2019.01.11

「京都で働く」を考える「DOORS TO KYOTO」開催前夜 ②昔ながらの道徳が生きる、京都ならではの働き方

世界中から注目されている京都。
歴史深い寺社仏閣やインバウンド需要で盛り上がる観光スポットなど。テレビ番組でも特集され、華やかなイメージを抱く方が多いと思います。

でも、それは「表の顔」。
実は、京都もたくさんの課題を抱えているんです。

本当に?
とても注目されているのに?

そう思われるかもしれませんが、よく目を凝らしてみると、財政難、人手不足、空き家問題など、いろんな問題がみえてきます。このままでは、京都が衰退するといっても過言ではない状況なのです。

京都の課題を解決するためにも、未来につないでいくためにも。
求められるのは、京都を一緒に盛り上げてくれる人たち。

そこで、2019年2月1日・2日に開催されるのが、『DOORS TO KYOTO -KYOTO WORKING FORUM-』。京都の企業と出会える就職・転職フォーラムや起業家・クリエイター向けのトークイベント、京都進出を検討している企業誘致セミナーなどが行われます。

今回、イベント開催に先駆けて全2回の座談会を企画。第1回目の前編に引き続き、後編の模様をお届けします。

左から、柴田 博史さん(産業観光局 産業企画室)、右近 綾子さん(総合企画局 総合政策室 創生戦略係長)、山中 はるなさん(京都市ソーシャルイノベーション研究所 イノベーション・コーディネーター)、川口 高司さん(産業観光局 新産業振興室)。

お集まりいただいたのは、前編と同じく、イベント運営メンバー「京都市役所」「京都市ソーシャルイノベーション研究所」のみなさん。今回は、「京都市が抱える課題」や「京都ならではの働く魅力」について意見を交わしていただきました。

京都市は貧乏貴族!?

【京都移住計画(以下:京移)】:後半もよろしくお願いします! まずは、「京都市が抱える課題」についてお聞きしてもいいでしょうか? 京都に対して、余裕がある、お金を持っているという印象を抱いている方が多いと思います。現在、移住促進などを担当されている右近さんはどのようにお考えですか?

【右近】:テレビ番組などで持ち上げられていますが、実際、京都は「貧乏貴族」のような状態だなと感じています。例えば、大学や寺社仏閣、昔ながらの木造住宅などが多いことから、固定資産税収入が他の都市よりも少なくなっていたりと、京都を京都たらしめているものが、税収という面では京都市を不利にしている側面もあります。

【右近 綾子】京都市 総合企画局 総合政策室 創生戦略係長。佐賀県出身で京都の大学を卒業後、平成13年に入職。行政改革課、人事委員会事務局などを経て、現在は「移住促進」や「移住相談者の対応」が主な仕事。

【京移】:つまり、自由に使えるお金が少ない。

【右近】:京都は優雅なイメージが先行していますが、財政面では結構厳しいという独特な事情を抱えているんです。加えて、若者の流出も問題視されています。

【京移】:えっ、大学生が多いイメージですけど。

【右近】:確かに転入超過にはなっていますが、大学生は卒業を機に東京に出ちゃう割合がとても多くて。働く世代や子どもを産む世代が少なくなると税収の面にも関わってくるので、みなさんが思っているほどの余裕はありません。なんとかしないと、このままでは京都がなくなっちゃうっていう危機感がすごく強いんですよ。

京都の要!宿泊業・サービス業を底上げする

【京移】:財政難・若い世代の流出という課題を抱えるなかで、今回、開催される『DOORS TO KYOTO』。みなさんはどのような目的意識を持っていますか?

【柴田】:産業観光局の雇用担当側からお話させていただきますと、今回のイベントでは「宿泊業・サービス業」の底上げを目指しています。

【柴田 博史】京都市 産業観光局 産業企画室。現在、雇用担当として宿泊業・サービス業などの担い手不足の解決に取り組んでいる。平成30年に民間企業(銀行員)から市職員に転職したばかりのルーキー。

【柴田】:2018年現在、京都市は非正規雇用者の割合が政令都市のなかで一番高いことが分かっています。しかも、それが顕著に表れているのが宿泊業・サービス業。離職率も高くて、新卒以降3年以内で離職する割合が約5割。製造業でも約2割なので、その高さをご理解いただけるかと思います。

【京移】:そんなに高いんですか!

【柴田】:今後、人口がどんどん減っていくなかで、このままだと京都の産業は衰退していく。それどころか、寺社仏閣などの観光資源を守る担い手もいなくなりますし、いずれは衰退するという危機感を抱いています。

【京移】:そこで、京都の観光産業を一緒に盛り上げてくれる人を求めているんですね。

【柴田】:ご存知の通り、京都は世界中から様々な人たちが集まります。人と接することが好きなら、大きなやりがいを感じられると思うんです。イベントでは、そんな京都市の旅館や飲食店で働くからこその魅力や、各企業さんが京都の街とどのような関わりを持っているのかもお伝えしたいですね。

起業家・フリーランス誘致、京都ロンドン化計画!

【京移】:新産業復興室の川口さんは、主にベンチャー企業の支援をされているとお聞きしました。

【川口】:そうですね、今回の『DOORS TO KYOTO』では、起業家やフリーランスの呼び込みをしていきたいと考えています。すぐに移住するのは難しいにしても、例えば、2拠点、東京と京都を行き来する形の人が増えれば活性化につながるのではないかと。特に起業家は、数字では測れないような熱量を持っていますし、会社を立ち上げてくれたら雇用も増えるので、京都の街を元気にするきっかけになると思うんです。

【川口 高司】京都市 産業観光局 新産業振興室(画像右)。ベンチャー企業の支援や起業家・フリーランスなどの支援を担当。民間企業と協力して、ものづくり拠点である「京都メイカーズガレージ(KMG)」や、市内の各コワーキング等の情報を一元的に発信するプラットフォーム「GoWorkin’KYOTO」の企画・運営を行う。2年ごとのスピード異動を繰り返す。

【右近】:京都のお店は「京都」っていうお題で勝負されている方が多いですよね。ちゃんと京都っていう文脈から外れないぞっていう。枠組みの中で自分を上手く表現されている感じがして。

【川口】:それでいうと、東京のお店が関西に出店するとき、なぜか大阪を飛び越えて京都に来るケースも結構ありますね。仰る通り、京都という看板が付加価値になってる。

【山中】:愛媛県今治市に本社がある『IKEUCHI ORGANIC(イケウチ・オーガニック)』さんにお話を聞いたことがあるんですけど、京都に出店したとき、外国の友人から「京都にお店を出すなんてすごいね!」って言ってもらったらしくて。東京に出店したときは別に何も言われへんかったのに(笑)外国の人たちからしたら、京都にお店があるっていうのはすごいステータスになるみたいですね。

【山中 はるな】京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)のイノベーション・コーディネーター。民間企業、NPO法人の主宰、まちづくりコーディネーター(市職員)を経て、現在は人と企業を応援することが主な仕事。

【川口】:あとは、コワーキングスペースやシェアオフィスのコネクションをつくることも重視しています。現在、京都市内には30カ所以上あって、平成29年度に開設した情報発信のプラットフォーム『GoWorkin’KYOTO』もその取り組みの一環です。起業する方にとっては横のつながりを生み出しやすいですし、観光の合間にふらっと立ち寄って仕事ができる利点もアピールしています。

2019年現在で15カ所のコワーキングスペース、シェアオフィスを紹介。今日の気分で働く場所を選ぶ、ハッシュタグ「#きょうの仕事場」も展開しています。

【京移】:なるほど、ブランド的な価値や仕事をできる環境が多いなど、京都に場所を移して働くメリットがあるんですね。その他には何かありますか?

【川口】:ある人から聞いた話なんですけど、ロンドンって仕事の幅がすごく広くて、それがクリエイティブを生むポイントになっているらしいんですよ。それで、個人的には京都もロンドンに似ている部分があるなと感じていて。

【京移】:京都がロンドンに似ている?

【川口】:以前、京都・大阪・東京・名古屋の「産業分野比率」を調査したことがあるんです。すると、京都だけがちょっと特殊で、伝統産業をはじめとする製造業、川中産業、サービス業など、いろんな業種がバランスよく存在しているんですよ。つまり、幅広い業種があるということ。クリエイターの方からすると、自分が持っていない要素との掛け算がしやすい土壌なのではないかと思っています。

シングルスタンダートで生きよう!

【京移】:働き方という観点で聞いてみたいのが、「京都の企業ならではの特徴」について。京都の企業を後押ししている京都市ソーシャルイノベーション研究所(以下:SILK)の山中さんはどのように感じていますか?

【山中】:京都には、従業員が「自分事」で仕事をしている企業さんが多いと思います。不足している部分があれば自らが率先して補ったり、やりたいことや改善案を提案したり、みんなで会社をつくっている印象が強いです。だから、従業員のみなさんがすごく楽しそうなんですよね。そこで、SILKでは「シングルスタンダードで生きよう」と提唱しています。

【京移】:シングルスタンダード?

【山中】:プライベートの軸と仕事の軸が同じという意味です。例えば、「自社の食品を子どもに食べさせたくないと思いながらつくっている」とか「本当はこんなに厳しく怒りたくないのに、立場的に仮面を被って働いている」とか。本来の自分と会社にいる自分に、どこかズレが生じている状態をダブルスタンダードと呼んでいます。そうなると、だんだん心がすり減って疲れてしまったりしちゃう。

【京移】:実際、それで精神の健康を崩している方もいますね。

【山中】:だからこそ、シングルスタンダートで生きようと。自分に嘘をつかなくていい、信念を抱きながら働ける。SILKの『これからの1000年を紡ぐ企業認定』に認定された企業さんには、特にその印象を抱けるかと思います。

京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)の「これからの1000年を紡ぐ企業認定」。

京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)とは?
一言で説明すると、京都の社会課題の解決に取り組む企業の掘り起しや支援を行う団体。2015年4月、調和・バランスのとれた社会をつくる「京都市ソーシャルイノベーションクラスター構想」の実働拠点として設立。「学び育つ場」「つながる場」「広がる場」の3つの場を通して、ミッション実現を目指している。主な取り組みは『イノベーション・キュレーター塾』や『これからの1000年を紡ぐ企業認定』など。

これからの1000年を紡ぐ企業認定とは?
社会的課題の解決やマルチステークホルダー(消費者、従業員、株主、取引先、地域社会など)への配慮を行う、企業・団体を認定する制度。京都市から社会的企業・団体が輩出される基盤づくりが目的。2018年で3期目を迎え、認定企業は13社。

【京移】:山中さんご自身の生きる軸はどのようなものなのでしょう?

【山中】:私の場合は、人を励ますことがすごく好きなんです。人や企業を応援するときも、まちづくりをしているときも、誰かの背中を押すという軸に変わりはありません。そんなふうに、職種や分野で決めるのではなく、自分が本質的にやりたいことを考えて、自分が置かれた環境でやっていこうということ、つまりは自分事で考えていこうということもSILKを通して伝えていますね。

【右近】:京都ならではの働き方は、企業の歯車になるのではなく、まさしく自分事として動けることにあるのだなと感じています。働く意義、生きる意義を感じられる場所なのかなと。京都にはソーシャルビジネスを行う企業が多いのも、そんな土地柄が影響しているんでしょうか。

【山中】:京都は良くも悪くも口コミ社会。周りは知り合いばかりなので悪いことはできないですし、いい人は広がりやすいんですよね。

【川口】:確かに、京都って友達の友達は友達、みたいな距離感になっていきますね。知れば知るほど、知り合いの乗数が重なっていく感じです。

【山中】:だから、京都の企業さんは、従業員、取引先はもちろん、地域社会や未来の子どもたちに配慮したビジネスを自然とされているのかなと。ソーシャルビジネスって新しい言葉ですけど、京都はずっと昔から地域と一緒に生きていこうという気持ちが根付いていると思います。

【右近】:真っ当な商売をしていると、その評判が広く伝わるのはいいですね。いいことをすれば、ちゃんといいことが返ってくる。昔ながらの道徳が生きているんだなと感じます。

【京移】:もし日々のもどかしさを感じているのなら、京都で働くこと、暮らすことが、現状から抜け出す手段のひとつになるのかもしれませんね。そういう意味では、『DOORS TO KYOTO』は自分の生き方を見つめ直す機会にもなるだろうなと思います。

今回の座談会は第2回目に続きます。次回は、『DOORS TO KYOTO』に登壇する京都の企業をゲストとしてお呼びして、「京都で働くとは?」というテーマで意見を交わしていただく予定です。お楽しみに!

(To Next :第2回目に続く!)

東京開催!『DOORS TO KYOTO -KYOTO WORKING FORUM-』

メディアなどで華やかに映し出される京都。
その裏側には、財政難や人口減少など、いろんな課題が隠れています。

でも、それは京都で何かを起こせるチャンスがあるということ。そして、京都ならではの働き方として、1本の信念を貫いて働ける、シングルスタンダードで生きる入口がたくさんあります。

2019年2月に開催される、『DOORS TO KYOTO -KYOTO WORKING FORUM-』。京都で働くことを考える2日間は、自分自身の生き方を見つめ直すきっかけにもなるはずです。

▼イベント特設WEBサイト
https://www.doors-to-kyoto.com/index.html

▼こんな方におすすめ
・現在の仕事に悩みを感じている方
・働き方や生き方を見つめ直したい方
・就職、転職活動中の方
・将来的に起業を考えている方
・自分の気持ちを大切にしながら働きたい方
・いつかは京都や地方に住みたいと考えている方

▼開催日時
2019年2月1日(金)〜 2月2日(土)
※遅れての参加、途中退場も可能ですので事前にご連絡下さい。

▼会場
・八芳園(白金台駅 徒歩1分)
・Are(渋谷駅 徒歩2分 SHIBUYA CAST 1F)
・Nagatacho GRiD(永田町駅 徒歩2分)
※イベントによって異なりますので、お気をつけ下さい。

▼参加方法
詳しくは、下記の各フォーラムページをご覧ください。
その他、京都移住計画のFacebookページでも情報を公開しています。

▼各テーマとイベント概要
<1日目:2019年2月1日(金)>
【企業誘致】京都市企業誘致セミナーin東京
13:30~16:30 @八芳園(白金台駅 徒歩1分) 入場無料・事前申込み
近年様々な企業の進出が進む京都。そんな京都の魅力や強み、ビジネス環境を知っていただくため、京都市内に進出された企業からの講演や、進出に当たっての支援体制などをご紹介!
申込:http://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000244638.html

【コワーキング】GoWorking Kyoto Night in Tokyo ~京都で働くを知る~
19:00~21:00 @Are(渋谷駅 徒歩2分、SHIBUYA CAST 1F) 入場無料・事前申込み
クリエイター、起業家などを対象に、京都のコワーキングオフィス、京都のコミュニティなどについて、コワーキング運営者や京都への移住者によるクロストークイベントを開催!
申込:http://www.city.kyoto.lg.jp/sogo/page/0000245999.html

<2日目:2019年2月2日(土)>
【観光企業】京都観光企業フォーラム
13:00~16:00 @Nagatacho GRiD(永田町駅 徒歩2分) 入場無料・事前申込み
京都の観光企業でのインターンシップ体験談発表や、京都企業の経営者、人事・採用担当者と直接出会えるイベント。京都で暮らすこと、働くこと、人の魅力等を生の声でお届けします!
申込:https://kyotokankokigyo.peatix.com/

【ソーシャルビジネス】ソーシャル企業と考える「京都移住転職計画」
16:00~18:30 @Nagatacho GRiD(永田町駅 徒歩2分) 参加費1,000円・事前申込み
「これからの働き方や暮らし方」を共に考える「移住・転職」イベント。 京都のまちの特徴とともに、「持続可能な社会」に向けて京都でソーシャルビジネスを展開する企業を紹介!
申込:https://kyoto-iju-social.peatix.com/view

【交流】合同交流会
19:00~21:00 @Nagatacho GRiD(永田町駅 徒歩2分) 参加費2,000円・事前申込み
2DAYSの締めくくりには4つのフォーラムの合同交流会を開催!各フォーラムのトークゲストも参加します(一部)。京都で働くことに興味がある来場者同士やトークゲストとつながって、京都で暮らす・働くイメージを膨らませてみませんか?
申込:https://doors-to-kyoto-after-party.peatix.com/view

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