「あなたの優しさが社会に接続される3ヶ月」。そんな言葉を掲げる起業家支援プログラムが京都にあります。
「COM-PJ(コンプロジェクト)」は、社会課題解決型の事業立ち上げを目指す若い起業家(概ね30才以下、創業2年未満、起業準備中など)を対象に、約3ヶ月間の伴走支援を行うプログラム。1989年の開設当初よりイノベーター・起業家支援を行ってきた京都リサーチパーク株式会社(以下、KRP)と、社会課題解決に取り組むプレイヤーを支援する株式会社taliki(以下、taliki)がタッグを組み、2020年にスタートしました。
今回お話を伺うのは、COM-PJの運営に携わっているtaliki取締役の原田岳さんとインキュベーションマネージャーの中村友美さん、KRPイノベーションデザイン部の真野智道さんです。COM-PJのこれまでとこれから、そして京都だからこそできる社会起業家支援について、3人が語り合います。
二社が協力し合い、育ててきたプログラム
talikiとKRPが共催するCOM-PJは2020年から始まり、2024年には第5期を終えました。3人はそれぞれどんな経緯でtaliki、KRPに入社し、COM-PJにどのように関わってきたのでしょうか。
原田
talikiの代表を務める中村多伽とは、もともと経営者仲間であり友人でした。中村に誘われて社員第1号として入社し、インキュベーション事業を今後より発展させていこうと、最初の仕事として取り組んだのがCOM-PJ。それ以前にもKRPさんには、taliki主催のプログラムの協賛やイベントの会場提供などでご協力いただいていましたが、COM-PJは二社で一緒にプログラムをつくろうということでスタートしました。

原田 岳
社会課題解決のプレイヤー支援を行う株式会社talikiの社会起業家育成事業部の運営責任者を務める。過去に株式会社アオイエの共同創業、シェアハウス事業の立ち上げから展開、海外でのプロジェクトマネジメント経験を生かして、300を超える社会的起業家の事業構築や伴走支援を実施。また、地方創生事業にも積極的に取り組んでおり、35歳以下の多様なプレイヤーが対話しU35の視点で京都の未来を描く「U35-KYOTO」のプロジェクトマネージャー、地方自治体のタウンプロモーション事業なども兼任。行政連携や営業が得意。taliki主催、Social Conference 「BEYOND」の統括も務める。
中村
私は2024年4月にtalikiに入社したので、COM-PJには5期から関わっています。前職は決済サービスを提供する会社で働いていたのですが、あるとき「インパクト投資」という言葉を知り、「社会課題解決と経済を両立させる考え方があるんだ!」と興味を持って。詳しく調べていく中でtalikiに出会ってジョインしました。

中村 友美
京都大学卒。株式会社talikiではインキュベーション事業部マネージャーを担当。
新卒で大手通信会社を経て、決済事業会社に転職。主幹事業のカスタマーサクセスチームを立ち上げ、上段戦略策定から実務遂行まで幅広く担い、年間百数十億円のチャーン改善および年間十数億の新規獲得に貢献。talikiでは、社会起業家支援プログラムの運営や、オープンイノベーション営業などを遂行。
また、24年10月より京都市ソーシャルイノベーション研究所(SILK)に複業としてジョインし、イノベーション・コーディネーターとして活動中。
真野
私は2024年3月にKRPに入社しました。COM-PJには中村さんと同じく5期から関わっています。妻が料理家として京都で活動していたので、私はしばらく東京と京都の二拠点生活を送っていたのですが、そろそろ京都に住まいを移したいと思っていたんです。そんなとき、妻を介してツナグム(京都移住計画)の中村千波さんと知り合い、KRPの井上雅登さんを紹介してもらったことから、縁あって入社が決まりました。

真野 智道
地方銀行にてキャリアをスタート。支店を二カ店経験し、リテール・法人営業・債権管理まで幅広く従事。原宿支店時代にベンチャー企業100社以上と関わりを持ち経営支援したことを契機に社内公募制度を活用し、新規事業を手掛ける関連会社に出向。関連会社では決済アプリ開発プロジェクトに参画。また出向と兼務する形で銀行本部にてコワーキングスペースの立ち上げを行う。その後、スタートアップ支援部署にてアクセラレータープログラムの立ち上げ・インキュベーション施設の企画・運営を実施。妻の京都移住に伴い、現在は京都リサーチパーク株式会社にてスタートアップ支援を中心に活動中。
3人はCOM-PJではそれぞれどんな役割を担っているのでしょうか。東京の地方銀行でインキュベーション施設やアクセラレータープログラムの立ち上げに携わっていた真野さんは、前職との違いも含めてこう話します。
真野
5期ではプログラムの運営に関わりながら、メンターとして参加者3名の1on1も担当しました。前職と大きく異なっていたのは、事業のフェーズ。前職ではシード(事業アイデアはあるが起業前)からアーリー(起業はしたがマネタイズはこれから)の支援をする機会が多かったのですが、COM-PJはほとんどがプレシードからシードの段階。「アイデアだけあります」という方が多く、これまでとは違った難しさがありましたね。また、社会起業家の支援という意味でも、いわゆるスタートアップにはない複雑さがあると感じました。
一方、起業家支援に携わること自体が初めてだったという中村さんは、5期ではどんなふうに関わったのでしょうか。
中村
前職は畑違いの業界だったので、起業家支援のことはまだ何もわからなくて。5期では当日の司会や進行といった裏方の仕事を主に担当しました。1on1や進捗報告会に同席して、支援者が起業家に対してどんなフィードバックや声かけをしているのか、そばで見ながら勉強させていただきましたね。

COM-PJの立ち上げ段階から関わってきた原田さんは、自分自身の役割も変化していると話します。
原田
当初はKRPさんと一緒にプログラムをつくっていくプロジェクトマネージャーの役割でしたが、2期から3期では徐々にtalikiの他のメンバーに役割を移行していって。4期以降は、プロジェクトマネジメントは完全に任せて、僕は全体を俯瞰しながら品質管理などを行っていました。今はもう、そっと見守るような立ち位置ですね(笑)。5期まで回を重ねるごとに、プログラムの品質は上がっているなと感じています。
起業家に寄り添い、密に伴走する
COM-PJならではの特徴や、他のプログラムにはない強みについて、3人はどのように捉えているのでしょうか。
真野
今回初めて関わって強く感じたのは、個々で取り組むのではなくチームとしてみんなでやっていくんだなということ。運営側も参加者も、横のつながりを大切にしているのが特徴だと思います。COM-PJは「GIVERであろう」を一つの合言葉にしていますが、それを体現している皆さんだなと感じました。また、支援者が本当に密な伴走をしているところもCOM-PJらしさ。今回私は3名のメンターを担当しましたが、1番多かった方は3ヶ月間で15回もの1on1を行いました。
原田
すごい!週1回以上のペースですよね。真野さんは入社したばかりだったのに、COM-PJのスタイルによく慣れましたね(笑)。
真野
私だけが特に回数が多かったわけではなく、他のメンターも同じように頻繁にコミュニケーションを取っていたので。それに、何かをつくるときに一緒に伴走できるってめちゃくちゃ楽しいんだなと実感しました。

中村
COM-PJには「いいものを一緒につくりきる」というカルチャーがありますよね。本当に起業家ファーストのスタンスで支援しているし、表面的なフィードバックじゃなくて、常に起業家と同じ目線で、本質を突き詰めて考えるところが印象的でした。
原田
それは1期の頃から変わらないですね。支援者が変わっても、カルチャーは受け継がれている。COM-PJは「エモとロジック」のバランスがいいなと思います。本質を徹底的に詰めて考えるのは、ロジックの部分。事業を進める中で「このやり方で本当に良いのか」「この問題を放置しちゃいけない」といった違和感を見逃さないんです。一方で、エモの部分も大きい。運営側もすごく愛があふれていて熱量が高いし、参加者もそれに感化されていく。発表の後や打ち上げで、思わず感極まって涙する人も多いです。一生の仲間ができる場だなと思いますね。


また、これまでの卒業生から紹介を受けて参加する人が多いのもCOM-PJの特徴ではないかと言います。
中村
5期の参加者は、北は北海道から南は屋久島まで全国から集まりました。4期までの卒業生が「COM-PJは社会起業家を本気で応援してくれる」「参加して良かった」といった口コミを広げてくれているからだと思います。
原田
応募者の半数くらいは紹介でしたね。卒業生から直接紹介された人もいれば、これまでの参加者のnoteを読んで来てくれる人も。「昨年、最終発表のBEYONDを見て、自分もこの場所に立ちたいと思って来ました」という人もいてうれしかったです。
京都で育まれる、社会課題解決のコミュニティ
2024年に京都に移住する以前は、東京で働いていた真野さんと中村さん。京都の起業支援や社会課題解決のコミュニティに対して、どのように感じているのでしょうか。
真野
東京はインキュベーション施設などがたくさんありますが、それぞれが独自で取り組んでいる印象があります。一方、京都はコミュニティの横のつながりが強く、支援者同士が組織の枠を超えて協力し、みんなで支援していく形ができていますね。また、こういった地盤がしっかりありつつも、外のものを柔軟に取り入れるところも京都らしさだと感じます。COM-PJでも、私が東京で接点のあったスタートアップの方たちにメンターとして参加してもらうなど、新たな交流も積極的に行っています。
中村
京都の人たちは、お金を稼ぐことを最優先するよりも「本当に良いものをつくりたい。そこにお金も伴ってくればいい」と考えている人が多いと感じています。本気で良いものをつくるために、仲間が連帯し、自然に手を差し伸べ合う。そんな素地があるのかなと。「ソーシャル」というキーワードに対しても、すごく感度が高い地域だなと思いますね。

京都での生活は7年目だという原田さんは、2人の話を聞いてこうつづけます。
原田
京都には製造業や観光業などいろんな産業があって、でも一点突破できるようなものがない。それは弱みでもあるけど、逆に強みにもなる。突出した産業がないからこそ、横のつながりが自然にできていったんだろうし、多様性こそが京都の強みだと思うんです。そういう京都らしさを生かした、京都にしかつくれない文化や仕組みがあるはずだと感じています。
また、COM-PJをつづけてきたからこそ、京都の社会課題解決コミュニティがつながってきた感覚があると原田さんは言います。
原田
今は中村も関わっているSILK(京都市ソーシャルイノベーション研究所)の活動が始まったのが2015年。その後、COM-PJがスタートしたのが2020年。最近では、SILKとtalikiが連携を始めたり、京都市が「IMPACT FLOW KYOTO」という社会課題解決型スタートアップ向けの補助金制度をつくったりと、京都でソーシャル文脈が少しずつ紡がれてきたという実感があります。今後はもっと、「京都だからできる人つなぎ」が生まれていくと思いますね。

COM-PJの立ち上げから丸5年。卒業生の数はのべ68名となり、一つのコミュニティとして存在感を増しています。
真野
これまでの参加者から「アルムナイとして何か協力したい」という声がとても多くて。メンターやゲストとして関わってくれる人や、「アルムナイ合宿に参加したい」と言ってくれる人がたくさんいます。プログラム修了後もずっとつづく関係性が築けているのはすごいことだなと思います。
中村
実は昨日も5期生と飲んでいたんですよ(笑)。プログラムが終わって3ヶ月ほど経ちますが、2週間に1回くらいオンラインで集まって話す会は5期生が自主的に今でもつづいていて、参加者同士のつながりが本当に強いなと感じます。最終ピッチの打ち上げのときには、卒業生も一緒になって、深夜まで事業について熱く話していたのが印象的でした。そうやって現役生と卒業生が混じり合う機会を、今後は意図的につくっていくのも面白いなと思います。
「これまでの卒業生に、KRPでピッチをしてもらう機会をつくるといいかも」「卒業生や現役生を集めて、フィードバックし合うのはどう?」と楽しそうにアイデアを出し合う3人。COM-PJのコミュニティはこれからもっと発展していきそうです。
原田
「社会起業家の視座を上げるにはどうしたらいいか」と、最近よく考えているんです。起業家たちの視座が上がれば、そこから大きな社会変革につながっていくと思うので。卒業生を集めたら良いディスカッションができるだろうし、一人ひとりの視座や課題の解像度が高まりそうですね。

一緒に社会を変えていく仲間づくりを
最後に、COM-PJの今後も含め、各社がこれから取り組んでいきたいことについて、3人に語ってもらいました。
真野
今後もKRPの「集交創」という社是のもと、ビジネスや産業を創出する場をつくりつづけていきたいですね。京都だけに限らず、各地からいろんな人たちが集まり、新しいものが生まれていく場になっていけばと思います。その取り組みの一つとして、COM-PJをこれからも長く継続していきながら、社会起業家が自分を信じて進んでいけるようなサポートをしていきたいですね。
中村
talikiのインキュベーション事業部は、社会起業家の絶対数を増やすことを目指して、さまざまなプログラムを行っています。中でもCOM-PJは運営側の熱量がすごく高くて、「心から成功してほしい」「そのために一緒に事業をつくっていく」という気概でKRPさんと一緒に取り組んでいるので、起業家の皆さんのチャレンジの場、実験の場としてうまく活用してもらいたいなと思います。
原田
talikiでは、KYOTO SOCIAL IMPACT PROGRAM(通称:KSIP)というプログラムも運営していますが、これは京都の起業家支援がメイン。一方、COM-PJは京都の外からの参加者が増えています。この両輪があるのがいいなと思っていて。僕たちは、京都の中の人を育てながら、外の人も集めないといけない。そうやって、京都を社会起業家がたくさん集まる場所にしていきたいんです。起業家支援を通して、僕たちと一緒に社会を変えていく仲間をつくっていく。そして、彼らがいるからこそ下の世代も育つ。そんな質の良い循環を京都で生み出していけたらと思います。
KRPとtalikiが共につくりあげてきたCOM-PJは、若手社会起業家の登竜門としてこれからも発展していくことでしょう。ここで育まれた社会課題解決のコミュニティが、京都のまちでどうつながり、広がっていくのか、今後がますます楽しみです。

お知らせ
起業家支援プログラム「COM-PJ」のサイトでは、プログラム情報や卒業生インタビューを掲載しています。興味のある方は合わせてご覧ください。
https://www.krp.co.jp/compj/




執筆:藤原 朋
撮影:中田 絢子
編集:北川 由依