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南北に細長い京都府。これまで京都移住計画は、各地に足を運び、現地で暮らすみなさんにご案内をいただきながら、まちの歴史や文化、魅力を教えてもらってきました。生まれた出会いやプロジェクトは数知れず。記事ではそんな一部をご紹介します。
移住計画のメンバーと共に、一緒に旅をしているような気持ちで読んでもらえると嬉しいです。
京都市内から電車に揺られて、約1時間半。福知山は、かつて戦国武将の明智光秀が築いた城を中心に栄えた城下町でした。明治維新以降は、紡績を基盤に商業都市として再開発が始まり、駅の周辺にはいくつもの商店や飲食店が立ち並びました。
しかし昭和40年代を境に次第に衰退。多くの店がシャッターを下ろしてしまい、まちの活気が失われていってしまいました。
地元が少しづつ寂しくなっていく様子に心を痛め、まちに元気を取り戻したいという想いを持ち活動しているのが、今回福知山を案内してくれた吉田佐和子さん。現在は、大阪の二拠点生活をしながら、福知山の地域と文化芸術をつなぐ活動を行っています。
最近では、京都移住計画のタナカユウヤがモデレーターを務めたカンファレンス「IVS 2023 KYOTO」に、ゲストとして登壇していただきました。
福知山のカルチャーに触れる
吉田さんと待ち合わせしたのは、市内唯一の映画館「福知山シネマ」と同じ建物にあるブックカフェ「古本と珈琲 モジカ」。ここで仕事や打ち合わせをしたり、お気に入りの本を手にとって読書をしたり。吉田さんにとって憩いの場のひとつなのだそう。
モジカがあるのは、2014年にオープンした「まちのば」という文化交流施設です。
モジカの店内には、3000冊以上の古本がずらり。本棚を見てみると、小さな頃に読んだ懐かしい絵本や、読んでみたいと思っていた小説を発見しました。本好きにとって嬉しいのが、ここは「読めて、買える」ブックカフェ。心ゆくまで好きな本を読むことができます。ここにある本は、ブックキュレーターの資格をもつ、店長の西村さんが選書したもの。何を読もうか迷う方は、西村さんに声をかけてみましょう。
まだまだ長居したい気持ちを抑えて次に向かったのは、「ギャラリー菊紫」。吉田さんに「福知山の文化や歴史を感じられるものが見たい」とリクエストしたところ、ここに連れてきてくれました。
ギャラリーでは、福知山伝統の盆踊り「福知山踊り」の様子が、和紙人形によって再現されています。福知山踊りの特徴は、「ドッコイセ、ドッコイセ」というユニークな掛け声。おすまし顔の人形たちも「ドッコイセ!」といいながら踊っているのかな。想像しながら見ると、楽しいですよね。
この人形たちをひとつひとつ手作りしたのは、ギャラリーの隣でたばこ店を営む根本さん。独学で和紙人形作りを始め、作品を展示をするギャラリーを2021年ににオープン。企画展を定期開催しています(入館・無料)。
レトロな看板にわくわくする商店街
ギャラリーのある広小路通り沿いには、レトロな雰囲気が漂う新町商店街があります。
昭和時代には活気が溢れていた商店街。今はシャッターを下ろしているお店も多いですが、昭和独自のフォントや個性的な色使いの看板があり、見るだけでも楽しい気持ちになれます。
しかし数年前から吉田さんのように、福知山ににぎわいを取り戻そうと活動を始める人も増えてきました。そうした動きから生まれたのが、「アーキテンポ」です。元紳士服店をリノベーションし、厨房付きレンタルスペースとして生まれ変わらせた建物では、カフェやレストランなど、将来的にお店を始めたいという人たちが、挑戦できる場として活用されています。
また、毎月第4土曜日には約60店舗が出店する「福知山ワンダーマーケット」が開催されていて、子どもから大人まで大勢の人で賑わうなど、新しい試みも起こっています。
まちのシンボル、福知山城へ
商店街を後にして、向かったのは福知山城。「実は市民が復活させたお城なんですよ」と吉田さん。
明治時代のはじめに、石垣と銅門(あかがねもん)番所以外は廃城令で取り壊されてしまった福知山城。まちのシンボルを取り戻そうと市民が立ち上がり、1986年に再建されました。そのときに「瓦一枚運動」とよばれる寄付活動が行われ、瓦1枚分(3000円)を一口として約8500人が寄付。城の瓦の裏には、寄附者一人ひとりの名前が書かれているそうです。
お城のふもとに到着し周囲を見渡すと、福知山のまちや美しい山々を眺めることができます。深呼吸すると、ほっと心が安らぐよう。戦国武将たちもこの景色を見ていたのでしょうか。
景色に見惚れていると、「石垣にも注目してくださいね」と吉田さんから声をかけられました。
なんと石垣の中には、塔や墓石、石臼まで入っているそう……!自然石をそのまま用いた「野面積み」と呼ばれるもので、築城当初から変わっていないもの。
そして福知山城が高台に立っているのは、敵襲を防ぐだけではなく、水害から逃れるためでもあったのだということも教えてもらいました。福知山は、水害に悩まされ続けてきたまち。福知山を築城した明智光秀は、たびたび氾濫を起こしていた由良川の治水工事を行うなどまちの整備を行い、信頼の厚い城主だったのだそう。
こうした歴史を知ることができるのも、地元の方に案内していただける醍醐味。貴重な時間を過ごすことができました。
厳選した栗を使ったスイーツを堪能
福知山の歴史をしっかりと学んだ後は、お待ちかねのグルメタイム!まずは「甘いものも食べたいよね」と「足立音衛門」へ。栗にこだわり抜いたスイーツがずらりと並びます。
店舗は、明治末期から大正初期にかけてつくられた「旧松村家住宅」の主屋を活用しています。敷地内には洋館もあり、モダン建築好きの方にも足を運んで欲しい場所です。
私たちがいただいたのは、ジェラート。和三盆、栗、ゆずなど日本のジェラートならではのフレーバーも楽しむことができます。
歩き疲れたら、クラフトビールを一杯
甘いもので満たされたら、2022年にビアパブを兼ね備えたクラフトビールの醸造所「CRAFT BANK(クラフトバンク)」へ。アーキテンポを仕掛けた庄田健助さんが、福知山駅正面通り商店街の元銀行だったビルをリノベーションしオープンしました。
1杯目はお店の名前を冠した「BANK IPA」。飲む前にビールの香りを吸い込むと、はなやかな柑橘系の香り。グイッと一口飲むと、やわらかな苦味がきて…でもすっきりとした後味。1日歩き回って疲れたからだにビールが染み込みます…!「お、飲みやすいね!」なんて言っているとあっという間にグラスが空になっていました。
他にも栗を使用した「KURIGOLD」や、黒豆のスタウト(黒)ビールなど、ビールと地のものを掛け合わせたユニークなビールを飲むことができます。お酒好きの方が福知山に来る時は、電車をおすすめします(笑)。(※ラインナップは季節によって変更します)
旅の締めには、名物の鴨鍋を
そして福知山をめぐる旅を締めくくるのは、「柳町」の鴨鍋。吉田さんが知り合いを福知山に招く時は、必ずここに連れてくるほどお気に入りなのだそう。
お出汁にネギと鴨肉をサッとくぐらせて、口に運ぶと……、鴨肉の甘みとネギのシャキシャキ感が相まって「おいしい」という言葉しか出てこなくなります。後味が残る間に、福知山の地酒を一口。あぁもう、帰りたくない!話にも花が咲き、終電ギリギリまで幸せな時間を堪能しました。
歴史や文化、そしてまちで起こる新しい試みに触れた、福知山をめぐる旅。福知山城の治水工事、空き店舗を活かす商店街の取り組みなど、まちの物語を聞いていると、遥か昔から福知山は「人が人のためを思い、成長してきた場所」なのだと感じました。
各地で活躍するプレイヤーに案内していただき、まちの物語を聴く本連載。さぁ、次はどのまちをめぐろうかな。
執筆:ミカミ ユカリ
編集:北川 由依
撮影:田中 梨乃