CHECK IN
「京都LWS」(京都ローカルワークステイ)は、京都府各地のユニークな企業の魅力を知り、課題解決に向けた取り組みを通して、地域との新たな関わり方を見つけていくプログラムです。京都府・京都府農業会議とともに京都移住計画(株式会社ツナグム)が企画しています。
2023年に実施した5つのプログラムのラストは、舞鶴市のものづくり企業「三葉商事」へ。刺繍の可能性を探った3日間の現地体験レポートです。
海軍ゆかりの繊維のまち舞鶴市
明治時代に旧海軍の鎮守府が置かれ、近代都市として発展した舞鶴市は、当時から海軍の制服製造などに関連した繊維産業が盛んでした。
戦後は、軍需工場の跡地に大規模な紡績工場が建ち、織物や縫製を行う事業所が増加。繊維産業は、まちの復興と発展に大きく寄与しました。
クライアントの個性や価値表現をかたちにする刺繍の技術集団
刺繍工場として、1967年に舞鶴で創業した「三葉商事」は、「良いものは良い人からしか生まれない」をモットーに、磨かれた技術でクライアントの想いをかたちにするものづくり企業です。
近年は、あらゆるシーンで刺繍のある生活を楽しんでもらえるような、オリジナル製品の企画と販売にも力を入れています。
『刺繍の技術を活かした、インテリアファブリックブランドの立ち上げを考える3日間』
京都ローカルワークステイでは、オリジナル作品をつくるワークショップを通じて、刺繍の技術を活かした、ライフシーンに寄り添うファブリックブランドのアイデアを考えます。
みなさんが今回のローカルワークステイに参加した理由
今回は、広告やプロダクトのクリエイティブディレクター、WEBデザイナー、会社員、年内に京都北部エリアへの移住を控えている方など、個性豊かなメンバーにご参加いただきました。
・ブランディング、商品開発、マーケティングの知見を活かして、新規性があるコンセプトや、オリジナリティのある商品企画の立案にチャレンジしたい(クリエイティブディレクター)
・ものづくりと、新規事業の立ち上げフェーズにおいて、どのようにアイデアを考えて、開発やPRをされているのか興味がある(WEBデザイナー)
・採用と人材育成に携わる部署に所属し、これまでに営業経験もあるので、チームづくりや販路開拓の面で、お手伝いできることがあればと思っている(会社員)
・織物や刺繍に関心があり、実体験を通して学びを深めたい(会社員・年内に移住予定)
<1日目>
西舞鶴駅集合後、早速オフィスへ向かいます。今回の現地体験のコーディネートを担当いただく山下さんから、これまでの歩みや、事業の課題感についてお話を伺いました。
和装から始まり、ベビー子供服、スポーツウェアなど時代に合わせて領域を広げながら、刺繍加工事業を拡大してきた三葉商事。全盛期には、昼夜三交代制で、工場を動かしていたそうです。
90年代以降は、繊維産業の海外進出が活発化して、国内の産業規模が収縮したことで、売上が大きく落ち込んだと言います。そういった状況でも、Webショップでの刺繍雑貨の販売数は、右肩上がりに伸びていったとのこと。
「二代目は下請けだけではこの先厳しいと、早くから自活の道を模索していました。早い段階でECサイトで商品を売り出せていたことが、今日の私たちの強みになっています」(山下さん)
「サブライチェーンの中にいる良さは、受注による収益の安定です。一方で、海外とのコスト競争や、景気の動向、取引先の状況により一気に仕事を失う可能性もある。私たちは、企画から販売までを一貫して行う、自社完結型のものづくり企業を目指しています」と続けます。
「高級感がありながらタフな刺繍は、頻繁に触れる、実用的な物との相性が非常に良いです。刺繍表現には無限の可能性があって、私たちも技術力に自信を持っています。それをどのように商品に落とし込んで、どう展開していくかが課題です」(山下さん)
お話を伺った後は、工場内を見学させていただきます。2023年6月の工場リニューアルの際には、キャパオーバーになっていた作業スペースを増設した他、従来の40倍の面積を縫うことができるミシンを導入したそうです。
「クッションやカーテン、スツールなどの大きいものも縫製できるようになって、受注も増えてきています。ゆくゆくは、刺繍を入れるところからオーダーを取れるようにしていきたいですし、自社オリジナルのファブリックブランドを展開したいと考えています」と山下さん。
現在、オペレーターと呼ばれるミシンを扱うポジションは、女性社員のみなさんが主に担当されています。
「工場が広くなって、作れるものは増えてきているけれど、オペレーターが足りていません。刺繍工場で縫製まで一貫して手がける企業は少ないですし、今後は進学で舞鶴を出た学生が、就職を機にまちに戻ってこれるような、雇用の受け皿も整えていきたいと思っています」(山下さん)
夜は、オフィスにて社員のみなさんとの懇談会。刺繍という繊細な世界の奥深いお話に、大いに盛り上がる時間となりました。
<2日目>
この日は、朝からワークショップです。刺繍糸とテキスタイルを自由に組み合わせて、クッションとファブリックパネルを作ります。
糸数は3000種以上。完成をイメージしながら配色を決めていきます。参加のみなさんからは「組み合わせのパターンが無限にあって楽しい!」「光沢があるかないか、糸の質感や太さによっても印象が大きく変わるんですね」といった声が聞かれました。
社員のみなさんに丁寧にサポートいただきながら、それぞれの作品を仕上げました。
リニューアルしたオフィスは、オープンファクトリーとして、私たちが体験させていただいたようなワークショップや、職業体験の場としての活用を計画されているとのことです。
午後からは東舞鶴へ移動して、舞鶴市に拠点を置くデザイン・アート会社「VONTEN」が運営する、赤れんがパーク内「AKARENGA CREATIVE BASE」へ。
さまざまなクリエイターの作品が並ぶギャラリーや、機材が揃うスペースがあり、誰でも創造に触れることができる場所です。
ここでは、先ほどのワークショップで作った、クッションとファブリックパネルを販売することを想定して、ブランド戦略を考えます。
ターゲット、商品名、販売価格、キャッチコピーやPR方法など、VONTENの金田さんに作っていただいたフレームワークを使って、ブランドの方向性や戦略を具体的に検討しました。
<3日目>
最終日は、体験の感想をシェアしながら、刺繍の技術を活かした、三葉商事らしいファブリックブランド事業のアイデアを話し合いました。
「三葉さんの、オープンでエネルギッシュな雰囲気にとても魅力を感じました。ブランド全体の方向性を決めたり、PR的なアプローチを一緒に考えたいです」(クリエイティブディレクター)
「技術力やこだわりは、ライティングやコピーでも伝えることができるので、三葉さんのものづくりの姿勢や、ブランドのストーリーを、WEBでどのように表現していくかを考えたいですね」(WEBデザイナー)
「おもてなしの力や、みなさんの熱量など、技術力だけでない『三葉らしさ』もPRのポイントになるのでは。ポップアップイベントの場や、東京と北部のものづくりとをつなげる役まわりで、力になれることがあると思います」(会社員・年内に移住予定)
「みなさんと接している社員の姿を見て、自分たちのあり方に、より自信を持つことができました。聞かせていただいたアイデアを、引き続きみなさんのお力を借りながら、ぜひ形にしていきたいです」(山下さん)
身近にあるようで、その実知らないことだらけの刺繍の世界。想いをかたちにする確かな技術力と、働くみなさんのオープンでエネルギッシュな雰囲気からうまれる、新しいクリエイティブの可能性にとてもワクワクした3日間でした。
プログラムのその後
ワークショップと最終日のディスカッションを経て、インテリアファブリックブランドの事業展開を推進するプロジェクトが始動しました。山下さんと参加者とでオンラインで打ち合わせを重ねながら、ブランド戦略のプランニングを進めています。
協働プロジェクトからうまれた、三葉商事らしさに触れられる日を楽しみに待ちたいと思います。
お知らせ
京都ローカルワークステイ2024 〜京都で「働く」「暮らす」をデザインするプログラム〜
「京都ローカルワークステイ」は、京都府各地でユニークな活動を行う企業と課題解決に向けたプロジェクトに取り組みながら、京都での生き方や働き方をデザインしていくプログラムです。
プログラムを通して、多様な生き方・働き方の選択や、チャレンジの実現を可能にする、京都ローカルとの継続的な関係づくりを目指します。
エントリー期間:7月1日(月)〜8月31日(土)中まで