2025.02.11

公園をテーマに、縁が交わるサードプレイスを。左京区のオルタナティブスペース「koen」

CHECK IN

京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

今回の舞台は、京都市左京区にある「koen(コウエン)」です。カフェ・ショップ・ギャラリー・アトリエの4つの機能を併せ持つオルタナティブスペースとして、2024年11月にオープンしました。

ディレクターは嶌村吉祥丸(しまむら・きっしょうまる)さん。写真家・アーティストとして国内外で活動すると同時に、東京・荏原にある「same gallery(セイムギャラリー)」の企画・運営や、フレグランスブランド「kibn(キブン)」のプロデュースなど、ジャンルを越えてさまざまなプロジェクトを手がけています。そんな彼が新たに生み出したkoenは、どんな場所なのでしょうか。2025年1月某日、京都滞在中の嶌村さんとkoen店長の日髙美月(ひだか・みづき)さんにお話を伺いました。

koenというサードプレイスを

「縁が交わる場所」をコンセプトに掲げるkoen。訪れた人がさまざまな体験をしながら“自分の居場所だ”と思える空間にしたいと、嶌村さんは語ります。

嶌村さん

これまで色々な場づくりに携わる中で、世の中にあるパブリックな場所を”自分の居場所”だと思えている人は意外と少ないと感じていました。でも、そういうサードプレイスは、あればあるほど良いと思うんです。ものを買わなくても、各々のペースで存在できる。公園のように公共性があって、開かれた無目的な場所が。

ショップスペースの一角に置かれたメモ用紙。“あなたにとって公園とは?”という質問に対するさまざまな回答を見ることができる。自分なりの答えを考えてみるのも面白そう

嶌村さん

koenでは、カフェスペースで居合わせた人と話したり、ギャラリーで作品を見たり、ショップで良いものとの出会いがあったり、静かにひたすら自分自身と向き合ったり、多様な過ごし方ができると思います。そうやって人やものが行き交い、多様な文化や表現が交錯する場として機能したら嬉しいです。

真っ白な空間が印象的な2階ギャラリースペース。展示の最新情報はSNSでチェック

縁によって生まれる、あたらしい何か

東京で暮らしながら、年に3~4回のペースで京都を訪れていた嶌村さん。友人のひと言がきっかけで、京都に拠点を構えることになりました。

嶌村さん

いつもご飯に行く友人に「もうこっちで家借りちゃえば?」と言われて、教えてもらった物件サイトの一番上に出ていたのがこの物件でした。次の日には見に来て、立地も含めて気に入って、直感に従って購入することに。その後、隣接する建物も空くと聞き、そちらも購入。まさか自分が2軒も物件を買うことになるとは思っていませんでした。

元設計事務所(向かって右側)と、木工作家のアトリエとして使われていた建物(左側)を繋げて出来上がったkoen

嶌村さん

当初は自分の滞在場所として考えていたものの、なんらかの社会とのタッチポイントをつくりたいという気持ちが次第に色濃くなっていきました。公園の隣という立地、9年ほど前からメモに「公園」と残していたこと、“公共性”というキーワードなど、いくつかの点と点が線で繋がった瞬間、全てがストンと腑に落ちた気がしました。

koenの目の前にある塚本児童公園は人々の憩いの場になっている

改装や什器づくり、デザインには、嶌村さんが京都で出会った各分野のプロが携わっています。

嶌村さん

koenに関わってくれた方々、誰一人として欠けていたら、この場所はできなかったと思います。やることはたくさんあったけれど、絶妙なタイミングで素敵な方とのご縁が繋がっていったんですよね。京都はそういう、数珠繋ぎの出会いが多い気がしています。

ドラえもんに出てくるドラム缶から着想を得たというkoenロゴ。遊び心と余白が印象的なデザインは、星加陸さんによるもの

オープンから2ヶ月。店長の日髙さんは、この場所でどんなことを感じているのでしょうか。

日髙さん

カフェスペースでは偶然居合わせたお客さま同士で自然と会話が生まれることが多いです。あとは、カップルでいらっしゃったお客さまの男性の方が、ふらふら~っとお店から出ていって、目の前の公園でサッカーをしていた小学生グループに混ざって遊び始めたりして。”縁が交わる場”をコンセプトにしたこの場所で、実際にそれが起こっていることに、この2ヶ月間ずっと感動しっぱなしです。ご近所のお店をハシゴしてくださる方もいて、koenをきっかけに地域の良い循環が生まれたら嬉しいです。

会話を生むテーブルは、京都市北区にある古道具屋兼デザインスタジオ「ものや」が手がける
カフェスペースでは、コーヒーなどのドリンクメニューや喫茶 暖々の焼き菓子、奈良・天川村でつくられた自然派ジェラートなどが味わえる

人や自然に寄り添える、心地よい場として

国内外問わず活動する嶌村さんと、京都生まれ・京都育ちの日髙さん。おふたりに、京都の印象を聞きました。

嶌村さん

“人”が前に立っているお店が多いなと感じます。「この人がつくったこれを食べたい」みたいな、人柄や雰囲気という数値化できない魅力が色濃いですね。文化的側面では、歴史あるコミュニティが残りながらも、現代にうまく紐づいて、アップデートし続けようとしているのは世界的にみてもかなり稀有だと思います。だからこそ来るたびに新しい発見があって、飽きないんでしょうね。

日髙さん

コンパクトなまちだから、似た感覚の人に出会いやすかったり、何かしようと思った時にアクションを取りやすかったり、思いもよらない面白いことが勃発しやすいのが、京都らしい面白さだと思います。

ショップで販売しているkoenオリジナルデザインのボールは、京都のデザイナー「しんご」さんによるもの。公園で遊ぶお供にぴったり

最後に、今後の展望を伺いました。

嶌村さん

koenとしての一貫した想い・姿勢を大切にしながら、ここを訪れた方が「来てよかった」と感じてもらえる場にしたいです。携わる僕ら自身も楽しみながら続けていきたいですね。

日髙さん

ここを訪れてくださった方が、1日の終わりに「今日は良い日やったな~」って思ってもらえたら嬉しいです。人と話したり、モノと出会ったり、展示で心が動いたり。koenに来ればそういう体験ができると思い出して、足を運んでいただけるような、心地よい場を育んでいきたいです。

「koen」
京都市左京区一乗寺塚本町15-2
営業時間:木・土・日・祝日 11:00-18:00/金 14:30-21:30
Instagram:https://www.instagram.com/koen_kyoto/ 

執筆:佐藤 ちえみ
編集:藤原 朋

CHECK OUT

スタイリッシュなお洒落さと同時に、心地よさや温かみを感じるkoen。取材中、「公園のようなサードプレイスでありたい」「アート、ファッション、工芸、飲食などの領域を越境した場にしたかった」というお話を聞き、一見相反する印象が共生している理由が分かった気がしました。公園の隣ということで、子連れのお客さんも多いとのこと。皆さんもぜひ公園に行くようにふらりと立ち寄ってみてください。きっと素敵なご縁があるはずです。

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