2024.08.20

香りは心を動かす。レトロアパート・白亜荘で出会ったハーブティーブランド「sou.fil.」

CHECK IN

京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

廃校になった歴史ある小学校をホテルに。昔ながらの京町家をカフェに。
京都には「古き良き建物を大事に未来へ残す」という文化が、息づいているように感じます。そんな京都市左京区の閑静な住宅街で、大正初期から100年以上も守り続けられているレトロなアパート・白亜荘に出会いました。

白亜荘はもともと教会の寄宿舎として建てられ、現在は主にアトリエやギャラリーとして使われています。日本の近代建築に貢献した建築家・ヴォーリズが手がけたと言われていることもあり、なかなか入居できない人気物件です。

毎月10日には「白亜荘十日市」として開放されており、個性豊かな住人のみなさんとお話しできます。今回はそんな十日市で出会った、3号室の馬場智美(ばんば・ともみ)さんにお話を伺いました。

偶然が重なり、呼ばれるように白亜荘へ

「sou.fil.(ソウ・フィル)」というブランド名で、ハーブにまつわる様々な活動をしている智美さん。多種多様なハーブが置かれた棚を挟んで、片方をギャラリー兼ショップ、もう片方を制作などで使っています。

「京都が好きだし、自分に合っている気がする」と、3年前に京都でアトリエを探していたところ、知り合いに紹介してもらったのが白亜荘でした。

「初めて来たのは十日市。白亜荘でアトリエを構えているのは、『自分』を持って活動している人ばかりでした。好きなテーマで語り合える人たちがいる柔らかい雰囲気が居心地よくて、『私、絶対ここに来たい』と思ったんです」

人気物件だとは知っていたものの、空くまで待つことに。すると偶然が重なって、声がかかったのはなんと半年後でした。

「いろんな巡り合わせやタイミングの連鎖がすごくて……もう本当にたまたまだったんです。だから、白亜荘に呼んでもらえたような気がしています」

きっかけは、1本のラベンダーの精油

sou.fil.を始める前は、アパレル業界で働いていた智美さん。忙しい日々の中、家にあったラベンダーの精油がふと目に留まります。

「蓋を開けて深呼吸してみたら、スーッと気持ちが楽になったんです。『植物には人の心を動かす何かがある』と思ったら興味が湧いてきました」

そこから香りや植物の勉強に没頭すると、やがて学びはハーブへと広がり、ハーブソルト作りやハーブ染め、ハーブを使った料理などのワークショップをするまでに。

「最初はとりあえず何でもやってみました。自分に合うスタイルへと絞っていくうち、たどり着いたのがハーブティーだったんです」

智美さんが届けているのは、手軽に飲めるハーブティー。仕事や家事の合間に、パッと淹れて飲んで気持ちを切り替えられるようにと、1回分のティーパックを販売しています。

さらに、最近取り組み始めたのが、アートを意識した新ライン。

写真提供:sou.fil.

「香りを感じたとき、過去の出来事を思い出すことってあると思うんです。それをハーブでできないかなと試行錯誤しています。私は海が好きなんですが、『このハーブティーを飲むと、あの海を思い出す』みたいな、情景が浮かぶハーブティーを目指しているんです」

貝が箱についているシリーズでは、中にも小さな貝が入っているというお楽しみ付き。可愛らしい天使のフェーヴ(フランスの伝統菓子「ガレット・デ・ロワ」の中にしのばせる陶器の小さなおもちゃ)が添えられたシリーズも。開ける楽しみと味わう楽しみ……このアート系の新ラインを充実させるのが、智美さんの今の目標の一つです。

光が宿る不思議な場所で

「ハーブティーを作るときは、テーマのような言葉を決めて作り始めます。効能だけを意識して作ろうとすると、同じようなブレンドになってしまうんです。ハーブって歴史が古くて、いろんな伝説もある。だから、おまじないやお守りを作るような気持ちでブレンドしています」

とてつもなく細かい分量の差で、味が変わってしまうというハーブティー。できるだけ楽しい気分を乗せられるよう、ネガティブな気持ちの日は制作しないようにしていると言います。

「白亜荘はもともと教会の寄宿舎で、祈りの場でもあったからか、とても静かで心が落ち着くんです。だから、すごく制作が捗ります」

ショップを開けるのは、十日市の日がメイン。学んだメディカルハーブの知識を活かし、ゆくゆくは訪れる人の話を聞いて、その場でハーブティーをブレンドするようなお店にしていきたいのだそう。

もう一つ、このアトリエで行われているのが「光の展示室」。

「ずっと京都で活動してきましたが、コミュニティに入っていくには時間がかかるという感覚がありました。だからこそ、個人で活動している人たちを紹介する場にもしていきたいんです」

「いろんな人を照らしたい」という想いと、「アトリエの窓から入る光がとても綺麗だから」との理由で名付けられた「光の展示室」。過去には演奏会や食事会も開催されたそうで、これからの展開も楽しみです。

Day Starter 「絵のある暮らし」展より 写真提供:sou.fil.

私にはハーブがあるから

“sou” は草、“fil” はフランス語で糸。「植物と人を結ぶ糸みたいな人になりたい」という想いで名付けられた「sou.fil.」。どうすればこんなに素敵な活動ができるのだろう……と率直な疑問を打ち明けると、智美さんからは思わぬ返事が返ってきました。

「初めは本当に自信のない人だったんですよ。話すのも苦手だし、人見知りで大変でした。でも『私にはハーブがあるから、自信を持っていいんじゃないか』と思えてきたんです」

「30歳前後になると、焦ってしまう人も多いと思います。『そろそろ決めないと積み重ねていけないし……でも踏み出せない』って。私もまだ知識や経験が足りないと悩んでいた時期がありましたが、今は『世に出しながら学ぶしかない!』と思っています」

一歩踏み出したって、途中でいくらでも変えられる。私たちはなんでもできるし、どんどんやっていったらいい。智美さんの力強いメッセージが、胸に響きました。

「60歳になっても、始めたいことがあればすぐやってみると思います。受け入れてくれる人はたくさんいる。だから大丈夫って、これまでの活動を通して思えたんです」

白亜荘の輝きに負けないように

最後に、智美さんにとって白亜荘はどんな場所なのか伺いました。

「白亜荘にはたくさん助けられてきました。素敵な人を呼び寄せる力のある、魅力的な場所です。でもだからこそ、私自身もここに負けないくらい素敵な人になろうと思っています」

「本当にまだまだなんです」と話す智美さん。でもその表情は、まだ見ぬ可能性にワクワクしているように見えました。

「以前、結婚式のテーブルセッティングに、私の畑のハーブを使った装飾をしていただいたとき、花嫁のお父様が『この香りを嗅ぐと結婚式を思い出す』と言ってくださったんです。今思い出しただけで泣きそうなくらい、香りの効果ってすごいんだなと思えた瞬間でした。その想いを胸に、これからも自分らしい活動をしていきたいです」

柔らかな光差し込む白亜荘の中に、アトリエを構える「sou.fil.」。
その扉が開く日にぜひ、足を運んでみてください。

『白亜荘』
京都府京都市左京区吉田二本松町4-3
『sou.fil.』
Instagram:https://www.instagram.com/sou.fil.__/
『gallery 光の展示室』
Instagram:https://www.instagram.com/calm.light_kyoto/

執筆:上田 萌花
編集:藤原 朋

CHECK OUT

私が白亜荘と出会ったのは、とある演奏会。100年以上の物語が詰まったこの場所で、鳴り響いたピアノの音色は今でも忘れられません。
そんな特別な場所で出会った智美さんは、作品も活動も想いも私の心に刺さりまくり……!取材をしながらそっと背中を押してもらえて、次に白亜荘へ行ける日がもう楽しみになっていました。幸せな気持ちで書いたこの記事が、新たな出会いのきっかけになりますように。

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