2025.06.18

身体の悩みに寄り添い、伴走する。漢方の相談なら「平井常榮堂薬局」

CHECK IN

京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

みなさんは、身体の不調があったとき、誰に相談しますか?親身になって話を聞いてくれる専門家が身近にいると、とても心強いものです。今回ご紹介するのは、1701(元禄14)年に京都で創業した、320年以上の歴史ある漢方薬局「平井常榮堂(ひらいじょうえいどう)薬局」です。

古川和香子さん。徳島大学大学院薬学研究科前期課程修了後、漢方の診療所や病院、薬局に勤務。2018年には国際中医師の資格を取得し、2021年に平井常榮堂を事業承継した

9代目店主の古川和香子(ふるかわ・わかこ)さんは、代々親族で受け継がれてきた平井常榮堂を第三者承継しました。本記事では、古川さんのこれまでの歩みと共に、今大切にしていることについてお話を伺います。

漢方、そして平井常榮堂との出会い

漢方と聞くと、あまり馴染みがない方も多いのではないでしょうか。古川さんも「私も学生時代まで知りませんでした」と振り返ります。

「初めて漢方について知ったのは、薬剤師を目指していた大学時代の生薬学(しょうやくがく)の授業でした。それまでは全く知らない分野だったのですが、幼い頃から植物が好きだったこともあり、実際に生薬を見て触って学んでいくうちに、どんどんのめり込んでいったんです」

その後、薬剤師の資格を取得し、大学院を卒業した古川さん。就職を機に京都暮らしを始めます。

「いとこが住んでいたので、京都にはよく遊びにきていました。鴨川の風景が大好きで京都暮らしに憧れていたこともあり、新卒で京都の診療所に就職。実はその診療所から南へ300メートルくらいのところに、当時の平井常榮堂があったんです。江戸時代から続く薬屋さんですから、外観だけ見ても風格がすごくて。気になって気になって仕方がなかったものの、20代の私はひとりで入る勇気が持てませんでした」

温めてきた夢が、花開くとき

京都で9年ほど勤めたあと、更なる知識と経験を求め、山梨に移住した古川さん。そこで9年間のキャリアを積んでから、再び京都に舞い戻り、胸の奥で温めてきた「いつか開業したい」という想いを実現するための一歩を踏み出します。

「2020年から『世界文庫アカデミー』という夢を叶えたい人のための学校に通い始めました。さまざまなジャンルの第一線で活躍する講師の方々の講義を受けながら、仲間と企画したイベントで漢方喫茶をやったり、ZINEをつくったり、表現することを学ぶうちに、ぼんやりしていた夢の輪郭が、少しずつはっきりしてきたような気がします」

薬剤師として働きながら、アカデミーで学び始めて半年が経った頃、古川さんにとって大きな転機が訪れます。

「はじめて平井常榮堂を訪れることができたのがこの頃です。色々な道具や薬を見せてもらいながらお話を聞かせていただき、すごく感銘を受けました。後日再び伺ったときに、先代の平井さんから、『実はお店をたたむつもりでいるが、そうなったらお客さんが困ってしまう。あなたがお店をやりたいなら、うちのお客さんと商品をお願いできひんか』と言われたんです。驚きましたね。運命を感じて、『やります!』と即答しました」

店内には、旧店舗前で平井さんご夫婦と共に撮影した記念写真が飾られている

「物件を探したり、役所や商工会議所に話を聞きに行ったりする中で、窓口の方から、『正式に事業承継したらどうでしょう』とアドバイスをいただき、平井さんにご相談したところ『逆にええんか?』と言ってくださって。そんないきさつで、事業と共に、平井常榮堂という看板も継がせていただくことになったんです」

その後、平井常榮堂の旧店舗は2021年10月末に幕を閉じ、翌月から古川さんが現在の場所で新たにその歴史を刻み始めました。

カフェのように、気軽に来られる場づくり

平井常榮堂が紡いできた320年の歴史の断片は、現在のお店の至るところにも大切に残されています。

(左)旧店舗から運んできた薬棚。(右上)歴代店主のお手製だという、紙を貼り合わせて柿渋を塗った薬箱。(右下)旧店舗時代に販売していた「おふろのもと」も受け継いだ

そして新たに、誰もが気軽に訪れられるようにと、古川さんらしい工夫もちりばめました。

「山梨に住んでいた頃、疲れた時によく行くハーブのお店があったんです。さまざまなハーブや植物が植えられた庭を眺めながらお茶をいただくのが至福のひとときで。ここもそんな存在になれたらいいなと思って、サービスティーを提供しています」

その日の気温や気候に合わせて古川さんがブレンドした薬草茶。15種類ほどをブレンドすることで、味がまろやかになり、誰でも飲みやすくなるのだとか

受け継がれてきた伝統と、古川さんの新しいエッセンスが混ざり合う新たな平井常榮堂薬局を、昔からのお客さんはどのように感じているのでしょうか。

「長年通ってくださっている方に、『前のお店と同じ匂いになってきたね』と言っていただけた時は嬉しかったですね。私自身はずっとこの空間にいるので、あまり感じることができないのが悔しいです(笑)」

歴史と現在がうまく混ざり合った空間は、京都のまちの空気感とも少し似ているかもしれません。

店内には、漢方や身体にまつわる書籍や、京都特集の雑誌など、お茶を飲みながらページをめくりたくなる読み物が置かれている

語りきれない京都の魅力

平井常榮堂薬局があるのは、元田中駅から西に徒歩10分ほど歩いた住宅街です。このまちの魅力についても伺いました。

「この辺りはとても便利です。大型ショッピングセンター『洛北阪急スクエア』をはじめ、左京図書館や郵便局、家電量販店やホームセンターなど、暮らしに必要なものは全部揃っています。高野川も近く、団地があるおかげで緑が豊かなのも気に入っています」

「休日は京都府立植物園によく行きます。年間パスポートを持っているので、時間があれば自転車でフラッと行くことが多いですね。特に植物生態園というエリアが好きで、日本各地の山野に自生する植物を出来るだけ自然に近い状態で植栽してあるんです。薬草もあるんですよ」

楽しそうに語る古川さんに、「京都のまち全体の印象を一言で言うと?」と尋ねると、「ひとつじゃなくてたくさん言ってもいいですか」との回答が。

「京都は、本当に興味が尽きないまちですね。歴史や伝統を大切にしながら、常に新しいことが起こっている。京都で生まれ育った人は京都から出ないとよく聞きますが、きっと京都に全部あるから出る必要がないからではないでしょうか。自然の豊かさも、自転車でどこでもアクセスできるコンパクトな規模感も、大好きです」

困ったときは、気軽に相談を

最後に、古川さんが日頃大切にしていることについて伺いました。

「漢方相談とはどんなことをするのか、イメージしにくい方も多いかもしれません。平井常榮堂薬局では、相談者さんの背景を知るために、まずはじっくりとお話を伺います。その上で、私なりの解釈をお伝えし、お客さまに納得していただいた上で薬を調合し、その後の経過まで伴走します。漢方には色々な可能性があるので、諦めず、気軽に相談に来ていただけたら嬉しいです」

漢方相談では、専門書を開いて説明するシーンも多い。漢方に馴染みがない人でも、きちんと理解・納得して飲んでほしいという、古川さんの想いが伝わる

心身の健康は、暮らしの基盤。けれど、誰に相談したらいいか悩む人も多いかもしれません。古川さんは、そんな気持ちを丁寧にすくい上げながら、寄り添い伴走してくれる専門家。そんな心強いかかりつけの存在は、心身の健やかな土台を築き、豊かな暮らしを支えてくれるでしょう。

「平井常榮堂薬局」
HP:https://www.jyoeido.net/
Instagram:https://www.instagram.com/yakusou_jyoeido/
電話:075-741-8167
営業時間: 土・日・月・火・水 10時~18時
休業日:木・金・祝 (臨時休業有)
※漢方相談は予約制

CHECK OUT

我が子の喘息と鼻炎がなかなか改善せず悩んでいたとき、街ブラの途中で平井常榮堂薬局を見つけ、後日予約し訪問しました。これまでの経過や症状はもちろん、子ども達の生活習慣、体格、性格など、多岐にわたってお話させていただくと、「こういう理由でこの漢方が良いと思いますが、どうですか?」と丁寧に説明してくださったのがとても印象的でした。今では、困った時には古川さんに相談しようと思えることが、心のお守りになっています。店内の古道具の数々も必見です。

執筆:佐藤 ちえみ
編集:藤原 朋

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