伝統と革新の街、京都。今でこそワークライフバランスという言葉や在宅ワークなどの「働き方」の変革が求められていますが、京都はコンパクトな街だという地理的な条件と、職人や商人などといった自営業者の多い街でもあり、昔から職住近接の働き方や暮らし方の実践ができる街でした。
そういった歴史を意識している人は少ないかもしれませんが、自然と多様な働き方をする人に沢山出会えるのも、京都の特徴のひとつと言えます。フリーランスとしていくつかの拠点を飛び回るように仕事をしている人、社会の問題を解決することが目的の社会企業で働く人、100年続く伝統的な価値観と現代の感覚を融合させた会社で働く人…。
そんな多種多様な価値観を持つ人たちが集う場として、京都にも数年前から増え続けているコワーキングスペースやシェアオフィス。2015年の終わり頃にできたロフトワークさんのオフィスでもあり、コワーキングとしても利用ができるMTRL KYOTO。先日コラムで取り上げた創業80年の西陣織の関連会社の一部を改修した385PLACE。京町家のリノベーション等を手がける八清が手がける京創舎…などができています。
そして、それぞれのスペースの垣根を超えた会員さんのネットワークも広まりつつあるようで、そんな京都のコワーキングスペース5つが共催して、コワーキング合同事業発表会(通称:DEMO DAY)が、京都リサーチパーク(通称:KRP)にて開催されました。KRPには、移住計画の求人でも取材をしたフューチャースピリッツさんをはじめ、数多くのIT関連企業などが入居している京都屈指のオフィスビル郡です。
それぞれのコワーキングスペースに入居している方、つながりがある方や企業による新規事業や便利なサービス、面白い取組みなどの発表などが行われ、満員となった会場で熱気あふれる発表会となりました。
京都のコワーキングはそれぞれに個性豊か
今回の主催である、share KARASUMA、oinai karasuma、コワーキングスペース小脇、京都コワーキングスペースcoto、京都リサーチパーク町家スタジオはそれぞれ個性があり、そこに集う人々も少しずつ違うんだとか。
share KARASUMAは、多数のオフィススペースを提供している㈱長谷本社と、全国で活躍する多くの起業家を育成し続けてきたフューチャーベンチャーキャピタル(FVC)が共同で運営しており、レンタルオフィス/シェアオフィスとして洗練されたスタイリッシュな印象。
oinai karasumaは、「つながる・あそぶ・つくる 仕事場」をコンセプトに、ほとんどの座席がフリーアドレスのcafeのような雰囲気。
コワーキングスペース 小脇は京都で初めてできたコワーキングスペースで先駆者的な存在。
京都コワーキングスペースcotoは、京都駅に近いこともあり、出張で一時的に利用したり打ち合わせで利用したりと、人の出入りが多いく活発な印象。
京都リサーチパーク町屋スタジオは、古くて立派な町屋を活かしてスペースを運営しており、中庭があり、縁側があったりと古き良き京都の印象。
今回のイベントでは、参加者にコワーキングの無料体験チケットが配られました。
普段から、開放日を設けていたり、時間貸しをしているスペースも多いため、京都に立ち寄った際に覗いてみると、京都で働くイメージが膨らむかもしれません。
京都の多様な働き手のプレゼン
2部制になっている今回のイベント、前半はそれぞれのスペースに入居している方、つながりがある方や企業による新規事業や便利なサービス、面白い取組みなどの発表などが行われました!
苦手克服チャレンジという動画チャンネルのお話をされたのが塩澤順哉さん。
7年間のうつ病を克服した経験から心理カウンセラーとなり、カウンセリングの傍ら高所恐怖症やたばこ依存など、悩み事を解決するカウンセリングの様子の動画チャンネルを運営されています。動画を駆使しながら人との接点を生み出していく働き方は、斬新です。
雑誌をつくるために必要な「編集」の力を「リアル」の場に表現した、宿泊、体験、展示、雑貨販売をする複合施設のお話をされたのが、岩崎達也さん。
従来の紙やWEBの雑誌のように「読む」「見る」に加えて、「触れる」「使える」「買える」「滞在できる」「泊まれる」という体験を通してカルチャーを体験できる空間 『Editorial Haus MAGASINN(マガザン)』では、自分が素敵だと思うカルチャーを先回りして体験できることが魅力。
カルチャーを可視化するという雑誌の従来の魅力をさらに前進させる“空間型の雑誌”。隅々にまで浸透した文化的な空間に、新たな発想がたくさん浮かびそうな空間になっているのだろうと思いました。
寺社の新しい在り方の提案とイベントの企画運営する会社である株式会社jijiのお話をされたのが、圓城史也さん。
仏教や念仏に触れてもらうきっかけをつくることを目的とする”芸術×宗教”プロジェクトである「十夜フェス」や、伝統的なお寺での滞在を通して、日本古来の魅力を国内外の観光客の皆さんに提供していくことを目的とするプロジェクト「テンプルステイ」などを通して、日本の寺社の楽しい未来を創造されているのだそう。
寺社仏閣が多く文化の中心地の京都ならではの取り組みに、ますます古今混在していく京都の未来にわくわくします。
訪日外国人向けの日本文化体験プログラムの企画/運営の会社である株式会社みたてのお話をされたのが、庄司英生さん。
訪日外国人を対象とした和文化体験施設『KAFU』などのサービスを通して、日本らしいカタチや所作に秘められた「ココロ」を訪日外国人の方に体験してもらい、「真の日本びいき」になっていただくお手伝いをされているのだそう。
街並みに古き良き文化が色濃く残る京都だからこそ、施設と体験というハード面とソフト面両方からのアプローチによって「ココロ」への理解が深まりそうだなと感じました。
野菜を介してつながる人と人-つくり手とつくり手、つくり手と消費者をつなぐハタケノミカタという会社のお話をされたのが、武村幸奈さん。
忙しい中でも安心した食べ物を赤ちゃんに食べさせてあげたいというお母さんと、安心して野菜を食べてほしいという農家の方々をつなぐ、四季の離乳食”mamma”という商品を販売されています。
農家さんの思いやりが赤ちゃんに伝わる、生産者と消費者の距離の近い繋がりに、生産者と消費者が離れてしまった農業の現状へのあらたなやり方だなと思いました。
中島佑太郎さんは、デジタルファブリケーション関連機器の販売・導入支援などの会社株式会社YOKOITOを経営されているのだそう。
デジタルファブリケーションで もの の可能性を広げる事がコンセプトのこの会社、とりあえず作ってみることによって未来が今になるスピードを早くする技術・手法の総称をデジタルファブリケーションととらえられているんだそう。
3Dプリンタやレーザー加工機など、新しい技術はあれどそのリテラシーが追い付いていない現状で、新たな使い方に可能性を感じました。
松榮秀士さんは、山村留学等を通して、 空想し想像し創造できる、社会から頼られる人を育む会社、PaKT company, LLC.を運営されています。
「あれこれ与えすぎず、自分で考える時間と環境を」ということを大切にしながら、“地域”・“共育”・“アート”の領域を満たす“ツクる”を学び成長する環境をデザインされているんだとか。
社会情勢の変化に学校教育が追い付いていない変わり目の時代に即した取り組みに、多くの人の関心が集まっていました。
京都の着物レンタル「かしきもの」を運営されている株式会社キモノラボのお話をされたのが、室木英人さん。
「すべての人に、すべてのシーンにきものが寄り添う生活を。」をコンセプトに、着物の可能性にチャレンジしているのだそう。
「着物を自分で着られない人」は、日本で87%に対し、「着物を着てみたい人」は、実に90%を超え、’嫁入り道具として一式を購入する’など、購買活動を中心としてきた業界構造から着物を着る、という体験活動へと、シフトし始めているのだと捉えられていました。
宇田拓嗣さんは、観光客向け京都1Dayツアーアレンジサービス「Travelplanner」を提供する株式会社インヘリットを運営。
観光客の多い京都ですが、効率よくいろいろな体験をしようと思うと段取りを組むのが大変。そんなわずらわしさを取り払うサービスなんだそう。
観光名所の多い京都、多くの人が嬉しいサービスだなと思いました。
英会話スクール事業、英語×料理の体験イベント開催をされているBespoke Groupのお話をされたのは、三島和美さん。
オーダーメイドにカスタマイズすることを意味する”Bespoke”という名の通り、英会話のレッスンの教材は個人の要望に合わせてカスタマイズし、グルメやワイン、クラフトビールなどのイベントにも参加可能なんだそう。
日常の様々な局面で英語が必要とされていく中で、ますます必要になってくるサービスだなと思いました。
水木ユキさんは、デザインとITで日本の職人技を世界に伝える会社、TIME and DESIGNの活動をされています。
「職人技」を持っているけど未だ世間に知られていない職人技と、それを見たい!と思っている世界中の人をつなげるため、職人さんが自分の技を1分間のCMにできるアプリを開発したんだそう。
普段暮らしていると会えない職人さんにスマホ一つで出会えるアプリに、京都の伝統文化をより身近に感じられるのだろうと思いました。
チャリティー専門のファッションブランドを手掛けるJAMMIN合同会社を運営されている、西田太一さん。
「社会をよくしたいと思う人の気持ちを、少しずつ・たくさん集めて、ほんのちょっとでも社会をより良くしていきたい。」という想いで、様々な分野で活動するNPO/NGOを毎週取り上げオリジナルの商品を販売しているんだそう。
普段のおしゃれを通して無理なくチャリティーできる仕組みに、お金ではない循環を感じました。
扇沢友樹さんは、REDIY/Manga Publishing Apartmentの企画運営をする会社である、株式会社めいを運営されています。
幸せの本質は『仕事と家族(仲間)の充実』であると考え、いろいろな場所や仕事を 価値観の合う仲間達とシェアすることで、これからの幸せな暮らし方や働き方を創造していく ため、不動産のコンテンツ企画と運営をされているんだそう。
シェアという概念が浸透してきた昨今、働き方や暮らし方も多様化しており、「どこにだれと暮らすか?」ということが今までにまして重要になってくるのだと思いました。
丸山豊さんは、広報・ソフトウェア開発を通じた経営コーディネイトする会社である縦横企画を運営されています。
人とテクノロジー、人と人、人と会社の持つ技術を組み合わせて、ひとつの美しい織物に「編」みあげる仕事、である『編集』を通して、経営をコーディネートしているんだとか。
情報過多の時代、物事のつながりの再編集が会社にも問われているのだと感じました。
松井 知敬さんは、親の味方となるオンラインストア「オヤノミカタSTORE」をされています。
親の味方となって親たちを救うため、新しい子育て支援の形を追求し子育ての課題を解決するサービスであるオンラインストアやイベント等を行われているのだそう。
「親の味方」という新しい切り口に、サービスを通して幸せになる親の方々とそのお子様の顔が目に浮かびました。
齋藤裕子さんは、移動式ドッグサロンやホームステイ型ペットホテル事業を手掛ける株式会社薫風舎を運営なさっています。
ペットのことを大切に想う方ならではの事業だと感じました。
TiroSwabyさんは、楽しいフードパーティーを創造するWEBサービスを開発していらっしゃいます。
出席の確認をして会場の手配をし、支払いをするという宴会の幹事のわずらわしさを解消するこのサービス。
パーティの多い海外の文化ならではのアイデアだなと思いました。
熱気に包まれた懇親会
プレゼンターの熱気を受けて参加者のみなさんも熱心に聞き入っていた様子のプレゼンを終え、その熱気のままに懇親会も開催しました。
京都産のワインや地酒がふるまわれたりと、美味しいごはんを囲んで、会場は大盛り上がり。
参加者の方同士の交流が活発に行われていました。
コワーキングプレースを運営する人から、クリエイター、写真家などさまざまな業種の人が交流しており、活発な意見交換が行われていました。
主催の事務局の田中さんは、「この場から事業の連携やコラボレーションが生まれ、新しい動きが生まれることが楽しみです。そして、コワーキングスペースやシェアオフィスの利用や入居の増加はもちろん、人の行き来が生まれ、京都自体が熱量ある土地になればいいなと思います。」と、一つ一つのスペースが閉じるのではなく、開いていくこと、個性を生かし合うことが大事だと語ります。
多様な人と働き方に出会える京都
今回の「Demo Day」、カウンセラーの方からデジタルファブリケーション、伝統文化の体験をを扱う方まで、多種多様な方々が登壇されていたことに驚かされます。また今回のプレゼンターの方の中で、東京をはじめ各地から移り住んできた人たちが多くいたということも印象的でした。
昔から観光客や学生を歓迎し、受け入れてきた京都だからこそ、多様な価値観が受け入れられています。そんな京都では、さまざま働き方に触れること、選択することができます。移り住もうかどうか迷っている方々(特にフリーランスの方)は、京都に来た際には、是非今回取り上げたコワーキングスペースを通じて、京都の働く空気に触れてみてはいかがでしょうか?
text:大西芽衣