毎年京都で行われている日本最大級のソーシャルカンファレンス「BEYOND」。9回目となる「BEYOND2025」は、株式会社taliki、京都市、京都リサーチパーク株式会社(以下、KRP)の三者による実行委員会のもとで開催されました。
この実行委員会はどのような背景から設立され、「BEYOND2025」を通してどんな成果を生み出したのでしょうか。talikiインキュベーション事業部の前田善之介さん、京都市産業観光局スタートアップ・産学連携推進室の大井葉月さん、KRPイノベーションデザイン部の井上雅登さんの3人が、BEYONDのこれまでとこれから、そして京都のソーシャルの現在地について語り合います。
社会課題解決に取り組む人たちが集う場を
「BEYOND」は、社会課題解決に取り組むプレイヤーを支援するtalikiが2018年にスタートしたソーシャルカンファレンスです。そもそもどのような目的のもとで立ち上げられたのでしょうか。
前田
当時、社会課題を解決するために、社会起業家をはじめ、投資家、NPOといったさまざまなセクターが取り組んでいるものの、各セクターの交わりが少ない状況でした。そこで、セクターを超えて交流し、連帯を生んでいくために立ち上げたのがBEYONDです。

前田 善之介 氏
株式会社taliki インキュベーション事業部イノベーション開発チーム
2022年に株式会社talikiにジョイン。インキュベーション事業部ではプレシード〜シード期の社会起業家インキュベーションプログラム、アクセラレーションプログラムの企画運営に携わり、これまで約150名の事業伴走支援に従事。社内ではソーシャルビジネスの事業化ノウハウの開発を担当。「COM-PJ」「Tokyo Social Commune RISE」「Tokyo Co-cial IMPACT アクセラレーションプログラム」「KSIP」等の運営に参画。「BEYOND2025」では運営統括を務めた。
2018年から毎年開催を続けてきたBEYOND。スタートアップカンファレンス「IVS」に初めてソーシャルエリアが誕生した2023年が、一つの大きな変革点だったのではないかと、前田さんは話します。
前田
「IVS2023 KYOTO」で初のソーシャルエリアができて、その統括を弊社代表の中村が担当しました。当日は立ち見が出るほどたくさんの人が集まり、「ソーシャルに関心のある人たちがこんなにいるんだ」と改めて気づかされました。BEYONDも、社会課題に取り組んでいる人だけでなく、事業会社の人たちなどもっと周りを巻き込んでいこうと、さらに加速していくきっかけになったと思います。
この3年ほどでさらなる発展を遂げたBEYONDですが、KRPはいつ頃からどのような形で関わってきたのでしょうか。
井上
talikiさんの取り組みに共感し、KRPも何か一緒にできないかということで、2018年12月に開催された「BEYOND3.0」に協賛企業として関わったのが始まりです。翌年にはさらに連携を深め、KRPのイベント週間「KRP WEEK」の期間中に、KRP地区内で「BEYOND KYOTO」を開催することに。以降ずっとKRPは「特別協力」という形で、主に会場面での協力をしてきました。

井上 雅登 氏
京都リサーチパーク株式会社 イノベーションデザイン部
1990年生まれ。政府系金融機関を経て2017年に京都リサーチパークへ入社。スタートアップ支援やイベントスペースの企画運営を担い、これまで約500件以上のイベント/プログラムを担当。株式会社talikiとの社会起業家支援プログラム「COM-PJ」共催や、U35世代のコミュニティ「U35-KYOTO」の運営など、京都を拠点に場づくりに奔走。創業128年の家業・株式会社左り馬の取締役も務める。
この言葉を聞いて、「井上さんを筆頭に、KRPの皆さんは、協力という枠に収まらないほどの協力を毎年してくださっています」と笑顔で話す前田さん。talikiとKRP、さらに京都市も加わり、2025年に三者でBEYOND実行委員会を立ち上げることになった背景について、次のように説明します。
前田
「BEYOND2024」までの計8回で、どんどん輪が広がってきた実感はあったものの、talikiとして巻き込める範囲の限界も少し感じていて。KRPさんと京都市さんと一緒に開催することで、これまで積み重ねてきた連帯をより広げていけるんじゃないかという思いがあり、実行委員会の立ち上げに至りました。
これまでは特別協力という形で携わってきたKRPの井上さんも、大きく頷きながら言葉を継ぎます。
井上
私個人としても、「さらに輪を広げたい」というtalikiさんの思いに共感しつつ、talikiとKRPという民間同士だけでなく、異なるセクターの協力もないと、今以上に広がるのは難しいのではないかと感じていました。今回、京都市さんから、実行委員会という形で力強くコミットして一緒にやっていきたいというお話を聞いて、民・民・官という三者の連携ならば次の新しい絵を描けるんじゃないかと、更なる可能性を感じました。

2024年までは後援としてBEYONDに関わってきた京都市が、実行委員会形式で主催に加わることになった背景について、京都市産業観光局の大井さんはこのように説明します。
大井
京都市は、2014年に「京都市ソーシャル・イノベーション・クラスター構想」を策定し、10年にわたってソーシャルビジネスの支援に取り組んできました。また、2025年3月に策定した「新京都戦略」においても、世界にインパクトを与えるスタートアップ創出・成長プロジェクトをリーディングプロジェクトの1つとして位置付けています。これらの取り組みの一環として、BEYOND実行委員会に京都市もジョインすることになりました。

大井 葉月氏
2022年4月京都市役所へ入庁。東山区役所で3年間、人口減少対策を軸にしたプロジェクト推進やまちづくり、広報業務を担当。現在はスタートアップ・産学連携推進室にて、ソーシャル・イノベーション創出支援を推進。京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)の事務局運営や京都流議定書の推進にも携わり、社会的企業と共創するエコシステムづくりを模索中。「京都市未来共創チーム会議」として京都基本構想策定にも関わる。
官民の力を結集し、さらに輪を広げる
taliki・KRP・京都市による初の実行委員会形式で開催された「BEYOND2025」。各者はそれぞれどのような役割を担っているのでしょうか。
大井
これまでの8回で着実に輪を広げてこられたBEYONDですが、京都市の行政としての役割は、その推進力をさらに高めることです。地域企業や公的機関など、巻き込む範囲をもっと広げて、京都のまち全体でソーシャルの機運を高めていくことを意識して取り組みました。
前田
大井さんがおっしゃる通り、京都市さんの『広げる力』を実感しました。talikiだけではなかなかできなかったことが、実行委員会形式によって実現できた感覚があります。例えば、今回のBEYONDは初参加の人がとても多くて。京都の方々が今まで以上に関心を持ってくださったのは、行政としての京都市さんの力が大きかったと感じます。

「BEYOND2025」の参加者数は、のべ1,141名と過去最大に。そのうち社会起業家は402名、約35%で、事業会社、金融機関、VC、行政、学生など、多様なセクターの人たちが集まったのも、今回の特徴だったそうです。また、全国4都市(京都・東京・仙台・福岡)で計5回のプレイベントを開催したのは、今回が初めての試みです。
前田
関西圏以外からももっとたくさん来てもらうために、全国でイベントをしたいという構想は以前からあったんです。今回初めて実現できたのは、実行委員会という座組でパワーアップできたからだと思います。
大井
プレイベントの場では、各地域の行政の人たちとのコミュニケーションも生まれました。BEYONDを通して他都市との連携が深まり、京都市にとっても良い試みでしたね。

井上さんも、KRPが特別協力として関わってきたこれまでと、三者の実行委員会形式で開催した今回を振り返り、「京都市さんが主催に加わった意義は大きかった」と語ります。
井上
民間企業だけで掲げられる旗の大きさ、届く範囲には、やはり限界はあります。京都市さんがBEYONDの主催に加わることは、「京都は社会課題解決を進めていくまちになるんだ」という、社会に対する大きな意思表示になったはずです。だからこそ、今回のBEYONDには今まで以上に多くの方が関心を寄せてくれたのではないでしょうか。
実行委員会におけるKRPの役割については、「官民のつなぎ役を果たせているのではないか」と話します。
井上
官と民では、意思決定プロセスや何を最大化すべきかなどさまざまな違いがあるのは当然です。KRPは、創業時から京都府、京都市の公的産業支援機関と連携してきた歴史があるため、民間企業でありながら官と協働してきた素地があります。この素地を生かして、BEYOND実行委員会でも官民のハブ的役割を担うことができているんじゃないかと思います。
前田
実行委員会形式でのカンファレンス開催は、talikiとして初めてだったので、社内でも手探りな部分が多くて。井上さんにたくさんご相談させていただいて助かりました。
ソーシャルな取り組みが根付くまち・京都
2014年に「京都市ソーシャル・イノベーション・クラスター構想」を策定し、翌年には京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)を開設するなど、早期からソーシャルに取り組んできた京都。改めて3人に、京都というまちをどのように捉えているのか伺ってみました。
井上
まちが目指したい未来として、10年以上前から「ソーシャル」という言葉が入っているのはかなり先進的だなと思います。talikiさんも2017年に京都で設立されていて、今こうやって官と民が交わる世界線が生まれているのは面白いですね。
大井
確かに、2014年当時にソーシャルに取り組んでいた自治体は本当に少なかったと思いますね。BEYONDのプレイベントで各地に行ったときも、「京都市の職員の方ですか?」と声をかけてくださったり、連携の相談をいただいたりする機会が多く、京都市の取り組みに注目してくださっているんだなと手ごたえを感じました。
前田
京都のまちには、ソーシャルなもの、サステイナブルなものを「良い」と捉える価値観が根付いているような気がします。だから、社会起業家を支援するtalikiの思想ともマッチするのではないかと、個人的には感じています。

そんな京都のまちで、今後育ってほしい事業や起業家像について尋ねると、大井さんはこんなふうに答えてくれました。
大井
文化と経済活動を両立させ、新たな価値を生み出すカルチャープレナー(文化起業家)や、サーキュラーエコノミー事業、子育てや福祉にDXを取り入れた課題解決の事業など、京都に根ざした事業や起業家が育っていくとうれしいですね。また、京都は老舗企業も多いため、後継ぎによる第二創業や新たな価値創出にも期待しています。
一方、前田さんは、京都でゼロから事業を立ち上げるケースだけでなく、他府県から京都への事業展開も後押ししていきたいと話します。
前田
他の地域で事業を行っている方が、京都に新たな拠点を置いて、こちらでも事業を広げていくような動きは、BEYONDを通してもっと増やしていきたいと思っています。その結果、いろんな社会起業家によって、京都が「社会課題が一番解決されるまち」になっていくといいですね。その中でも、障害者福祉や児童福祉など、特に難しい社会課題にチャレンジできるような土壌を育んでいけたらと思っています。

前田さんの言葉を受け、他都市から京都に進出する企業のために、KRPは「ハブの役割を果たしたい」と井上さんは話します。
井上
京都で新たなチャレンジをしようとする人たちが、京都で事業を行う意味や意義をしっかりと作っていくために、支援機関や研究機関など、適切な人や組織につなぐハブになれたらと思っています。その取り組みの1つとして「KRP地区共創パートナーシップ」というKRP地区内の6支援機関が共創パートナー役を務める“ワンストップ総合支援システム”が立ち上がっています。このように、民の立場で、官民問わずハブになれるのがKRPの強みではないかと、私自身は考えています。
これからも社会起業家をエンパワーし続ける
社会起業家が集まりつつある京都の地で、BEYONDはこれからも続いていきます。次回の「BEYOND2026」も、三者による実行委員会のもとで2026年10月に開催予定。詳細はまだ公表されていませんが、「今後も変わらない部分と強化していきたい部分がある」と前田さんは話します。
前田
変わらないのは、「社会起業家に短期の実利と長期の居場所を提供したい」という思い。事業を成長させるための知識やノウハウ、マッチングなどの「短期の実利」を提供しつつ、それだけではなく、起業家たちが「社会課題に挑戦し続けていいんだ」「まだまだ頑張れる」と思えるようなコミュニティを提供し、「長期の居場所」でありたいと思っています。
さらに、強化したい部分としては、「より多くの社会起業家を集めたい」と力強く語ります。
前田
「BEYOND2025」には402名もの社会起業家が集まりましたが、それでも日本中の社会起業家全員が参加していたわけではありません。僕たちが機会を提供したいのは、すべての社会起業家なので、次回はもっともっと集めたいですね。

前田さんの「短期の実利と長期の居場所」という考え方は、自分が目指したいKRPのあり方にも通ずると、井上さんが続けます。
井上
KRPも「ここに行けば先端的なテーマにふれられる」「いろんな問いや人に出会える」と思ってもらえるような、多くの人にとっての「長期の居場所」であり続けたいですね。また、先ほどお話したようなハブとしての役割を果たし、「短期の実利」も提供していきたいです。
最後に、大井さんに京都市のソーシャルな取り組みの展望を尋ねると、「BEYONDは三者でさらに盛り上げていきますよね!」と笑顔で2人と視線を交わしながら、こう話してくれました。
大井
「京都市ソーシャル・イノベーション・クラスター構想」の策定から約10年。次の10年に向けて、さらに歩みを進めていきます。京都で起業家が生まれ、ビジネスが発展し、社会が豊かになる。そんなエコシステムが育まれていくように、BEYONDを含め、今後もさまざまな取り組みに力を注いでいきたいです。

実行委員会形式による新たなBEYONDは、まだ始まったばかり。でも3人のお話を聞いて、民・民・官の三者によるBEYOND実行委員会が、これからの官民連携の一つのモデルケースになっていくかもしれないという可能性が感じられました。関心を持った方は、「社会起業家が集まるまち」京都へ、そして「BEYOND2026」へ、ぜひ足を運んでみてください。
執筆:藤原 朋
撮影:中田 絢子
編集:北川 由依



