コロナ禍を経て、東京をはじめとした府外企業が京都に拠点をつくる動きがじわじわ増えています。
リモートワークの広がりで地方分散は進んでいますが、その中でもなぜ京都なのでしょうか。関西最大のマーケットの大阪ではなく、あえて京都を選ぶ理由とは?
コミュニティ・バンク京信の共創施設「QUESTION」副館長の山岡亮太郎さん、関西拠点を京都に構えたヒトカラメディアの影山直毅さん、企業の京都進出を支援するツナグムの藤本和志の3人に聞きました。
「関西進出するなら大阪より京都」のワケ
——東京をはじめ、府外から京都に進出する企業が増えています。その背景にはどういった狙いがあるのでしょうか?
藤本
大きく三つあります。まず一つ目は採用。京都には大学が多く、京都に拠点を構えることで優秀な学生が集まる採用マーケットにアクセスしやすくなります。
二つ目は関西圏での新規事業創出。インバウンドの増加や文化の継承など、京都ならではの課題解決需要が高まっていることから、京都の環境や資源を生かしてビジネスを広げたり、本業とは違うプロジェクトにチャレンジしたりしようと考える企業は多いです。

藤本
そして三つ目は、従業員のワークライフバランスの充実です。コロナ禍以降、生活する場所を見直す人が増え、移住する人が増えています。そうした従業員のニーズに応えるかたちで企業が京都に拠点を置くケースもありますね。
例えば、僕らが京都進出を支援したサーチフィールドという会社は、地方拠点を作ることになった際、社員からダントツ人気だったことがきっかけで京都を選んでいます。クリエイター支援を行う会社であり、京都市のコンテンツ産業支援や文化庁の京都移転など、事業との親和性の高さも決め手になり、現在は町家にオフィスを構えています。
山岡
進出企業の業界や職種はバラバラですが、「京都で何かしたい」というマインドは共通しているように思います。「関西進出するなら大阪より京都」という声はよく聞きますね。

——ただ、関西のビジネスの中心は大阪ですよね。
藤本
目的の違いかもしれないですね。ビジネスをスケールさせたいのであれば、マーケットが大きい大阪に行った方がいい。
一方、“会社として新たな領域”にチャレンジしたい場合は京都が適しているように思います。明確な目的があるというよりは、「京都に拠点を構えながら新しい何かを見つけていく」イメージで京都に進出する企業が多いかな。
影山
ヒトカラメディアは関西圏の仕事が増えてきたこともあり、約1年前に京都に進出しました。東京で出会ったツナグムのタナカユウヤさんの紹介で「QUESTION」を知り、その流れでQUESTIONのコワーキングスペースを拠点としています。
ただ、進出後に新しく生まれた関西の仕事は全て大阪です。僕たちが手がける不動産開発プロジェクトの支援はディベロッパーや鉄道会社がクライアントであり、その意味では大阪の方が適しているのかもしれません。
それでも京都を選んだのは、まず僕自身が京都出身で、人と土地との縁があったから。加えて東京や大阪と比べ、京都では緩やかな関係性を作れるのがいいなと思っています。

——緩やかな関係性?
影山
京都は縁側のような場所だと思います。縁側が部屋の中と外の境目であるように、京都は都市と田舎の間のようなイメージです。その分隙があるというか、お互いの顔が見える距離感があって、人対人の付き合いが濃い印象があります。
東京や大阪の場合、仕事での付き合いはもう少しシャキッとするけど、京都では近い間合いの気楽な会話からアイデアが生まれる。「ニーズとソリューションがマッチしたからやる」というよりは、関係性がベースにあって物事が始まるように感じています。
藤本
「この人に仕事を頼みたい」という動機が強いのはありますね。もちろんビジネスとして依頼する部分もありますが、顔の見える人達同士で仕事ができるのは、京都ならではの面白さかもしれないです。

「面白そう」のノリから仕事が生まれる
——実際に関係性から仕事につながった例はありますか?
山岡
東京でデジタルマップの作成をしているジオ・マークという会社と「京都モダン建築祭」でのプロジェクトの話が今まさに動こうとしています。
元々代表の方が京都進出を検討していて、企業向けの視察ツアーに参加するなどしていたところ、京都在住の方から応募があったことをきっかけに拠点を京都に構えたそうです。
現在ジオ・マークの社員さんはQUESTIONのコワーキングスペースを拠点にしていますが、そこでQUESTIONのコミュニティマネジャーと仲良くなったことから「モダン建築祭とデジタルマップは相性が良いのでは?」という話になったと聞いています。

藤本
「この人にこういうことを頼めるんだ」がわかると一気に話が進みますよね。雑談から「こういうのはどうですか?」と発展しやすいし、普段から会話をしているから何かあったときにも頭に浮かびやすい。
逆に、正面からビジネス全面で行ってしまうと、良くも悪くも受け入れられにくい部分もあると思います。京都の色と合わず、「営業っぽい」と敬遠されてしまう。
そう考えると、京都進出の目的が「全国的なマーケットを取りに行く」「既存事業を関西にも展開する」の場合、ケースによっては合いづらいかもしれないです。
影山
特に短期で成果を出すのはあまり合わないでしょうね。
山岡
まさにスピード感は大阪と京都の明確な違いだと思います。京都はゆっくりで慎重な人が多く、絶対に良いとわかっていることでも先延ばしになりやすいと感じることもあります。スローさが良さではある一方、もどかしい瞬間もありますね。

——時間軸が長く、かつ関係性の中から思わぬ展開が生まれるという意味では、新規事業創出や研究開発と相性が良さそうですね。
藤本
山岡
人の紹介も気軽ですしね。府外の人は提携や営業など、紹介した先の具体的な動きを前提に人を紹介しているように感じますが、京都は「面白い人だから紹介します」が多いんですよ。「よく分からないけど、面白そうだから会ってみよう」が通用する距離感があってこそだと思います。
京都進出のポイントは「入り方のデザイン」
——京都に進出するにあたって、気をつけた方がいいことはありますか?
藤本
京都への入り方のデザインが重要です。京都は関係性を大事にする分、最初の入り方が悪いと関係構築が難しくなってしまうケースも見受けられ、もったいないなと感じます。
京都に来る目的を整理した上で、地域に入っていくにはどうすればいいか、誰と接点を持った方がいいのかを丁寧に考える。京都移住計画では行政とともに連携しながら、toBの移住促進や進出の設計、京都に来た後の定着のフォローなどを行っていますが、そういった支援をうまく使ってほしいですね。
山岡
最初の入り口として、ぜひQUESTIONも活用いただきたいです。コミュニティ・バンク京信が運営する共創施設で、地域を元気にするためのコミュニティ作りを目的にさまざまな企業のご支援をしています。
QUESTIONは8階建てのビルを丸ごと使ったスペースで、コミュニティはまさに多様。いろいろな人が集まる「誰が来てもいい」場所であり、そこでの交流から何かが生まれたらいいなと思って運営しています。
また、母体のコミュニティ・バンク京信のネットワークもありますので、「地元の企業とつながりたい」「こういう人を紹介してほしい」といった相談をしていただきやすいのもメリットです。

藤本
東京の場合は「渋谷といえばIT系スタートアップ」など職種や業界が街と紐づいていますが、京都は拠点やコミュニティーと紐づいています。その中でもQUESTIONは最初の入り口として訪れる人が多いですよね。
2〜3階のコワーキングスペースでは地域の中小企業やコミュニティ・バンク京信と、5階の「Students Lab」では大学や学生とつながれる。さまざまな用途がQUESTIONである程度満たせると思います。
影山
QUESTIONにはさまざまな企業が視察に来ていて、そこで紹介された方と後日東京で再会することが何度かありました。京都のつながりを作りつつ、東京の仕事の種も得られるのは面白いなと思います。
山岡
あと、京都市もさまざまな支援を用意しています。市内に進出する事業者向けの補助金など、初期投資の負担を軽減する行政支援もありますので、そちらもチェックしてみてください。
影山
僕らも京都市の「お試し立地支援制度」を使わせてもらいました。

——最後に、京都進出を検討している企業の皆さんにメッセージをお願いします。
影山
僕は現在、東京と京都を行ったり来たりしています。東京ではそれなりにハードワークをしていますが、月に数回京都に来ることでバランスが取れる。オフの時間も含め豊かな時間を過ごすことで、健やかに働ける。それは京都ならではの魅力だと感じています。
山岡
京都は「一見さんお断り」のイメージもあって、もしかしたら入り込むまでに少し疎外感を覚える人もいるかもしれません。
その代わり一度関係性ができれば長い付き合いができると言われています。その入り口をQUESTIONが担えればと思っていますので、お気軽にご相談いただけるとうれしいですね。
藤本
京都は一度入り込んでしまえば、実は寛容な人が多いと思います。初見でも肩書関係なく面白がって、そこから人の紹介や新たな展開につながっていくのは京都の面白さ。
京都に進出する企業もまた、意外とノリで動くケースが多いんですよ。東京から京都に出張するたびにQUESTIONで仕事をして、その場の人たちと何度も顔を合わせるうちに案件化し、通う頻度が増えたから京都に拠点を置く。そんな風に目的なく仲良くなった結果、「気づいたら京都にいた」という人も結構います。
だからこそ、最初の入り方が重要です。関係性ができるまで多少時間はかかりますが、その後は一気に動きます。そこの歩調が合わずに苦戦する企業もいますので、うまく支援を使って良い一歩を踏み出していただければと思います。

執筆:天野 夏海
撮影:中田 絢子
編集:北川 由依



