかが大切になってくるのではと思います。

鎌苅:働くと暮らすの境界線がどんどんなくなってきていますからね。

西村:遊ぶように働く、がキーワードですよね。

鎌苅:わかります。今、京都に出張できているのですが、観光しているような気分なんです。観光地は一箇所も行っていないのですが、普段見ていないものを見て、新しい人と出会っているから楽しいです。

西村:そのような体験を提供できるようになることが、これから僕たちに求められていることなのかなって。楽しい、おもしろいと思ってもらえるコンテンツが、施設なのか人なのかはまだわからないのですが……。

鎌苅:僕らが福岡で運営しているシェアオフィス『SALT(ソルト)』には、札幌のWEB制作会社さんが契約いただいています。1年に1回、社員の方々が順番に福岡にきていただき、1週間ほど滞在されます。休みではなく、仕事をされるんですが、普段の環境とは大きく異なるので、仕事をしつつ、福岡でのネットワークを広げ、さらにはリフレッシュにも繋がっているようです。

田村:不動産業で、リモートワークってどこまでできるんでしょうか?不動産というくらいですし(笑)

西村:そうですね……。不動産業はまちに根ざし、現場に足を運んでなんぼの世界ですから。でも、ほかのまちを見ることは大切なことなので、八清でも考えたいですね。

鎌苅:福岡に来られる時は、ぜひご連絡ください!

時流を読み、新しい不動産業のあり方にチャレンジをつづける八清。『UNKNOWN KYOTO 五條楽園』 をはじめ、これからどのような場を生み出していくのか楽しみです。

官民混じり合ってビジネスを生み出す「京都経済センター」

そして最後に訪れたのは、四条室町に2019年3月開業した京都経済センター

地下1~地上2階は、飲食店や書店が入り観光客の出入りも多いお買い物フロア。地上3階から7階はオフィスエリアとなっていて、商工会議所はじめさまざまな公的機関が入居しています。

3階にはオープンイノベーションカフェがあり、なんとこんなに広くてキレイな空間を無料で利用することができます!

打ち合わせをしていたり、パソコン作業をしている人がいたり。四条駅からすぐとは思えないほど静かな環境で、作業できますよ。京都の中心部でゆったり仕事するスペースは少ないので、これから活躍しそうです。

郷土愛でもない、まちへの敬意が溢れる京都

さてさて、そんなこんなであっという間に1泊2日のしごと旅行も終わりに。最後、鎌苅さんに、京都の印象を聞いてみました。

田村:2日間、京都を巡ってどうでしたか?

鎌苅:まず移住計画同士の関係について話すと、福岡移住計画と京都移住計画では、強みが異なるからこそ良い補完関係になれるのではと思いました。僕たちは、制作系の人間が多いのでメディアやサービスをつくることが得意。一方、京都移住計画は、表に出るのがうまいですよね。運営している人の顔がしっかり見えているからこそ、企業やまちとの距離感が近いと感じました。

田村:うん。僕も今回2日間アテンドさせていただいて、お互いの得意を活かしあいながら、今後一緒に仕事をつくっていけそうな道筋が見えました。京都のまちについては、どう感じましたか?

鎌苅:京都の人は、脈々と受け継がれてきた歴史や文化的なものを、今生きる自分たちが受け継いで、次の世代に渡していこうとする意思を感じました。岸本さんにご紹介いただいた『つれづれnishijin』も、まちの文脈をいかしてリノベーションされていました。

田村:たしかに、二言目にはまちのことを話す人が京都にはたくさんいます。

鎌苅:郷土愛の強い地域は多いですが、そういうのとは違って、京都の人は、まちの個性を活かしながら、うまく自分ができることをされていると感じました。

田村:自分ごととまちのことが一致しやすいのは、どういう影響なんでしょうね……?

鎌苅:歴史で片付けるのも良くないかもしれませんが、やはり、これまでの長い歴史のうえに今の自分がいて、これから先に繋げていこうとする思考が強いんじゃないでしょうか。

田村:たしかに今さえ良ければいい、自分さえ良かったらいいとは思う人はあまりいないかも。

鎌苅:それに京都の人は、まちに対する敬意がありますよね。他のまちで郷土愛を感じることはあっても、ここまで敬意を感じることは少ないと思います。京都に住まわせてもらっている、この土地を使わせてもらっている感覚があるんだろうなと。だから、まちのためになにかしないとと思うのかもしれません。

田村:なるほど。ロフトワークの田根さんが、「京都に住んでいるけれど、まちのために何もできていない」とおっしゃったことは、まさにその意識が現れていますね。

鎌苅:ほかにも、個人商店の人たちが、自分らしい商売をしながら生きていける生態系があるところも、京都ならではですね。できるだけ友人のお店から買って応援するということを当たり前のようにしている人がいて、小さな経済圏を大切にしていることが伝わってきます。

田村:僕たちそれぞれ似たような事業をしていますが、生きる場所も強みも違う。この2日間、京都のことを外向けに話すことで、今まで意識していなかったことが言語化されました。改めて感じたことを自分に問い直しながら、京都で生きるおもしろさを発信していけたらと思います。鎌苅さん、ありがとうございました!

鎌苅:こちらこそ。今度は、京都移住計画のみなさんも福岡へぜひ遊びに来てくださいね。

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