2024.04.04

05 清明 – 春のセーブポイント〜KYOTOGRAPHIEを巡る〜

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京都には、季節ごとの行事やならわし、風物詩がたくさん存在しています。このコラムでは、1年を春夏秋冬の4つに分け、さらにそれぞれを6つに分けた「二十四節気(にじゅうしせっき)」にあわせて、京都移住計画に関わる人たちの等身大の京都暮らしをお伝えします。

「春に関する、コラムを書きませんか?」
そんなお声がけをいただいたので、過去に撮った春の写真を振り返ることから始めてみた。

京都に移住した2020年、東京の制作会社で奮闘していた2019年、新潟に新卒でUターンした2016年……。切り取られた過去の一瞬を見ると、曖昧だったその前後の輪郭までがはっきりしてくる。懐かしさを楽しみながら、上へ上へとスクロールさせていたアルバムの画面は、大学最後の9月でストップした。

当時スマホが故障し、あらゆるデータが消失してしまった。その中には、高校時代のガラケーから引き継いだ写真も含まれていた。過去のすべての出来事を、残しておきたいわけではない。けれど、戻りたいときに戻れないのは、やはり寂しい。写真は、記憶のセーブポイント。僕は今カメラマンをしているが、きちんと写真を撮ろう、残そうとするようになったのは、多分その頃からだったと思う。

野球少年がプロ野球選手を参考にするように、写真の上達には一流の作品に触れることが欠かせない。京都でカメラマンをしていて嬉しいことのひとつに、毎年春に行われる「KYOTOGRAPHIE」が挙げられる。2013年から開催されている国際的な写真展であり、国内外の著名な写真家たちの作品が、京都中で展示されるのだ。

作品を観るとき、僕は事前情報を入れずに、まず会場を一周する。その後、写真家のプロフィールや展示のコンセプトを読み、答え合わせをするようにもう一周する。写真家はなぜこの一枚を撮ったのだろうと、正直分からない作品も多い。でも、それで良いのだと思っている。

写真はどんな一枚であれ、撮影者が直接対峙した過去の一瞬が写されている。つまりそれは、その人の人生の一片に他ならない。展示をする以上、表現したい何かがあるのは間違いない。しかし安易に人の人生を「分かった」気持ちになるのは、どこか違う気がしている。「綺麗」でも「怖い」でも「分からない」でも、そのとき生まれた感情が、自分の現在地なのだと思う。

また、僕は京都に移住してきてから、友人夫婦と一緒に「KYOTOGRAPHIE」を観に行くことが、毎年の恒例になっている。展示は美術館や歴史的建造物など、様々な場所を舞台に展開されているので、小旅行をするつもりで会場を巡る。そして1日かけて歩き通した後、たどり着いた居酒屋で乾杯するビールが美味しいこと!

今年の春は、どんな1枚がアルバムに加わるだろうか。将来その1枚は、どんな記憶のセーブポイントになるだろうか。今から楽しみでならないのである。

執筆:小黒 恵太朗
編集:藤原 朋

小黒 恵太朗

1992年5月10日生まれ。新潟県長岡市出身。立命館大学経営学部卒。リクルートにてゼクシィの広告営業を経験した後、東京の制作会社に転職。 職人の手仕事を中心に、一部上場企業や地方自治体、全国誌など、各方面で写真撮影や執筆を担当する。2020年3月、京都に移住。同年8月に「ひとへや」の屋号で開業し、活動を続けている。将棋とウルトラマンが大好き。

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