2023.08.31

農家、学童、居酒屋。ご縁がつないだパラレルキャリアな働き方

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京都のおもしろい人を訪ねる「人を巡る」シリーズ。京都に移住した人の体験談や京都の企業で働く人をご紹介する連載コラム記事です。移住するに至った苦労や決め手、京都の企業ならではの魅力など、ひとりの「人」が語る物語をお届けします。

第31弾にご登場いただくのは、ご両親と一緒に「咲里畑(さくりばたけ)」を営む小黒春奈さん。京都市西京区の大原野で、多品目の野菜やエディブルフラワー、ハーブなどを、農薬や化学肥料を使わずに育てています。農業のほかにも、とある日は学童保育のスタッフ、とある日は居酒屋のお手伝い、と複数のお仕事をされているパラレルキャリアの持ち主。いまの働き方に至るまでの歩みや、これからの展望などをお聞きしました。

会社員を辞めて、未経験から農家の道へ

ーーどのような経緯で農業を始められたのでしょうか?

両親が2017年から農業を始めたことがきっかけです。もともと父は会社員で母は主婦だったんですが、2016年頃から社会人向けの農業学校に両親が通い始めて。

2人とも山や自然が好きで、野菜づくりを学び始めたのですが、いろいろなタイミングも重なって、父が会社を辞めて咲里畑を始めることに。気づいたら両親は農家になり、私は突然農家の娘になっていました。

当時私は大阪で医療事務の仕事をしていたのですが、いつか京都に帰りたいなっていう気持ちはずっとあって。ちょうど同じ頃に世界文庫アカデミー(通称:セカアカ)という働き方を考える京都の講座に通っていたので週末は京都に帰って、畑の話を聞いたりしているうちに、会社を退職することに決めました。

ーー畑をすると決めて、退職されたと。

いえ、最初はこの先を見据えてずっと手伝っていこうと思っていたわけではなかったんです。一旦会社を辞めて、とりあえず京都の実家に帰ってきて、転職活動をするかどうかもまだ迷っていました。でも、やっていくうちに、畑も楽しいなって。もともと自然に触れるのもすごく好きだったし、一緒にやろうって思いました。

ーー先を決めずに、環境を変えるのは勇気がいりませんでしたか。

会社員を辞める時は、やっぱり周りには引き留める人もいたし、せっかく正社員なのにもったいないとも言われましたね。でも、もう今の時代、先のことはわからんやんって(笑)。それよりも京都に帰りたい気持ちが一番大きかったし、働き方も医療事務の時は一日8時間ずっと建物の中にいたので、もっと自然に触れたいという想いもありました。

7年目を迎えた「咲里畑」

ーー農家になってみてどうですか?

畑にいろんな人が来てくれることが嬉しいし、自分たちの野菜が直接人に届いて、「美味しい」とか「野菜を食べて元気になった」とか、たくさん声をいただけることが嬉しいです。

毎月第2土曜日にオープンファームデイという収穫体験会をやっていて、中高生や小さい子どもたちと一緒にみんなで土に触れたり、大人も夢中で作業していたり、そういうのもすごく楽しい。あとはレストランのシェフが、畑に来て収穫することもあります。

ーーあの世界一予約の取れないレストラン「noma」でも使われたと聞きました。

そうなんです。「noma」がコペンハーゲンから京都に期間限定でやってきた時に、咲里畑で採れた野草を使ってもらいました。他にも、ミシュラン一つ星の京都のレストランでも、うちのハーブを気に入ってくれて使ってもらっています。

保育園の給食に出したり、個人宅配で京都のほかに東京など遠方にも送ったり。特に季節の野菜を送る定期便に重きを置いてやっています。やっぱり消費者さんに一番ダイレクトに届けられるところだから。

ーー野菜づくりのこだわりがあれば、教えていただけますか。

咲里畑では農薬も化学肥料も使っていなくて、動物性の肥料もほとんど使っていません。その分お手入れの手間もかかるんですけど、味にえぐみとして現れる硝酸態窒素が少なく栄養豊富なエネルギーの高い野菜を目指しています。

たまたま辿りついた、複数の仕事を持つ働き方

ーー農業の他にもあと2つ、別のお仕事をされていると聞きました。

お仕事っていうほどでもないんですけどね(笑)。畑はだいたい木曜と日曜をお休みにしているので、木曜は「学童保育あそびのば」で、週1回スタッフをしています。小学校低学年が中心なんですけど、小学校にお迎えに行って子どもたちの宿題を見たり、一緒に遊んだりしながら放課後の時間を過ごして、保護者の方がお迎えに来るまで面倒見るというのをやっています。

ーーそれはどんな経緯で始められたんですか?

学童の代表が大学時代からの友人で、たまたま「この日、人手が足りひんから誰か入ってくれへんかな」ってSNSに投稿しているのを見て、「行けるよ」って連絡したんです。1日だけのつもりで手伝いに行ったら、毎週来てくれっていう話になって、そこからもう2年ぐらいかな。

あともう1つは、居酒屋のお手伝いで、これもたまたま。去年の11月からなんですけど、きっかけはバイトに入っていた友人が事情で入れなくなり、私が交代するかたちになって。だいたい週2くらいかな。なので、週5日は畑で、木曜日は学童、週2日は畑に行ってから居酒屋で働く、みたいな生活になりました。

ーー複数の仕事を持つのって実際どうですか?

いろんな自分がいてめっちゃ楽しいなって思ってます。昼は小学校低学年とワーッて遊んでいる「はるな先生」で、でもそれが終わったら夜は「飲み屋のはるちゃん」としてお客さんとお話ししている、みたいな。

昼は両親と畑をやっているから「娘としてのはるな」だし、結婚して夜は夫といるから「妻としてのはるな」で、全然違う自分としていられるのも面白い。自分の中でいいバランスが取れているかなって思います。

あとは、「畑やってます」って言うと面白がってくれて、横のつながりでどんどん広がっていくというか。例えば、学童の子どもたちが家族と畑に来てくれたり、飲み屋で野菜を使ってくれたり。KBSのアナウンサーさんが飲み屋のお客さんで、畑に興味を持ってくれて、KBSのラジオカーが取材に来て畑からラジオの生放送をしたこともありました。

ほかにもマルシェやイベントなど、どんどん新しい繋がりもできて、人と人とをつなぐ架け橋のような存在になれているのかなってすごく嬉しいですね。咲里畑も学童も居酒屋のお手伝いも、結局やっていることって全部つながっているなと思います。

ーー最後に、これからの展望を教えてください。

やっぱり、咲里畑のファンを増やしたい。実際に畑に来てくれることも嬉しいし、遠方の人にも届けていきたいですね。咲里畑で作った野菜は「よろこびやさい」と呼んでいて、みんなを笑顔にしたいとか幸せになってほしいっていう気持ちを込めているので、そのエネルギーごと感じてくれたらと思います。

あとはいろんなコラボもしたいし、引き続き楽しくやっていきたい。私は昔からそうなんですが、何かをめざしてというよりは、今目の前のわくわくする方に、「この道が楽しそうだな」「こっちに寄り道してみよう」って進むタイプで。

だからこれからどうなるかもわからないし、働き方やライフステージが変わったら何をしているんだろうなっていうことも明確に思い描けていない。だからこそ楽しみでもありますね。

編集:藤原朋
執筆:藤山茜
撮影:小黒恵太朗

CHECK OUT

はるなさんと筆者が出会ったのは、2017年の春でした。世界文庫アカデミーの同じクラスに1年間一緒に通った同級生です。当時、はるなさんは「頑張る人たちの羽根休み場所をつくりたい」と言って、スナックはるなという場を始めたり、人との縁を繋ぐような役割をされていたことが印象に残っています。
あれから7年が経ち、農家になったはるなさんのお話を改めて聞くと、きっと根底にある想いや大切にしたいことは変わっていないのだと感じました。咲里畑のお野菜は、人の心を癒して元気にするエネルギーがたくさん詰まっていると思います。これからも咲里畑のファンがもっと増えて、畑を起点にさまざまな繋がりが生まれていくと思うと、一ファンとしてとても楽しみです。

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