2022.02.07

関わり方を知ることからはじめよう。中と外が交わり合うことで生まれる商店街の未来

(2024/1/19更新)

みなさんが暮らすまちに「商店街」はありますか?

今回は商店街の活動を支援する京都府の「商店街創生センター(以下センター)」の取り組みと、府内の商店街をご紹介します。センター事務局長である前田志津江さん、そして福知山の商店街で活動する株式会社 Localize代表取締役の庄田健助さんにお話を伺いしました。

左:前田志津江さん、右:庄田健助さん

前田志津江さん
京都府中小企業総合支援課、商店街創生センター事務局長。京都府亀岡市出身。京都府入庁後、広報課、総合就業支援室、文化交流事業課、京都産業21などに勤務。2020年4月より現職。

庄田健助さん
兵庫県尼崎市出身。大阪のまちづくり会社勤務を経て独立。株式会社Localize(ローカライズ)を設立し、空き地・空き店舗など使われなくなった不動産を使った事業構築を行っている。2016年10月より福知山ワンダーマーケット共同代表。

時代の流れに合わせた支援策を実施

センターは、京都府内の「元気な商店街づくり」のサポーターとして2015年に設立。商店街の実情に応じたさまざまな支援をしています。

支援のメインは、オーダーメイド型の伴走支援です。京都府内にある約300の商店街に職員が訪問し、現状やニーズを伺い、商店街の実情に応じた活性化の取り組みを商店街の方たちと一緒に考え、取り組んできました。また、「何とかしたい」という思いがあっても一歩踏み出せない方たちのために、状況に応じて課題解決に必要な専門家を派遣する事業もしています。

過去6年で、センターの職員が商店街を訪れた回数はのべ2000回、商店街の人たちにとって気軽に相談できる駆け込み寺のような存在として認知されるようになってきました。

職員のアドバイスにより商店街の会員への情報のやりとりがFAXからLINEグループになったり、オンライン通話「Zoom」での会議にチャレンジしたりするなど、商店街のIT化が進むきっかけなどを生んでいます。

情報発信にも積極的です。公式Webサイトだけでなく、Facebook、YouTube、Instagramなど等いろんなツールを使って広く発信しています。

また、商店街関係者だけでなく、地域の方、大学生などさまざまな世代の交流の場づくりにも取り組んでいます。1つは、2018年から年1回開催される「京都商店街創生フォーラム(以下フォーラム)」です。商店街活性化の成功事例や商店街との連携可能な企業の事例紹介することで若手起業家・大学生などとの交流の機会をつくり、ネットワークづくりを支援してきました。

2つ目が小規模かつ地域限定で開催する「商店街ネットワークサロン(以下サロン)」では、地域特有の課題や普段出会わない商店街の取り組み事例などを共有することで、近隣の地域内での連携や交流を深めることができます。

例えば、2021年12月に開催された@丹後×宮津わかもの会議」では、「商店街の未来を考える」をテーマにグループワークが行われ、大学生たちから積極的に出されるアイデアの勢いにつられ、商店街関係者からもさまざまな意見が出て、熱気あふれる会となりました。

京都商店街創生フォーラム2021の様子。コロナ禍のため、すべてがオンラインというセンター初の試み。リンクから動画視聴できます。

ここまででも盛りだくさんのサポートですが、2021年7月には「商店街これかラボ(以下ラボ)」が立ち上がりました。「商店街これかラボ」とは、商店街の変化や課題を共に考える全5回の講座。この講座を通して、商店街に関わる人やこれから商店街に関わってみたい人など、さまざまな人たちが事例を共有しながら、商店街のことを学び、実践し、答えを見つけていきます。

前田

商店街の課題がたくさんある中で、どこも共通して抱えているのが、人づくりの難しさです。商店街運営の知識やノウハウは教えられたからと言ってできるわけでもないし、いろんな事を感じ合いながら、学び合いながら、それを言葉にしながら、実際に現場に足を運びながら感じていくものだと思っています。なので、それらを体験できるプログラムをつくりました。全国の商店街で外の人との関わりをつくるのが上手い経験豊かなゲストをお呼びして、学んでもらう取り組みになっています。

第一期のラボ生は34名。うち半分以上は商店街の事業者で、もう半分は自営業者や学生が多いといいます。またオンライン参加も可能だったため居住地も京都に限らず、名古屋や長崎、沖縄からなどさまざまです。

ラボの様子。リアルとオンラインのハイブリット型で実施されました。

「ラボを立ち上げたことで、より一層、地域ごとの課題を解決するための事例共有やつながりが必要であるとわかった」と前田さん。交流機会が本当に少ないと実感したため、引き続きフォーラムや地域に分けたサロンを開催しながら、年に1度はみんなが集まる情報交換やネットワークの場をつくっていきたいと意気込みます。

前田

みなさん商売をされていてお忙しいので、商店街同士の横の交流はなかなかできないんです。成功事例はいろんな書物やネット記事を調べても出てきますが、失敗事例を言いたがる人はほとんどいませんよね。リアルに出会って膝を突き合わせて、しゃべることではじめて本音を聞ける・・・。そんな関係性をつくることを意識しています。

フォーラムやサロンの参加者からは、「商店街の枠組みをなくして行きたいというゲストの意見に共感した」という声や「情報発信の大切さを再認識した」との声が届いています。また、ラボがきっかけで北野商店街では土日にフリーマーケットを開催するなど新しい動きが生まれているそうです。

前田

庄田さんには、2020年度に中丹地域で開催したサロンで登壇していただきました。庄田さんによる商店街活性化の動きは画期的で、ほかの京都の商店街では前例がありません。そうした取り組みの経験は他の商店街でも参考になると思いお願いしました。

福知山と中途半端な関わり方をするのは嫌だった

庄田さんは現在、福知山の商店街を中心に、「福知山ワンダーマーケット」や「レンタルキッチンのアーキテンポ」を運営しています。もともとは縁もゆかりもなかった福知山で事業をはじめることになったのはなぜだったのでしょうか?

庄田

新卒で入社した都市コンサルの会社では主に地方の商店街に複数の店舗を誘致するような中心市街地活性化事業を行っていました。はじめての現場が福知山で、商業施設の「ゆらのガーデン」や「広小路商店街」にも携わりました。

元はアーケード商店街だった、現在の広小路商店街

庄田

「このまちを変える!」と本気で思っていたんですが、会社員なのでいろんな現場に行かないといけなくて、なかなか力を注ぎ込めなかったんです。いつしか福知山に集中したいと思うようになりました。そんな時、僕が立ち上げた「ゆらのガーデン」が2014年の集中豪雨によって被害を受けました。災害で苦しい思いをしている人たちがいる中で、誘致に導いた側の自分は何も変わらなくて、違和感を覚えました。それから「受け身の仕事じゃなくて事業者側に回りたい」と思うようになって。会社を退職して福知山に来ました。

その後、庄田さんは株式会社 Localizeを立ち上げ、会社員時代には果たせなかった、複数の商店街での活性化のための取り組みに携わっていきます。

新町商店街で元紳士服のお店をリノベーションしたレンタルキッチン「アーキテンポ」を運営中

庄田

福知山に移住した2014年当時、商店街は7つあったんですが、今は4つしかありません。僕はそのうち3つの商店街に関わっていて、1つ目が先に話した広小路商店街で外部理事をしています。もうひとつは新町商店街で、キッチン付きレンタルスペース「アーキテンポ」を運営したり、福知山市や北近畿を中心に約60店舗が出店する「福知山ワンダーマーケット」を開催しています。

庄田

3つ目は福知山駅正面通り商店街です。この商店街では、もともと銀行だった場所をリノベーションして、1階はクラフトビールのお店で、2階をコワーキングスペースにして、チャレンジしたい人を集め、より新しいアイデアを生み出すようなコミュニティをつくっていきたいと考えています。

福知山駅北側に位置する福知山駅正面通り商店街

庄田

以前、福知山市の空き家を管理する仕事をしていたのですが、駅正面通り商店街の空き家は不動産流通しない物件ばかりでした。そのため、商店街を活性化していくための投資会社をつくるために、全軒ヒアリングして、商売が上手な店主に声がけしていき、福知山フロント株式会社という開発コミュニティディベロッパーをつくり、空き家への誘致活動をはじめました。結果、12軒ほど店舗が埋まりました。ディベロッパーを地域につくって、空き店舗を埋めて新しい風を入れる。商売上手な人を商店街の理事にする。そうするうちに商店街は少しずつ変わっていきました。

前田

空き店舗が増加すると、商店街のにぎわいがなくなり、来街者の減少につながります。また地域の住民にとっても生活の利便性が低下するなど空き店舗は商店街にとって大きな課題です。空き店舗を単に埋めるだけではない庄田さんのような動きは、大変参考になります。

「中の人」と「外の人」が交わり合えば商店街は変わる

一見、閉じたように見える商店街。しかし、空き店舗や商店街同士の横のつながりの希薄さなど、課題が多い分関われることも多そうです。また、庄田さんのように縁もゆかりもないまちに飛び込んで、仕事をつくっていくこともできる余白の広さが見えてきました。

府内各地の商店街を支援する前田さんと、商店街の中で活動する庄田さん。お二人から見て、商店街は今どんな課題を抱えていて、どんな人を求めているのでしょうか?

前田

まずは人材育成の手前の、仲間づくりを目標にしています。最初に話したように、課題を解決するための事例共有やつながりが必要であるとわかったからです。商店街同士の交流機会が少ないので、今後も引きつづき情報交換の場をつくっていきたいです。

庄田

僕は商店街に外の人もどんどん関わってほしいです。例えば、新町商店街で開催している「福知山ワンダーマーケット」は、もともと福知山のまちを楽しみたいメンバーが有志で集まり、はじまったものです。実行委員は地元の大学生や農家、会社員、カフェの店主、大学教授、市役所職員など幅広くて、福知山出身者も移住者もいるので、運営者として外の人も関わりしろがあります。出店者も福知山だけではなく北近畿から集まっています。

新町商店街の周辺で開催される「福知山ワンダーマーケット」は関西圏内から出店者さんが集まり、こだわりの商品やメニューが並ぶ。今や2000人ほどが集まる、一大イベント。

庄田

ワンダーマーケットで自分のお店を持ちたいニーズがあることがわかったこともあり、2019年には元紳士服店の空き店舗を借りてリフォーム活用したレンタルスペース「アーキテンポ」をつくりました。ワンダーマーケットやアーキテンポから巣立ち、商店街に自分のお店を出した人も数人います。

庄田さんが空き店舗に誘致した、広小路商店街の生花店「Flower Maison」。現在は、商店街の理事長も務めています。
福知山フロントが空き店舗に誘致した、福知山駅正面通り商店街のアメリカンケーキ店「キャプテンティーズ」。

庄田

こうして若い出店者が増えるとまちが少しずつ変わっていきます。例えば、福知山駅正面通り商店街では若い美容師さんとかサーファーの人が多く、彼らは浜辺でクリーン活動をしています。その流れで今では商店街でも月1回清掃活動をされるように変わりました。また、商店街に流れる音楽も、若者向けになるなど変化していて。中の人だけに止まらず、外の人とも連携することで商店街は変わっているのを実感しています。

前田

そう、変えられる!庄田さんのように中で引っ張る人がいつつ、外から専門知識やスキルを持った人が関わることで、どんどん変わっていくんですよね。それに、個店では難しいことも、組織としてならスムーズに進むこともあります。庄田さんのようなキーマンとつながると、情報も入ってきやすいですし、自分がやりたいことを実現しやすいと思います。

「京都商店街創生フォーラム」で関わり方を見つけよう

庄田さんのように商店街で活動する人の中には、困りごとや課題を抱えていて「外の人」の力を借りたいというニーズもたくさんあるもの。そうした「中の人」と「外の人」をつなぐ機会の一つが、「京都商店街創生フォーラム」です。

前田

何かしら商店街に興味ある方であれば、どなたでもウェルカムです!何から関わっていけばいいのかわからないという方も、いろんな方の話を聞くだけでも自分の中の刺激になると思うので、まずは一歩踏み出して探していってほしいなって思いますね。

庄田

僕もオンラインで参加しようかな!

商店街は関わり方が見えにくかっただけで、実はさまざまな人に関わってほしいことがわかりました。京都商店街創生フォーラムでは前田さんや、庄田さんたち商店街のキーマンと話せる機会があります。ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?

執筆:狩野 哲也
撮影:中田 絢子

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