新型コロナウイルス感染症による規制がとかれ、京都には多くの人たちが訪れています。観光で京都にくる人たち、京都で仕事をしようとする人たち、移住を検討している人たちなど。京都という“まち”の未来を築いていくには、一度きりの来訪ではなく、いかにその人らしい関わりを紡いでいくかが重要です。
2024年3月1日〜2日に開催した「京都ローカルフェス in TOKYO」では、京都の事業者・移住者・行政などのスタッフが東京に赴き、トークセッションやミニツアー、ワークショップなどさまざまなコンテンツを実施。移住検討している人やローカルで事業をしてみたい人、京都出身で今は東京で働いている人など、さまざま参加者が集まり、交流を楽しみました。
本記事では、京都北部の各地域の魅力を伝えるためにコーディネーターとして参加した丹後暮らし探求舎 小林朝子さん(京丹後市)、ローカルフラッグ 高橋友樹さん(与謝野町)、そして京都府農業会議の畔田紀幸さんに取材。どのような想いで本企画に取り組んでくれたのか、そして京都ローカルフェスを通してみえてきたものについて、伺いました。モデレーターは、本企画を担当したツナグム 藤本和志です。
行政と民間がタッグを組み、関係人口のすそ野を広げる
藤本
畔田
コロナ前は、京都府・京都移住センターで「移住フェア」を実施していました。コロナ禍もおわり、東京で移住フェアを開催しても出展者や参加者が集まらないのではないか。移住を軸にしたイベントに限界を感じていました。
その後、移住という軸にとどまらず、地域の魅力を伝えるより広義なコンテンツを提供する「京都ローカルフェス」をツナグムさんと企画し、3年ぶりに東京で京都ローカルフェスを開催することにしました。
藤本
ツナグムと京都移住センターが企画の根幹を話していく中で、2つの軸を決めましたね。1つは、先進的に民間と行政の移住事業の取り組みが進んでいる団体にフォーカスし、まずは丹後エリアとロールモデルをつくること。もう1つは、企画をトップダウンで進めていくのではなく、「みんなでつくるプロジェクト」にすること。「実験的プロジェクト」と繰り返し関係者に伝えていた気がします。
プロジェクトの第一歩として、2023年11月に、丹後の各地域で移住を担当している人たちを集めてワークショップを実施しました。民間と行政がどうやったらうまくいくのか、それぞれの地域でどんな課題を抱えているかを赤裸々に話せるような場をつくりました。実際に参加した高橋さんは、ワークショップでどのようなことを感じましたか?
高橋
ワークショップのおかげで、行政も民間も「3月1日の京都ローカルフェスに向かって力を合わせていくんだ」という共通認識が醸成されたように感じます。自治体の人たちと仕事で顔を合わせる機会はそれまであったのですが、どうしても堅苦しくなりがちです。しかし、ツナグムの方たちがよりカジュアルなワークショップを開催してくれたことで、普段話さないような深い意見も赤裸々に伝えることができました。
藤本
ワークショップ後は、3月1〜2日に向けて企画会議を月一で実施しました。高橋さんは与謝野町、小林さんは京丹後市のコーディネーターとして参加いただき、それぞれの市町村の魅力を伝えるためにどんな人をアサインするかを決めていきました。どのような想いで、どんなゲストを選んでいったのでしょうか。
小林
まずコーディネーターとして参加するのに、「東京と京都の距離を埋めたい」という気持ちが強かったです。そこで酵素風呂とサウナの温浴施設を京丹後市で運営しているぬかとゆげ・ 前田 賢人さんをゲストに決めました。前田さんは東京出身で、友達に誘われて縁もゆかりもなかった京丹後に移住し、市のサポートを受けながら起業をしました。東京のこともしっかり理解しつつ、京丹後のことも語れるので、ぴったりだなと思いました。
高橋
平織りにして作った織物「丹後ちりめん」という京都固有の伝統文化を伝えたく、丹菱株式会社の糸井宏輔さんと柴田織物の関祥汰さんにゲストにきてもらいました。糸井さんはポリエステル、関さんはシルクとそれぞれ扱う素材が違うので、丹後ちりめんの幅をお客さんに共有することができるのではと考えました。また、2日目のクロストーク「丹後の伝統産業や地域資源を活かした、仕事とものづくりのこれから」では、丹後地域の天然柿渋と活性竹炭などで石鹸をつくるSAPO JAPANの河田恵美さん(宮津市)が加わった3人で実施することに。丹後地域では、資源が身近にあり、それを活用してプロダクトが生まれていることを伝えたいと思いました。
準備はバタバタでしたが、純粋にイベントが楽しみでした。というのも、丹後メンバーで東京に行くということ自体が面白そうで、「一体どうなるんだろう!?」という気持ちでいっぱいでした(笑)。
参加者とスタッフという垣根がないからこそ生まれる広がり
藤本
京都ローカルフェス当日は、京都の各地域の事業者・移住者・行政など20名以上がスタッフとして参加し、ALL KYOTOで挑みました。そのおかげで、2日間で来場者は150人超に。改めて、京都ローカルフェスを振り返りいかがでしたか?
高橋
1日目は、「丹後の『ひと・こと・ものづくり』とつながる交流会」ということで、コーディネーター3名でトークセッションに登壇しました。トークセッションの最後に「地域×○○のはじめ方」というテーマで大喜利をしたのが面白かったですね。参加者から投げられた意見に対して、「こういう企画ができそう!」「この人を紹介したらいいかも」と即興で答えていったのですが、絞り出すと思った以上にアイデアが出てくるものだなと(笑)。まだまだ各地域との繋がりを駆使できるなと、可能性を感じました。
高橋
2日目は、会場に自由に出入りできたので、参加者のペースで楽しめるカジュアルな場だったなと感じています。移住窓口の業務をしていると、どうしても「与謝野町をどう発信するか」と視野が狭まってしまいます。しかし今回はALL KYOTOで臨めたこともあり、他の地域がどういう角度で魅力を伝えるか知ることができ、視点を増やすことができました。
藤本
小林さんはいかがでしたか?
小林
とても熱量を感じるイベントでした。ローカルの教育に興味がある人や、起業体験を活かして地域を盛り上げたい人など、参加者の話から刺激を受けることも多かったです。また、隣の地域である福知山の魅力など「案外知らなかった!」というものがあったり、他の地域について参加者が教えてくれたりと、こちらが一方的に伝える・教えるのではなく、お互いが学び合えるような場でした。
藤本
イベント会場では、出展者が着席して来るひとを待つ形式ではなく、交流しやすいようにあえてテーブルを挟まず、スタッフと参加者の垣根を作らないよう工夫しました。立場関係なく、互いに教え合う姿があちこちで見られましたね。
小林
あと、私たちが準備にとても時間をかけて東京に行ったように、普段東京から丹後にくる人たちも同じくらい“覚悟”して来てくれているんだなと気づきました。移住希望者と接する時に、その意識はあったのですが、イベントを終えてより一層強く意識するようになりましたね。
藤本
京都に気軽に来てもらえるのが当たり前ではなく、来てもらうための動機や目的をつくらないといけないと、身に染みた2日間でしたね。畔田さんはいかがでしょうか?
畔田
以前開催していた移住フェアでは「相談を受ける」というスタイルでした。しかし今回のローカルフェスでは、「自ら積極的に語りに行く」に初挑戦。だからこそ、初めての人だけでなく、名前だけは知っているという人たちまで出展者同志で紹介しあえ、深く話すことができました。
京都ローカルフェスで紡ぐ「地域の未来」
藤本
最後に、京都ローカルフェスを終えて、各地域で今後どんなことに取り組んでいきたいですか?
畔田
改めて、東京というポテンシャルの大きさを感じました。移住希望者も多いし、事業をしたい人も多い。行政としては、そういう人たちが相談できる場所をしっかりとつくっていかないといけません。予算の関係上、大規模なイベントを何回も開催することはできませんが、小規模なイベントを積み重ねることで関係をさらに深めていきたいです。
小林
今回の京都ローカルフェスで地域に興味を持った人が、次に参加するようなイベントを開催したいですね。京丹後に興味を持った人の街案内や、東京で話したゲストの地域プロジェクトに参加できるツアーみたいな。今回でいろんな出会いが生まれました。それをどう次につなげていくか、京都で何かをやりたいと思った人が実現できるよう“導線”を考えていきたいです。
高橋
移住を考える人だけでなく、東京出身で京都に興味がある人や二拠点の候補として検討している人など、さまざまな人たちに出会いました。副業や兼業など、面白い関わり方がありそうという実感を得たので、具体的に仕掛けていきたいですね。
また、ALL KYOTOで新しいプロジェクトをやりたいですね。今までは各市町村が単独で動いていましたが、改めてALL KYOTOで動く意義を感じました。
藤本
ツナグムも京都府全体の事業を編集していく企業として、今後も事業や京都移住計画を通じていろんな仕掛けをしていきたいと思っています。本日はありがとうございました!ぜひ、これからも面白いプロジェクトや今回の京都ローカルフェスのように地域と都市が関わる機会を、京都から生み出していきましょう!
執筆:つじの ゆい
撮影:大坪 侑史
編集:北川 由依