2023.02.10

仲間と出会い、共に学びあう。「商店街これかラボ」で見つけた次の一歩

あなたが知っている商店街では、どんな音が行き交っていますか?

ばったり会った知り合いと立ち話している横で、子どもがキャッキャッと遊んでいたり。お店のBGMがかすかに外に漏れていたり、荷物を運ぶ自転車のベルがリンリンと鳴っていたり。音の種類だけ、商店街にはさまざまな人たちが交わっています。

一方で、音が少ない商店街も増えてきました。大型ショッピングモールやECサイトが普及して、買い物をする人たちが少なくなった商店街もあります。「モノを買う」だけではなく、「商店街の新しい価値」を探求するときに入ったのかもしれません。

商店街創生センターは、2021年度から、株式会社ツナグムと共に「商店街これかラボ」を開催しています。同ラボには、商店街でお店を運営している人だけでなく、これから商店街に関わりたい人や興味がある学生などが参加。日本各地の商店街事例を学びながら、「商店街をもっと面白く」するために、議論と実践を重ねます。

今回は、同ラボに参加した中田絢子さんと西山相在さん、吉田匠さんに集まっていただきました。商店街の関わり方が異なる三者が、ラボで何を学び、これから何を実践していくのか、お話を伺いました。

中田絢子さん(「商店街これかラボ」一期生)
京都市伏見区にある『伏見の写真館 これから』を運営。写真ギャラリーソラリスの写真教室の講師を務める。また、夏至の日を祝うイベント『夏至カレー』の主催者。

西山相在さん(「商店街これかラボ」二期生)
株式会社CASA代表取締役。京都の五条にあるスペインバル サントレスと京都駅南にあるスペインバル アブラモスを経営。2022年2月に飲食店や洋品店など16店舗が新たな商店団体「東寺道親交会」を立ち上げ、会長を務める。

吉田匠さん(「商店街これかラボ」二期生)
京都産業大学現代社会学を卒業後、龍谷大学 大学院政策学研究科に所属。大学所属中に商店街ライブ実行委員を務める。

商店街の人だけではない「商店街これかラボ」

商店街これかラボは、定員が20人にも関わらず多数の応募者がありました。1期は32名、2期は27名と集まり、商店街に関わる人だけでなく商店街の「外」の人も多く参加しています。三者はなぜ「商店街これかラボ(通称:ラボ)」に参加をしたのでしょうか。

西山

2022年2月に商店団体「東寺道親交会(どうじみちしんこうかい)」を立ち上げ、会長を務め始めたことをきっかけに、もっと商店街の運営について情報がほしくて参加しました。
京都駅から徒歩10分ほど、西洞院通から竹田街道までをつなぐ東寺道には、かつて商店街があって賑わっていたそうです。でも、2019年からスペイン料理店「スペインバル アブラモス」を運営しているにもかかわらず、商店街があったことを知らなかったんですよね。たまたま、近所で商売をしている人たちと顔を合わせる機会があって、その歴史を知りました。
また、もっとこのエリアの良い部分をSNSで発信したら、訪れる人たちが多くなり、自分の商売にも繋がるかもと考えていました。徐々に、このエリアの人たちのことを考えるようになり、ご縁があって商店街を立ち上げることに。でも、商店街運営に関しては、全くの素人ですから(笑)。情報や人との繋がりがほしくて、ラボに参加しました。

京都市伏見区で『伏見の写真館 これから』を運営する中田さんは、2022年に墨染ショッピング街に加盟をしました。しかし、商店街に興味を持ったのは、もっと前のこと。個人で展開していた夏至を祝う「夏至カレー」を伏見にある納屋町商店街で開催したことがきっかけだったと言います。

中田

ずっと、自分が住んでいる伏見で何かできたらという思いを持っていました。それが実現したのは2018年のことです。個人で開催していた「夏至カレー」に納屋町商店街が興味を持ってくれて「是非、商店街で開催しましょう!」と声をかけてくれたことがきっかけでした。
納屋町商店街で開催したことにより、今までよりもはるかに多くの人が参加してくれて。自分の発信だけでは届かなかったところまで広まったのが、とても面白かったです。そこから納屋町商店街と継続的に面白いことがしたいなと思い、商店街の「外」の人としてどんな関わり方ができるのかを模索したくて、ラボに参加しました。

現在大学院生の吉田さんは、学部時代に商店街で音楽ライブを開催するサークルに入っていたことがきっかけで、商店街に興味を持ったと言います。

吉田

学部時代には、京都の亀岡から井手町まで、さまざまな商店街で音楽ライブの運営・開催をしました。でも、サークルを卒業してしまうと、商店街との関わりがすっぽりなくなってしまって……。商店街の人たちと出会う中で、成長させてもらったり、まちづくりにより興味が出て大学院に進学することが決まったりしたので。学生でももっと商店街と関わりが持てないかなと思って、ラボに参加しました。

これから発生する課題を「商店街これかラボ」で先取りする

ラボでは、参加者が関わっている商店街の魅力や課題を共有したり、商店街を運営する人たちをゲストに招いて事例を学んだりしていきます。

2022年8月から12月まで開催された第二期では、一乗寺の飲食店オーナーを務めつつ『一乗寺ドットネット商店会』代表の谷田晴也さんや、和歌山市内で『Guesthouse RICO』を運営しつつ、エリアマネジメントやまちの再生に取り組む宮原崇さんなど、京都以外からもゲストをお呼びしました。

商店街を立ち上げたばかりの西山さんにとって、さまざまな事例を知れることが大きな学びに繋がったと言います。

西山

これから発生するだろう課題を、事例で学べたことが今の商店街運営に繋がっています。商店街は加盟しているお店からお金をいただいて、活動しています。そのため、活動に対して視線も厳しくなりがちです。例えば、「こんなイベントやって本当に人が集まるのか」「イベントをやっても無駄だって」と批判的な人も出てくるのは、自然なことです。そんな時に、どう対応すればいいか、関係者にどう説明をすればいいのかを事例で学べました。
また、商店街の組織運営や役員会議、事務業務など、基礎的な部分まで隅々聞けたのも助かりましたね。

ラボ二期生の集合写真

さらに、さまざまな商店街を知ることで、西山さんが運営する東寺道エリアは恵まれたエリアだと気づいたそうです。

西山

東寺道は人が通りやすい場所ですし、京都駅からアクセスがしやすい。もっと過疎な地域もあるなかで、それに比べると恵まれていますし、まだまだ出来ることは多いなと。可能性だらけだと気づけたのは大きな収穫ですね。

東寺道の様子

個人の力をつけることが、余裕を生み出し、商店街を助ける

一期生である当時は商店街の「外」の人であった中田さんは、ラボ開催中に京都府の商店街創生センターが運営する「商店街ネットワークサロン」にも参加。そこで、宮津にUターンした女性写真家の話を聞き、実際に宮津の本町商店街を訪れたと言います。

中田

本町商店街を訪れたことが、転機になりました。私が住んでいる伏見よりも、宮津は人口もお店も少なくて……。「課題がいっぱいで、宮津の商店街はどうしたらいいんだろう」ともんもんと悩みながら帰ったのを覚えています。一方で、宮津に比べると伏見の納屋町商店街は人の往来もあって、賑わいもあります。そこで「そもそも納屋町商店街は、私が盛り上げる必要があるのだろうか?」という問いが浮かびました。
結局、たどり着いた答えは「盛り上げる必要性はわからないが、商店街の中の人と外の人を繋げる役割を担おう」でした。ラボで関わった商店街の人たちは「もっと外部の人に関わってほしい」という気持ちがあります。でも、外の人からすると「関わってほしい」と言われたことはないですし、「商店街は商店街でやっていくだろう」と思っています。私は商店街の内部を知っている“外部の人”なので、中と外を繋げる役割になれるな、と思ったんです。

また、2022年には墨染ショッピング街に加盟して、商店街の中の人にもなった中田さん。「商店街を盛り上げるには、全体のことを考えるだけでなく、まずは自分の力をつけるのが大事」だと語ります。

中田

商店街の役員さんは、商店街全体について考えてくれています。一方で、一加盟店の私ができることは、まずは力をつけることだなと。個々のお店の盛り上がりがないと商店街の繁栄に繋がらないですから。力がついたら、他のお店をみる“余裕”が生まれます。そこから、商店街全体として何をすればいいか、どう連携すればいいのかなどを考えています。

魅力的な人が商店街に人を呼ぶ

「商店街の繁栄」と言っても、売上なのか、来訪者数なのか、人によって定義が異なり、これかラボでも度々議論に上がっていました。そんな中、吉田さんは「人を惹きつける商店街には、魅力的な人がいる」と共通点を上げました。

吉田

ラボで出会った長岡京市のセブン商店会の人から「この日にイベントがあるから遊びにきて!」と言われて。イベントの内容もよく把握してなかったのですが、とりあえず商店街に行ってみることに。すると、マリオの仮装をさせられて、そこで初めてハロウィンの仮装イベントということを知りました(笑)。
いろんな商店街を訪れてみて、人が集まる商店街には、魅力的で個性的な人が必ずいます。ハロウィンイベントも「よくわからないけど、この人に誘われたからきっと面白いんじゃないか」と思って参加しました。人を起点に、商店街が賑わっていく。それが新しい商店街の価値になるのではと考えています。

また、大学でまちづくりを学ぶ中で、商店街はまちのシンボルを担っているのではないかと吉田さんは言います。

吉田

もともと商店街は人が往来しやすい道やまちの中心地に作られてきて、「まちの玄関」のような存在だなと考えています。そのため、商店街が寂れていると、まち全体が廃れているように見えてしまう。一方で、「まちの玄関」に面白い人や魅力的な人がいると、どんどん人を巻き込んで賑わいがでてきて、まち全体に影響していくと思っています。

「何もない」は悪いことではない

通常、出店するお店が少なくなっていくにつれ、商店街に訪れる人が少なくなる傾向があります。そんな中で「早く出店してもらわないと」と焦る商店街の人たちもいることでしょう。しかし、中田さんは「必ずしも空き地を埋めようとしなくてもいいのではないか」と語ります。

中田

ラボの第一期でゲストにお越しいただいたmottif lab代表の坂本 友里恵さんは、神戸市灘区にある水道筋商店街で、空き地にベンチを置いたり、畑にしたり。何もないことを逆手にとって、「できることをやること」を坂本さんから学びました。穴を埋めようとしすぎなくても良いんだと感じましたね。

吉田

私は商店街近くの空き地でコミュニティ農園を運営しているのですが、子どもが植物を育てにきてくれたり、普段、商店街に足を運ばなそうな銀行や市役所の人も畑を借りてくれていて。商店街に今までとは違った人の流れができているのを感じます。

ラボで学び、実践を重ねている3人。今後、どんなことを商店街でやっていきたいと考えているのでしょうか。

西山

商店街の中の人、外の人が参加して意見交換をする「東寺道新交会MAJIWARU カフェ」を不定期で開催予定です。珈琲を飲みながら、商店街を歩いていて感じることを店主さんに聞くことができる。一方で、逆もできる。中の人と外の人が対等に話せるような、交わるような場にします。

中田

商店街で面白いことをし続けるために、あまり真面目にならないようにしようと(笑)。根が真面目なので、どうしても固くなってしまうのですが……。規格外で「商店街らしくない」ことをやっていくことで、新しい価値が出てくると思っています。なので、あまり真面目にならないよう、面白いことをし続けたいなと。

吉田

いつか商店街に加盟してみたいですね。僕の周りには挑戦的な若者が多くいて、日本全体としてもこれから起業する人はどんどん増えてくると思います。そういう人たちが一歩踏み出せるような場を商店街でつくってみたいです。

どこでも欲しいモノが手に入る────。

そんな時代だからこそ、改めて商店街の価値とは何なのか。商店街の「中の人」と「外の人」の境界を曖昧にさせながら、自分なりの答えを見つけていくのが大切だと感じた取材でした。まだ見たことのない商店街の風景が、商店街これかラボから誕生していくことを楽しみにしています。

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