CHECK IN
京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。
京都市北区にある紫野エリア。清少納言が「岡は船岡」と称えた船岡山や、織田信長を祀る建勲神社、一休さんゆかりの大徳寺といった自然や歴史のある地域です。
新しい個人商店が少しずつ増え、船岡山公園では「オープンパーク」というイベントが毎月開かれるなど、ゆったりした下町の空気の中に新しいコミュニティの動きも見えます。
今回はこの地域で、20年ほど前にものづくりや表現に携わる方の複合施設としてオープンした「藤森寮」についてご紹介します。
鞍馬口通と智恵光院通の交差点に位置する藤森寮は、元学生寮の京町家。築100年ほどの建物は、大家さんの意向により当時の姿をできるだけ残す形で今日まで受け継がれてきました。
北棟と南棟の2つからなる建物は、全9部屋あります。今は7名の入居者がそれぞれの個性でDIYなどを行いつつ部屋を作り、アトリエやショップとして利用しています。
京町家でつなぐ、ものづくりの温もり
入居歴の一番長い太田章子(おおた・あきこ)さんは、藤森寮の立ち上げメンバーの中に友人がいたことがきっかけで入居されたそう。ご自身も紙小物やアクセサリーを作る作家として活動をしつつ、北棟1階で「アートスペースCASAne」の運営を行っています。
店内では器や布小物などを中心に、大量生産ではなく手仕事で作られたものを取り扱っています。実物を見て判断してほしいという想いから、オンラインでは販売していない作家さんの作品のみが並びます。
藤森寮については「入居者それぞれ違うことをしつつも、お互いを尊重しながら藤森寮の運営を続けていけたらと思っています。中庭を『素敵ですね』と言っていただくことも多いので、これからも歴史ある京都らしい雰囲気を保ちながらお客様にとって心地よい空間にしていきたいですね」と話してくれました。
藤森寮を通して、紫野エリアとの繋がりを。
北棟と南棟は中庭で繋がっています。植物が元気いっぱい育ち、森の中に迷い込んだよう。
安村聡美(やすむら・さとみ)さんは南棟2階でガラスの体験教室「glass studio May」と、主に企画展を開催している「gallery森ノ魚」、今年春にレンタルスペースとしてオープンした「スイレン房」の3部屋を運営しています。
ご自身もガラス作家としてオブジェや照明などを制作している安村さん。お子さんの成長とともにガラスの体験教室を始め、コロナ禍にアトリエの移転を検討していた際に、たまたま空きが出ることを知り入居を決めたのだとか。
「実は15年ほど前にも入居を検討していたので、おもしろいご縁ですね。藤森寮に入居したことで様々なお客様との出会いがあり、ガラス体験以外に建物の話を含めてできるのが嬉しいです。訪れていただいた方に懐かしい自然のある場所として、ゆっくり過ごしてもらえる場にしていきたいです」
出会いを大切にする場所として、藤森寮の運営を続けていきたいと語ります。
「今後は紫野エリアの活性化を目指して、他の方々との繋がりを持ちながらできることをしていきたいです。藤森寮はこれからお店などを始めたい方にとって、小商いの参考になるのではないかなと思っています」
南棟1階には、筆者の河野ひかる(こうの・ひかる)が運営しているセレクトショップ「manimani」があります。manimaniは古語で「~のままに」という意味。「心のまにまに」で「心のままに」。自分が「いいな」と思ったものに出会ってもらいたいという想いで名前を決めました。
セレクトしている作家さんも、器やアクセサリー、イラスト、テキスタイルなど、ジャンルを問わず私自身が本当に「いいな」と思った作品を作っている方々です。
私が作品を通して見たい景色をお客様と共有しながら、訪れた方の心動く瞬間が作れたら嬉しいなと思いながら運営しています。常設での作品販売のほか、不定期でポップアップや作家さんの個展なども行っています。
藤森寮は、ショップ・アトリエによってオープン日が異なります。来ていただいたお客様に、藤森寮全体を楽しんでいただきたいと思い、「藤森寮暮らし市」という藤森寮全体オープンデーイベントを企画しました。
2回の開催を通して初めてのお客様にも多く訪れていただきました。今後も藤森寮を楽しんでいただけたり、交流できたりするようなイベントを続けていけたらと思っています。
初めて訪れても、どこか懐かしい雰囲気のする藤森寮。歴代の入居者によって古い建物を修繕しながら受け継いできたこの場所は、訪れた方にものづくりの新しい発見や素敵な作品との出会いをもたらしてくれるはずです。
個性豊かな入居者のショップやアトリエで、作品の見学やお買い物をぜひ楽しんでくださいね。みなさまのお越しをお待ちしております。
『藤森寮』
住所:京都府京都市北区紫野東藤ノ森町11-1
営業日・営業時間:店舗によって異なるため、それぞれのSNSでご確認ください。
HP:https://www.fujinomoriryo.com/
【北棟】
1階:
アートスペースCASAne(クラフトショップ)
シルバーアクセサリーワークショップAtelier AƵu(イタリアで学んだ講師が伝える彫金教室)
2階:
セレネッラの咲くころ(新しい技法を追い求めながら洋服を制作するフェルト工芸作家)
taranome(祭事の道具の修理や、自身で漆器などの制作を行う漆工芸作家)
photo atelier + gallery 雫 しずく(自身と向き合うように被写体と向き合い、写真に切り取る写真家)
【南棟】
1階:
manimani(セレクトショップ)
2階:
glass studio May(ガラス体験教室)
gallery森ノ魚(企画展を行うギャラリー)
スイレン房(レンタルスペース)
CHECK OUT
「いつか自分でお店を開きたい」と初めて思ったのは学生時代でした。「世の中にはたくさんの素敵なもので溢れているから、それを伝える側に周りたい」。そう思い続けていたある日、友人の家からの帰り道でたまたま藤森寮の前を通りがかりました。壁には「空室あり」の文字が。そのまま勢いで問い合わせて、気づけばずっと夢だったmanimaniをオープンすることに。ご縁ってあるんだなと思った瞬間でした。
今回のインタビューを通して、他の入居者さんについても深く知るうちにみなさんそれぞれの形でご縁があり、この場所で制作や小商いを続けていることを知りました。どんなアトリエやショップなのか、ぜひ直接雰囲気を感じに遊びに来ていただけたら嬉しいです。
執筆:河野 ひかる
編集:藤原 朋