昔ながらの京町家。「せっかく京都で暮らすなら町家に住みたい」と、憧れている人も多いのではないでしょうか。
京町家とは、長い年月をかけて培われた建築技術である伝統構法によって、昭和25年以前に建てられた建物のこと。木造の温かみと風情があり、最近では町家を改装したお店も人気を集めています。
その一方で、実は年間約800件、1日2件もの町家が取り壊されていると言われています。伝統ある町家を残していくには、「古くなった町家を再生させる」というハード面と、「歴史や文化、人々の想いをつなぐ」というソフト面の両立が必要です。
そんな想いから立ち上がったのが、「地域連携事業 京町家再生プロジェクト」。関西圏で新築住宅販売・仲介・不動産再生事業を展開するカンパニートラスト株式会社が企画した本プロジェクトでは、京都美術工芸大学建築学部建築学科の学生たちが、専門家とともに西陣の京町家の再生に取り組みました。
便利な住宅がたくさんある現代で、町家に住む魅力はどこにあるのでしょうか。そして、その価値を次世代に残していくには、何が必要なのでしょうか。
京町家を残すには「若い人を育てる」必要がある
——なぜ学生を巻き込んだ京町家再生プロジェクトを行うことになったのですか?
西端
不動産再生事業を行う中で、物件改修の担い手となる「人を育てる」ことも合わせてできないかと考えたのが最初のきっかけでした。「輝く未来に繋がる人財を育成する」が当社のビジョンですから。
そんな折に、この町家と出会いまして。京町家を残していくには、次世代を担う人を育てる必要があると思っています。町家の再生はもちろん、京都のまちづくりという意味でも、学生の皆さんに学んでいただきたい。そう考えていたところ、町家の保全を支援している京都市景観・まちづくりセンターさんが作事組さんを、作事組さんが京都美術工芸大学の生川先生をご紹介くださり、同じ思いの人の「和」をつなげていただきました。

生川
建築現場の一部分だけを見学、体験するようなプロジェクトはありますが、今回のように1年をかけ、全工程に学生が関われる機会は滅多にありません。
解体現場に出向き、学生が改修プランを考え、模型を作り、アイデアを発表し、それを受けて末川協建築設計事務所の末川先生が設計し、改修の現場を視察し、完成するまでの一連の流れに携わらせていただいたことに、感謝しています。



阿部
今回のプロジェクトは非常に意義があることで、企画してくださったカンパニートラストさんが本当に素晴らしいなと思います。
作事組は伝統構法で京町家を改修している職人集団であり、木組み構造や土壁の意義など、学生さんに学んでもらえたのがすごくうれしかったです。それが京町家の文化になっていること、伝統構法を支える職人がいることを知っていただけて、感動しました。

西端
せっかく町家を改修しても、伝統構法への理解や町家への思いが引き継がれなければ、将来「潰した方が高く売れるかも」となりかねません。その意味でも、若い人を育てる視点が大事だと思っています。
阿部
改修現場でも、カンパニートラストさんは伝統構法を尊重し、大工さんの意見を全て取り入れてくださいました。
そのおかげで、素敵な町家に生まれ変わったなと思います。この町家は明治28年に建てられ、ここ数十年は空き家だったようで、床は傾いてグラグラでしたが、大工さんたちが素晴らしい職人技で直してくださいました。



——小谷さんは、学生として参加してどうでしたか?
小谷
学校で学ぶのは在来工法なので、現場に足を運び、伝統構法を直接見られたのは貴重な体験でした。 中でも、設計から内装のプランまで、一から考えたことが印象に残っています。町家の設計は初めてでしたが、工夫したのは「部屋の用途を決めない」こと。キッチンとお風呂、トイレ以外の場所は、住む人が自由に使えるようにしたいと考え、設計や模型を作っていきました。

小谷
先ほども実際に完成した町家を見ながら、例えば2階の部屋は夜寝る部屋にもできるし、家族と喧嘩した時に閉じこもる場所にもなるなって想像していました(笑)
生川
想像力を持って住める人にとって、町家は相性が良いと思います。町家は空間があるだけで、用途は住む人が考えるものですから。 普段の授業では「〇〇部屋」と用途を決めて設計を行うことがほとんどなので、今回はとても良い経験をしたと思います。

「快適じゃない」からこそ得られる豊かさ
——実際の住み心地はどうなんでしょうか? 町家に対する、「暑い」「寒い」といった声もよく耳にするのですが……。
生川
単純な温熱環境だけで見ればそうかもしれませんが、町家に現代の家と同じ性能を求めてしまうと、町家本来の魅力は味わえません。僕はよく「豊かさと快適性は違う」という話をするんです。1年中26度の室温が保たれた部屋は快適だけど、暑い時に少し涼しさを感じたり、寒い時に少し暖かさを感じたりするような温熱環境のゆらぎの中にこそ、人は心地よさを覚えるのだと思います。
僕も町家に住んでいますが、我が家では冬に週4で鍋を食べます。温かいし、保湿もできるし、何より家族で鍋を囲むには、全員が食事の時間を合わせなければいけない。その不便さが家族をつなぐわけで、そういう文化も含めて町家なんですよ。
——不便さがかえってメリットを生むわけですね。
生川
僕の師匠であり、京都大学名誉教授の髙田先生は「住みごたえ」という言葉を使っています。家は完成されたものだと思っている人が多いですが、本当はそれぞれに長所と短所があります。
大切なのは、住む人が家とどう関わるか。「家の癖」を住むうちに理解し、工夫することにこそ本来の豊かさがある。それを思い出すきっかけになるのが町家だと思います。そんな意識を持って町家を捉えていただくと、見え方はだいぶ変わると思いますよ。
阿部
改修によって、町家の快適性を上げることもできますよね。「伝統構法=快適性が下がる」と思う人もいるかもしれませんが、伝統構法を大切にしながら、快適性を上げる工夫はできますから。


町家は、社会とつながる「開かれた」住まい
——ご近所付き合いについてはいかがですか? うまく関係性を築けるのか、不安に思う人もいそうです。
阿部
確かに町内会とのつながりは強いですが、ありがたい存在なんですよ。私は15年前に東京から町家に引越し、ずっと同じところに住んでいますが、町内会の皆さんには子どもの面倒をたくさん見ていただき、本当にお世話になりました。
小谷
私も1年間のプロジェクトで町家に足を運ぶ中、周りに住んでいる住民の方たちと顔を合わせる機会が増え、徐々にちょっとした会話をするようになって。「こうやって関係性ができていくんだな」と実感しました。
村上
特に路地に位置する京町家は、外と路地、家の中の区切りが曖昧なところがあります。人の気配が感じられるから、困ったときには助けてくれる。防犯や防災の面で考えても、安心ですよね。
その一方、近所の人との距離感は適度に取ってくれます。京都の人は人付き合いが上手なので、そこはあまり心配しなくていいと思いますよ。

生川
家をシェルターと捉えると違和感があるかもしれませんが、本来の家は社会との接点を学ぶ場所です。町家は、自分の安全や快適性を守るだけでなく、近所の人との関係性から社会を学ぶ生活の場。そんな価値観を持ってもらえるといいと思います。
小谷
便利な現代住宅に住んでいる人がいきなり町家に住んでしまうと、どうしても不便さが目についてしまうだろうなと思います。ぜひいろいろな町家に足を運んで、本来の魅力を知ってほしいです。
町家は「目に見えない大切なもの」感じられる場所

——京町家は年間800件、1日2件が取り壊されています。次世代に残していくために必要なことは何だと思いますか?
小谷
私の周りの若い世代には、自然や環境に対してポジティブな意見を持っている人が増えています。環境と町家が深く関わっていることをもっと全面に出せば、若い世代が興味を持つきっかけになるかなと思います。
阿部
町家には形式美があって、日差しの入り方や風の抜け方など、自然の美しさを感じながら日々の生活ができるのは大きな魅力ですね。
生川
町家にはそういう工夫がたくさん隠されていますよね。現代の住まいにはマイナスを減らす工夫は多々ありますが、「風が気持ち良く入る」「外の花を美しく眺める」といった、良いものを伸ばす工夫はほとんどありません。
特に、5〜6月の新緑の時期の町家は最高に気持ちが良いと思います。窓を開け放てば、家の外と中が一体化する。自然とのつながりを求めて旅行に行く人は多いですが、それを毎日自宅で感じられるのが町家だと思います。

村上
しかも、京町家には機能美もあります。建材は全て自然素材ですし、基本の構造やサイズが同じだから、建材はそのまま別の町家でも活用できる。実は、循環社会の最先端です。そういう家で季節や自然を感じながら生活できるのは、現代人にはなかなかできない贅沢だと思います。

西端
例えば、今から100年以上前にこの町家を立てた大工さんはどんな願いを持ち、建築の際は何に苦労したのか。そこに何世代にも渡り、西陣の工場として職住一体の暮らしをしてきた住民の方は、どのような想いを抱いていたのか。こうした「目に見えない大切なもの」は、町家を通じて感じられるように思います。最近失われつつある部分だからこそ、次世代にも残したいですね。
阿部
改めて、私は今回のプロジェクトには大きな意味があると思っていて。伝統構法には、大工さんだけでなく、瓦屋さん、左官屋さん、建具屋さん、畳屋さんといった職人さんが不可欠です。技の継承は大きな課題であり、日本の伝統文化とされるものは、実はあと10年ほどで無くなりかねない世界です。
だからこそ、低コストで現代風の家が簡単に建てられる中で、伝統構法のお仕事をくださったことに心から感謝しています。

村上
京都市も町家を残すための取り組みを進めていますが、今回のように会社の事業として町家再生プロジェクトができるという事例を、行政はきちんとPRしていかなあかんと思いました。
西端
ぜひお願いします。こういう活動に取り組む人が増え、そこに若い人を巻き込めれば、町家を残す気運は一気に高まっていくと思います。
100年以上前に建てられた町家が時を経て、元の状態を極力残した状態で改修され、次世代に受け継がれていくのが、当社の願いです。この町家もハード面はきっちり整えていただきましたが、次世代に受け継いでいくには、若い人たちを育てることが不可欠。だからこそ、今回のようなプロジェクトを発信いただき、他の事業者や団体の方にも広がって、同じような取り組みがどんどん増えていけば、より素晴らしいなと思います。

季節の移ろいや人の気配。目に見えない豊かさが息づく町家は、誰かが手をかけ、関わり続けることで初めて受け継がれていきます。
まずは一度、町家に足を運び、その空間に身を置いてみる。そうして不便さを受け入れながら暮らす生活を想像することで、憧れの京町家暮らしはぐっと現実に近づいていきます。
そうした関わりの積み重ねが、町家を次世代へとつないでいくのかもしれません。




執筆:天野 夏海
撮影:海部 登生
編集:北川 由依


