2023.12.22

暮らしと地続きの自然を求めて。「山道具とごはん 麓」に聞く、京都の山の魅力とは。

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京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

京都で暮らしていると、「山が近くて良い」という言葉をよく耳にします。東・西・北、三方が山に囲まれた京都のまち。ふと目線を上げると美しい山並みが眺められるここでの暮らしは、懐深い自然の恵みと共にあります。

京都の山の魅力をもっと知りたい。そんな気持ちで取材に伺ったのは、京都市左京区・修学院にある「山道具とごはん 麓_ROKU」(以下、ROKU)です。

お店を切り盛りする荘村健太郎さん・春菜さんご夫妻に、京都の山にまつわるお話を伺いました。

比叡山の麓、人々が集う憩いの場

京都市北東部に位置する左京区エリアは、面積の8割を山林が占める緑豊かな地域です。叡山電鉄本線「修学院駅」から歩くこと約10分。比叡山の登山口に向かう道中にROKUはあります。

店内には、ずらりと並ぶ山道具。壁に貼られた京都の登山地図を眺めていると、「こっちへおいで」と山に呼ばれているような気分になります。

看板メニューは「今日の定食」。

「毎日食べても飽きない、身体が喜ぶようなごはんを」と春菜さんが考案するレシピの定食は、メインのおかずに負けないくらい、地元野菜の美味しさが引き立つ味わい。登山者のみならず地元住民や観光客からも愛されています。

「山の行き帰りに、食事をしたりコーヒーを飲んだりしながら山について話せるような場所がほしかったんです」と語る健太郎さん。

開店から約5年が経ったROKUは、山とまちのあいだで、止まり木のような憩いの場になっています。

「楽しい」だけが全てじゃない、奥深い山の魅力

大阪出身の健太郎さんは、幼い頃から外遊びが大好き。20歳を過ぎた頃から山に登り始め、その世界にのめり込んでいきます。そんな健太郎さんにとって、京都の山の魅力とは何なのでしょうか。

「暮らしの近くで自然が感じられることは、京都の山の大きな魅力だと思います。でも、それだけではありません。京都で暮らしていると『鴨川が好き』という方も多いと思いますが、たとえば京都北山を代表する桟敷ヶ岳(さじきがたけ)に登ると、鴨川の最初の一滴を見られる場所があるんです。それだけでも感動します」

同時に、「昨今は気候変動によって山や谷が荒れていく様子も感じ取れる」と健太郎さん。異常気象による樹木の枯死や倒木を目の当たりにすると、「このままでは、あの鴨川にも土石流が流れ込んでいくかもしれない」という考えがよぎり、地球規模の環境問題が一気に自分事になる。そんな気づきを得られるのも、山に行く大きな意味のひとつだと健太郎さんは言います。

「歩くって、人間本来のスピードなので、普段取りこぼしている感覚や思考を取り戻せるような気がしているんです。きっと人にはそういう時間が必要で、だから何度も山に行きたくなるのではないでしょうか」

忙しない日常からスローダウンして、歩くことでさまざまな感覚を取り戻す。そこで得た気づきを暮らしに持ち帰ることで、日常をより豊かに感じたり、謙虚になれたり、もの選びや行動基準さえも変わってきたりする。山の魅力の奥深さは、こうした学びにもあるのかもしれません。

十人十色の、山の楽しみ方

では、実際に初心者が山を楽しむには、何から始めるのが良いのでしょう。健太郎さんに聞きました。

「あまり頭で考えすぎず、まずは行ってみてほしいですね。幸い関西圏には、初心者でも気軽にトライできる低山が多くあります。何度か行くうちに、鳥や植物に興味を持ったり、もっと高い山へ登りたくなったり、『これが楽しい!』と思えるものが定まってくるはずです」

「困ったことや聞きたいことがあれば、気軽にお尋ねください。僕自身は、厳選した荷物で身軽に出かけ、深く自然と向き合うウルトラライト(UL)という登山スタイルが主ですが、例えばクライミングをやりたいという方には、その道に詳しい方を繋ぐこともできます。自分なりの楽しみ方や仲間ができるにつれ、山がより一層楽しめるようになっていくと思います」

ハイキングイベント「kuh」に参加!裏大文字を歩く

実際に山の楽しさを体験しようと、筆者もフィールドに行ってきました。

参加したのは、ROKUとMINIMALIGHTが共同で主催する、「kuh(KYOTO URAYAMA HIKING)」というハイキングイベントです。

時は紅葉シーズン真っ只中の11月下旬。第83回目となるkuhには、登山初心者から玄人まで、のべ11名が参加しました。京都五山送り火で有名な大文字山ですが、kuhで歩くのは蜘蛛の巣のようにトレイルが張り巡らされた、通称「裏大文字」と呼ばれるエリアです。

ひとりで歩くには迷子になりそうな山道も、みんながいれば安心。健太郎さんのガイドに耳を傾けながら、時に黙々と、時にお喋りを楽しみながら登っていきます。

途中の休憩スポットでは、春菜さんがつくったケーキやコーヒーがふるまわれ(有料・要予約)、しばし歓談の時間。

さまざまな見どころを巡り、3時間半ほどで登頂!京都のまちを一望できる眺めは、まさに絶景。登り切った達成感に包まれました。

元々、山に登るきっかけや仲間づくりを目的として始まったkuhのハイキング。初心者が一歩踏み出すにも、新たな楽しさを求める中級・上級者にも、とても良い機会になると実感しました。

歴史・文化・楽しさを、次の世代へ繋ぐ

最後に、今後の展望について伺いました。

「山の歴史や文化を守り次世代に残していくためにも、山の整備活動に力を入れ、たくさんの人に山に来てもらえるよう、その魅力を伝えていきたいと思っています」

「お店としては、現在のカフェ営業に加え、泊まれる食堂のような新たな場づくりも模索しています。やりたいことはたくさんありますが、個人的に好きな山に行く時間も大切にしたい。山が近い京都で暮らす楽しさを自分自身も噛みしめながら、多くの方に山の魅力を広めていきたいです」

午前中は山に行き、午後にはまちで仕事をしている。そんな暮らしが叶う場所は、そう多くはありません。日常と地続きの場所に、非日常がある。もしくは、それが共存している京都での暮らし。その豊かさを、ぜひフィールドで感じてみてください。

執筆:佐藤 ちえみ
編集:藤原 朋

「山道具とごはん 麓_ROKU」
京都市左京区修学院茶屋ノ前町15-25
営業時間:11:30-18:00 (17:30 ラストオーダー)
定休日:火曜日、水曜日 (臨時休業あり)
Instagram:https://www.instagram.com/roku_kyoto/

CHECK OUT

「山の面白い話はたくさんありますよ」と、取材を快諾してくださった荘村さん。山でのハプニングエピソードや、京都の山に根付く歴史の話、京都一周トレイルの魅力など、記事に書ききれなかったお話の続きはぜひROKUで聞いてみてください。

「今日はどこへ行こう?」の答えに「山」という選択肢を加えることで、みなさんの京都暮らしに新しい楽しさや発見が加われば嬉しいです。

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