CHECK IN
京都のおもしろい人を訪ねる「人を巡る」シリーズ。京都に移住した人の体験談や京都の企業で働く人をご紹介する連載コラム記事です。移住するに至った苦労や決め手、京都の企業ならではの魅力など、ひとりの「人」が語る物語をお届けします。
インスタのタイムラインをスライドしていると、キュートなイラストに目が止まる。シンプルな色使いで、おしゃれ。見ているとなんだかわくわくするから、私はmutsumiさんの描くイラストが好き。
第30弾にご登場いただくのは、イラストレーターのmutsumi(むつみ)さん。大手百貨店のWEBコンテンツや雑誌、まちあるきMAPのイラスト制作など、幅広い分野で活躍されています。2023年には長く住んだ大阪から京都へ移住。自然に癒され、新たな制作意欲も湧いてきたそう。これまで歩んできた道のりや、これから京都でやってみたいことなどをお聞きしました。
後悔しないために、イラストレーターの道へ
ーーいつ頃から、イラストレーターになりたいと思われていたのでしょうか?
小さい頃から絵を描くのはずっと好きだったのですが、それを職業にしようということはあまり考えていなくて。高校卒業までは地元の兵庫県加東市にいて、鳥取県の大学に進学した後、神戸を中心に飲食業を展開する企業で働いていました。絵を描くことを仕事にしたいと考え出したのは、25歳ぐらいの時だったかな。
ーー大学では、イラストを専攻されていたんですか?
違うんですよ(笑)。ヨーロッパの古い建物が好きという漠然とした理由で「地域文化」という学部に進んで。それこそ大学3回生のときは、まちづくりに関わるNPO法人にインターンシップをしていました。就職活動もどうしようと迷っていたんですが、人と関わりをもつ中で、「誰と仕事をしたいか」が重要なのかなと思って、神戸の飲食会社に就職したんです。「地域にある食材や食文化を残していきたい」という企業の想いにすごく惹かれて。
飲食店のホールの仕事からスタートして、新入社員の採用担当や人材教育に関わりました。一緒に働く人たちにも恵まれてたくさん成長できたんですけど…。毎日忙しさに追われる日々の中で、これを本当に望んでるのかなって、はてなマークがピンと立ったんです。このままやったら後悔するな、後悔してることないかなって考えることが増えて。「絵を通して、何かを伝えられる人になりたい」っていう気持ちがふつふつ湧いてきて、3年ちょっとで退職することにしました。
ーーその間も絵を描いていたんですか。
落書き程度だったんですけど…でもいろんな人の個展を見に行ったり、イラストの本を買ったり、絵を描くことへの欲求は持ち続けていたんだと思います。ずっと前から絵を描くことを仕事にしたかったんだろうけど、「いや、もっと上手い人おるし」と理由をつけて、何回か諦めてきたんですよね。
でも覚悟を決めて仕事を辞めて。初心者でもイラストレーターやフォトショップを触らせてもらえるような印刷業に入社して、夜7時から通える絵の講座に通って……。ここで頑張らなあかんみたいな感じで。ぐずぐずしてる自分も変えたかったんです。
そこから印刷業をしながらギャラリーで個展を開催したり、知人からの紹介で仕事が徐々に増えてきました。本当にありがたいことに、周りの方のおかげでお仕事が増えていったような感じです。
イラストレーターとして独り立ちするまで
ーーとはいえ、ゼロから仕事につなげるのは難しいことですよね。
しいていうなら、「イラストレーターとして頑張ります!」とSNSで発信したことでしょうか。そういう発信を見て連絡をくださった方もいたし、個展を見て仕事を紹介していただくこともありました。大阪の豊崎のお祭りのチラシとかまちづくり関連のお仕事から始まって、ルクア大阪のイベント(SNSのアイコン制作)や東急ハンズ梅田店のチラシ制作のお仕事など、じんわりとお仕事の幅も広がっていったように思います。
30歳で結婚したタイミングで印刷業を辞めて、フリーランスとして本腰をいれて絵の仕事に専念することにしました。印刷業と並行し続けていては、受けられる仕事の幅も広がらないんじゃないかなと思って。何者にもなれない焦り、みたいなものも感じていたんでしょうね。
ただ、絵の仕事一本に絞ったからといって仕事が増えるはずもないので、もう少し視野を広げようと京都の「UNKNOWN KYOTO」のコワーキングスタッフに応募しました。旦那さんとも「いつか京都に住みたいね」という話はしていたので京都をもう少し知りたいという思いと、コワーキングで京都の人たちとつながって、仕事が広がるといいなとも考えていて。
でも結局コロナの影響で3ヶ月しか働けなかったんです。しかもそのタイミングで旦那さんの心身の調子が悪くなってしまい、休職することになって。私が大黒柱として仕事を頑張らなくちゃという状況になりました。「どうすればいいんだろう…」と途方に暮れていたところ、知り合いの方から「SNSでイラストを発信してみたら?」とアドバイスをいただいたんです。
今日あったできごとをイラストにして、毎日アップするようにしたら、見てくださる方が増えていって。問い合わせも増えて、仕事がいただけるようになって。そこがイラストレーターとして「独り立ちできた」タイミングだったんじゃないかなと思います。
自然が側にある幸せを感じる、京都の暮らし
ーーその後、京都に移住されたんですか?
なかなか旦那さんの調子がよくならなくて、ずーっと家にいる生活だったんです。大阪は暮らしやすいし、楽しい場所ですが、ビルに囲まれて閉じこもっている生活をずっと続けるのはしんどいな……と感じるようになって。旦那さんも京都の大学出身だし、いつか住みたいとも話していた場所だったので思い切って引っ越すことにしました。
京都に来てまだ半年も経っていないですけど、旦那さんがどんどん元気になっているんですよね。マンションじゃないから、朝8時までにゴミ出ししないといけないんですけど、そのおかげで生活のリズムができたようです(笑)。一緒に鴨川を散歩するんですが、「あぁ、この人は京都がすごい好きなんやな」って感じるんです。今はデザインの仕事を手伝ってもらったり、ちょっとずついい感じになってきています。
ーーmutsumiさんにとって、京都の暮らしはいかがですか?
最近だと、地図に載っていない京都の裏山をハイキングする「kuh」というイベントに参加してきました。大学の頃は「探検部」っていうアウトドアの部活に入って、山登りやラフティングをしていたんです。その時は自然が当たり前すぎてありがたさを感じてなかったんですけど、自分にとっては必要なことなんだって気づかされた。空が広く見える、山や川が身近にあるだけで、こんな幸せなんやなって。「やりたくない仕事はしなくていいか」「せかせかせんでもいいな」って、価値観が変わるぐらい。
ーー環境や気持ちが変わると、表現するものも変わるものですか?
毎日のように上賀茂神社に散歩に行くんですけど、花や木が目に入ってスケッチしたくなります。これまで気持ちが塞いでいたのもあると思うんですけど、植物って全く目に入らなかったんです。でも今は、不思議なぐらい描きたいものがあって。京都って町並み一つとっても面白い。顔を上げて、まちを見ながら自転車に乗っているだけでワクワクする。そういうものを何か表現したいなという思いはあります。
これまでクライアントワークでいっぱいいっぱいだったんです。自分がどういうことを大事にしてるかがすっぽり抜けて、要望に応えなきゃって気にしていたような気がします。旦那さんのこともそうなんですけど、自分が何とかしなきゃと焦ってばかりだった。
だからこれからは、誰かを言い訳にして自分のやりたいことをできひんとか思わずに、まずはピンとくるところに足を運んでみたりしながら、自分の表現を見つけていきたいなって思っています。
リンク:https://linktr.ee/mutsumi_illustration
編集:北川由依
執筆:ミカミユカリ
CHECK OUT
京都の暮らしがきっと、mutsumiさんにとっても旦那さんにとっても、心地よいものなんだなということがお話から伝わってきて、何だか私まで嬉しくなってしまいました。今後、京都での日々を過ごす中で、mutsumiさんが表現したいものを見つけた時…どんな作品が生まれるんだろうか。そんなことを思うと一ファンとして楽しみでなりません。