2014.10.10

地域参加のススメ京都に伝わる「町」と「元学区」

はじめに

 京都の人は、地域のつながりをとても大事にして暮らしている。現在でも、伝統的なコミュニティの単位である「町(ちょう)」や「元学区」が京都の暮らしの中で重要な役割を担っている。移住者の方にも、京都の地域のつながりの大事さを知っておいていただきたいと思い、今回このコラムを書かせていただくことになった。

 筆者は京都人というわけではないが、大学に入学して以来、約10年間京都で暮らしている。現在は、大学院で住まい・まちづくりの研究をする傍ら、京都市内で地域活動のサポートもさせてもらっている。今回は、筆者が関わっている上京区・待賢元学区の取組の紹介も交えつつ、京都への移住者が地域参加することの意味を考えたいと思う。

写真1.ぼく

「町」と「元学区」

京都になじみの薄い方は、京都の地域コミュニティについてあまり知らないかもしれない。まずは、京都の代表的な地域コミュニティである「町」と「元学区」について説明しておこうと思う。

京都の中で、最小の地域コミュニティの単位が「町」である。京都のまちと言えば、「碁盤の目」というのは多くの方がご存じと思うが、通りを挟んで向かい合う敷地の集合が一つの「町」を形成しており、「両側町」と呼ばれる形態をとっている。江戸時代までは、この「町」が自治組織だったと言われている。

自治組織としての機能がなくなった現在でも、暮らしの作法やルールを共有しながら様々な問題に対応する取組を行っている。7月になると都心部では祇園祭が行われるが、祇園祭の山や鉾も町の単位で出している。8月に各地で行われる地蔵盆も、町というコミュニティで行われる重要な行事である。

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(町内で行う地蔵盆(待賢学区・一丁目町))

町というコミュニティがいくつか集合し、もう一つ上の単位である「元学区」というコミュニティができる。京都では、全国で学校令が出されるよりも前に町の集合体である町組が小学校を建設したという経緯がある。小学校の統廃合が進んだ現在でも、コミュニティの単位として生きているのである。

元学区は、防災や福祉などの暮らしを支える住民自治の役割を現在でも担っている。また、10月に行われる時代祭は、元学区が交代で維持・運営を行っており、町と同様に京都の伝統的な文化を守る役割も果たしている。

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(待賢学区で行った時代祭)

京都にとって町や元学区は、重要な地域コミュニティとしての役割を担っているが、近年では様々な課題も抱えている。その課題の一つが、移住者とのつきあい方である。京都の町や元学区では、地域住民の高齢化あるいは地域活動の担い手不足などの問題により、地域の中に若者をはじめとする新しい住まい手、すなわち移住者を迎え入れていく必要性が高まっている。しかし、残念ながら、移住者が地域に参加するケースはきわめて少ないのが現状だ。

待賢元学区の場合

二条城のすぐ北にある「上京区・待賢元学区」でも、移住者とのつきあい方は大きな課題となっている。待賢学区では、マンション住民をはじめとする移住者を地域に迎え入れる取組を行っている。待賢学区では、自治連合会である住民福祉連合協議会や町内会への加入率が5割を切っており、将来的に地域活動の継続が困難になるという危機感を抱いていた。

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(待賢元小学校)

待賢学区では、マンション住民をはじめとする若い世代の移住者が地域に関心を持つきっかけを作るために、地域の資源を生かした活動を行っている。

 季節の行事として行った「ひな人形展」や「端午の節句展」では、待賢学区内で使わなくなったひな人形やこいのぼりを地域の方から集めて展示する企画を行った。お借りしたものの中には、80年前のひな人形などかなり珍しいお宝もあった。

参加者の中には、家ではひな人形を飾ることのできないマンション住民からの参加もあり、長く家の中で眠っていた地域のお宝が、新しい移住者と地域のつながりを作るツールになっているようでとても興味深かった。

(ひな人形展)

 2012年からは、待賢学区の地蔵盆も行っている。地蔵盆は、普通「町」の単位で行われるが、最近では子供が少ないという理由で地蔵盆を行っていない町やマンションに暮らしているから地蔵盆に参加できない子どもたちも増えつつある。

学区の地蔵盆は、そのような子ども達に参加してもらうためのまちづくり活動として行われている。年々、マンション住民からの参加も増えており、少しずつではあるが成果が表れていると感じている。

(待賢地蔵盆)

2013年には、同志社大学新川ゼミの協力を得て、待賢学区内から集めた約5000個のペットボトルを使ったキャンドルナイトを行った。地域の方が手作りで作ったキャンドルを用いて小学校のグラウンドに、待賢元小学校の校章を再現した。このイベントは、来場者が400人と非常に盛況だった。それに加えて、キャンドルの制作に様々な方が関わったというプロセスにも意味があったと思う。

写真7キャンドルナイト

これらの待賢学区の取組は、必ずしも移住者のみを対象としている訳ではないが、移住者の方も地域のことを知ってもらうきっかとなる活動として位置づけることができる。実際、新しい移住者にも地域に関心を持つ人が出始めており、少しずつだが成果が表れ始めているように感じている。しかし、移住者たちに待賢学区の取組や地域の方の思いが十分に伝わっているかと言えば、そうとも言えない部分も多く、試行錯誤しながら進めている段階だ。

地域参加のススメ

待賢学区に限らず、新しい移住者が地域参加してくれることを望んでいる地域はたくさんあるし、地域参加を促す取組を行っている地域もたくさんある。しかし、そのような地域の方の思いは、移住者に十分に伝わっているとは言えない状況だと感じている。

京都における地域のつながりは、京都に暮らす人々が継承してきた生活文化の一つであり、京都の魅力でもあると思う。しかし、現状のコミュニティだけで地域の生活文化を維持していくのは困難になりつつあり、地域と積極的に関わりながら暮らす移住者が色々な地域で期待されている。もちろん、移住者にとっても地域参加をすることで京都での暮らしをより豊かなものとなるだろうし、地域の方は、移住者が困ったときの助けにもなってくれると思う。

 移住者の方には、こうした地域コミュニティの現状を理解してもらった上で、自分が暮らす地域に関心をもっていただきたい。今後、移住者が新しい京都の地域コミュニティの力となってくれることを願っている。

【謝辞】コラム中の写真の一部は、待賢学区の住民の方、ならびに同志社大学新川ゼミにご提供いただきました。記して謝意を表します。

(文責:土井脩史)

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