2023.10.30

音楽家から起業家へ。福知山を想う気持ちが未来に進む原動力になる。

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京都のおもしろい人を訪ねる「人を巡る」シリーズ。京都に移住した人の体験談や京都の企業で働く人をご紹介する連載コラム記事です。移住するに至った苦労や決め手、京都の企業ならではの魅力など、ひとりの「人」が語る物語をお届けします。

コーヒーを淹れながら、ふとパッケージの裏面を見るとQRコードが書かれている。アクセスすると、美しいピアノの音色が流れてくる。鳥の声や、葉が擦れる音までも。これらは福知山のまちの環境音を採取し、つくられた音楽。

第35弾にご登場いただくのは、このプロダクトを手掛けた起業家の吉田佐和子さん。「地元・福知山のまちの魅力をコーヒーを通じて届けたい」と、2023年「MEETS GOOD COFFEE」をスタートしました。コーヒー以外にも、福知山の素敵なヒト・モノ・コトを伝えるフリーペーパー「Fukuchiyama Magazin」の制作をはじめ、さまざまな活動を通じて地元の魅力を発信する活動を続けています。株式会社Locatellの代表取締役社長であり、一般社団法人福知山芸術文化振興会の代表理事でもある吉田さんのジャンルレスな活動について、そして根幹にある福知山に対する想いをお聞きしました。

福知山の4つのエリアをそれぞれイメージして作られたコーヒー(提供:MEETS GOOD COFFEE)

地元を活気づけたい!小学生の時からの想い

ーー福知山に関わる活動は、どういった経緯で始められたんですか。

小学生のときからずっと、閑散としている商店街が気になっていたんですよね。毎日商店街を通りながら、なんか寂しいなって。でも当時は「いつか大人がどうにかしてくれるだろう」という漠然とした希望を持っていたんです。

そんな思いを持ちつつも、高校卒業後に大阪の音大に進学して音楽にのめり込む日々を送っていました。けれど卒業して改めてまちを見たときに、あまり変わってないことに気づいたんですよね。その時20歳を超えていて、「大人になってしまったんなら、私が何かしなあかんな」と思ったことが始まりでした。

私ができるのはクラリネット奏者として演奏することだったので、コンサートを開催して、演目の間に「ピックアップ福知山」というお店やイベントなどを紹介するコーナーを設けました。「音楽で福知山(まち)を繋ぐ」というのがサブタイトルでしたね。

ーーコンサートで地元を紹介するコーナーを持つ、というのは斬新ですね!

曲目を説明してから演奏するというスタイルだったんで、MCの時間に福知山の話を挟む、みたいな(笑)。

ーーFukuchiyama Magazinも、最初は音楽活動の一環としてはじめられたそうですね。

私がクラリネット奏者として活動していたときに、活動資金をサポートしてくださった方に、お礼として福知山のおすすめスポットをまとめてお送りすることにしたんです。最初はA4サイズにまとめてPDFでお送りする予定だったんですが、思った以上に多くの資金をサポートしてくださった方がいて。PDFでは申し訳ないと思い、フリーペーパーをつくることにしました。

そのときは不定期で発行してたんですけど、9月からクラリネット奏者の活動を一旦休止して起業家としてやっていくことにしたこともあり、もっと地域との関わりを深めるためにも季刊誌に変更しました。

ーー季刊誌にしてから、どのような内容で制作していますか。

「福知山の良いものと出会おう」というコンセプトのもと、制作しています。みんなが興味を惹かれるようなヒト・モノ・コトだけでなく、若い移住者や、子育てしながら自分のやりたいことに取り組んでいる人の生き方や暮らし方にもフォーカスして紹介しています。まちの魅力を伝えることと、芸術・文化に関わること。これは私の展開している事業の二つの軸になるので、そこを外の人にも中の人にも伝わるように意識していますね。

(提供:MEETS GOOD COFFEE)

文化や芸術に触れ、心の癒しと感動を

ーー「芸術・文化」の分野では、どのような活動をされているのでしょうか。

2010年から7年間ほどクラリネット奏者として活動しながら、自分なりに福知山のことを伝える活動をしていたんですが、自分が望む福知山になっていないことに気づいたんです。

福知山を題材にした吹奏楽の曲を作って地元の中高生と演奏をしたり、自分のコンサートで福知山を紹介するコーナーを設けたりと、色々やりきった感があって、これ以上何したらいいのかわからなくなってしまったんですね。

その後に、たまたまの夫の転勤でパリに3年間住むことになったんです。月に1度、ルーブル美術館に無料で入れる日があるのですが、そこでは現地の方と絵画を通じて話すなど、芸術を通じて会話が生まれる体験をしました。何より小さな子どもが絵を見て「ママ、あれ印象派だよね」と言っているのを耳にした時、衝撃を受けました。年齢や貧富の差に関係なく、誰でも一流のものに触れられる環境が身近にあることがうらやましくて。

そこからこの環境をどうしたら福知山でもつくれるかばかり考えていました。まったく同じではなくても、一部だけなら、似たものであればと、いろいろ思い描きながら帰国しました。

(クラリネット奏者として活躍していた吉田さん(提供:吉田さん))

ーーそこで福知山に置き換えて考えられるのが、吉田さんですね。

でも帰ってきたら新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の影響で、仕事ができなくて。さすがにどうしようかなと悩みました。チラシやHPの制作、プロモーションなど自分の音楽活動をする中で培ったスキルを活かせば、コロナのせいで大変な事業者さんたちの助けになるんじゃないかと思ったんです。

実際に始めてみたらたくさん依頼をいただいて、「音楽以外でも役に立てるんだ!」という成功体験ができました。そこから2年ぐらいで社団法人と株式会社を立ち上げることになったんです。

ーースピーディーな発想の転換とすごい行動力です!

そういう行動をしっかりと評価してくださった方がいて、音楽家じゃない道もありやなと思うようになりました。そこで私自身がコンサートに出演する演者ではなく、企画側にまわって、舞台に立ちたい人にチャンスを渡せるようなことをしたいと考えはじめました。それも音楽だけでなく、演劇、ミュージカル、ダンス……、さまざまなジャンルの文化や芸術に触れる機会をまちに増やしたいと思ったんです。

パリに行ったことやコロナで音楽活動が止まるなど、いろんな偶然が重なって今のような事業内容になっていった感じですね。

ーー文化や芸術に触れる素晴らしさをご存知だからこそ、こういった発想ができるのでしょうね。

心を病むぐらい落ち込んだ時期もありました。そういう時に、美しい景色を見て癒されたり、絵画展で絵を見てるときに自分のしんどさに気づけたり。絵画や音楽に触れていると、心がふるえて自然と癒されてゆく。そんな経験があるからこそ、多くの人に触れてほしいと思うのかもしれません。

子どもたちと一緒に描く、まちの未来

ーー吉田さんは、なぜここまで福知山に惹かれるのだと思いますか?

実はこの活動の源泉には「怒り」があるのかなって。福知山には、こんなにいいものがたくさんあるのに、なんで伝えようとしないんだろうみたいな。「何もない」「できない」と言ってやろうとしないんだろうというもどかしさがあるんだと思います。

(撮影:田中梨乃)

ーー小学生の時から、根幹にある想いは変わっていらっしゃらないんですね。

そうかもしれませんね。学生時代にも音楽や芸術を観賞できる場所が大阪にはあって、なぜ福知山にはないんだろうと思ったこともあります。

地方に住んでいても豊かな体験に触れることが出来たら、という思いを実現できる力を身につけた今、やらない理由がないんです。でもそれは決して自分だけの力ではなくて、サポートしてくださる方がいて、実現できる。だから「なんとかしたい!」という想いを周囲に伝え続けることが大事だと思います。

ーー小さい頃から思い描いていた福知山の姿に、近づいていると思われますか。

そうですね。でも、明確なビジョンを思い描いているわけではないんです。『このまちで楽しそうなことができるはずだから、一緒にやりません?』と声をかけて、皆さんとつくっていこうとしているところです。芸術や文化を育むことはすぐに効果がでないからこそ、絶対ここにたどり着かなきゃ駄目というゴールを決めようとも思ってないし、その変化を楽しむぐらいの気持ちでいた方がいいんじゃないかな。ひとつ明確なのは、子どもたちの存在に福知山の可能性を感じているということでしょうか。

6月に小学校に呼ばれて講演をしたときに、「地元に吉田さんみたいな人がいることを誇らしく思いました」って書いてくれた子がいたんですよね。大きな目標を掲げて、でもやめて、今また新しいことに挑戦している。「こんな大人がいる」ことで未来が広がったり、自分の地元がちょっと好きになったり。そういう子どもたちがいたら、まちのポテンシャル上がるような気がして。子どもたちに可能性を感じてもらえるような活動を続けていくことで、将来的に福知山の可能性が広がる気がしてるんです。

(撮影:田中梨乃)

執筆:ミカミ ユカリ
編集:北川 由依

CHECK OUT

取材をする前に吉田さんについて色々と調べてみたんですが、起業家、音楽家、コーヒー、フリーペーパー……。いろんな肩書きがあって、正直なところ、何をしている方なのかはわからなかったんです。でも取材をして、それは「ないならつくればいい」という吉田さんのマインドからくることだったんだと感じました。その根元にあるのはいつも、福知山を豊かにしたいというまっすぐな想い。10年後、吉田さんはどんなことに取り組んでいるのでしょうか。どんどん深化していく吉田さんの活躍が、今後も楽しみです。

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