2023(令和5)年3月、京都市は移住・定住を促進させるために「京都市移住・定住応援団」(以下、応援団)を発足させました。これは京都で働き、暮らし、子育てしたいと若い世代から思われるまち、そして住み続けたくなる都市を目指して、民間企業・団体等が持つアイデアやノウハウをまちづくりにいかしながら、京都市への移住・定住の促進につながるプロジェクトや情報発信などを公民連携で行う取組です。
今回は、応援団事業を担当する京都市総合企画局 総合政策室 人口戦略担当の中筋大揮さんと、応援団に登録されている、株式会社一級建築士事務所STUDIO MONAKAの代表・岡山泰士さん、一般社団法人パースペクティブ代表の高室幸子さんの3名に応援団の取組や今後のビジョンをお伺いしました。
住みたくなる京都をつくる、移住・定住応援団
応援団は、公民連携で移住・定住促進につながるプロジェクトや情報発信を行う取組です。2024(令和6)年1月末時点で、登録している企業や団体等は69団体。京都市に拠点を置く企業・団体等はもちろん、市外からの登録もあります。
そんな応援団はどのように立ち上がったのでしょうか。
中筋さん
2016(平成28)年に「京都市移住サポートセンター『住むなら京都(みやこ)』」を発足するなど、京都市では、移住促進に関する取組を幅広く行ってきました。しかし、日本全体の人口が減少していく中で、京都市も例外ではなく、このままでは、将来的に文化や地域の担い手が少なくなり、まちに活力がなくなってしまう恐れがあります。地域コミュニティを活性化し、行政だけではなく民間の方が持っているアイデアやノウハウをいかして一緒に京都市を盛り上げていく必要があると考え、応援団を発足させました。
中筋大揮
1987年生まれ。和歌山県出身。関西の地方銀行勤務を経て、平成29年に大学時代を過ごした京都市に転職。以後6年間は、伝統産業の振興やコロナ禍で大きな経済的打撃を受けた地域企業の金融支援等に従事。令和5年4月、人口戦略担当の部署創設と同時に着任し、「京都市移住・定住応援団」をはじめとする人口減少対策、移住・定住促進に取り組んでいる。
中筋さん
現在、応援団には、不動産やまちづくり、子育て支援や建築事務所など、多岐に渡る業界・業種の方に登録いただいています。
STUDIO MONAKAとパースペクティブも応援団に登録されています。どういった経緯で登録したのでしょうか。
岡山さん
前々から、何かしらの形で京都のまちづくりに関わりたいと考えていました。僕は京都生まれ京都育ちですが、今は滋賀に住んでいます。京都を出てしまった者として、僕たちの会社でできることがあるのであれば何かしたいと思いました。
岡山泰士
建築家として京都・沖縄を拠点に活動。生活の場である大津市旧志賀町エリアを拠点に シガーシガを立ち上げ「蓬莱マルシェ」やローカルメディア「Re:edit」など立ち上げている。また、SOCIAL WORKERS LABという社会実験プロジェクトなどに携わり、福祉の領域を広げる取り組みなどもしている。 4児の父として子育て奮闘中。
高室さん
私は移住した京北にもっと人を呼び込みたいと思ったのが登録のきっかけです。住まいと仕事の拠点を構えている京都市北部の京北は、人口4,100人程の地域で、過疎化が進んでいます。地域文化の継承や地域コミュニティの活性化には、もう少し人口が必要だと思っていて。担い手が増えていくきっかけを、応援団を通してつくりたいと考えています。
高室幸子
森とモノづくりの生態系が絡み合う世界を探索中。次の時代もモノと関わり続ける人々とともに、「つくる」歓びと可能性と責任とを共有するコンテンツを発信、教育プログラムやツアーを企画しています。一社)パースペクティブ共同代表。
地域と人を“公園”でつなげる。公園を活用したプログラム「PARK NIGHT」
では、実際、登録事業者はどのような活動を展開しているのでしょうか。
京都市では、公民連携で実施する事業費用の一部を支援し、移住・定住促進のための活動を応援する制度を設けています。行政とともにまちづくりや移住促進に取り組めることはもちろん、金銭面でもサポートがあるので、軽やかに事業をスタートさせることができます。
こうした支援金も活用しながら、岡山さんが代表を務めるSTUDIO MONAKAは、複数の事業者とともに、「船岡山公園を活用した移住定住促進啓発プログラム『PARK NIGHT』」に取り組んでいます。
岡山さん
以前から事務所のある船岡山公園で、地域の人の交流の場である「船岡山オープンパーク」を毎月第3日曜日に運営しています。多い日で1日100人ほどが遊びに来るイベントですが、どうしても昼の時間帯では訪れられない人がいて。そこで、新たに「PARK NIGHT」として夜の時間帯に新たなイベントを開催すれば、これまで機会がなかった人たちを呼び込めると思いました。
岡山さん
周辺は住宅街です。夜の公園は暗い場所も多く、近寄りがたいイメージがあったんですよね。そのため、コンサートやライトアップなど公園内が楽しい雰囲気になるような夜ならではの演出を企画しました。特に公園内には立派な音楽堂があるのですが、あまり活用がされていなくて。そういったこれまで活用されていなかった場所を実際に活用することで、船岡山公園が素敵な空間であると訪れた方々に認識してもらえた気がします。
夜の時間帯にイベントを開催することで、参加者は昼と夜の時間帯合わせて200人程に。プロジェクトを通して、「自分で何かしたい」という人も現れ、主体的にまちに関わろうとする人も増えているそうです。
岡山さん
PARK NIGHTへの参加をきっかけに、「新しいプロジェクトを始めたい」という大学生も出てきました。地域の中で挑戦したいという声が上がるのは、いい兆しだと感じます。
中筋さん
地域の場と、そこに関わりを持ちたいと思う人をつなげていただけるのは、非常にありがたい取組です。一つの取組から、次のアイデアが生まれてどんどん膨らんでいく。それが応援団の目指すところなので。
岡山さん
移住してすぐの接点もない学生や社会人の方が、「公園で何かやっている」と聞きつけてオープンパークを訪れるケースもあって。移住・定住においても地域の接点として公園が機能するんだと驚きましたね。
中筋さん
移住後に、地域に馴染めるのかという不安の声はよく聞きます。オープンパークの取組のように、地域の方々が一緒に成長する場づくりをしていただきながら、こうした不安が払しょくされるといいですね。
また、応援団の活動を通して、会社内にもいい影響があったと岡山さんは話します。
岡山さん
小さい会社は信頼が大切です。応援団として行政とプロジェクトを進めることで、一種の公共事業的な見え方をされて、「パブリックなことやってるね」と声をかけられることが増え、会社の信用力が上がりました。僕らは京都市の事業の一環で船岡山に事務所を置いているのですが、担当部署とも公園活用について相談をしやすくなりましたね。何かする時に場所を提供してもらうなど、行政との関わりが広がっています。
中筋さん
それは良かったです。信用力が上がるのは公民連携のメリットですよね。
岡山さん
実は、船岡山オープンパークの取組に対して、スタッフは後ろ向きだったんです。「なんで建築以外のことをしないといけないのか」「土日に出勤しないといけないのか」って。でも、続けていくと、スタッフがまちに出た時に地域の方々から声をかけてもらえるようになって。自分たちの活動が暮らすまちにどういう影響を与え、関係性を生み出すのかが目に見えてきたことで、スタッフの姿勢が変わりましたね。僕がやりたかった、設計者が設計だけじゃなくて、コミュニティを見ながら建築するを体現する、ということを肌をもって感じてもらう場になっています。
中筋さん
そうした変化が企業内で生まれているのは、担当者として予想していなかったことなので、とても嬉しいです。
岡山さん
応援団の活動は直接的な利益にはつながりづらく、メリットが返ってくるには時間がかかります。しかし、応援団の事例があることで公共に理解がある会社と認識され、少しずつですが、駅周辺のまちづくりや、バスターミナルの設計を依頼されることが増えています。
京北の自然をいかしたまちづくり「移住促進に向けたサイトスペシフィックな滞在制作の実証実験」
続いては、「移住促進に向けたサイトスペシフィックな滞在制作の実証実験」を企画した一般社団法人パースペクティブ代表、高室さんに活動の内容をお伺いします。
高室さんは、京都中心部から車で1時間程の場所にある京北をフィールドに、サイトスペシフィックな(=その場所ならではの)滞在制作を行うアーティストインレジデンスを通して、移住促進につながるような企画を行っています。
自然やダンス、工芸、建築など、様々なキーワードで移住者を促進する取組を行う高室さん。その場所ならではの体験とは一体どのようなものなのでしょうか?
高室さん
アーティストインレジデンスを通して、地元の人たちとの交流や森でのフィールドワークなど、京北で暮らすように過ごすプログラムを組みました。11月に実施したコンテンポラリーダンスのワークショップ合宿では、廃校になった小学校を舞台に、自然の中で感覚をひらく体験をしてもらいました。
ワークショップには、京都市内からはもちろん、東京や愛知、兵庫など日本各地から18名が参加。京北の自然の豊かさや、クリエイターが多く暮らし、独自のコミュニティがあるところに魅力を感じてもらったそうです。
こうした活動を続けるうちに、地域の方からは「外の人を紹介してもらえないか」「空き物件をどう活用したらいいのかな」という相談も増えてきたと話します。
高室さん
地域の方から空き家情報をいただくことも増えました。一緒に地域を盛り上げていける人に移住してほしいと、地域のみなさんも期待しています。
中筋さん
京都市の11区にはそれぞれに地域性や特性があります。そのため、高室さんのように各地域の強みをいかした呼び込みが必要です。京北には他の地域にも負けない豊かな自然があるので、もっとアピールしていってほしいです。
高室さん
京北は平安時代から京の都へ木材を供給してきた歴史があります。伝統的な祭があり、文化や歴史が根付いているのが京北の魅力。私たちが応援団に入るきっかけになった、「京北の人口を増やしたい」というのも、伝統を引き継ぐには人手が必要だと強く感じたからなんです。
中筋さん
移住を検討される方の移住先の条件として、自然との距離が近い豊かな場所を挙げられる方は多くて、京都市では京北も候補地の1つに上がります。地域の資源を活用しながら、市外から人を招いて地域との接点づくりをされている高室さんのプロジェクトは、京都市として非常にありがたく思います。
京都への思いがある企業・団体等の登録を待っています!
岡山さん、高室さんをはじめ、応援団では様々な業種・業態の企業・団体等の方が想いを持って活動しています。応援団の活動を広げていくに当たって、どのような方に登録してもらいたいと考えているのでしょうか。
中筋さん
移住・定住の促進には、移住の前段階での情報発信や、働く場所・住む場所探し、また、居心地の良いまちづくりなど移住後に求められる取組もあります。つまり、地域のための活動すべてが移住・定住の促進につながると、私たちは考えています。なので、移住・定住促進の定義を狭めずに、様々な企業・団体等の方に登録していただきたいですね。
岡山さん
その上で、お互いにギブできる人たちが集まるのといいですよね。京都って、まちのために何かしたい人が、他のまちに比べて多いと感じていて。公園もですけど、その場に愛着を持って還していきたい人が集まれば集まるほどパワーになっていくので、それを溜める場所に応援団がなっていくといいですね。
また、登録数が100、200と増えていった暁には、こんな未来も描けそうと盛り上がります。
岡山さん
登録されている応援団同士で一緒にプロジェクトをやっていくのも面白そうですね。今日話をしながら、僕たちもぜひパースペクティブさんと連携したいと思いました。パースペクティブさんは、「工藝の森」としてモノづくりをしながら森づくりをされていますよね。今後、船岡山公園の一部も、地域の人と一緒にメンテナンスをしていきたいと考えていて。パースペクティブさんから山のメンテナンスのやり方を教えてもらったり、京北と船岡山を行き来して公園と森をつないでいったりする動きもできそうだなと。
高室さん
いいですね!工藝の森は「モノづくりが自然資源から派生していている」という考えから取り組んでいるのですが、私自身ももっとその概念を広めたいと思っています。岡山さんと一緒に、京都市内で「公園の森」をつくるのは、私たちにとってもありがたいことです。
中筋さん
応援団同士が連携して新たなプロジェクトにつながる。これこそが応援団の目指す姿です。京都市には世界に誇れる伝統工芸や文化、ほかにも様々な地域資源があります。こうした資源をいかした移住・定住促進の取組こそ、京都らしい取組になるんじゃないでしょうか。
岡山さん
そうですね。京都の魅力は、面白いカルチャーを背景に持った人たちが暮らしているところにあります。サラリーマンがたくさんいるから豊かなまちというわけではなくて、自分のやりたいことを貫きながら働く人がたくさんいるのが京都の魅力です。そんな人たちが京都に居続けたくなるきっかけや理由を、応援団の取組を活用して僕たちも用意していきたいです。
中筋さん
ちなみに、京都市外の企業・団体等も応援団に登録いただけるので、外から見て京都をどう変えていくかという視点での申請も大歓迎です。
行政だけでなく、民間の企業・団体等や地域の人々と一緒にまちを盛り上げていく応援団の取組。支援金制度や交流会の開催などもあり、活動のサポートが充実しているので、「京都のために何かしたい」、「新しい取組を行政や他の事業者とともに考えていきたい」という方にぴったりの制度です。
地域のつながりを深め、暮らしをより良くしていく「京都市移住・定住応援団」の一員に、あなたもなりませんか。
編集:北川 由依
執筆:高橋 美咲
撮影:中田 絢子
「京都市移住・定住応援団」について
移住・定住応援団を募集しています。みなさまからのご応募をお待ちしております。
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