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京都移住計画では、これまで首都圏に住む移住希望者を対象に、「京都移住茶論」や「『いつかは』KYOTOかえるゼミin東京」などを通じて、移住支援をしてきました。そして2017年よりスタートしたのが、生き方・暮らし方に本気で向き合う人のための5ヶ月間プログラム「”十人十話-JUNIN TOWA-” ~十人十色の「私の移住・転職物語」~」です。
2018年8月からは、いよいよ第2期が始まります。そこでプログラムのコーディネーターを務める、京都移住計画の田村とNPO法人full bloom代表の安井亜希さんが昨年のプログラムで感じたことを語り合いました。
安井亜希(やすい・あき)
NPO法人full bloom代表
1982年京都生まれ。立命館大学経営学部卒。町医者のような税理士を目指して大学院へ進学し、同法学研究科修了後、税理士試験に合格。2007年4月株式会社リクルート入社。人事部採用グループへ配属され、人の人生に関わる仕事に魅せられ、以来同社にて採用一筋。関西の新卒採用全体にリーダーポジションで携わる。2012年“人の可能性を信じ、共に動かす”アプローチに魅力を感じ、コーチングを学び始め、米国CTI認定プロフェッショナルコーチの資格を取得。更に「beingで生きる」をテーマに人の生き方を支援するNPO法人full bloomを設立。現在は企業の若手育成や組織活性研修、人事採用関連のコンサルティングなどを行う。
田村篤史(たむら・あつし)
株式会社ツナグム 代表取締役/京都移住計画 代表
1984年 京都生まれ。立命館大学在学中、APUへ交換留学、NPO出資のカフェ経営に携わる。その後休学しPRや企画を行うベンチャーにて経験を積み、卒業後は海外放浪の末、東京の人材系企業に就職。会社員の傍らシェアハウス運営なども行う。2012年4月に退職し京都へUターン。「京都移住計画」を中心に、町家活用や商店街活性といった地域に関わる仕事や、キャリア支援のNPO fullbloomの設立、大学のキャリアデザイン授業の外部講師、企業の採用支援・組織活性などを行う。
悩み・エゴ・葛藤…本当の自分と向き合った5ヶ月
田村:昨年初めて「十人十話」をやったけど、あきちゃんにとってどんな時間だった?参加者も20代から50代と幅広くて、職業も様々で。メインテーマは移住だけど、家業がある人はどうしようかなと考えたり、いつかは関西に戻りたいと考えたりしているけど道筋が明確じゃなかったり。全5回のプログラムで、イベントのように1回きりとは違う形で僕たちも関わらせてもらった手応えってあるのかなって。
安井:大切なタイミングにご一緒させてもらったなという感覚がすごくあった。それぞれ悩みは違ってさ。今すぐ移住したいという人もいれば、いつかを考えてみたいから来ましたって人もいたけど。いずれにしても人生のなんだかの選択を自分でしていきたいという思いがある人たちが来てくださった場だなと受け取っていて。
正解はない、本人しか引き受けられない大切な選択をするそのプロセスを共にさせてもらったなという感覚がある。リアリティがあったよね。こうだったらいいなという夢を語るだけじゃなくて、パートナーやお金、両親のことなどの悩みや葛藤があるところが生々しいなと。それが逆に心に響いたな。
田村:印象的だったエピソードはある?
安井:関東で生まれ育ったF君は、ずっと実家から学校も職場にも通っていて。京都に縁がある訳でもないけれど、「いつかは京都で暮らせたら…」という憧れがあると言っていたよね。正直、事前説明会の時はどれだけ彼の中に京都に住むことが確からしくあるのかわからなかった。でもプログラムが終わる頃には、「絶対京都に行きます」って。何があったんだろうってくらい変わった。
きっとその変化は、プログラムに「このままでいいのかな」という問いに向き合う空間があったからだろうなと思って。結婚や転職などの区切りがきたわけでもないのに、みんなとの対話や内省を経て、京都へ行くっていう選択をしたのは、プログラムが響いたのかなという感じがした。
田村:確かにそうだね。
安井:あとね、京都出身のSさんが「家業をいつか継ぎたいと思っている私というのが、エゴを満たすアイデンティティになっていたのかな」と最後に話してくれたのが心に残っている。
田村:どういうつもりでその言葉を発していたかに無自覚だったけど、自分に矢印を向けてみたら気づいたってことかな。
安井:うん、Sさんにとって本当に京都へ帰ることが人生の中で必要なわけじゃない。人との繋がりや自分をわかってもらえることが必要だったんだと思う。
田村:「十人十話」に参加したからといって、何かしないといけないというアプローチを僕らはしていなくて。立ち止まって、自分が何を得たいのか掘り下げていく時間だよね。
僕が印象に残っているのは与謝野町出身のK君。京都の大学を出て、大企業に入って東京配属になって。いつかは地元に帰りたい。でも田舎には自分がやりたい仕事がないと思っている。そんな彼がプログラムに参加して、「こんなに自分と向き合うのは初めて」と言ったのが意外だったな。自分の道を自分で選択してきたように見えたから。
でもK君のように、最初の就職活動でどこの会社で働くかは自覚的なのに、どこの場所で働くかは無自覚な人は多いよね。あと学生時代より社会に出てからの方が、「自分は何がしたいのだろう?」「どう働く?」「どう生きる?」ということに向き合う必要があるはず。でも重要ではあるけれど緊急ではないと思って、自分に向き合う時間を持ててない人は多い。
だからこそ「十人十話」で月に1度、自分に向き合う時間を持ち、これから何を選ぶかの軸づくりができるのは一つの価値なんじゃないかな。
田村:もう一人印象的だった受講生がいて。関西出身のY君は、「十人十話」をきっかけにパートナーと別れたんだよね。Y君がパートナーに「将来、関西に戻って暮らしたい」と話をする中で、「一緒に居る未来はないかもと思い別れました」と。別れたことは悲しいかもしれないけれど、変容していったこと自体は、彼の次の幸せな状態をつくるプロセスとしてあってよかったのかなと勝手に思っているんだよね。
安井:「十人十話」では内省するんだけど、それが目的ではなくて。移住という具体的なアクションが紐づいた上での会話というのが面白いよね。あ〜第1期のみんなに会いたくなってきた!
空間と問いがなければ、本当の自分に気づけない
安井:「十人十話」で私たちが提供しているのは、空間でしかないよね。今って物質的にも満たされているし、考える余地もないことが多い。いろんな空間が綺麗に整備され過ぎてしまっている。でも「十人十話」にあるのは、空間と問いで。誰がどんな選択をしても誰も何も言わない。安心安全な空間とそこにある問いの中で、本当は自分がどうしたいのかを純粋に感じていく。そういう場だった。
会社で働いていると答えを求められることは多いのに、問いをもらえる機会はあまりなくて。だからこそ「十人十話」を純粋に自分と向き合う空間として提供できたのかな。
田村:ここまでに内省とか自分に向き合うというキーワードが出てきたけれど、あきちゃんは、なぜ内省することが大切だと思うの?
安井:人が日常の生活の中で気づける意識は2~3割という仮説があって。無意識的に願っていることや、身体的にしっくりこないことって扱えない。だから問いに向き合う空間がない限り、潜在的な7~8割は触れられずに過ぎていくんじゃないかな。
田村:うん、向き合う機会がないと難しいよね。社会人1年目のフレッシュな状態の時はさ、電車に乗っているサラリーマンの中には疲れ切って無気力な感じの人もいてて。「あんな風にはなりたくない」と思っていたけど、でも自分もそうなっている時がきっとあって。自分の顔は自分で見えないから、気づけない。自覚のない状態になるんだなと、あきちゃんの今の話を聞いて思った。
安井:その人生がダメかというと、そうじゃない。良い悪いではない。でもどこかでそうじゃない選択もありかなと思うなら、空間と問いと仲間に出会いに来ませんかって言いたい!
田村:自分の無意識に向き合う時間は、とても大切だよね。僕は東京に住んでいた頃、人材系の会社で働くメンバーが集まるシェアハウスに住んで、日常的に対話の中で自分に向き合う時間があったので、幸いにも自分がどういう未来を生きたいか考えることができていた。
その中で大事だなと思ったのは、違和感をきちんと見にいく時間で。「どう生きたいか?」とストレートに問われると答えに詰まってしまうから、違和感やしんどさ、モヤモヤしていることから自分のほしい未来を迎えにいこうとしたんだよね。
他にも京都移住計画が生まれるヒントになったのが、満員電車に乗ることへの違和感。みんな違和感に蓋をして生きている象徴だなと思って。その違和感が「乗りたくない満員電車に乗らないといけない場所になんで住んでいるのかな?」「そもそも東京に一生住み続けたいと思っているのかな?」という問いになり、京都移住計画は始まった。
なぜ問いが大事かというと、僕は問いから出てくるものは自分の人生を引っ張っていってくれるものになるんじゃないかと思うんだよね。
「移住の本音」を語り合える仲間と出会える
安井:去年やって見て面白かったのは、受講生に変容があったことはもちろんだけど、コミュニティとしての機能を発揮していたという面もあるな。移住ステータスも世代もバラバラ。その多様さが面白かったし、何が正解というわけでもなく、一人ひとりが自分のステータスで自分のことを考えたり、お互いに意見を出し合ったりして。問いや感じたことは相手とシェアするけれど、最終的に決定するのは本人だというう考え方がベースにあったのが良かったよね。
講座が終わった後もコミュニティは継続して、京都へ移住を決めた仲間の送別会をして、「今度は京都で集まろうと」ってなっているのも良いなと思った。
田村:世代によって働き方の価値観も少しずつ違うけれど、それを言い合えていたよね。
安井:そう。仕事の関係もないメンバーで、安心感して色々な話ができる多世代コミュニティってすごく面白いね。
田村:自分に向き合う空間と問い、そして応援しあえる仲間がいることも「十人十話」の価値だよね。生き方を考える多世代コミュニティというのかな。
田村:僕は違和感が問いになって、京都移住計画を始めてから人生が動いていった感があるんだよね。あきちゃんは会社員としてバリバリ働いて、その後子供を4人産んで今があるでしょ。いくつもターニングポイントがあると思うけれど、どうやって行動を起こしてきた?
安井:う〜ん、なんだろうね。話を聞きながら思ったことは2つあって。1つは強制的な機会。結婚、出産、会社の支社統合など外的な問いをもらうタイミングはいくつかあった。2つ目は篤史のように違和感と共に問いに飛び込むシーン。私の場合、前半は外的な問いをもらうことが多かったな。もし何もなかったら、会社員として働き続けていたかもしれない。
田村:会社員として働いていると、なかなか自分に矢印を向ける空間を持つことが難しいからね。
安井:私はな、かなり凸凹な人間だから色々な能力が欠如している。でも唯一自分の能力で誇れるのは「この人や!」っていう人との出会いだけは逃さないっていうのがあって。出会った時に、私の人生とって大事な出会いだって、ビッとくる。篤史と出会った時も、理由もなくカフェに呼び出したよね(笑)そういう時に人生が動き出しているなって思う。この人たちとなら違う世界が見えるかもしれないと感じた時に、出会いを掴みにいったのが大きいかな。
「京都仕事博」で見つける自分らしい働き方
田村:去年のプログラムにはなかったけれど、今年は「京都仕事博」といって京都の会社や仕事をしている人と出会う場もつくりたいと思っているんだよね。
はじめの方で、あきちゃんが「プログラムの中で内省はするけれど、そこで終わらず移住という具体的なアクションが紐づいているのが面白い」と言ってくれたよね。去年は実際に京都を訪れることまではサポートできなかったから、今年はプログラムとは別企画になるんだけど「京都仕事博」をやろうかと計画中!
安井:「京都仕事博」か〜、すごく楽しみ!
田村:僕たちはよくある合同説明会をしたいわけではなくて。京都移住計画で取材させてもらった企業さんにブースを設けていただいたり、後継で戻ってきている企業さんにもその場に入れる状況をつくったり。フリーランスで働いている人がいたり。会社員以外にもいろんな働き方がある中で、自分はどんな働き方をしたいか考えられるような場をつくりたい。
安井:京都で働くことに出会えるのは、去年とは違うポイントになりそうだね。
リクルートで人事の仕事をして、たくさんの転職希望者と面接する中でな。どんなに一生懸命に志望動機を話してくれても、それは採用されるために作ったもので本当の自分と向き合えていないんじゃないかと思えたんだよね。だから「十人十話」のように自分に向き合う空間ってすごく価値があると思う。
私たちが提供できるのは、空間だけ。そこに問いが生まれ、仲間になって。そこから始まる動きに私はすごく可能性を感じている。
一回しかない人生をそれぞれが心ゆくまで生きられたら素敵やなと思うし、それは誰かじゃなくて本人にしかつくれへんって思っているから。受講生にとって「十人十話」が問いを持つ場になって、自分の人生を生きられる人が増えたら嬉しいよね。
<お知らせ>
2018年8月から「十人十話」の第2期が始まります!
★プログラムが気になった方は、7月21日(土)の体感型説明会にご参加下さい。
★体感型説明会に参加できないけれど受講を希望される方は、直接本プログラムにお申し込み下さい。説明会に参加されていない方については、プログラムの詳細説明をさせて頂きますのでご安心下さい。
執筆:北川由依
写真:もろこし