2024.09.07

15 白露 – 秋の本番を楽しみに、菊の酒を呑みましょう

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京都には、季節ごとの行事やならわし、風物詩がたくさん存在しています。このコラムでは、1年を春夏秋冬の4つに分け、さらにそれぞれを6つに分けた「二十四節気(にじゅうしせっき)」にあわせて、京都移住計画に関わる人たちの等身大の京都暮らしをお伝えします。

立秋を少し過ぎた頃。顔のほてりで目を細めた酷暑の中で、暦ではもう秋になったとふと気づき、お茶の先生と仲間と一緒に驚きました。

とはいえ、暑さが本格的におさまるのは、15日後の「処暑」で、さらに15日後の「白露」には、早朝に植物にしらつゆが宿り、昼夜の温度差が秋の本番を告げます。

コンクリートの森で生まれ育ったわたしは、季節の変化を感じるには気温の肌感覚しか頼れませんでした。京都に移り住んでから、より五感で季節を感じるようになった気がします。
昼間はまだ暑くてたまらないのに、夜になって、耳を澄ますと、虫の鳴き声の変化に確実に秋の気配を感じます。

残念ながら、鳴き声から虫の種類が区別できるほどの知識は持っていませんが、「これは秋の足音だ」と初めてわかったときの感動は、言葉や知識以前のものでした。

Photo by Ueno Tomohiro

そして秋が近づくと、「猩々(しょうじょう)」という能楽の演目を思い出します。

現代の中国語にも「猩猩」という言葉があり、オランウータンのことを指します。その先入観があるからか、初めてこの演目を目にしたときに、どういうストーリーなのかまったく想像がつかず、かなり驚きました。

今になって思うと、確かに髪の毛が真っ赤な主役はオランウータンに通じる風貌を持っていますね。お酒が大好きで、飲んでも飲んでも変わらないというセリフがあるものの、登場したときから、すでに顔も真っ赤な妖精さん。人間の友達と楽しく盃を交わした別れ際に、汲んでも汲んでも尽きない酒壺を残してあげました。そのお​​かげで、無尽蔵の酒を売る友達の家が末永く繁盛しました。誠にめでたいお話です。

二人が交わす酌には、菊の香りと露を移した綿をかぶせて温めた菊の酒があります。中国では、旧暦9月9日の重陽の節句に、菊の酒を飲み、長寿を願う風習がありますが、それが重なるのは偶然ではないと信じています。

能楽だけでなく、日本の伝統文化で、所々中国文化の面影が見つかりますので、この異国で暮らし、文化に触れる中で、新鮮感とともに、親近感も時々湧いてきます。

初めて能楽「猩々」を拝見したのは、小学校中学年の二人が勤める舞台でした。スモールサイズの妖精さんとそのお友達、その可愛らしい姿に微笑みが止まりませんでした。

歳が同じの二人は、それぞれ能楽師の家庭で生まれ育ち、着々と舞台の経験を積んでいます。素晴らしい伝統文化が、猩々の酒壺のように、汲めども尽きず、綿々と次世代に伝わることを、心から願うばかりです。

執筆:しゅうすみん
編集:藤原 朋

しゅうすみん

中国広東省広州市生まれ。文化財やアートに係る翻訳・通訳の仕事を通して日本文化を世界に伝える「訳者」。10年前に京都に移住。お茶、能楽と工芸が大好きで、それらによる文化交流に力を惜しまない。漢民族の子孫でありながら、最近は漢字検定の受験勉強に悪戦苦闘中。

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