2024.03.01

本と糸がメインカルチャー。わざわざ行きたい編み物教室と本屋さん「Puolukka Mill」

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京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

小さな旅にでかける気分で電車に飛び乗り、向かった先は大阪と京都の境目にある大山崎町。住宅街をてくてく歩いた先にある「Puolukka Mill(プオルッカミル)」は、2016年に編み物教室としてオープンし、現在は本や雑貨も扱っています。一つの好きとじっくり向き合い、誰かと共有できる場所。ついつい長居してしまう、そんなあたたかいお店を紹介します。

初めて訪れたときに感じた「いいな」

大山崎町を訪れたとき「どっちに行ったら何があるのかとか全くわからなくて、間違って川まで歩いてしまいました。だけど、それがすごくいいと思ったんです」と話す店主の折小野 美貴子(おりこの・みきこ)さん。

もともと自然に囲まれた場所が好きだった美貴子さんは、自分の教室を開くなら、山が近くて、自然がすぐそこに感じられる大山崎町しか考えられなかったと言います。「ちょっと駅から歩く場所でも生徒さんが来てくれる、そんな教室になったらいいな」という思いも込めて、この場所に「Puolukka Mill」をオープンしました。

しかし、もともと美貴子さんは編み物を仕事にすることは考えていなかったそうです。

「社会人になってから独学で編み物を始めましたが、『うまいこと編めてんのかな?』と不安になり、糸の専門店・AVRIL(アヴリル)で資格が取れる教室に通うことにしました。あるとき、教室で仕事の話になり『次は糸のお店で働くのもいいなあ』と話したのがきっかけで声をかけてもらって、スタッフとして働くことに。AVRILはすごく面白くて、店頭の仕事もしながら、自身での活動も応援してくれる会社でした」

独立してからも不安がありましたが、その頃知り合った「大山崎COFFEE ROASTERS」中村ご夫妻の「三人が暮らしていけたらいいんじゃない?」という言葉に、自分たちのペースでやっていければいいんだと思ったと話す美貴子さん

出産を機に、これから自分たちがしたい暮らしと向き合って、独立することを選んだと話す美貴子さん。個人の店が多い大山崎町は、そんな美貴子さんの「やってみたい」という気持ちを応援してくれるあたたかい人に恵まれた場所でした。

わたしたちが心から推せるものを

2016年、編み物教室と糸屋さんとしてお店をスタートした美貴子さん。2023年、1階に入っていたお花屋さんの移転が決まったのをきっかけに、以前から考えていた夫の折小野 和広(おりこの・かずひろ)さんと一緒に「本と糸」のお店を作ることを決意し、リニューアルしました。

「大山崎町には本屋さんがなく、図書館も小さくて読みたい本がすぐに借りられない人もいることを残念に思っていたので、本だ!と思ったんです」と美貴子さん。

和広さんは、会社員時代の通勤電車では、わざと各駅止まりの列車に乗り、小説を書いたり本を読んだりしながら出勤していたそう。「お店を営むからには、自分がわかるものしか扱えないと思いました。心から推せるものじゃないと難しい」と話す和広さんは、自身が一番読んできたジャンルの「物語」を中心に扱う本屋さんを作ろうと思い立ちました。

お店をぐるりと見渡してみると、1階には糸と本と一緒に雑貨や洋服なども賑やかに並べられています。どのような基準で選んでいるのでしょうか。

「雑貨や作家さんの作品は、実際に使っていたり、着ていたりして、自分たちが好きだと思うものを選んでいます。扱っている人との関係性も大切にしているので、その方と話して、作品や商品を見せてもらってから決めるようにしています」

店内には「大山崎COFFEE ROASTERS」さんのコーヒーが飲めるセルフドリンクコーナーがあります

ここではじめる、繋がる。

美貴子さん主宰の「プオルッカさんの編み物教室」、和広さん主催の読書会「山崎ブッククラブ」など、ここにはふたりを通して新しいものに出会えるきっかけもあります。

編み物教室は、初心者〜経験者まで参加できる「Knitting Class(ニッティングクラス)」のほか、「もう少し手軽に編み物をやってみたい!」という方には、大山崎の「CHOTTO COFFEE」さんで月に1回開催されている「CHOTTOニットの会」もおすすめです。

「CHOTTOニットの会」は、コーヒーを飲みながら編み物をしたり、おしゃべりをしたり……初めまして同士の参加者も多いですが、アットホームな雰囲気で楽しめる会です

本を読む行為とその体験を共有する「山崎ブッククラブ」は、月に1回開催されています。毎月、選定される課題本について対話するため、いつもは手に取らないジャンルの本と出会えるきっかけにもなります。

一冊の本について参加者同士で意見交換をすると、内容をさらに深く理解できることも

新しいものと出会い、新しい人との出会い。ワクワクが詰まったこの空間には、わざわざ行きたくなる理由があります。

ここでは、「本と糸」がメインカルチャー

和広さんが本屋をやろうと考えたときに最初に思い浮かんだのは「物語を本屋の中心に置くこと」でした。和広さんの話す「物語」とは、小説だけでなく、エッセイ、絵本、詩や短歌なども含みます。料理本や生活の本など、日常的な本は手に取りやすいけど、物語はなかなか手に取る人が少ないと、お店をはじめてから感じているそうです。
だからこそ、自分が心から推せる「物語」を本屋の中心に置き、訪れた人たちに伝えていきたいという思いがあります。

映画の脚本や小説の執筆経験がある和広さん。物語は「心がいろんな方向に揺さぶられるのが楽しい」と言います。

「だからこそ、こんな面白いものを扱わないわけにはいかないという気持ちがあります。これからも『物語の本』がメインです」

店内には海外文学や暮らしの本、アートブックなど、さまざまなジャンルの本が並べられています。最近は編み物教室の生徒さんからおすすめしてもらうこともあるそうです

「編み物も世の中の人がみんなやってるかと言われたら、そうでないジャンルかなと思っています。だけど、ここに来たらメイントピックとして扱われてるジャンルであり、当たり前のもの。世の中ではメジャーじゃないものが主役になる場所になるといいな」と笑顔で話す美貴子さん。

「物語や編み物が好きな人にとって、ここは天国みたいな場所。もともと好きな人はもちろん、初めて触れる人も、この場所を見つけてくれたらいいなと思っています」とふたりは話します。

物語と編み物に囲まれた小さなお店で、今日もふたりは待っています。

『Puolukka Mill (プオルッカ ミル)』
住所:京都府乙訓郡大山崎町大山崎尻江7-2-8
営業時間:10:00-17:00
定休日:月・土
HP:https://puolukkamill.info/
Instagram:https://www.instagram.com/puolukkamill/

執筆:鳥飼 鈴夏
編集:藤原 朋

CHECK OUT

ふたりが大切に集めてきたものに囲まれた店内は、居心地がよくて、つい長居してしまう魅力があります。編み物や本のこと、さらには人生のことまで話せる場所はここにしかない!そう断言できます!!
私自身、去年「CHOTTOニットの会」に参加して、編み物に初挑戦しました!やってみたかったけど、動画や本で挑戦するのはハードルが高くて…という方に、おすすめの会です。新しいことを始めたり、新しい人と出会ったりといつもの暮らしをちょこっと楽しくしてみませんか?

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