2019.05.23

DOORS TO KYOTOイベントレポート。今いる場所から一歩外へ出て、新しい街を知りたい

近年のIターン・Uターンブームの加速によって、地方移住を望む人は多くなっています。なかでも古くからの日本の伝統を守りつつ、日本屈指の観光名所として外国人観光客も多く訪れる京都へ移住を望む人は、少なくありません。需要の高さからこれまでも移住希望者向けのイベントは何度も開催されてきましたが、「異なる業種の話を聞けない」「京都で働く人たちのリアルな意見を聞けない」といった声もありました。

京都での暮らし・仕事をもっと身近に感じてもらい、新しい扉を開いてほしいーー。

そんな想いから企画されたイベントが、今回の「DOORS TO KYOTO」。“京都に移住したい“と心に秘める人たちの背中をそっと押すような、新しいかたちの地方移住イベントです。異なる4つの視点から京都での働き方をフォーカスし、参加者の未来の可能性を広げる時間となりました。

京都市企業誘致セミナーin東京

DOORS TO KYOTO第一弾として開催されたのは、「京都市企業誘致セミナー in 東京」。首都圏企業・外資系企業・在日大使館・在日商工会議所などを対象に、京都の魅力や強みはもちろんビジネス環境を知ってもらうために開催されました。セミナー内では、京都市内に進出した企業からの講演や、進出に当たっての支援体制などが詳しく紹介。

登壇者は以下の2名、ほか。

・(株)テムザック 代表取締役CEO髙本 陽一氏
・パナソニック(株)アプライアンス社 デザインセンター所長 臼井 重雄氏

開催場所となった東京都・白金台は、38の大学・短大が立地する場所。未来を担う人材が豊富な街だからこそできる民間・地域・国が連携する取り組みを交えながらセミナーは進行されました。

セミナーには、門川大作京都市長も登壇。

「京都はこれまで、観光都市・ベンチャー企業の場所として認知されてきました。今後も、文化庁の全面移転や2025年に開催予定の大阪・関西万博が予定されています。京都の魅力を日本のみならず世界に伝えたい」と企業誘致や観光発展の重要性を語りました。

京都大学医学部付属病院臨床研究総合センター医療開発戦略室で特定助教を務める服部華代氏は、開催場所が“大学のまち”と知られることから、産官学連携の取り組みやライフサイエンス分野での具体例を紹介。

また、2018年に新進出を果たした「パナソニックアプライアンス社デザインセンター」の臼井重雄所長や、京都府西陣に研究地を移動した「サービスロボット専業メーカー・テムザック」の高本陽一CEOから現在の事業内容についてや進出先を京都に選んだ理由が語られました。

そのほか、「京都リサーチパーク」で社長を務める小川信也氏から現在の立地候補先の紹介や、「JETRO京都貿易情報センター」石原賢一所長から企業が京都へ進出した場合の支援体制について詳細説明が行われました。

今回のセミナーには、一般企業のほか在日大使館や外国商工会議所などを含む関係者130人以上が出席。前回の開催に続き、定員の2倍の参加申し込みが殺到するなど、各方面からの京都関心の高さが窺える結果でした。出席者は、事例や進出支援内容について熱心に聞き入っており、今後の京都企業誘致のますますの発展が想像できるセミナーとなりました。

GoWorking Kyoto Night in Tokyo〜京都で働くを知る〜

「京都のコワーキング/オフィスで働くとは?」、「京都コミュニティーってどんなの?」をテーマとしたクロストークイベント「GoWorking Kyoto Night in Tokyo 〜京都で働くを知る」を開催。

登壇したのは、以下の4名です。

・(株)ワントゥーテン(1→10) エクスペリエンスビジネス本部製品開発部チーフマネージャー 北原 妙子氏
生まれも育ちも関東。「駄菓子屋をやりたい」と京都へ移住し,週末限定で駄菓子屋を経営。

・Sansan(株) Sansan Innovation Lab研究員 小林 幸司氏
大阪大学大学院理学研究科物理学専攻修了。大学ではシュミレーションや数値計算を学び、その後OCRソフトウェアの研究開発を行う。現在はR&Dグループに所属し、画像処理や機械学習などの研究開発に従事している。

・(株)ツナグム/取締役・繋ぎ手 タナカ ユウヤ氏
滋賀出身、京都移住9年目。京都市内でシェアオフィスやコワーキングの運営を行い、連携を促進する活動や「Goworkin’ Kyoto」の運営を行う。

・春蒔プロジェクト(株) 代表取締役/co-lab企画運営代表 田中 陽明氏
クリエイターのシェアードコラボレーションスタジオ「co-lab」を企画・運営。近年は大規模再開発のブランディングディレクションを担当。

最初のトークテーマは、京都で働いた率直な感想や京都の印象について。

小林さんは、京都・嵐山での暮らしに刺激を感じているのだとか。

「出身地である奈良県と大阪や京都を比べたとき、“住む”には何も無いより、あったほうが圧倒的に良いと感じていました。京都で働くことに関しては、リモートワークの導入などもあり、ツールをいろいろ試せばどこでも働けると思います。さまざまな変化自体が楽しいと思ってやってほしい」

関東出身の北原さんは、京都と関東で“働くこと”に関して、差を感じなかったそうです。「2015年に京都に来ましたが、駄菓子屋をする上で京都はとてもやりやすいと思います。昔ながらの小さな飲食店が多いので、飲食店や販売店を自宅と兼ねて貸してくれる物件が多かったんです。気兼ねなく駄菓子屋をできているのは、ありがたいことですね」

タナカさんは、京都での働きやすさと可能性について「会社員として働きながら副業をする、“兼業・副業”と呼ばれる形態を京都は取りやすい。周りにも週末だけ農業やカフェをやっている人もいますよ」と。

次のトークテーマは、京都に住んだことによる“気付き”について。

北原さんは、京都ならではの人付き合いについて、「ご近所の方とつながりは非常に重要で、町内イベント等に参加することで一体感を覚えますし、心地良さも感じますね。」とコメント。嵐山在住の小林さんも深く頷きながら共感を示していました。

タナカさんからは、京都ならではの地域コミュニティの残存についての意見も。

「京都には古くからの地域コミュニティが残っているので、そこから繋がりや文化が生まれることも多いかなと思います。“一見さんお断り”など、ハードルが高いイメージがあるかも知れませんが、実際住んでみると全然違う世界が見えます」

イベント後半から、春蒔プロジェクト田中さんも登壇し、新たな働き方スタイルを生むCo-labの取組について説明してくださいました。

Co-labは、働き方の多様化が進む今、企業や個人という枠を超えた“プロジェクト単位で個人が集まり、集合体で働くこと“を叶えられる組織。400名を超えるクリエイターが集まり、オリジナリティを有する個々が協働しながら課題の解決を行っています。また、お互いを触発し合うピア効果が高く、自律的なイノベーション発揮につながっているのだとか。

最後に、今後の展望や希望を語りイベントは終了。北原さんは、「京都は小さいお店を開きやすい環境だと思います。商品を出し合って販売しあう“コワーキング・ショップ”を開催できたら楽しいなと考えています」と笑顔で今後の夢を語っていました。

イベントには10〜30代を中心に42名が参加。アンケートでは「京都出身者以外が京都に住んで働く”生の話”を聞けて参考になりました」、「京都の可能性を改めて感じました」などの意見が寄せられました。

京都観光企業フォーラム

観光企業フォーラムの参加者は大学1~3年生が中心、観光業のインターンに興味を持つ学生や春からの就職活動を見据えた学生が多く集まりました。会場は志を同じにする学生たちの熱い視線に包まれ、独特の緊張感と期待がうかがえます。

まず登壇されたのは、綿善の若女将・小野雅世さん。
大手金融機関で勤務後、現在は家業に継いだ異色の経歴をお持ちの方です。京都を取り巻く観光業の現状について、「京都はホテル投資家の参入やLINEオフィスの京都参入も予定されていて、『住む場所』『働く場所』として注目されています」と旅館経営者の視点から解説してくださいました。

またご自身の経験を生かして、学生たちに就職活動についてアドバイスをくれる一幕も…。

「就職先選びの基準は“そのままの自分を受け入れてくれる企業を探す”ことが重要です。決してワガママに生きるわけではなく、自分がワクワクすることに敏感になってほしい。私も『経営者としての立場上、職場の状態が見えにくい』、『家庭と仕事の両立が難しい』など、課題を抱えながら最善の生き方を模索しています。妥協せずに人生を歩むために頑張って下さい」と参加者にエールを送っていました。

次に実際に京都で観光業インターンを経験した3人の学生から体験談の発表があり、参加者と同じ視点で“京都での働き方”について解説。「京都では観光客とガイドをマッチングさせるアプリも少しずつ普及しており、観光事業のみでなく京都でのベンチャー企業発展も実感しました。

海外観光客も非常に多いので、京都観光の満足度を高めることは日本の評価や価値基準を上げることにも繋がる。外国人誘致やインバウンドの観点からすると京都が最前線だと感じます」と振り返っていました。

またインターン先のオーナーによって新しい自分を知った東京大学4年の西さんは「オーナーから『日本人のルーツは日本の歴史や伝統にある』と言われ、最初はピンとこなかった。しかしインターンシップでの京都暮らしを通じて、東京育ちの自分でも京都の街並みに安らぎや懐かしさ感じました」と笑顔で語っていました。

観光業セミナー最後のコンテンツは「桜花爛漫」「京都インギオン」「美京都」という京都企業3社の経営陣・採用担当者の登壇です。各社が分析した京都観光業の移り変わりや自社コンセンプトの説明があり、学生たちは熱心に聞き入っていました。

出典:京都着物PR大使ブログ
同会場では、先着30名限定の「京都のおもてなし体験」も開催。

京都で生まれ育った「桜花爛漫」代表取締役社長の滝本氏は「60年生きてても新たに知ることがあり、日々京都の奥深さを感じます。伝統を守りつつ新しいものを取り入れて文化を育んできたこの街は、敷居の高さもあるが働く場所として魅力がある。ハードルが高い分、深く知られたときは根底にある素晴らしさを感じられます」と学生たちに京都で働くことの本質を語りました。

ソーシャル企業と考える「京都移住転職計画」

2011年より京都移住計画が東京で開催するイベントです。会場は京都出身のUターン希望者や、移住を検討中のIターン希望者で超満員。主催者からの「今回のイベントを通じて、明日からが少し変わるような、アクションが起こる1日にしてほしい」というメッセージに参加者は大きく頷いていました。

登壇企業は「これからの1000年を紡ぐ企業」として認定された社会的企業「フラットエージェンシー」、「食一」、「和える」、「アラキ工務店」の4社。持続可能な社会の実現と、京都での働き方を軸に各社のビジネス展開について説明がありました。

和える/東京「aeru meguro」ホストマザー・森恵理佳さん

和えるは“伝統産業×赤ちゃん・子どもたち”という新しい視点から日本の伝統を次世代につなぐための仕組みづくりをしています。これまで全国各地の職人さんと、生まれた時から使える日用品をオリジナルで作る“0歳からの伝統ブランドaeru”事業のほか、日本の伝統を泊まって体感できる“aeru room”や,日本の伝統を学ぶ“aeru school”などを行ってきました。これらに加えて現在は、ものづくりに欠かせない原材料供給の観点から、“aeru satoyama”事業も計画中とのこと。また、社員の働き方・生き方の想いによって京都・東京でどちらの場所でも働けることから、今を生きる人々がやりがいを感じて働ける企業の在り方を体現しています。

アラキ工務店/代表・荒木勇さん

16年の東京勤務後、京都に移住した際、『職人が育たない理由=工務店に大工さんがいないこと』に気付いたのだそう。京町家や古民家といった戦前に建てられた伝統的な住宅を元に戻し、さらにあと100年住み続けられるようにするためには、大工さんと一体になって活躍の場を提供することが重要であると考え、現在は現場監督として業務にも携わっています。「自分の趣味が結果的にお客さんの夢を叶えることにつながる。良くなる、と思ったことはどんどん提案しますよ」と目を輝かせながら仕事観を語る荒木さんに、参加者は心奪われた様子でした。

左から食一(田中さん)・フラットエージェンシー(吉田さん)・アラキ工務店(荒木さん)・和える(森さん)

フラットエージェンシー/代表・吉田創一さん

昭和47年創業のフラットエージェンシーは建築・旅館・マンション管理などの不動産関連業務を展開しています。京都に出てきた学生が悩みを誰にも相談できずふさぎ込んでいた状況を見て、交流を持ててかつ安価に借りられるマンションを運営できないかと考えたのが、シェアハウス参入の第一歩なのだとか。

地域や社会の諸問題を解決して、ビジネスにつなげる取り組みを重要視している吉田さんは、外国人労働者の住宅環境整備にも社をあげて取り組んでいます。

「以前は外国人にマンションを貸したくないという大家さんも多く、不動産が借りられない状況だった。解決のために自社でも中国人の方を正社員として雇用しました。彼らの堅実な働き方を含めて不動産オーナーに説明することで、状況改善にも取り組みました」と語りました。

食一/代表・田中淳士さん

「食を通じて社会を愉快に」をテーマに、産地と消費者を繋げる新しい橋渡しを行う食一。漁港で値段の付きにくかった魚をあえて購入することで漁師・食一・飲食店全てがwinwinの関係を作るなど、新しいかたちの水産業に取り組んでいます。今後は、漁船購入も考えているそうです。

セミナー後のグループディスカッションでは参加者と登壇者のフラットな意見交換が行われ、「各社の業種は違えど、ベクトルが同じだと感じた。価値があるのに放置するとなくなってしまうものや廃れていくものに、“新しい命”を吹き込む仕事にしている」などの感想が寄せられました。

4フォーラム合同交流会

2日間にわたる4フォーラム終了後は、京都で働くことに興味を持つ参加者・参加企業登壇者との合同交流会が実施されました。“乾杯は日本酒で”という独自文化もある京都。懇親会では京都・伏見の日本酒が振る舞われ、参加者同士の距離もグッと近付いた様子。

和やかに行われた交流会の冒頭では、地域企業開拓に取り組む「YOSOMON!」のプロデューサーである伊藤淳平さんから「地域×副業」について説明がありました。

学生時代のインターンシップ経験がキャリアのスタートだという伊藤さんは、「多くの人が活躍する社会を実現するために『YOSOMON!』を運営しています。副収入を得るための副業ももちろん重要ですが、自分のやりたいことの追求や個人のポテンシャルを発揮するための共感型副業は新しい価値が生み出され、課題解決できる社会につながると感じています」と語ってくださいました。

「YOSOMON!」には、現在20社との連携及び300人のユーザーが登録中。登録者へのアンケートでは、副業の目的=スキルアップや地域貢献との回答が大半を占めたそうで、副業への捉え方にも変化があると実感したそうです。

ゲストでもある食一さんの『漁師魚の特産品』のアレンジ料理とお酒を片手に親睦を深めました。

ソーシャルセミナーに登壇したフラットエージェンシー代表・吉田さんは「新しくコワーキング業務を始めたいと思っているので、『YOSOMON!』の取り組みに興味がわきました。事業のなかでも共感型副業を取り入れて、新たな可能性を模索したい」とコメントしました。

まとめ

今回、一部の参加者にアンケートをとったところ、「東京出身だが、京都には何度も行っている。後々は住んでみたい」、「東日本大震災を機に東北地域の公務員に。今年で任期が終わるので出身地である京都への移住を検討中」、「地域おこし協力隊の活動に興味があり、今回のフォーラムに参加した」など、参加理由はさまざま。

4フォーラムを通じて、最初は漠然と京都移住を検討していた方やインターン生が“京都でなにをしたいか”、“自分にはなにができるのか”と未来を想像できるようになっていた様子が印象的でした。

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