2023.08.09

自然と共に過ごす時間が生き方を考えるきっかけに。ローカルでかなえる自分らしい副業・兼業の形

リモートワークやテレワークの導入が進み、多拠点生活やUIターンなど、住まいの拠点を考える選択肢が増えた人も多いのではないでしょうか。

2020年度より実施している「京都ローカルワークステイ」は、京都府各地でユニークな取り組みをしている企業やプロジェクトの魅力を知り、副業・兼業・プロボノなど京都ローカルとの新たな関わり方を見つけ、深めていく伴走型のプログラム。現在は2023年度の参加者を募集しています。

2022年度のプログラム受入企業と参加者の皆さんに、プログラムの振り返りやそれぞれの生き方・働き方の変化について、お話を伺いました。

副業・兼業で新しい関わりしろを作る

今回訪れたのは、京都府宮津市にある「丹後海と星の見える丘公園」(以下、うみほし公園)。NPO法人地球デザインスクールが運営する、海と山に囲まれた自然豊かな公園です。

「自然との共生」「手づくり」「環境学習」をテーマとするうみほし公園。写真は研修室や食堂を備える「セミナーハウス」
石積みの円形劇場は、レクリエーションやイベントの会場として利用できる

うみほし公園を運営する地球デザインスクールの理事長を務める市瀬拓哉(いちのせ・たくや)さん、ローカルワークステイの運営メンバーとして携わっている株式会社ツナグムの藤本和志(ふじもと・かずし)さん、株式会社ローカルフラッグの高橋友樹(たかはし・ともき)さんは、うみほし公園がローカルワークステイに参加した経緯について、こう語ります。

市瀬さん

僕たちのNPOは、2022年に設立20周年を迎え、リブランディングやWebサイトのリニューアルを進めています。そのプロジェクトに取り組む中で、Webのスキルのある方を採用したいと思い、京都移住計画の藤本さんに相談したところ、ローカルワークステイはどうですかと勧めてもらったんです。

市瀬さん

藤本さん

うみほし公園の宿泊施設などの事業内容は、職住を体験するというローカルワークステイのプログラムにも合っているし、移住希望者にも自然豊かな丹後の魅力が伝わりやすいのではないかと思い、市瀬さんに声を掛けました。採用についても、副業や兼業といった関わり方も考えていると聞いて、ローカルワークステイにマッチしそうだなと。

高橋さん

市瀬さんにヒアリングしていく中で、「副業・兼業でWeb分野に関わってくれる人に来てもらいたい」という明確なイメージが固まっていきました。「リモートで仕事をしてもらうにしても、必ず現地を見た上で関わってほしい」という市瀬さんの思いもあり、プログラムでは公園の場をしっかりと体験していただくことを意識しました。

(右)藤本さん、(左)高橋さん

市瀬さんは、採用という目的はもちろん、ローカルワークステイを通じて外から人を受け入れること自体にも意義を感じていたと付け加えます。

市瀬さん

リブランディングにあたり、NPOの核を「地球で生きていくために、自分をデザインする場」と定義しました。ですから、暮らし方や生き方に迷っている人を受け入れて、「自分をデザインする」きっかけにしてもらえたらという思いもありました。

京都ローカルとのつながりを求めて

参加者のみなさんは、どのような思いを持ってローカルワークステイにエントリーしたのでしょうか。うみほし公園のプログラムに参加した池田大介(いけだ・だいすけ)さん、加藤由里香(かとう・ゆりか)さんにもお話を伺います。

池田さん

40歳の節目を迎えた時、「自分が本当にやりたいことは何だろう」「自分が喜びを感じることって何だろう」と改めて考えました。そして、自分が手の届くところ、目の前にいる人たちに喜んでもらうことが、僕にとってのやりがいだと気づいたんです。自分が暮らしている京都に根ざした仕事をしながら生きていきたい。そう考えはじめた時に、ローカルワークステイを知り、今後叶えたい生き方の中で関わっていける企業さんとのつながりをつくれるんじゃないかと思いました。

池田さん

加藤さん

私は10年くらい前から、京都に住みたいとずっと思っていたんです。東京の会社で働いていたのですが、テレワークが可能になったので、1年ほど前に京都に移住しました。でも、せっかく移住したのに、ずっとテレワークで働いていると、京都の方との関わりがあまりなくて。何かつながりがほしくてローカルワークステイに参加しました。あとは、京都市内に住んでいても丹後にはなかなか行く機会がないので、純粋に行ってみたかったというのもありますね。

取材当日はオンラインで参加してくれた加藤さん

池田さんはWebディレクター、加藤さんはWebデザイナー。それぞれWeb系の仕事をしていることも、うみほし公園のプログラムに関心を持ったきっかけだったといいます。

加藤さん

地域とのつながりをつくりたいというのが一番の参加理由でしたが、副業・兼業で何か仕事をする機会になればいいなとも考えていました。説明会の時に、市瀬さんの自然に向き合う真摯さを感じたのも、関わってみたいと思った理由の一つですね。

池田さん

僕も、副業・兼業で関わりを持てるのがきっかけの一つでした。それに、市瀬さんのお人柄や事業コンセプトにも惹かれましたし、自然が大好きなのでぜひ行ってみたいと思いました。

プログラムを経て、プロジェクトが本格始動

うみほし公園のプログラムは、2022年12月に実施されました。1日目は公園内を巡るオリエンテーション。2日目は、午前中に丸太を運んだり笹の葉でお茶を作ったりする体験をして、午後からはWebでの発信などをテーマにディスカッションが行われました。

うみほし公園のスタッフや事務局、参加者を交えて行われたディスカッション

市瀬さん

昨年から食事と宿泊を一新して、大人の方にも楽しんでもらえるような内容にリニューアルしたんです。その内容に対して、参加者の皆さんがすごく共感してくれたのが嬉しかったですね。みなさんとても積極的で、ディスカッションも盛り上がりました。

池田さん

現地に来るまでは、いわゆる「少年自然の家」みたいな場所をイメージしていました。でも実際はリゾート施設のような雰囲気で、ギャップに驚きましたね。自然の中で自分と向き合って、原点に立ち返るような時間を過ごせました。

加藤さん

私も行く前と後でかなりギャップがありました。食事や置かれている本の選書、飾られている作家さんの作品など、一つひとつにこだわりが感じられて。実際に行った人しか知らないのはすごくもったいない、もっと発信したほうが興味のある人が集まってくるんじゃないかなと思ったんです。

読書スペースにはスタッフの選書による約1,300冊の本が並ぶ

うみほし公園の魅力を発信する方法についてディスカッションを重ねた参加者の皆さん。プログラムを終えた数日後には、池田さんが提案書をまとめ、市瀬さんに提出したそうです。

市瀬さん

宿泊と食事をリニューアルしたものの、広報ができていなかったので、宿泊専用のWebサイトとInstagramを立ち上げたいと考えていたんです。池田さんから提案をいただいて、今回の参加者の皆さんにぜひプロジェクトとしてお願いしたいと正式に依頼しました。現地をしっかりと見て理解してくださった上での提案だったので、方向性を共有できていたことも大きかったですね。

こうして、2023年4月から正式にプロジェクトがスタート。5月からはInstagramのアカウントが公開され、今はWebサイトの制作を進めているところだといいます。

「ケ(日常)とハレ(非日常)のあわい」をコンセプトにリニューアルした宿泊棟

高橋さん

ローカルワークステイでは、各プログラムが終わった後にオンラインで振り返り会を実施して、今後の関わり方についてお話をするようにしています。うみほし公園さんの場合は、市瀬さんと参加者の皆さんの間で自然に話がまとまっていったので、とても理想的な流れでしたね。

藤本さん

プログラム後の形は決まっているわけではなく、企業側も参加者側もニーズはさまざま。うみほし公園さんは、参加者の皆さんが自発的に関わって関係性を築き、副業・兼業でのプロジェクトにつながったので、とてもローカルワークステイらしい事例になったと思います。

これからの生き方・働き方への第一歩

ローカルワークステイを経て、参加者の皆さんの生き方や働き方に対する考えにはどのような変化があったのでしょうか。

池田さん

長年勤めていた会社を辞め、今年7月から京都に根ざしたWeb制作会社で働くことになりました。副業や起業など個人の活動も尊重してくれる会社なので、今後は今住んでいる京都と生まれ育った山梨の二拠点を軸に、個人での仕事もしながら関わりをつくっていきたいと思っています。40歳の節目から数年かけて人生設計を考え直してきましたが、ローカルワークステイをきっかけに一歩前に進むことができました。

加藤さん

これまではスキルベースで仕事をいただくことが多かったので、うみほし公園さんとの関わりは、今までの仕事とは全然違うなと感じていて。方向性が合うとか熱意があるとか、そこからつながりができて仕事になっていくのがすごくいいなと思いました。今後はこういった機会をもっと増やしていきたいですね。これからはもっと地域に入って、自分が力になれることを見つけていきたいですし、いずれはローカルへの移住もしてみたいと考えています。

市瀬さんは、ローカルワークステイを通じて社内のスタッフの変化を感じていると語ります。

市瀬さん

今は宿泊施設「けとはれのあわい」のInstagramとWebサイトのプロジェクトが進んでいますが、社外の人たちとの関わりは、社内のメンバーにとってすごく良い刺激になっているんじゃないかと思いますね。今後も僕たちの手が足りていない部分や技術不足な部分は、社外の人にも関わってもらえるように、副業・兼業などいろんな関わりしろをつくっていきたいですね。

市瀬さんの言葉を聞いて、藤本さんはローカルワークステイの意義について改めてこんなふうに語ってくれました。

藤本さん

うみほし公園さんのように、最終的には企業が自走できる仕組みをいかに作っていくかが大事だと思っているんです。ローカルワークステイをきっかけに、副業・兼業・プロボノなど多様な形で外から人を受け入れる仕組みを自社で作っていける企業さんが増えれば、移住者も勝手に増えていくはず。その循環を作っていくためのプログラムなんですよね。今回の事例は、企業さんにとっても参加者の方たちにとっても、良いロールモデルになったと思います。この形が広がっていけば、きっと丹後が変わりますよ。

これまでの経験やスキルを生かしながら、京都ローカルで働く・暮らしていく選択肢を考えたい。UIターンを見据えて、地域で新しい仕事や働き方を見つけたい。そんな思いを持つ人たちと、地域の外の人たちの関わりしろを作っていきたい企業、その双方をサポートし、橋渡しする。そんなローカルワークステイのあり方を、今回のうみほし公園の取材を通して感じ取ることができました。

2023年度も引き続きさまざまな企業がプログラムを準備しています。ローカルに関わる生き方・働き方を考えるきっかけとして、一歩踏み出してみませんか。

編集:北川由依
執筆:藤原朋
撮影:清水泰人

お知らせ

京都ローカルワークステイ2023プログラム参加者募集します!

京都ローカルで働く・暮らす・関わりの種を見つけるプログラムとして、6社の企業とともに、新たな関わり方を見つけ、深めていく伴走型のプログラムです。

京都ローカルと関わるきっかけを見つけたい、経験やスキルを活かしながら地域で働く・暮らす選択肢を考えている、将来のUIターンを見据えて地域で仕事をつくりたい方におすすめです。説明会やイベントもありますので、まずはお気軽にご参加ください。

詳細:プログラムページ

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